表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/146

take it 5

群馬県鳥居峠近傍山中

環境科学研究機構『co-op』案件合同対策本部


理事会に要請を出したところ周辺の支部及び本部からGS職種調査員と航空部の増援を得る事ができた。

九一くっぴんで発生した『co-op』案件対処の失敗を彼らも重く受け止めているという事だろう。

ともかくこれで捜索にあたる人員には余裕ができたのでDS職種のみんなは本来得意とする戦闘の業務に集中してもらうことが出来るようになったわけだ。

派遣された航空部の飛行隊はこの合同対策本部で集中運用、航空偵察とヘリボーン作戦に使用する。

それに伴い『鵺』を基幹とした空中機動部隊を編成し、即応体制を整える。

同時に各町村には『変態バス』こと『スーパーカー』を中心に重武装のKSSOF各小隊を地上展開部隊として配置

方針としてはこの二つの即応部隊をもって初動対処部隊とし、残余の『鵺』及び各研究室所属調査員戦力は状況に応じて投入するための予備隊として扱う。

この打撃部隊を『機構』職員のみで構成したのは偏に敵戦力の脅威が大きいがためだ。

いくら一般の警察官とは装備や訓練の面で比べ物にならない程の質を誇る警察の『事案』対処部隊といえど『第七世代チャッピー』と戦うのは厳しいものがある。

うち以外でその任務に当たるとしたらそれこそ自衛隊の『事案』対処部隊であるJ-7直轄対処大隊でも引っ張ってこなくてはならないがいくらなんでもそこまで大ごとにはなっていないし、そもそもJ-7と警察庁警備広報推進室……というか国内の『事案』対処機関はみんな非常に仲がよろしくない。

今回の案件が警察主体での対処となっていることから見ても自衛隊に協力を要請するとなればお巡りさんたちも余りいい顔はしないはずだ。

それでも必要となれば協力要請を出すことに躊躇は無いし、事態がそこまで悪化してしまえば警察庁側も下らない体面など気にしている余裕は無くなるだろうが、そういう事態になるのは極力遠慮願いたいところだ。

そのためにも敵が準備を整える前に叩き潰す必要があるのだが、本当早いところ出てきてくれないものだろうか?


「博士、聞いてます?」


「え? あ、ごめんごめんちょっと考え事しちゃってた。なんだっけ? 高崎のトンカツ屋の話?」


「……例の銃弾の話です」


「あはは、分かってるってば! 冗談冗談!」


例の銃弾というのは先日発生した『祀』と『ゴースト』による大規模テロの際に使用された銃弾の事である。

玉名元監理員ら久能氏族に対する狙撃で使用された弾丸の解析をがっさんを長とする臨編のタスクフォースに独自研究としてお願いしていたのだが、その結果が届いたので報告しに来てくれているのだ。


「はぁ……まあいいです。弾種自体は一般的な.50BMGのFMJと言って問題ないと思います。弾芯も普通の鉛でした」


「こりゃまた随分でっかいのを持ち込んだ割に芸が無いね」


「そうですね、これだけのサイズの銃弾ならもっと色々ギミックを仕込んだ方が面白そうだとは思います。っと、それでですね、問題は弾頭部の被覆に使われている金属なんですけど……これがわからないんです」


「分からない?」


妙な話だ。『機構』のデータベースには通常・超常を問わず既知の全ての素材のデータがあるしアーカイブされているそれらのデータに対するアクセス権限も彼女には与えてあるのだが……


「未知の元素で構成された未知の金属です。私が留守の間に皆んなが精密な照合を行なってくれていたんですけど」


手渡されたタブレットに映っているデータ、なるほど全く見たことない。


「困っちゃうなぁ……」


これだけ一般と乖離した技術力をもつ『機構』から見ても未知、そうなると他の先進国の介入の可能性も出てくる。


「大瀬博士や九重理事にも問い合わせてみたんですけど、この金属に関連しそうな兆候は今の所見られないとのことでした」


その懸念はがっさんも抱いていたらしい。

しかしそれでも未知のまま……

余程隠しておきたい技術なのか、だとしたら何故あの局面で投入してきたのかそもそもあの状況に介入してきているということは、連中となんらかの関わりがある団体の仕業だろうが、たかだか口封じに使うというのはなんだか腑に落ちない。


「そっか……それで原因は分かった?」


「そこもなんですけど……」


「なるほどね……」


タブレットに表示されている情報からも分かってはいたがこの弾丸の持つ特性の原因も不明ということらしい。

それは超常エネルギーに対するほぼ完全な偏向性

静代さんの強力な探知能力を完封した原因であるそれの機序の解明は新たな超常科学分野における知見を得るということはもちろんだが神格性事案との協力体制が根幹にある日本の超常管理においてこの素材の存在はかなり大きな意味がある。

場合によっては所管区域内における行動のイニシアチブを友好的ではない何者かに奪われることも十分にありうるのだ。


「それで調査の幅を拡げてみたくて神格性事案の協力を得られないものかと思いまして」


「神さま連中の?」


「はい。精神エネルギーと-不平衡のエネルギーに曝露させることは出来たんですけど流石に+不平衡のエネルギーを発生させるのは難しくって」


精神エネルギーであれば静代さんもいれば『ねこです』もいるし、非現実を成す-不平衡のエネルギー源も再現は可能だ。

だが非現実的な現実改変を正しい現実として行う+不平衡のエネルギーを発生させる事ができるのは現状では神格性事案をおいて他にない。


「まぁそうだよね……静代さんもあれからごっどぱうわーは出てないしねぇ……」


静代さんの変容は未だ不安定であり随意的にコントロールできるものではなさそうなので、仮に出せたとしても試験の用に供するには不適切だろう。


「おっけー、三国理事あたりに頼んでみるね」


「ありがとうございます! これで少しは何か分かるといいんですけど」


「そればっかりは試してみないとなんとも言えないね」


幸い協力的な神格性事案に関しては二柱ほど心当たりがある。

強大な神である彼らのごっどぱうわーでいい結果が得られることをせいぜい期待しておくとしよう。



捜索の段階で私たちのような研究職種やDSの打撃戦力にできることは少ない。

それ故に比較的のんびりとした時間を送れる事はありがたいが、やはり野外の宿営地である。

研究室(我が家)の様な居住性は望むべくもない。

かといってGSや警察の皆様方が懸命の捜索活動を行なっている中で自分達だけ温泉旅館に引っ込むというのも気が引ける。

やはり早期解決こそが目指すべきところであるのは言うまでもないが、それには早いとこ敵を見つけねばだが、その段階において私たちにできる事はない。


「うーん……もどかしいなぁ……」


「え? あ、すみません! 急ぎます!!」


「へ? あ、いや、違いますすいません! 独り言ですんで確実丁寧な整備をおねがいします!」


人の多い宿営地である。

無意識の独り言にも注意すべきだ。

特にそれほど業務上の絡みが無い航空部職員やらもいるのだから尚更である。

とりあえず先ずは航空部野整備課の技師殿の誤解を解かなくては!


「……何してんです?」


互いにペコペコしながら技師殿と話していると、まるで変なものを見るような目をした藤森ちゃんが話しかけてきた。


「え? あはは、なんでもないよ」


「ふうん……まあいいです。ご飯できたみたいですよ?」


「おおっ! 今日のメニューは?」


専従戦闘部隊は他の調査員と比べて陸上自衛隊色が強い職場なのでしっかり暖かい食事を野外炊具で作ってくれる。

各地に分散した打撃戦力や捜索人員もそれぞれの集積所でこの恩恵に預かれるために職員のストレスが顕著に軽減されていると報告をくれたのは鳥医研のタコ先生こと横手主観医療研究員だ。

毎食タコさんウインナーをおまけに付けてもらって嬉しそうにしているあたり一番ストレスが軽減されているのが誰なのかは言うまでもない。


「確か回鍋肉です」


「炊事車で?」


「うーん……私も第一線部隊の経験が無いんでイマイチピンときてないんですよね」


「あぁ、そういやそうだね」


藤森ちゃんは陸上自衛隊出身とは言っても最初から超常畑なので他の皆んなの様に野戦部隊の経験はない。

一応自衛隊が保有する各種の装備品の使用自体は出来るらしいが、野外炊具に関しては各部隊秘伝のレシピやら使用方法があるらしいので何かしらの方法があるのだろう。

私だったらあんな高火力のコンロでは一瞬で消し炭にしてしまうだろうが……


「技師殿も一緒に行きませんか?」


「いえ、私はまだ仕事が片付いていないので」


「そうですか、あまり根を詰めすぎないようにして下さいね」


技師殿と別れて炊事車のところに向かった私達は言葉を失っていた。

作れるとは言っても所詮は野戦レベル、精々炊き出し程度の出来でもあれば御の字とさえ思っていたのだが……


「なにこの本格的な回鍋肉定食……」


「……正直舐めてました。お店で出せますよ、これ」


食器が飯盒だったりプラスチックのパックだったりするのが辛うじてここが臨時の宿営地であることを思い起こさせるものの、それがなければ気分は本格的な中華料理屋だ。


「あのでっかい釜でこんな大人数分一気に作ってこれじゃ本職も商売上がったりだね」


やってることは超高火力の炊飯器で本格中華料理を作るようなものだ。

カレーだの豚汁だのならばいけるだろうが、そもそも焼いたり炒めたりといった調理は製造メーカーも推奨していないはずである。


「秘伝のノウハウもいいけど誰でも手軽に使える道具があった方がいいよね」


「うーん、まあ確かにそういうのがあったら便利だとは思いますけど……予算出ないんじゃないですか?」


「作るってなったらもぎ取るけどさぁ」


質より量の軍用キッチンで質まで追求となると効率的にあまりよろしくないだろうし、効率の向上は限りある隊力のリソースを本来業務に振り向ける事にも繋がる。

問題は執行部理事会を含めた『機構』上層部が食事の質に対する意識が極端に低いというあたりだろう。

何せ『歯磨き粉の悪夢』を引き起こす様な連中である。

幸いな事に自分は贅沢な食事をして下の者にはその辺の草でも食べさせておけば良いみたいな考えがあるわけではない。そもそもとして食事に関心の薄い連中まみれなのだ。

なんなら件の『歯磨き粉』すら少数生産して幾人かの理事やら上級職員やらが常食している有様である。

効率重視の仕事人間達……正直何が楽しくて生きているのかわからない。

限りある時間の、限られた食事なのだから少しでも美味しいモノを追求するのが当然だろうが、まあその辺りは私の価値観とはあまりに違いすぎてどうとも言えないのが本音である。

とはいえ彼らも未知と戦う『機構』を率いるだけの人々である事に変わりはないし、どちらがとは断言しないまでも異質な価値観と触れ合う事には慣れており、そこに対して無条件の排斥を行うほど愚かではない。

話せばちゃんとこちらの要望をわかってくれるだろうし、解ってくれさえすれば『機構』は職員を大事にする組織である。


「それだったら市販のキッチンカーを購入すれば事足りるのでは?」


私と藤森ちゃんの会話に入ってきた横手先生がいう。

回鍋肉定食の盛られた巨大な丸型飯盒には今日もタコさんウインナーが厳かに鎮座していた。


「うちも個別購入でフィールド用のキッチンカーを使っています。おすすめですよ?」


「なるほど、確かにそうですね……今度うちの羽場主務に提案してみます」


研究室レベルでとなると不精者だらけのうちには過ぎたるものだが、KSSOFの業務には役立つだろう。

ご飯は野外炊具、おかずはキッチンカーと分ければおかず用の野外炊具に割く分のリソースを他に振り向けられだろう。

使いやすさを考えるならKSSOF隊員の要望を纏めて独自設計して技術部に生産してもらうのもありかもしれない。

そんな事を考えながら回鍋肉定食に舌鼓を打っていると空携帯の着信音が響いた。

私だけではなく、横手先生や巨大なおたまで配膳をしている松本調査員をはじめとした指揮官級の職員全員の空携帯が一斉に着信した様である。


「なんだろう……?」


懐から取り出して画面を見ると、そこに表示されていたのは『緊急警報』の四文字であった--

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ