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手紙配達人ニコの困惑8

「なあに?面白いところ見損ねたかしら?」

姉貴と親方が騒ぎを聞きつけたのか、こっちにやって来た。

女の子達が、姉貴に事の流れを話している。親方が目を回して倒れた。わかる、気持ちはわかるよ?!

親方は薬師の爺さんとコバに任せよう。姉貴が、俺とカズサの間に割り込んで座った。

「話は聞かせてもらったわ。カエサル、うちのカズサの事は諦めなさいな」

「うちの・・・?」

カエサルが低く唸るような声で呟いた。瞳孔が細まっている。噛み締めた歯には、犬歯が・・・(俺もあるわ)

「私はカズサの母になったのよ?カズサの嫁は、私が決めるわ」

「いや、勝手に決めんな」

カズサが呆れた顔で、姉貴にバナムケイクを取り分けて渡した。「あら、美味しい」と、姉貴が艶やかに微笑んだ。

それを見ていたカエサルの背中から、黒い湯気が出てきているように見える。俺だけか?いや、何人かが目を擦ったり、凝視しているな・・・。


「おい、カエサルの家に行って、誰か呼んで来い!」

「私達が行ってくるわ!いざって時は、力づくで止めるのよ?!」

周りが若干騒がしい。段々と大事になってきた。今日は、親方と姉さんの晴れの日だったのにな・・・。

「カズサと僕の間には、邪魔者が多いな・・・」

姉貴を睨みつけたままのカエサルが、憎々し気に呟いた。勇者の顔はそこには無い。無いとまずいだろうが!!

「おい、カエサル!カズサともっと仲良くなりたいなら、カズサが大事にしているもんも大事にしないと駄目だろが!お前はカズサが好きって言いながら、その辺が全然できてないぞ?!」

俺の言葉に、カエサルがこっちを見た。マジ怖いんですけど!いや・・・でも、負けねえ。



「お待たせ!カエサルの兄さんと、義姉さん、連れて来たわよ!」

女の子達が息を切らして、走ってきた。カエサルの兄さんと義姉さんも息が切れているが、さっと身なりを整えた。さすが商家の跡取り息子と、その嫁だ。

「先ずは親方・・・は寝ているのか。ユキさん、ご結婚おめでとうございます。こちら、我が家からのお祝いの目録です。品物は後程ご自宅に届けさせますので」

「ユキさん、結婚おめでとう!そのドレス、とっても似合ってるわ!」

「あら、ありがとう。アサギリとハルエも、仕事が忙しいんじゃない?店を空けて大丈夫なの?」

にこやかに交わされる会話に、大人の余裕を感じる!!


「大丈夫だ。今日の分は終わらせてきたから・・・飲むぞ」

カエサルの兄、アサギリがカエサルの頭をぐしゃぐしゃと掻き回しながら、言った。俺はそっと、酒瓶を渡す。

「カズサ君、お久しぶりね。カエサル君が手を焼かせてるんじゃない?」

カエサルの義姉のハルエが、困ったように微笑んだ。カズサが料理を取り分けて、渡している。

「あ~・・・まあ?」

カズサのそっけない返答に、カエサルの肩がびくりと震えた。俯いているから、表情はわからん。

ボブと女の子達が気を利かせて、村の人たちを誘導している。俺達の周りには、今はカエサルの兄姉とカズサの義母・・・と、俺達くらいだ。向こうから、ガイウスさんとユリウスさんが走ってくる。


カズサが手際良く、料理を小皿に盛って配置する。俺は酒と木の杯を人数分並べた。木の実の酒と、強めの蒸留酒、早開けの葡萄酒だ。それぞれの手に杯が渡ったのを確認して、乾杯した。

「新しい夫婦の未来と、帰ってきた子供たち、そこに関わる全ての人に幸福を!」

アサギリが音頭を取って、杯を軽く掲げた。俺は早開けの葡萄酒を選んだ。昨年樽に詰めて、一年寝かせた若い酒だ。すっきりとした酸味の奥に、ほのかに甘さがあって美味い。

「このグリーズリは、カズサが焼いたのか?タレが美味いし、焼き加減も絶妙だな」

「こっちのバナムケイクも、カズサ君が作ったのよね?見た目が華やかだし、すごく美味しいわ」

つくづくこの村の住人は、カズサに胃袋を摑まれているな。カズサが王都に旅立った後、カズサ飯ロスで何人泣いたか・・・。


「カエサル、お前は食べたのか?グリーズリのタレ焼き。美味いぞ」

アサギリが、肉の乗った小皿をカエサルに差し出した。無言で受け取って、口に運んだカエサルの口元が緩む。

「どうぞ」

俺の空いた杯に、ユリウスさんが酒を注いでくれた。礼を言ってクイッと飲んだ。美味い。

「王都での暮らしはいかがでしたか?」

アサギリがガイウスさんの方を向いて、訪ねた。ちょっと困った顔のガイウスさんが、頬を掻く。

「そうだな、俺達は王からの依頼や魔物の退治を主にこなしている。戦力は問題ない・・・が、カズサが抜けて細々とした問題が起きてきているな」

「ほう、例えばどういった事が起きていますか?」

アサギリがガイウスさんの杯に酒を注ぐ。ガイウスさんがそれをグッと呷って、目を細めた。口に合ったらしい。

「カエサルの、精神面がちと・・・危ういな」


「いえ、些細なことです!だ・・・っ」

ユリウスさんが口を挟もうとしたけど、姉貴に口の中に料理を詰められている。裏の婆ちゃんが作った芋煮だ。

もぐもぐと一生懸命噛んで、飲み込んだところで・・・ハルエさんから、笑顔でお酌されてる。口を挟む隙が無い。

カエサルは無言で、カズサの料理を食べ続けている。俺の前にあった分も、皿をカエサルの方に寄せてやった。

「そんなにカズサ(の料理)が好きか」

「当たり前でしょ。ニコだってそうだろ?」

「もちろん、俺はカズサの(作る)全て(の料理)を愛している」

「「「????!!!!!」」」

グイッと杯を呷る俺の耳に、息を呑む声や黄色い悲鳴、皿が割れる音など、がちゃがちゃと響いたが、見回しても何も割れていなかった。皆の体が不自然に固まっているようだったが・・・気のせいだろう。


カズサが俺の杯に酒を注いでくれた。俺はカズサにニコリと笑いかける。カズサの方眉が上がって、面白そうな顔で俺を見て笑っている。なんだよ?

「僕だって!カズサを愛している!!」

グイッと酒を呷ったカエサルが、杯をカズサに差し出した。カズサが「ああ?」と言いながら酒を注いでいる。

「はは~ん、カエサルお前~さては酔っているな?!」

「それは君でしょ?!口が回っていないじゃないか!!」

俺とカエサルは同時に酒を呷る。そして、カズサに杯を差し出した。ふふん、俺のが先に注がれたな?

「何をやっているのかしら?あの子達」

「どちらが先に、カズサ君の酌をもらえるか競争してるのよ」

「・・・・・」

「はあ・・・まるで子供の喧嘩だな」

「カエサル様、がんば・・・・っもぐっ?!」


「ああん?俺が酒を飲む暇がねぇじゃねえか」

「カズサ君、これどうぞ」

「おう?」

あれ・・・どんどん目が、ぼやぼやしてきたぞ・・・おかわり!・・・ふあ~・・・

「・・・悪いガイウス、そこの座布団取ってくれ」

「2人とも同時に倒れたわね・・・ふふ、口開けて寝てるわ」


***************


何かわかんねぇうちに、ニコとカエサルの飲む速度が上がって、2人同時に倒れたわ。ハルエさんの渡してきた酒、こりゃ龍殺しじゃねえか?む・・・舌にピリッときて、美味ぇ。

「裏の婆さんの芋煮が、龍殺しに負けてねぇな。後で作り方、聞かなきゃな」

辛口の酒と、味付けが濃いめの芋煮が・・・やべえ、無限に繰り返される・・・止まんねぇわ。

「なんだ、カエサルとニコは潰れたのか?ほら、お袋がお前に持って行けって。3年物のウメノミ」

「ボブの母さんのウメノミ漬け、美味いよな。礼言っといてくれ、大事に食うわ」

軽く振ると、瓶の中でウメノミがゆらゆらと踊った。イネノミを炊いて、一緒に食いたい。

「カズサ、これうちの爺ちゃんから。ボラの干卵」

「あ~美味そ。ちょっと食っちゃお」

カエサルとニコが寝たら、散らばってた村の奴らが集まってきた。それぞれ手土産を持っている。


「カズサ君がいると、美味しいものが集まってくるのよね~」

「ほんと、村から出るって聞いたときは、泣いたわよ!」

ハルエさんと姉貴が酒を片手に、からからと笑い合っている。ガイウスの方を見れば、アサギリや村の若い衆と難しい顔で話し合いをしていた。ユリウス?知らね。あぁ、村の悪ガキに髪が長いのをからかわれてるわ。

ぐずった顔でこっち見んじゃねぇ、酒が不味くなる。・・・悪ガキどもに甘い菓子を放ってやれば、笑って散っていった。

「おい、こっちくんな」

「酷い!良いでしょう、別に!貴方のせいで、こんな遠くまで来てるんですよ?!」

「絡むんじゃねえ。めんどくせぇ酔い方しやがって。お前は、カエサルについて来たんだろうが」

「元を辿れば、貴方が人たらしなのが悪いんですよ!!」

「ああん?うるせぇ口は、縫っちまうか?」

「いひゃい!いひゃい!ちょっ・・・ひっひゃるなあ!!」



「・・・混沌としてるな。勇者パーティは大丈夫なのか?」

「聞いてくれるな・・・カズサがいれば、何とか回る。あいつは無自覚で、バランスとってくれるからな」

「わかる。口は悪いけど、面倒見いいしな~」

「飯が美味すぎて、中毒性あるのがな。正直、村一番の腕じゃないか?」

「器量も良いしな・・・よせ、誤解だ。俺をそんな顔で、見るんじゃねえ」

「大丈夫だ、誰でも一度は錯覚する。うちの弟は、どっぷりとカズサの沼に嵌ってるがな」

アサギリが深い溜息を吐いた。ガイウスが、アサギリの杯に酒を注ぐ。直ぐに飲み干され、もう一度。


「弟が突然、勇者の天啓を受けて、我が家は大騒ぎだった。可愛がられて育ったから、甘えが強いし・・・好きなものに対する執着心が強い。村を出る時には、少し強引にカズサを巻き込んで・・・悪いことをした」

伏せられた目線が、カズサに向かう。カズサはヒーラーのユリウスをいじ・・・からかって笑っている。

「弟の執着心を何とかしないと、カズサはいつまでも追いかけられることになる」

「う~ん・・・正直なところ、王都を中心に少しづつ魔物が増えてきているんだ。これから勇者の仕事が増えていくと思う。カズサには悪いが・・・カエサルの側に居てもらいたいんだよな」

ガイウスが無精髭を擦り、困ったように笑った。はぁ~と溜息を吐いて、カズサの名を呼ぶ。

「おじちゃんが頭下げたくらいで戻ってくれりゃ、御の字だよな・・・」


9でニコの回終わります。

カズサは子供時代、マイペース過ぎて少し浮いていましたが・・・時を経て、村の皆の胃袋を掴みました。今では、カズサの所に行けば美味いものが食べられると、大人気のようですね。

書いていて、私も驚きました。魔法使いとか特別感は無いみたいですね~^^;

後半の回が長くて、ちょっと読みづらいかな?

ブックマーク、評価ありがとうございます!嬉しいです^^

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