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手紙配達人ニコの困惑9

「ガイウス、どうした?」

ガイウスに手招きされて、俺は席を移動した。アサギリと、村の俺よりちょっと上の世代の男達がいる席だ。

「カズサ、頼む。言いたいことは沢山あるだろうが、文句は全て聞くから。戻って来てくれ!」

「ああ?おっさんが頭下げる意味が、わかんねぇんだけど」

俺の目の前で頭を下げる、ガイウスの頭を持ち上げる。く・・・脳筋が重てえ。

「カズサ・・・昔も今も、弟が面倒をかけてすまない。どうか今少し、弟の側で力を貸してくれないか?」

アサギリが収納鞄から本を一冊取り出して、俺の前にそっと置いた。む・・・?訝しむ俺の前に、もう一冊本が重ねられる。


「・・・俺を本で釣ろうってか?安く見られたもんだな?」

見たことのない表紙だな・・・この文字は北方の少数民族の古語か?中を見てみないと、判断がつかねぇ。

「揺れてるな・・・」

「ああ、手がうろうろとしてるぞ」

外野がうるせぇ。じろりと睨むと、へらっと笑って俺の杯に酒を注いできた。それをグッと飲み干す。

「で?」

他にもあるんだろうが?俺が顎をしゃくって促せば、もう一冊本が置かれた。

「これで終いだ。北方から来た商人から手に入れた、3冊で1組になった本だ。内容は魔法薬学に関する基礎と、応用についてだそうだ」

アサギリめ・・・俺の好みを把握しやがって。旅を続けていりゃ、いつか出会う本だろうが・・・3冊でセットなら、確実に高い。俺の眉間にグッと力が入る。


「弟の元に戻ってくれるなら、これに上質紙50とインク壺を5つ付けよう」

「・・・上質紙100とインク10。それで、戻っても良い」

アサギリの眉間に深い皺が入る。一瞬の逡巡の後、頷いた。よしっ・・・本3冊と高級紙ゲットだぜ。

俺はにやりと笑って、アサギリとガイウスの杯に酒を注いだ。俺の杯にも注いで、3人で同時に呷る。

「これで最後だ、次は絶対に戻らないからな?」

「ああ、それでいい」


***************


カエサルとニコが潰れたまま、宴会は夜中まで続いた。日が暮れれば火を灯し、娘達の歌や踊りが始まる。

ワイワイと楽しそうな声が聞こえる・・・俺は小さく呻いて、目を開けた。・・・頭が痛い!


「ニコ、起きたか。宴会はもう終わるぞ」

声の方を見上げれば、カズサが笑って俺を見下ろしていた。

「ちょうど良いから、そのまま上を見とけ」

言うが早いか、カズサの手から何色もの光が溢れ、夜空に向かって打ち上がっていく。

一瞬の眩い閃光の後、遅れてドオンッと破裂音が響き渡る。

眩しくて翳した指の隙間から、夜空に咲いた色とりどりの光の花が見えた。


「なんだ?!これ・・・すげえ綺麗だ」

蕾が開くように咲いていく、花の形には見覚えがあった。

「この花、覚えているか?ニコがガキの時に教えてくれたやつ。気に入ってんだわ」

カズサが目を細めて笑う。俺の好きな笑い方だ。何だか、目頭が熱くなる・・・。

零れないように、袖でぐしっと瞼を擦って、誤魔化すように跳ね起きた。

「ニコ、前に俺と一緒に旅するかって誘ったのによ、悪い。カエサルのとこに戻ることになったわ」

「そうか・・・そうだな。俺もまだ、手紙配達人の仕事がしたいしな!」


ドオンッ!と一際大きな音が響いて、最後の大輪が夜空に咲いた。いつか、カズサがこの村に帰って来た時は・・・その時には・・・

「ずっと先になると思うけど、いつか絶対に一緒に旅しような!」

俺はニッと笑って右手を差し出した。カズサが目を細めて、可笑しそうに笑う。力強く握り返された手が・・・熱くて。今はこの約束だけで良い。


***************


「はあ、勇者一行がいなくなったら、村が静かになった気がするな」

「主にカエサルがな、けっこう暴れるからな~」

「あ~ん、カズサのお菓子、もっと食べたかった~」

翌朝、村の同年代の奴らで、カズサ達を見送った。姿が小石より小さくなって、やがて見えなくなった時は、皆しょんぼりしたよな。わかる、俺も寂しいからね!


「さあて、俺も仕事始めるかな!お手紙、お荷物の配達など御用の方は、手紙配達人ニコにお声がけ下さい!」

俺のかけ声に、皆が笑う。カズサ、カエサル、頑張ってな。俺達はこの村で、お前たちをいつでも待ってるからな・・・!



手紙配達人ニコの困惑・・・終わり



その頃カエサルは、唇を噛みしめてカズサ達を見ていた。

「カエサル、落ち着け。カズサはお前と一緒に帰るから、な?!」

「カエサル、空を見なさい。カズサの魔法で咲いた火花だぞ?滅多に見れないものだろう。見逃すな」

アサギリが弟の顔をグイッと、上空に向けた。

「本当だ・・・綺麗だね・・・」

一連のやり取りを酒の肴に、村人たちは笑って宴会を楽しんだのだった・・・。


※カズサの父親も、ぎりぎりで起きてユキ(姉貴)と花火を楽しみました。

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