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手紙配達人ニコの困惑5

ニコの回が終わらない・・・。

俺が手をかけて作った料理は、優雅に微笑む女の口に、あっという間に吸い込まれていった。

「バケモンかよ。親父、止めるなら言えよ?後妻なら、俺が見つけて来てやるよ」

俺の皿から肉を奪おうとする手を払いながら、親父を見ると目を細めて笑っていた。

「お前の母さんは繊細で、体が弱くてな。苦労を掛けたから・・・次があるなら、元気な嫁を貰おうと決めていたんだよ」

「ああ・・・だから正反対の、図太くて丈夫な女を選んだんだな?それなら当たりだわ。」

丈夫さならトビトカゲ並みだわ。口に出してねぇはずなのに、姉貴が凄い目で睨んでくる。親父には見えない、絶妙な角度でだ。


俺は残りの肉を口に放り込むと、席を立った。

「俺は部屋で休むわ。片づけは・・・お母様、お願いします?」

姉貴に向かってにっこりと笑ってやると、一瞬目を見開いてから、少し滲む目で笑った。

「もう、しょうがないわね!お母様に任せなさい!ゆっくり休んでね!」

「カズサ・・・おやすみ。ありがとうな」

「おやすみ」

姉貴がチョロくて助かるわ。

まだ俺の部屋が残っていたのは正直、嬉しかった。弟か妹か新しい家族が増えていけば、俺の荷物は片づけられるだろうから、今のうちに要る物は背負い鞄に入れておくか。収納にはまだまだ空きがあるからな。


要らないものを木箱に詰めて、端に寄せておく。残りは収納行きだ。

「あ~・・・村にいた時に作った投げ矢が、未熟過ぎて笑えるな」

俺の中指の先から、手首までの長さの短い矢は、俺がガキの頃に初めて作ったものだ。

「道具に魔法を刻み込むやり方なんか、知らなかったからな・・・少し、いじってみるか?」

親指ほどの太さの、丸みのある木の先端に尖った針が付いている。反対側には薄い木で羽が付けられていた。

ガキの頭で精一杯考えて作ったが、投げた時に少し重くて、軌道が安定しなかった。

軽量と強度を主軸に刻む。先端の針には・・・毒は肉を不味くするから、麻痺か昏睡だな。

木の羽をガルモの羽に替えて、加速と帰還の魔法を掛けておく。ん、良い感じじゃね?


「明日起きたら、森で試し投げすっか。あ~・・・さすがに眠いわ・・・」

完成した投げ矢をすりっと撫で、机に置く。久しぶりに寝る自分のベッドに、うつ伏せで飛び込んだ。

あ~・・・天日に晒したシーツが気持ち良い・・・俺は直ぐに眠りに落ちて行った・・・。


「ニコ、森に行こうぜ」

朝飯を食べて直ぐに、ニコの家の扉を叩く。ニコの「ちょっと待ってろ」という返事が聞こえたので、待つ。

「カズサ、お前~早過ぎんだろうが!」

慌てて支度を済ませてきたのか、口の横に食べかすを付けたニコが出てきた。髭も若干、剃り残している。

「あ、やめて!世話焼かないで!!カズサの嫁感が、朝からすごい!!」

「お前が、だらしないからだろうが」

剃り直してやった顔を、ニコが擦って喜んでいる。俺お手製の髭剃り用クリームだ。一つ渡してやる。

「剃った後がヒリヒリしないの、初めてだわ。家宝にします!!」

「いや、使えよ。もういいな?森に行くぞ」


***************


「なんでそんなに急いでんの?狩か?」

「ん~、ガキん時に作った道具に魔法刻んでみたからさ、試したくてな」

ははあ、なるほどね。カズサが新しい玩具を試したくて仕方が無い、子供の顔をしている。

森まではそんなに遠くない。歩いても直ぐだ・・・直ぐだけどな。カズサの魔法を使えば、靴履く間に着いたわ。

「だから~!その魔法使うなっての!!裏の爺さんが見たら、意識飛ばすぞ?!」

「周りに人が居ないのは、確かめてる。大丈夫だ」

本当かよ?!訝しむ俺を無視して、カズサが背負い鞄から幾つかの道具を出して見せた。


「お?この斧とか良いな。凄い軽い」

大木も切り倒せそうな、巨大な斧を持ってみたら(持てると思ってなかったけど、一応な)片手で持ち上げられる位の重さで、驚いた。

「ちょっと振ってみていいか?」

「いいぞ。あまり振り切るなよ」

「はいよっと・・・うおあ?!

俺は巨大な斧を、片手斧で枝を切り落とす程度の力で振ったつもりだった。

ヒュッと風を切る音の後に、数本の巨木がドオンッと音を立てて、斜めに切り倒された。


「ちょ・・・お・・・お前ええええ!!何だよこの斧わああ?!」

辺りを慌てて見回すが、土煙が舞う森の中には今は俺達2人しかいない。

森には薬草やキノコを採りに、村の人も入る。こんなのを見られたら、大騒ぎになっちまうよ?!

「ニコ、力を入れ過ぎだ。これは親父にやる前に、威力を下げた方が良いか?いや、親父ならもっと上手く使えるか。」

「ええ・・・俺が悪いの?」

「持ち手のとこに魔石が嵌ってんだろ。軽量化と威力増加が刻んである。思いっきり振ったら駄目だろが」

「うわ~納得できないわ~俺、枝を切るくらいの力しか入れてないんですけど~?」


俺の文句は無視して、カズサがサープを手に取る。土を掘るときに使う道具だ。見た目は、普通だな。

大木が倒れている所まで歩いて行くと、サープの先端を土にグサッと突き立てた。

「????!!!!!」

俺は驚き過ぎと、呆れ過ぎて声が出せなかった。サープを突き刺した途端、倒れた大木を囲うように、土が深く陥没したからだ。あ~~!!!!俺は両手で目を押さえて、天を仰ぐ。

「もうやめてえええ!!!」

誰か来ちゃって、大騒ぎになる前に!!そういうの、やめてええええ?!


「ニコ煩い。騒ぐと誰か来るだろうが」

「お前が言うか?言っちゃうのか~?!」

俺を見て、顔を顰めるカズサが憎たらしい。俺は悪くないだろうがああああ!!!


カズサは陥没した穴に手をかざすと、何かを呟いた。

「隆起・・・Resuscitation」

ズズッと土が震えると、穴の底が隆起して完全に塞がった。そして、そこから木が生え育ち・・・一瞬で、俺が木を切り倒す前の風景に戻った。

「ああ・・・何事もなかったように・・・」

俺は両手の指の間から、カズサのゴリ押し魔法を見つめていた。村の皆は、カズサが魔法使いって知ってるけどね?!村を出る時より、化け物じみたことしちゃ駄目でしょうがぁ!!!!


「よし。次、行くぞ」

「よしじゃねんだわ!次は何する気?!」

カズサの両肩を掴んで、ブンブン揺する俺を、よしよしするな!!

「昼飯にニコの好きなもん、詰めてきたから。腹減っても心配すんな?」

危ない道具を仕舞ったカズサに手を引かれ、さらに森深くに連れていかれる俺・・・腹の話じゃねええええ。



サープ=スコップ。カズサは普段は一応、一目は気にしてるつもりです。

勇者パーティーやニコといるときは、気にせずいろいろやらかすようです。

ニコの回、もう少しお付き合いください。

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