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意思 2

推定日本国某所山中


助けに来たという玉名監理員の言葉におそらく嘘は無いのだろう。

独りよがりではあれど彼らは彼らの思う正しいことを為しているに過ぎないのだ。

それに関しては昔から何一つ変わらない。

思えば私の権勢が高まるほどに彼らの有り様が、彼らとの関係性が歪にその形を変えていったのだ。


「それで、一体ここからどうするつもりなんです? 『機構』相手に籠城戦なんて馬鹿な事は考えて無いのでしょう?」


私がここにやって来てからどれ程の時間が経ったのかは定かでは無いが『機構』に追われた状態で一つ処に留まるのは明らかに悪手だ。

玉名監理員と久能氏族であれば少しくらいは隠しておけるだろうが、全力で人探しを始めた『機構』からとなると明らかに荷が勝ちすぎている。


「もちろんその様なつもりはありません。我々は『機構』を本気にさせてしまったのです。端から生きて逃れようなどとはおもいませんよ」


「最期にひと花咲かせるなんて今時流行らないと思いますよ? さっさと降伏すればまあ億に一つくらいは生き残る目もあると思いますけどね」


「面白い冗談です」


それもそうだ。

『機構』が背信者やら犯罪組織やらに対してどの様な対応をとるか、彼が知らないはずもないだろう。

情報本部はそういった事にも第一線で対応しているのだ。


「本来であれば貴女を安全な場所に送り届けてから最期のご奉仕をしようと思っていたのですが……どうやらそれも叶わない様子でございます」


「なるほど、もう包囲されているんですね」


「ええ、我らの敷いた陣も遠からず破られる事でしょう」


戦に臨んで最後の挨拶……という訳でも無さそうだ。

端から勝利を求めていない様子の彼らであれば、別に何らかの目的があるのは明白である。

あくまで防御は時間稼ぎ

であれば彼らの目的は何だ?

『最期のご奉仕』とやらが何を意味しているのか……

流石にずっと拗ねているわけにもいかないので彼の言葉に耳を傾けるべきだろう。

状況から鑑みて破局的終末事態の誘因やら超常戦やらを企図している訳では無さそうだ。

求めるところがなんであれこの一連の抗争において『機構』の勝利はほぼ確実なのだろう。

であれば、貧弱な虜に過ぎない私がやるべき事は情報を残す事くらいだろう。

しかし、続きを待っても玉名監理員は話の続きを口にしない。

流石に様子がおかしいと思い、彼らの方に顔を向けるとまるで立ったまま引きつけでも起こしたかのようになっていた。

これは……また何かの夢をみているのだろうか?


「くそ……姫命……どうか……」


「玉名監理員?! 何が--」


立ち上がり、駆け寄り、気付いた事

首筋に感じる強烈な違和感と不快感


「まさか……静代さん……?」


それはよく知っている感覚

最強のPSIである静代さんの、純粋な精神エネルギーの余波

しかし彼女は……



佐賀県佐賀市 脊振山系羽金山南麓


歴戦の『機構』職員ですら恐怖しそうな程の表情

しかしその顔貌を目の当たりにした小笠原研究員が感じたのは安堵であった。


「お帰りなさい、静代さん」


「小笠原……さん?」


強力な物理干渉で特定調査員をバラバラにしたその姿は正しく現代の大怨霊に相応しいものではあろう。

しかし彼女のことを知る身としてはそれが本来の彼女の有り様に似つかわしいモノでは無いということも分かっている。


「誰かタオルと作業着を!」


返り血に塗れた真っ白なワンピース姿の佐伯静代の手を引いて、彼女は輸送車の荷台から出る。


「うーん……最初はきっちりやってたけど……途中からは落第じゃ無い? 流石に職員がいきなり飛び込むのは教育の不備を疑われても仕方ないと思うよ?」


そこでは守矢所長が小さいおっさんに小言を言われていた。


「あー……その、静代さんの姿が見えたんで思わず……」


特定調査員の装備したボディカメラの映像をみて飛び出した彼女の行動が原因であることは言うまでも無い。


「もう、気をつけてよ? 『事案』相手に認識なんて何の役にも立たないって分かってるでしょ」


呆れた様な表情の小さいおっさん


「面目ないです……」


『事案』対応の初歩の初歩である。

自らの行動の浅はかさを彼女は恥じる。


「まあ何が起こるか分からないのであれば取り敢えず飛び込んでみるのも面白いモノですよ?」


「諏訪先生、妙な事吹き込まないでよ……それにしても無事だったんだね! よかったよ、お帰り!」


「は……はい……」


事態の収束後に回収され、以後音沙汰の無かった彼女との再会である。

皆口には出さないもののその生存は絶望視していたのだ。

思い掛けない吉報に張り詰めた空気が微かに緩む


「それで……えっと……今ってどういう状況なんでしょうか?」


置いてけぼりになっていた佐伯調査員が口を開いた。


「ああ、そういえば全く説明してなかったね!」


「ええ……」


「仕方ないじゃ無い! 静代さんマジギレしちゃってて宥めるだけで精一杯だったんだから」


小さいおっさんは言う

激昂した佐伯調査員の相手をしていたのだとすればそれも無理は無いだろう。


「うーん、何処から説明したものでしょう?」


「あ、それならちょっと良いですか?」


そう言うと佐伯調査員は小笠原研究員の首元に額を押し当てた。


「うひっ! 静代さん、何です?!」


「そういう……ありがとうございます」


「ああ、読んでくれたんですね……それならそうと言って下さいよ……いきなりだとぞわってするんですよ!」


それは二人が精神エネルギー研究を行う中で発見した情報伝達手法である。

通常のサイコメトリーでは処理しきれない莫大な思考量であっても接触し相互感応状態であれば処理が可能になるというものだ。

精神エネルギーの力場形成上、個々の脳の範囲に明確な境界というものは存在しない。

接触と相互感応によって二つの脳の処理能力を並列に使用しての記銘を行うという裏技である。


「私も……参加して良いですよね?」


全ての情報を得て、その上で佐伯調査員の口調は冷静であった。

しかしその表情は彼女が未だ『大怨霊』たる凶暴性と怒りを以てその場にあることを示している。

現状における彼女の戦線投入は明らかなリスク

強力な打撃力はともすれば味方にすら向きかねないモノである。


「はい、もちろんです、ね? 所長」


「え? まあ……うーん……」


それを承知しながら小笠原研究員は迷い無く言う。

それは相互感応状態の中、僅かに流れ込んだ佐伯調査員の思念を感じ取ったからだ。

少なくとも今の彼女は大怨霊佐伯静代では無く『機構』の佐伯主任調査員である。

そうであれば信頼できる。信頼すべきである。

そう考えたからこそ、その決断は確固たるものとして下されたのだ。



山中にある隠掩蔽の成された陣地とはいえ、その上空は視認圏内である。

それは即ち当該施設が彼女の射程の内にあるものとさえ言って良いだろう。

即座に施設上空へのテレポーテーションを行った彼女は鮮烈なまでのハローを背に空中からそれを見据える。


『返事せえ!! リンドウ05! リンドウ05!! 静代さん出過ぎや! 下がり!!』


「リンドウ00 リンドウ05 感悪し 終わり」


『な……おいっ! ど阿呆! 妙な気ぃ起こすんや無い!!』


身を焦がすほどの怒りこそあれど、現実問題として独断専行を成している自覚こそあれど、それでも思考と感覚はかつて無いほどに研ぎ澄まされている。

そしてその感覚は彼女の大切なモノの存在をハッキリと知覚させていた。

周囲に存在する者達、敵対勢力構成員も建物の内側にありながらその息遣いも鼓動すらも、まるで肌を触れあわせているかの如く感じ取ることができる程だ。

何一つ脅威たり得ない。

ただ意識を向ける、集中して額で相手を見据える様に、それだけで十分だ。


--まさか……静代さん……?


聞こえてきたのは現地で敵が聴いたモノであろう最も聴きたかった人の声


彼女は無造作に腕を横に払う。

不必要な事は分かっていても、それでも彼女は心の求めに従った。



「静代さん!! 待って!! 情報がいる! 殺さないで!」


まるで薄紙の様に鉄筋コンクリート製の建物の二階部分を剥がした静代さんに叫ぶ。

普段ならそんな必要は無かろうが、心中に何度制止したところで止まってくれない現状においてはそうするより他ないだろう。

正気であってくれれば止まるだろうし、そうで無ければ……あまり考えたくない事態だ。

それでなくとも彼女の有り様の変化はこの距離でもありありと分かる。

日光を凌駕するほどの光量を誇る七色の暈

拮抗性ハローを彼女が背負っているのが何よりの証である。

『機構』がどの程度の対応をしているのかは分からないが、正気を失った静代さんを超常戦兵器として投入するというのは有り得ない話では無い。

十河の爺や三國理事、所長やうちのみんなであればちゃんと仲間として彼女を見てくれるだろうが、大多数の静代さんと面識のない『機構』職員からすればあくまで『事案』に過ぎないのである。

どういう経緯で生還したのか、どういう経緯でここにいるのか、聞かなければならないことは彼女にも沢山ある。

だがまずは『祀』の方の情報を確保すべきだろう。

何しろ現状として死にかけているのだ。

放っておいたら情報もクソも無くなってしまう。

だから……静代さん、言うこと聞いて!!


「博士……」


すうっと私の元に降りてくる静代さん

良かった。どうやら正気ではあるようだ。

しかし初めて出会ったときに見せていた怒りと普段見せる等身大の喜びが入り混じった表情をしているのを見る限り、結構複雑な状況を経てここにいてくれているらしい。


「なんて顔してんのさ、静代さん」


「博士ぇ!」


抱き付いてきた静代さんを受け止める。

パワーがあるので虚弱体質にはもう少し手加減して欲しいものだ。


「久しぶりだね、助けに来てくれてありがとう」


「博士ぇ……私……私……」


「ほら、泣かないの。なんか業務中なんでしょ?」


「でも、わた……私……」


「うーん、感動の再会中申し訳ないんだけどさ、取り敢えず逮捕だけでもしちゃわない? 博士に甘えるのはその後に回して貰ってさ」


静代さんから聞こえる声

正確には防護外衣のポケットから……


「み……少彦名尊、何してるんです?」


ポケットから顔をちっちゃいおっさんが顔を出している。

六角理事といいこの人といい、ごく一部の執行部理事の現場原理主義はどうにかならないものだろうか?


「何って、つばくらめに乗ってくると比売に呆れられるからね! 今日は静代さんに運んできて貰ったんだよ! 怨霊に乗った王子様ってね! どう? 惚れ直した?」


「聞きようによっては静代さんに対するセクハラですよ、それ」


「比売、発想がおっさんみたいだね」


「それも私へのセクハラですからね」


とはいえ助けに来てくれたと言うことだろう。

もしかすると静代さんの事もどうにかしてくれたのかも知れないのであまり詰めるのはやめておこう。


「ともかく彼らが今回の騒ぎの首魁です」


「うん、玉名君達だね。静代さん手錠を」


「は、はい!」


遠くに聞こえる銃声に爆発音……ようやく終わったという事だろう


「彼らは『祀』の氏族を名乗っていました。久能氏……狗奴系の氏族だと」


「『祀』? それって比売の……?」


「ええ、詳しいことは尋問で引き出して貰うしかなさそうですが」


「そっか……辛いね……」


「もう割り切れてますから」


静代さんによって動きを封じられたまま拘束されていく彼らを見る。

道を踏み外したとはいえ大切な友人達の血筋だ。

出来ることならばこんな世界に関わること無く穏やかに暮らしていて貰いたかったモノだが……

いや、よそう。

どうあれ彼らが自身で選んだ道なのだ。

彼らを捨てた私にとやかく言う権利などあろう筈もない。

玉名監理員の悲しそうな瞳

一体彼は私に何を伝えようとしていたのだろう?

せめてその事だけでも聞けないか尋ねようと歩み寄った瞬間、弾けた。


「博士! 伏せて!!」


静代さんの力で地面に押し倒される。

ああ……もう無理そうだ。

玉名監理員とその一派、誰一人生き残ってはいないだろう。


「リンドウ00! サカキ00a! 目標施設への銃撃を停止させろ!! ここは制圧済みである!」


無線に向かって怒鳴る三國理事

第二撃へ備える静代さん


「少彦名尊、やられました。私達の負けです」


誤射にしては正確で、狙い澄まされた一撃

必要な射弾だけで必要な目的だけ排除する。

その目的は恐らく口封じ

玉名監理員が伝えようとしていた何かを隠すためだけに行われたそれは無駄の無い殺人だった

恐らく大口径の銃器を用いた狙撃

仲間割れか、それとも何らかの意図があってのモノか……

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― 新着の感想 ―
[一言] 最新話まで読みました! めっちゃ面白いです。 呪いのビデオではscp173をちょっと思い浮かべました。 首をごきっとですね。 登場人物の中で一番静代さんが好きです。 学校の階段とか、いいとこ…
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