束の間の休日~カエサルの場合~
束の間の休日~カエサルの場合~
朝食を終えた途端、カズサが部屋に籠ってしまった。せっかくの休みなのに・・・
今日は転移まで使ってたから、本を読み終わるまで、絶対に部屋から出て来ないつもりだよね。
「はぁ~・・・一緒に出掛けたかったな・・・。街をぶらぶら歩くだけでも楽しいし・・・」
新しくできたカフェとか、美味しそうなお菓子屋さんも見つけてたし・・・本屋さんにだって、カズサと一緒なら楽しかっただろうな。
勇者としての経験を積むことに時間を割いてきたから、村を出て3年経ってもカズサとの距離が縮まらない。
「同郷ってだけじゃなくて・・・もっと、特別な存在になりたいな・・・」
自室の開け放たれた窓から入ってくる、少し冷たくなった風が頬を撫でていく。そろそろ白氷の華が降る頃だ・・・。
「気晴らしに、衣替えでもしてみようかな?」
生地の厚い服と上着は何処にしまってあったかな?この棚の上の箱かな・・・違った。じゃあ、この下の箱・・・も違うな。あれ・・・見つけられないぞ?
「・・・おかしいなあ・・・カズサと一緒に片づけたはずなのに、見つからない」
少し探し物をしただけなのに、部屋の中がぐちゃぐちゃに散らかっている・・・。
「う~ん・・・買いに行けばいいか!」
僕は探すのは諦めて、とりあえず服屋を見に行くことにした。帰ってきたら、片づけれな良いよね?
一階に降りて行くと、ガイウスとユリウスの姿は見当たらなかった。自分の部屋に戻ったか、出かけているのかもしれない。念のため、買い物に行くことを書いた紙を置いておく。
商店通りの方にある服屋と、ギルドの横の冒険者用の服屋に行けばいいかな。
先ずは商店通りの方からだな。道ですれ違う人が「こんにちは」と声を掛けてくれる。勇者の天啓を受けた時に、王城で顔見せの式典が行われたし、ここで3年も活動していれば、嫌でも知り合いが増えていく。
最近、魔物の発生件数が増えてきてはいるけど、ギルドと協力しながら処理できてるし・・・僕が勇者をやらなくても良いんじゃないのかな?と思う時もある。正直、進んで勇者をやりたいわけじゃない。
「勇者をやっていれば、魔法使いのカズサを側におけるかな?なんて邪な気持ちで受諾したもんね」
神様が見ているのなら、僕は罰を受けるかもしれないな・・・。
それでも・・・
「勇者様こんにちは!この前、助けてくれてありがと!」
母親に手を引かれた女の子が、笑顔で手を振ってくれた。あんな笑顔を見れるなら、もう少し頑張ろうって思ってしまうよね。僕は女の子に笑って、手を振り返した。
2軒の服屋を巡って、何着か服を買った。美味しいと噂のお菓子も買った。お菓子に合いそうなお茶と、黒い茶も買った。そうそう、カズサが買い忘れた卵も買った。
「勇者サマ。オレぇの手、もみもみスキかニャ?」
猫の子供の手をもみもみして、帰れなくなった。何これ・・・ぷにぷにとふわふわで、手が離せない。
「この子、下さい」
「お客サン、オととい帰レニャ」
父猫さんが子供を抱き上げて、俺からちょっと離した。笑顔なのに、口の両端から牙が出てるの器用だね。
猫の子供に手を振って、拠点に帰ることにした。
来た道を戻っていたはずなんだけど、ぼんやりしていて道を間違えたのかな?来たことのない区画に入り込んでいたみたいだ。戸が閉まったままの店が多くて、やけに道幅が狭い。人はいないのに、何処からか見られている視線を感じる・・・。
「帰り道はどっちだろ?」
気配を探って、隠れている人を探すのも乱暴だしね・・・ちょっと歩いてみようかな。
角を曲がって直ぐに、小さな屋台を見つけた。あ、人がいた!
「占いの館?・・・館?」
僕の目には、小さな屋台に見えるんだけど・・・。感覚は人それぞれだと思う。
「すみません、道を教えて欲しいのですが」
屋台の表側には布が張られていて、目隠しになっている。布の隙間から掌がすっと伸ばされた。
「「・・・・」」
情報料かな?僕は木札に書かれた、占いの値段を見た。金額が3つ書いてある・・・真ん中の値段で良いかな?
掌にコインを数枚置くと、布の中に戻っていった。暫くしてもう一度出てきた手が、一枚の紙を差し出した。
受け取って見ると、紙の上には赤い矢印が描かれている。これは・・・どうすれば良いのかな?
手に視線を向けると、屋台から見て右の道を指差している。
「あっちが帰り道でしょうか?ああ、はい。行ってみます、ありがとうございました!」
礼を言うと、ひらひらと手を振ってくれた。
教えられた方に歩いて行く。貰った紙をちらっと見ると・・・僕が進む方に矢印が向いている?
不思議なことに、紙に描かれた矢印が指す方へ進んで行くと、直ぐに拠点の屋敷に帰り着いた。
「すごい・・・これ、魔法の紙?」
カズサが見たら喜びそう!と思いながら、門を潜ったら・・・手の中にあった紙が、一瞬で燃えて灰になった。
「ああっそんな・・・!」
呆然と手の中の灰を見つめていると、玄関の扉が開いてカズサが飛び出してきた。
「カエサル、手に持ってるのなんだ?」
言いながら、僕の手の中の灰をジッと見ている。
「え~と・・・道に迷って、占い師に道を聞いたらくれた紙だよ。すごく不思議でね!紙に描いてあった矢印が動く通りに進んだら、ここまで帰って来れたんだよ!カズサに見せたかったんだけど・・・門を潜ったら、燃えちゃって・・・」
僕はがっかりして落ち込んだんだけど、カズサは面白いものを見つけたみたいに、ニヤッと笑った。
「その灰くれ!ちょっと、そのまま待ってろ」
カズサが屋敷の中に入って、空の瓶を取ってきた。その中に灰をそっと入れる。
「嬉しそうだね?」
「ああ。この灰から微かに魔力を感じる。復元できるか、試してみてぇ」
むぅ・・・カズサが嬉しいと、僕も嬉しいんだけど・・・この感じだと、また部屋に籠っちゃいそう。
「カズサ・・・お土産に、美味しいって噂のお菓子を買って来たんだけど、お茶にしない?その後・・・出来たら、僕の衣替えを手伝って欲しいな」
「ああ?あ~・・・衣替えな。一人じゃ無理そうか?」
「うん、何処に仕舞ってあるのか見つけられなくて、服買って来た」
「お前・・・俺と一緒に仕舞った場所、忘れたのか?ちっ・・・たく!わかった。茶の後にやるぞ」
やった!カズサの大好きな魔法に勝った!僕は上機嫌で、カズサの手を引いて屋敷に入って行った。
この後、美味しいお菓子とお茶を飲んで、カズサとお喋りして凄く楽しい休日になったよ!
「いや・・・お前・・・何でこんなに、部屋が散らかってんだよ?」
「え~と・・・?衣替えしようと思って・・・探してるうちに?」
楽しいお茶の時間を終えて、僕の部屋に移動したんだけど・・・カズサに怒られちゃった。
はぁ~~~~~っと深い溜息を吐きながらも、僕の衣替えを手伝ってくれて、カズサはやっぱり優しいな~って顔を見てたら、すんごい怒られちゃったよ。あはは。
休日にぷち冒険をする、カエサルでした。ブックマーク、評価ありがとうございます!励みになります^^