武威 1
以下は所掌九部及び十部秘書科による事情聴取記録の抜粋です
対象 河西主務調査員
聴取者 九部秘書科 神戸主幹調査員
聴取一回目
ー本日の聴取を担当させていただく神戸です。
まず、事情聴取に関する説明を行わせて頂きます。
「あー……あれやろ? インタビューとは異なり云々みたいな……省略してかまへんで? いつもうちらがやっとる事やしな」
ー一応規則ですので
「堅いなぁ……まあええわ、はよ頼むで? こちとら苛ついとんねん」
ー苛ついている? 何故です?
「何故もヘチマもあるかいな! うちらの目の前であれだけのことされたんやで? あのクソアマ……」
ーそうですね、我々としても容疑者には憤りを感じています。
「特にあんたらはそうやろな、九重の旦那のメンツはズタボロやろ?」
ー……仕事ですので感情を持ち込むつもりはありません
「はいはい、せやな。ほんで、あれやろ? これから行うのはインタビューでは無く事情聴取である。全ての会話は記録され本案件における公式記録として保存される。黙秘権はこれを認めない。虚偽の申告には厳罰が下される。やろ? ほな、本題にうつろか?」
ー(溜息)分かりました。確認を得られたものとして事情聴取を進めさせていただきます。まずはあなたの目から見た経緯をお話願えますか?
「せやなぁ……はっきりと黒と分かる初動はあの女が食堂に入ってきたとこからやろか?」
ーはっきりと?
「せやねん、何日か前から異常な兆候はあったんや。守矢所長と千人塚博士、それと福島船長……」
ー六角理事で構いません。御本人から申告がありましたので
「まあ、あの海賊王ならそうやろな……とにかくその三人を中心に調査を進めとった。そっちが関係あるのかは分からんけど……」
ー理事会への報告は?
「防諜に関わる問題やからな、一応千人塚博士が偽装書簡を本部の十部秘書科に送っとったみたいやけど……」
ーああ、この異常な電波発射に関する報告書のことでしょうか?
「せや、それや。ほんでまぁ、あの女が食堂に入ってきてな、明らかに雰囲気がおかしかったから誰何したんや……したらいきなしズドン! や」
ー川島主任と小県主査が被弾したのでしたね
「初動は散弾銃やったけど、それ以降はPK……信じられるか? あの佐伯静代がやられたんやで?」
ー守矢所長や安曇両研究員もそう証言していますね……河西調査員の目から見てどの程度の脅威に写りましたか?
「前提としてあくまでも感覚的なモンやけど、ありゃPKとしちゃ大したことあらへんやろな……いいとこ長野にいる例の猫くらいのもんやで」
ーああ『ねこです』ですね! 来年のカレンダー買いました
「どうでもええわ! えーと……ほんでその理由やけどな、第一に戦いかたや」
ー戦い方……ですか?
「せや、うちら『百鬼夜行』は静代さんとしょっちゅう戦闘訓練しとるから分かるんやけどな、化けモンクラスのPKはあんな戦い方せんねや……というかする必要が無いって言った方がいいかもしれへんな」
ーどういうことでしょう?
「あー……うちらみたいな一般人相手に物理干渉をおこす必要が無いって事や、少なくとも専用の防護具をつけとらん限りはな」
ー精神エネルギーの直接照射のみで受容体を破壊できると?
「まあ距離にもよるやろうけど、静代さん……あと0027-イみたいなとんでもない奴らやったら半径十メートルは狙って照射する必要もあらへんやろなぁ……」
ーですが、実際佐伯調査員のPK攻撃を防ぎきったのですよね?
「そのあたりはうちもPSIちゃうからはっきりした事はわからんのやけど静代さんは手加減しとったんやと思うで?」
ー手加減……? 利敵行為ということですか?
「ちゃうちゃう! ピリつきすぎや! さっきも言った通り静代さんは力が強すぎるんや。あれだけの閉所でしかも船の上、至るところに要人がうろついてる上に敵の足元には仲間が倒れとった。そんな状況で静代さんが本気出してみいや、そんなもん敵が暴れた以上にとんでもない事なるで?」
ーそういうことですか……であれば敵が佐伯調査員と渡り合えたのも得心が行きます。
「それでもブッ飛んどる事に変わりはあらへんけどな」
ーなるほど……ひとまずその辺りの検証をしてみないことにはですね……一旦事情聴取を中断します。引き続き庁舎内での待機をおねがいします。
「はいよ、あのくそアマぶちのめす時にでもまた呼んでな」
対象 片切主任情報管理員
聴取者 十部秘書課 大芝主幹調査員
聴取三回目
ー本日の聴取を担当します。大芝です
「あ、えっと……か、片切です」
ーええと、今回は……無人機オペレーターとして片切主任が見た部分についてお聞きします。まあ肩の力を抜いて下さい
「は、はひっ!」
ー(苦笑)では、あなたの目から見た戦闘の経緯についてお話いただけますか?
「えっと……さ、最初は、その食堂の警報があって、そ……その後、しょ、所長から連絡が、その、あって……緊急だったので、ぼ、僕の方から現場に、その、えっと……中継を」
ーパーサーや会議出席者から非常に有り難かったと聞いています。
「ど、どうも……それで、しばらくしたら凄い衝撃があって、計器のノイズがあって……そしたら所長からの連絡が無くなって『ニンゲン』が……その時はクジラだと、えっと思ってたんですけど、一斉にこっちに向かって来て、そしたら『みやじま丸』から総員配置と対潜戦闘の指令が飛んできて……えっと」
ー衝撃やノイズについての所見をお聞かせ願えますか?
「えっと……その、検証した訳じゃ無いので、はっきりした事は言えないんですけど……」
ー構いません、片切主任の専門家としてのご意見を伺いたいので
「多分、えっと、その……音だと、思います」
ー音……ですか?
「はい、えっと……ソナーの聴音記録を見て貰うと分かるんですけど、空気中の衝撃は広く拡散しているんですけど、水中の衝撃は南南東方面に向けて高い指向性で伝播していってるんです。それで水中の衝撃、というか音波が到達した位置の『ニンゲン』がそれに反応するように動き始めて、多分なんですけど通信の一種なんだと思うんですけど、それは何でかっていうと、音波が到達した『ニンゲン』が指向性の低い音波を発信しはじめて、それを受けた『ニンゲン』も同じ音波を発信して、音波の最初の発信源は敵のPSIだと思うんですけど、それが『ニンゲン』との通信に音を使っていたんだとしたら凄くよく考えられていて、諏訪先生が言うには『ニンゲン』の生態はクジラに近いんですけど、クジラとは声の周波数が微妙にちがくて、それに水中だと電波の減衰も気中と比べるとーー」
ーあー、えっとすいません、ちょっと待ってください、ストップ!
「え……あ、す……すいません……」
ー要するに、敵性PSIが『ニンゲン』を呼ぶために強力な音波を出して、その余波で空気中にも衝撃が伝播した。そういうことでしょうか?
「は、はい……その、あくまで推測なんですけど……」
ーいえ、非常に興味深いお話でした。データの照合を行うのでひとまずは庁舎内での待機をおねがいします。
「は、はい……その、それで博士はえっと……」
ー今のところはなんとも言えませんが、捜査を続けてはいます
「そうですか……」
ー……気休めにもならないかもしれませんが各所掌の秘書科が総力を挙げて敵と千人塚博士の行方を追っています。
「えっと、その……博士はかなり無理して我慢してしまう人なので……できれば、早く見つけてあげて下さい」
ーええ、そのつもりです
対象 諏訪主幹医療研究員
聴取者 十部秘書課 三原主務調査員
聴取二回目
※本聴取に関しては特別所掌調査十課の分隊を同席させる。
※聴取対象者による敵対行動が認められた場合は即時の射殺が許可される。
ーおはようございます。本日の聴取を担当する十部の三原です。
「おはようございます。そちらの皆さんも、昨夜はよく眠れましたか?」
後方に控える分隊員に諏訪主幹が体を向けた。
敵対行動と勘違いした分隊員が諏訪主幹を拘束しようとしたため、一時聴取を中断
ーすみませんね……
「いえ、状況が状況です。彼の判断は心強くこそあれ、それを責めようなどというつもりはありませんよ? ともかく皆さん健康そうで何よりです」
ーそれでは『ニンゲン』と『チャッピー』についてお聞きします
「ふむ……それは私が持ち込んだモノについての話でしょうか?」
ー正直なところあなたの『チャッピー』不法持ち込みに関しては非常に憤りを感じてはいますが、今回その事を質すつもりはありません。
「それはありがたい!」
ー誤解して欲しくないので言っておきますが、この件が済んだ後に五部から聴取を行うことになります。それは覚悟しておいて下さい。
「ええ、勿論ですとも。いつも通りの話だ」
ー(溜息)それで、ですが……まずは敵の『チャッピー』についてお聞きします。
「私見でよろしいですか?」
ーええ、おねがいします
「ではまず基本的な部分から……あれは第五世代相当の『準チャッピー』でしょう。セミオーダーの工業製品とみて間違いないでしょう」
ー『準チャッピー』?
「ふむ……三原さんはあまり『チャッピー』にはお詳しく無い?」
ーそうですね、取り締まりや強制捜査の経験はありますが……
「なるほど、『準チャッピー』というのはホワイトブラッドや有機ナノマシンを用いて免疫機能の調整を行っている『チャッピー』の事です。生来の超常エネルギー耐性を用いる事が出来なくなるので我々の様な愛好家が作る事はありませんが企業が製品として製造することは多い類いのモノです。まあ、廉価の普及品ではありますが」
ー普及品……
「お気持ちはわかります。やはりロマンがありませんからね」
ー……あー、いえいいです。ともかく……出所は雨傘だとの所見をお持ちだと聞きましたが?
「まあ味見しただけなので精度は保証しかねますが」
ー味見?
「血液や組織液を口に入れて……」
ーあー……いいです。わかりました。
「そうですか? ともかく味見したところ成分の組成が雨傘の製品の特徴に非常に似通っていると感じた次第です。医療研究所での詳細な分析を経ない事には断言はできませんが」
ーなるほど……では引き続き『ニンゲン』に関する所見をおねがいします
「ふむ……専門の分野では無いのではっきりした事はわかりませんが……あの『ニンゲン』には違和感を感じます」
ーそれはどの様な?
「『ニンゲン』はその名の通りホモサピエンスに非常に似通った構造をしています。そのあたりは?」
ー『チャッピー』よりは詳しいです。昔は能登にいたので
「二部出身ですか、それは珍しい! では早速核心部分ですが……本来の『ニンゲン』であれば単に水中に適応し巨大化したホモサピエンスという見方もできるものです。だが、今回現れた『ニンゲン』は本来の有り様とは大きく異なる様に感じるのですよ」
ー本来の有り様……『事案』としてのという意味でしょうか?
「いえ、生物としてのという意味です」
ー話が見えないのですが
「(笑い声)これは失礼、歳をとると表現が大きくなってしまっていけませんね……要は生きる上で不必要な機能を有していたということです。『チャッピー』を輸送する道具としての機能をね」
ー何らかの改変が行われている。そういうことでしょうか?
「その通りです。あの『ニンゲン』達も、もしかすると別種の『チャッピー』と呼ぶべきモノなのかも知れませんね」
ーそうですか……その旨を医療研究所と能登研で検証してみましょう。ひとまず本日はこれで結構です。申し訳ないのですが……
「わかっています。拘束具でしょう? 自分の立場は十分に理解しておりますとも」
ーしばらくは窮屈な思いをさせてしまうことになります。申し訳ない
「なに、博士が戻られるまでの……少しの辛抱です」
ーそう……ですね……
対象 羽場主務調査員
聴取者 九部秘書科 神戸主幹調査員
聴取二回目
ーどうぞ、こちらへ
「おお、今日はお前か」
ーええ教官、御無沙汰しております
「時間が経つのは早いものだな……落第ギリギリだったお前が今や秘書科で主幹とはな……いやはや分からんもんだ!」
ーいや、勘弁して下さいよ、部下や後輩も聴いてるんですから……
「(笑い声)すまんすまん! お手柔らかに頼むぞ!」
ー(咳払い)では、改めまして……本日の事情聴取を担当します。九部秘書科の神戸です。先ずは事情聴取の説明を行います。これは通常のインタビューとは異なり案件調査に伴う事情聴取です。ここでの言動は全て記録され、本案件の公式記録として保存されます。黙秘権はこれを認めません。虚偽の申告には特別懲戒を含む厳罰が下されます。
「ああ、間違いなくその旨確認して理解した」
ーありがとうございます……話が早くて助かりますよ……
「なんだ? 河西のお嬢あたりがごねたか?」
ー何でそれを?
「(笑い声)何となくそんな気がしただけだ! まさか本当にそうだとは思わなかったがな!」
ー(溜息)『百鬼夜行』の人達はせっかち過ぎるんですよ!
「まあそう言ってやるな、連中も年がら年中ドンパチやってるから焦れったいのが嫌いなんだろうさ」
ー(咳払い)話が逸れましたね……本日伺いたいのは容疑者のうち敵性PSIの女についてです。
「ああ、あの女か……あれは化け物だったな……」
ー河西調査員が言うにはPK能力は長野支部の『ねこです』程度だと……
「そこに関しちゃ俺も異論は無い。だが、俺が言いたいのはPSI能力と戦技を合わせた総合戦闘能力についてだ」
ー続けて下さい
「まずあの女は自分のPKの弱さを十分に理解していた。一般人相手なら幾らでも蹂躙出来るだけの力があるにも関わらずだ。そしてそれを分かっているからこそ、静代さんの攻撃を正面から受け止める様な事をしなかったんだろう」
ー待って下さい……佐伯調査員は手加減をしていたのでは? 現に回収した会議場の床の損傷は佐伯調査員の持ちうる全力が振るわれたにしてはあまりにも少なかった!
「そりゃ手加減もするだろうよ、彼女の精神エネルギー投射能力は単純計算でも戦術核レベルだ。だが、幾ら絞ったところで元のエネルギー量が違う。正面から受けてたらあの女も一瞬で挽肉になって一件落着だったろうさ」
ーではどうやって佐伯調査員の攻撃を?
「俺もPSIじゃねえからハッキリした事は分からん。なにせ精神エネルギー波なんて見えないからな! ただ、物理干渉と相互干渉の位置関係から見るに、無理矢理ベクトルをずらして直撃を避けたんじゃ無いかと睨んでる。それでも静代さんのジャブ一発に対して全力全開渾身の一撃をぶち当ててようやくだったみたいだがな……とんでもない量目鼻から出血してたよ」
ーなるほど……まるで武術の達人だ……
「そこだ!」
ーえ?
「武術の達人、まさにそれだ。実際に戦ってみた感じもそうだし、静代さんを倒したあの一撃もそうだ。尋常じゃ無いほどに練り上げられた功夫だった。」
ー中国武術の遣い手、という事ですか?
「色々混ざっていて純粋にというわけじゃ無いがありゃ霍氏八極拳とみて間違いないだろうな……それも随分古いタイプだ」
ー霍氏八極拳……満州の?
「ああ、愛新覚羅溥儀のボディガードが使ってたって言う李氏八極拳の傍流だ」
ーではあの女は中国人だと……?
「そこまでは言い切れんな……八極拳自体はそこまで珍しいものじゃ無いし中国武術以外のエッセンスもかなりあった。そしてその全てが信じられない程に研ぎ澄まされていた……おそらく静代さんを倒したのも武術とPKを合わせた何らかの方法だろう。例えば浸透勁に運動エネルギーじゃなく精神エネルギーを乗せるとかな」
ーそんなことが可能なんですか?
「知らん!!」
ーえぇ……
「俺は研究者じゃ無いんだ。今のも単なる思い付きだしな!」
ーまあ……そうですね……ではこの内容を専門家に預けて精査してもらって見ましょう。今日はこの辺りで結構です。引き続き庁舎内での待機をおねがいします
「分かった。それと……博士の捜索はどうなってる?」
ーまだ何とも言えない状況です
「そうか……ああ、分かった。もし博士を奪い返すってなったら俺も混ぜてくれよ?」
ーええ、その時は正式に依頼がいくと思います。本日はありがとうございました




