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国際会議 1

長野県大町市 甲信研究所千人塚研究室


『事案』として存在が確認されていないそれを手探りで探し出すというのは想像以上に骨の折れる仕事だ。


「怪談としては幾つもあるんですけど……」


「うん、それ自体は私も聞いたことあるよ? ただあくまでもただの怪談なんだよねぇ……」


「ふむ……地道に目撃情報を辿っていくしか無いのでしょうか?」


「静代さんの力で探し出せたりはしませんか? 虱潰しにしても情報が漠然としすぎていて現実的に考えるとどうも……」


「すいません……何度か試してはみたんですけど……」


「だよねぇ……」


花子さん……とんでもない置き土産を置いていってくれたものだ。

うちの研究室における各セクションのトップと静代さんでうんうん唸りながら頭を悩ませていると、何やら外が騒がしくなってきた。

嫌な予感がする……


「千人塚博士! 大変だ!」


ほらやっぱりな……


「ノックぐらいしてくださいよ……」


「そんな事を言ってる場合じゃ無いんだって!」


どんなときでも礼節は大切だと思うのだが。


「へぇ……そりゃ大変ですね、じゃあ頑張って!」


「博士ぇ……」


専従という言葉の意味、どうやら彼は知らないのだろう。

これが、理系か……


「なんですこれ……『国連超常管理委員会年次首脳会合実施計画』?」


がっさんが所長の持ってきた書類を手に取る。


「ああ、もうそんな時期ですか……」


「そっか、今年は日本開催だもんね」


UNPCCの首脳会合は毎年PgSLクラス5の施設を保有するどこかしらの国が議長国となって行われているが、今年は久々に日本……正確には『機構』が議長だ。


「これの手伝いをしてほしいって事ですか?」


「うん、今回は甲信研究所うちが出席する事になっちゃって……」


首脳会合とは言っても実際に執行部理事が出席するわけではない。

そもそも所在が厳重に秘匿されている彼らが表舞台に姿を現すことなどあり得ない事だしそれは各国の超常管理組織も共通している。

『機構』は毎回主要研究所の所長を『首脳』として派遣している。

権限の大きさゆえに名目上は『首脳会合』となってはいるが、どこも秘密主義な組織の特徴を活かして名目上の『首脳』を派遣している。

結局のところ単なる実務者級会合というのが実際のところだ。

一応各国の首脳は参加するが、どこの国も超常管理は『機構』と同様の半官半民の組織が行っているので、ただいるだけであまり意味は無い。


「それならなおのことうちには無理ですよ?」


諏訪先生は未だに世界113の国と地域で指名手配されているし、私もアメリカ寄りの超常管理組織を有する国からは懸賞金つきで手配されている。


「そういえば……」


「そういえばって……しっかりしてくださいよ……」


まぁアメリカと愉快な仲間たちから懸賞金をかけられるというのは『機構』職員からすると一人前の証みたいなものだが、諏訪先生のは大量殺人犯としての国際指名手配だし、私のは希少な『事案』としてのそれなので国際会議で有象無象の前に姿を現すのはよろしくないだろう。


「でもそうするとなぁ……随員として『アゴ』の専門家に来て欲しかったんだけど……」


「『アゴ』? ああ、連中が議題に挙がってるんですね……本部の特殊部隊とか情報本部の担当を呼んだ方がいいんじゃないですか?」


『アゴ』は世界中で『事案』の強奪を含むテロを行っている。今じゃ立派な国際テロ組織だ。


「いや、十河理事に相談したら『アゴについて我々が持ちうる全ての情報を持っているのは千人塚博士だ。彼女が適任だろう』って……」


あのクソ爺……


「それでも流石に体面ってもんがあるでしょうに……」


余談だが、四宮元理事の懸賞金の最高額は諏訪先生の概ね半分である。

未だに一部の国において『諏訪光司』は最悪の超常テロリストと見做されている。


「では、私は留守を守っていますので」


「ああっ! それなら!!」


「却下!!」


割と迷い無く私を売ろうとした諏訪先生に恨みの籠もった視線を向ける。


「あら、皆さんお揃いで」


「ん? 佳澄さん……? どうしたんですか?」


長野支部情報科長 田島佳澄上席調査員……うちの研究室とは関係の深い人だが、甲信研究所ここで会うことは非常に稀だ。


「博士に」


「御用だって言うので」


双子ちゃんが顔を出す。

梓ちゃんも髪が伸びてきたとはいえ、ショートカットだと修くんと非常に紛らわしい。

開頭手術をしたのに傷跡一つ残っていないのは流石諏訪先生といったところだ。


「ええ『アゴ』についての情報を掴みましたので」


これまたタイムリーな話だ。

佳澄さんから受け取った書類に目を通す。


「『アゴ』が首脳会合の襲撃を企図している……?」


「ええ、確度の高い情報です」


武器や人員、金の流れが詳細に調べられている。

ここ数カ月で動きが大きくなり、何らかの行動を起こそうとしている事は明らかだし、時期的に首脳会合を襲うというのは理に適っている。

しかし……


「一体どうやってこの情報を?」


情報本部ですら掴みきれていない様な情報である。

一介の支部情報科長がどうやって?


「ふふ……長野支部は優秀なんです」


「こう言っちゃなんですけど、これは私よりも先に本部に報告するべき情報ですよ」


そう伝えると、佳澄さんは不思議そうに首を傾げた。

所長も同じように首を傾げている。

同じ事をしていても美女とおっさんではここまで違うのかと、他人事ながらに悲しくなるが……


「二人とも……なんですか?」


「『アゴ』の情報は全て博士の元に集約するように理事会から指示を受けていますので……」


「へ……?」


いや、初耳なのだが?


「何日か前に理事会からの一斉メール来てたでしょ?」


慌てて確認すると、確かに執行部理事全員の連名で各研究室、統合管理局情報部、支部情報科宛てのメールが届いているが……

私に一言の断りも無く? 流石に酷くないか?


「ああ、だから最近博士宛の書類が日本中から届いてたんですね!」


がっさんのいう通り最近『アゴ』関連の報告が増えたと思ったらこういうことか……

情報の取捨選択までこちらに丸投げとは……怠惰が過ぎるのでは無かろうか?


「そういうことですか、なるほどなるほど……」


こんな事を考えるのはどうせ二葉、六角、十河の三人しかいないだろう。

覚えてろよぉ……


「……なんか」


「顔が……」


「「怖いです!」」


「しっ! とばっちり食らいますよ!」


「食らわないよ! 私をなんだと思ってんのさ!」


静代さんもルーキーに誤解を招くような情報を与えるのは勘弁して欲しい。

菩薩もかくやというほどに心優しい私である。

波及被害は最極限! これは基本中の基本だ。


「とにかく、忙しいし面倒な仕事も増えたんです! 今回ばかりは無理ですからね!!」



東京都小笠原村南硫黄島沖


 ー本日 天気晴朗 ナレドモ 波高シ

何故私達はこんなところにいるのだろうか?


「いやぁ、潮風が気持ちいいなぁ! あっ!! イルカだ!」


うん、船の舳先で子供のようにはしゃいでいるこのおじさん、守矢久作がその戦犯の一人であることは分かっている。


「しかしえろうすまんなぁ……わざわざ船でいくことになってしもて」


「そんなこと無いですよ! わざわざ迎えに来てくれてありがとうございます。ね、博士!」


がっさんの言葉に頷く。


「そうだね、でも現場を離れて良かったの?」


船の舵を執る河西咲希主務調査員は今回の首脳会合では会場の治安維持を担当する警備責任者だ。


「かまへんよ、外人連中が着くまではやることもあらへんしね……暫し守れや海の人ってなもんや」


本来ならば飛行艇で直接会場入りする予定だったが、現在会場周辺には多数の航空脅威が存在するらしく、念のため硫黄島から高速艇で向かうことになった。

何てことはない。よくある嫌がらせだ。


「何事もなく終わってくれればいいんですけど……調子こいた外人連中が相手だとそうもいかないか……」


「なんや、自信ないんか?」


「いざとなったら外人全員海に沈める位の心意気を持ってもらわにゃ困るぞ!」


河西調査員も羽場主務もそう言うが……


「大嶋くんに変なこと吹き込まないでよ……これで戦争になったらどうすんのさ」


『所属不明』の航空機による嫌がらせと同様に、参加団体がチクチクと嫌がらせし合うのは最早国際連盟時代からの恒例行事だが、そこで活躍するのは調査員の皆や航空部、海洋部の面々だ。

正直私達のようにか弱い研究者は戦々恐々としながらその様子を眺めたり、被害に遭うことしかできないのだから程々にしておいてほしい。

というか、今回の河西調査員の仕事にはそれらのちょっとした抗争が行きすぎないように留める役割もある筈なのだが……

武力としては申し分無いが、人柄としてはミスマッチなのでは?


「ほれ、見えてきたで!」


そんな事を考えていると、河西調査員の楽しげな声が聞こえた。


「わぁ……すごい……」


「これが……」


がっさんと静代さんが感嘆の声をあげる。

まあ、無理もない

なにしろ今回の会場は海洋部の虎の子なのだ。

可搬式遠洋型メガフロート

言うなれば『キャラバン』の海上版のようなものだが、その規模は正に桁違いだ。

ちょっとした街ならばすっぽりと収めてしまえるほどのそれは、複数の大型貨物船を中核に構成される超大型の海洋拠点システムである。

海上自衛隊が保有するようなゴリゴリの戦闘艦艇こそ無いものの、強力なレーダー船やミサイル母船(アーセナルシップ)を複合的に運用、周辺海域に可搬式の水中聴音器や防潜網を敷設した海上要塞、文字通りの鋼鉄の城である。

主要研究所のパワーソースとなっている核融合炉を運用するための大型船二隻が含まれているため、いざ事案性事物と遭遇する事になっても電磁フィールドでメガフロート全体を包み込む事が出来る。

防衛能力のみで言えば『重要防護圏』に所在する特定管理研究所に一歩譲りはするが、仮設の海上要塞という特性上首脳会合の会場とするには非常に適している。

それは『機構』からみた保全の観点からも勿論だが、他国の使節に無用な警戒心を抱かせないという面も含めたものだ。

『敵』の地下秘密基地に招かれて落ち着けるわけもない

ともかく首脳会合まではそんなに時間があるわけでは無い。

はやいところ準備を進めて南の海を満喫したいものである。


「ところで……双子ちゃんは?」


「そういえば姿が見えないですね」


がっさんと二人で甲板上を見回す。

キャビンの真横で海面を二人揃って見つめている様だが……


「あんまりはしゃぐと落っこちちゃうよ?」


二人の方に歩み寄るが反応が無い。


「ははは、そっとして置いてあげて下さい」


ミネラルウォーターを持った諏訪先生がやって来て言う。


「船酔いしてしまった様なので」


 ー本日天気晴朗ナレドモ波高シ


確かに慣れない船旅である。

いきなり外洋は二人にはキツかったかも知れない……

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