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手紙配達人ニコの困惑7

「カエサル、ニコに勇者の殺気をぶつけたら、危ねぇだろうが」

荷物を纏めながら、カズサがカエサルを咎めている。カエサルは、怒られてシュンとする犬のようだ。

「カズサの飯には鎮静剤でも入ってるのか?」

「いや、それはないと思いますが・・・」

ガイウスさんとユリウスさんの会話も酷い。小声だから、カエサル達には聞こえてないと思うけどね。

「え~と・・・皆さんは、村には何か用事があって来られたんですか?」

薄々気づいてはいるが、俺は敢て聞いてみた。ガイウスさんとユリウスさんが、顔を見合わせた。


「あ~・・・そのだな・・・え~と」

「カエサル様のお父様から、手紙が届いていましたよね?大事な用件だったみたいで、急ぎで里帰りしたんですよ!」

困った顔のガイウスさんの横で、スラスラと話すユリウスさん。うん、怪しい。

「カエサルの里帰りに、わざわざ付いてこられたんですか?」

まあ、カエサルのあの様子じゃ、一人にできないわな。魔王みたいで、マジで怖かったわ。

「お二人も、大変ですね?カズサとカエサルの友人として、お礼を言います」

「いやいや、大したことじゃないからな」

「そうですよ!私たちは、カエサル様の為ならどんなことだって、苦じゃないですから!!」

俺達はにこやかに笑い合った。せめて、村で一番いい宿を教えてあげよう。うん。


「カズサ、あのさ・・・ごめんね。次は無いって言われてたのに・・・でも、もう一度戻って来てくれないかな」

カエサルが、懇願するようにカズサに言った。上目遣いで、まるで主人に甘えて許しを請う犬・・・いやいや。

俺達が固唾をのんで見守る中「無理だわ」と、カズサのバッサリ切りと捨てる声が響いた(ように感じたのよ!)

「え・・・でも!」

「俺はまだ、この村でやることがあるし。終わってからも、やりたいことがあるからな。無理だわ」

「・・・・・・・」

カズサ以外が絶句している中、空気なんか読まないカズサが、俺の名を呼ぶ。


「じゃあ俺らは帰るわ。行こうぜ、ニコ」

「あ、ああ・・・じゃあな。カエサル、皆さんも・・・また?」

ええ~・・・わざわざ村まで、カズサを追いかけて来たんじゃないのか?何で、仲直り失敗してるかな~・・・


「カズサのやりたいことって、ギルドで金稼いで、本を読み漁る旅に出るってやつだよな?」

「そうだ。勇者パーティーにいたら、その辺の自由度が低い事に気づいたからなぁ」

「あ~・・・カエサルはお前の友達だよな?友達が謝ってきたら、許してやろうとかはないのか?」

「ねぇなぁ。そもそも、あいつら友達じゃねえしな」

あ、そっからなのね。そっからか~・・・・・・・「俺は、お前のなんだろう?」

「ニコは俺のダチだろうが」

カズサが呆れたように笑った。あ~・・・俺はカズサの肩に腕を回して、空を見上げた。照れますわ!

「だな!ずっと友達だよな!」

「ああ?それはわかんねぇ」

「え?!ちょっとお~!そこは、ずっとって言っとけ?!」

ゲラゲラとカズサが笑って、肩越しに俺にも笑いが移った。あ~・・・男友達って、ほんと良いよね!


「また、友達じゃないって言われた」

ズウウンン・・・と、暗い靄に覆われたカエサルが、地に沈んだ。

「なんで俺達は、毎回このやり取りを見せられてるんだ?!進歩がねぇ・・・!」

ガリガリと髪を掻き回す、ガイウスが吠える。

「う~ん・・・魔王の呪いでしょうかね?そもそも、友達って要らなくないですか?」

ユリウスの発言は「・・・・」沈黙によって聞き流された・・・。


**************


今日はカズサの親父さんと、姉貴(近所の姉貴分)の結婚式だ。

村の小さな教会で祝福の儀式をしてから、広場に移動して宴会だ。基本的に、村の全員が入れ替わりで祝いに来る。小さな村では、ほぼ全員が顔見知りだからな~。

「親方、姉貴おめでとう!服に合ってるよ。お幸せにね~!」

「ああ、ありがとう。」

親方はカズサと俺が選んだ上着を、嬉しそうに着てくれた。姉貴は花染めの光沢のあるドレス。


「ニコも、早く良いお嫁さん見つけるのよ?」

姉貴の小言には無言で、ニコリと笑って2人に酌をした。俺だって、仕事で遠出するときは探してますう~

でもなぁ、カズサ以上の良い女の子が見つからないのよ!


「もうね、カズサの飯と気遣いを越える女の子が、いないのよ」

「うん、そうねぇ。カズサを基準にしたらいないわよ。バカねぇ」

「・・・ニコ君、すまん。いざというときは・・・カズサに責任を取らすか?」

あ、親方は結構、酔ってるね?背後にカエサル達が控えてるから~・・・発言には気をつけて欲しいな?!

「いざというときに、考えようかな?俺、あっちで料理食べてくるから!」

俺は華麗にターンをして、料理を目指す。村の母ちゃん達が腕を振るった御馳走だ!何食べようかな?


「お久しぶりです・・・ご結婚、おめでとうございます」

「あ、ああ。ありがとう!カエサル君・・・その、息子がすまんね?」

「あなたが謝ることないわよう。聞いたら、カエサル君が出て行けって言ったらしいじゃない?」

「・・・・・・」

「なんだ、この・・・毒スネイクル同士の睨み合いみたいな空気は・・・」

「知りませんよ。あ、初めまして。この度はご結婚、誠におめでとうございます。こちらつまらない物ではございますが、勇者一同からのお祝いの品でございます。いえいえ、お気になさらずに。ささ一杯、お注ぎ致します」


「なんか、あっちの方、雲行きがおかしくねぇ?」

グリーズリの炙り焼きに齧りついたボブが、後方を指差すが、俺は知らんぞ。

「気のせいだろ。それよりお前、炙り焼きばっか食うな。こっちにも寄こせよ」

ここは今、戦場と化している。村の母ちゃん達の飯はどれも美味い。だが、俺達には譲れないものがある!

「久しぶりのカズサの飯だぞ?誰が渡すかよ!」

年の若い男達が狙うのは、グリーズリの炙り焼き。滴る肉汁に、カズサお手製の香辛料が後を引く。


「ねぇ、このバナムケイク、カズサが作ったやつじゃない?一味違うのよね」

「ほんとだ。この飾りに乗っている砂糖細工、こんなのカズサにしか作れないわ!」

女達が騒いでいる声が気になるが、今は肉から目を離したら、確実に負ける!!

唸れ、我が木製の聖剣よ!!カズサの美味い肉を貫くのだあああ!!!!!

「何をやってんだ、アホ共が」

笑い交じりの呆れた声が聞こえて、誰かの手が俺の頭をポンと叩いた。

「ほらよ、追加の肉焼いてきたぞ。こっちはタレに漬けて焼いてある」

カズサが俺の皿に肉をこんもり乗せてくれた。残りはボブに渡す。大皿で出てきた肉に、男達の歓声が上がった。


「うんめえええええ!!!」

「カズサの味付け、最高!!」「肉の汁が、上質な味付けで、もはや最高級のスープと化している!!」

「・・・アホがいるわ」

「気持ちはわかるけどね~カズサ、私達には追加はないの?」

女達がキャッキャッと笑って、手を差し出す。カズサは方眉を上げて、笑った。

「お前らは、これでも食っとけ。甘ったるいのが好きだろうが?」

カズサが差し出したのは、プルンプルンに揺れる、琥珀色のソースが垂れた、山みたいな何か。

「なにこれえ~~!!!」

「甘~い!口の中で、とろっと溶けちゃうんだけど~??」

え、ちょっと、俺も食いたい!!あ~・・・!!両手が塞がってて、取れないんですけど?!


「ほら、ニコ口開けろ」

カズサが木匙に掬った、プルンプルンの何かを俺の口に入れた。ちょっ・・・あんま~~~~いい??!!!

「うんまっ・・・何これ?!初めて食感で、俺の頭が混乱してるけど、超美味い!!!」

「あ、ニコだけズリい!カズサ、俺にもくれ!!」

ボブ達が揃って、口を開けた。母鳥から餌を待つ雛鳥みたいだ。まあ、実際はそんなに可愛くないけどな。

カズサがポイポイっと口に、美味いプルンプルンを入れてやっている。

「「「う、うんま~~~~いい!!!!」」」

髭の生えた雛鳥たちが、頬を押さえて悶えている。全然可愛くないからな?!


「ん?おかわりか?」

カズサが笑って、俺の口におかわりをくれた。もお~!キュン死にするわ!!

「ほら、お前も食うか?」

俺の隣で、カズサにプルンプルンの美味いやつを食べさせてもらった奴が、噛み締めるみたいに言った。

「美味い・・・」

ちらっと見たら、カエサルだった。俺の喉が小さくヒュッて鳴った。良かった、殺気は出てないな。

カエサルがおかわりを貰っているのを、周りの皆は生ぬるい目で見守っている。

ボブ達はアホだから、構わずカズサにおかわりを強請っていた。後でえらい目にあうぞ、お前ら・・・。


暫くカズサの餌やりを見守った後、気になっていることを聞いた奴がいた。

「ねぇ、カズサだけ先に村に帰ってきてたけど~カエサルと喧嘩してるの?」

はい、地雷玉投下~!皆が固唾をのんで、カエサルの答えを待っている。俺も気配を消して、耳を澄ますよ。

「うん・・・喧嘩とは違うんだけど。僕が勇者パーティーからカズサを追放して、でもやっぱり寂しくて、戻って来て欲しいって追いかけて来たんだ。お願いしたけど、カズサには断られちゃったけどね」

はは・・・と寂し気に笑うカエサルに、皆がドン引きしている。うん、その気持ちはわかるよ。

「それってあれか?俺が嫁と喧嘩して出てけ~!って叫んで、後から後悔して謝ったけど、結局離婚したって話と似てるな?うう・・・・辛いよなあ?!」

誰かこの酔っぱらいを、向こうに連れて行って下さい。あ、ボブが蹴り飛ばしてる。ありがとな。


「それって、カズサを追放した理由は何だったんだ?答えたくないなら、良いけど」

薬師のとこのコバが、眼鏡をクイッと上げて聞いた。うん、皆が知りたいとこだよね?!

俺はカズサをちらりと見た。カズサは話題の中心に居るはずなのに、お構い無しで母ちゃんの煮物を食ってる。

「ん、ニコも食うか?」

目を細めて笑うと、俺の口に煮物を入れた。美味い。なんでお前は、女の子じゃないんだろうな?!

「あ~・・・あれじゃね?」

「そうだわ」

「カズサって、ニコと一緒に村に帰って来たよね?」

「ニコが親父さん達のお使いで、王都に行ったって聞いたよ?」

あ、やめて!皆で核心に近づけていくの、やめてええええ!!!


「うん・・・ニコが訪ねて来てくれて、久しぶりに会えたから本当に嬉しかったんだ。だけど・・・」

俯くカエサル。その背中を擦る、女の子たち・・・ギリイイ(俺が手拭きを噛む音)顔を上げるカエサル。

「カズサがニコと仲が良すぎて・・・っ凄い優しくするし、特別扱いしてるし。さっきだって・・・ううん、子供の時からだよね?僕より仲が良くて、ちょっと・・・嫉妬しちゃったんだ・・・」

「うん、ちょっとじゃないよね?」

思わず零しちゃったコバが、薬師の爺さんに抓られている。あれは、痛い・・・!

皆が、何とも言えない顔で、カズサと俺を見た。やめて!こっち見ないで!!


「だって、仲が良いのはしょうがないじゃん?!」

あ、ばか!俺の口が勝手に、言葉を吐き出した。油を投下するんじゃな~い!!

「俺の方が、カズサと一緒にいた時間が長いんだし、当たり前だろ。そんなことでカズサを振り回すなよ!」

場がし~んと静まり返った。わかってる、ここは俺が大人になって執り成すところだって。

でもさ、やっぱり腹の奥ではムカついてたみたいだ。俺の大事なカズサに、カエサルは甘え過ぎなんだよ!!

「だいたい、勝手に嫉妬して突き放して、寂しから戻って来いって、カズサを何だと思ってるんだよ?!」

「ちょっとニコ、止めとけって」

「落ち着いて・・・」

ボブ達が俺の肩や、背中を擦ってくる。わかってる、わかってるけどな?!頭に上った血が収まらねえわ。


「はぁ~・・・飯は静かに食いてぇわ。なあ?」

ずっと黙って飯を食っていたカズサが、首をボキボキ鳴らしながら、面倒くさそうに言った。

「首が凝っているなら、アロエラ、ウコンナ、クコノミなどを・・・」

薬師の爺さんが、コバを優しい目で見ている・・・あ、洗濯屋のおばさんが、コバの口に土芋の揚げたのを突っ込んでいる。美味そう。

「ニコは幼馴染で、友達だ。生まれた時から一緒にいりゃ、兄弟みてぇなもんだ。大事にすんのは当然だろうが?」

カズサが俺の頭を、ワシワシと掻き回す。ちょ・・・やめ・・・え~・・・

「ニコ、すんげえ嬉しそうな?」

ボブ、俺の顔を覗き込むのをやめなさい。皆も、生ぬるい目で、こっち見んなって!


バナムケイク=バナナケーキ。ぷるんぷるんの何か=プリン。

ニコといる時のカズサの笑顔が、好きです(想像でしかありませんが!!)

次回か、あと二回くらいでニコの回は終わる予定です。


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