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学校の怪談 7

東京都足立区舎人 西新井工業高等学校

推定遠鉄かたす線 きさらぎ駅近傍領域

「げほっ……これは……」

0027-イの姿は変わらずにここにあるにも関わらず、まるでその輪郭が風景の中に溶けていくような感覚を感じた佐伯静代は0027-イから大きく距離を取った。

「おおっ!すんばらしいぃっ!神の恵みが!大いなる力が!我らのこの身に満ち満ちてくる!」

(平衡補強装置が止まった?)

流れ込んでくる無数の人の金切り声は、もはや言葉の体を成してすらいない。

0027本体と0027-イの繋がりが復旧した結果だろうと当たりをつけた彼女は、味方の様子を伺う。

ー本当に大丈夫なんだよね?

ー大丈夫です!……多分

ーえぇ……今更自信無くさないでよぉ……

(平気そうですけど……何の狙いが?)

「余所見しちゃダメだゾ☆ミ」

「ご心配なく」

襲い来る四宮元理事と機関銃の射撃

四宮元理事をPKで無造作に盾にして彼女は射撃を防ぐ。

大口径の機関銃で引き裂かれた四宮元理事の体が崩れるのと同時に上下左右から強大な力が彼女を襲う。

(そういうことですか……)

0027と0027-イ、別物の『事案』であると同時に完全に一体化して同一の『事案』としても存在している。

言うなればこの領域そのものが0027-イであるということだろうと彼女はその得体の知れない能力について理解した。

PSI能力者『宮守花子』としてここに存在しているのと同時に0027の一構成要素たる0027-イとしての個体的特性が発揮されている。

(それならっ!)

彼女は現実性不平衡のエネルギーを直接関知することは出来ない。

それは彼女の力の源である精神エネルギーと現実性不平衡のエネルギーが根本から異なるものであることに起因している。

しかし、現代最高クラスのPSI能力者である彼女は誰よりも超感覚的知覚に優れている。

そして機構の調査員として日々の任務及び訓練を経るなかであらゆる戦い方を学んできたのだ。

四方より襲い来る力をはね除けた彼女はその余勢たる精神エネルギーを四方に解き放つ。

輪郭がぼやけて実体の捉えにくい0027-イではあるものの、溶け込んでいるのならば溶け込んでいるなりにその枢要たる部分は高い精神エネルギーを有しているはずだと、彼女が採った策はある種のエコーロケーションだった。

偵知の為のアクティブシグナルと言うには余りにも破壊的なエネルギーを有するそれはすぐに二ヶ所の特異な反応を持ち帰った。

三番目の個室……

博士達の方……?!

はっとして味方の方を振り向いた彼女は真っ直ぐ交戦領域に突っ込んでくる一体の銅像を見た。


「静代さん!四宮元理事キチガイに集中!」

小銃ひっかついで交戦領域に突入しながら静代さんに叫ぶ。

「は、はい!」

一々作戦の詳細を伝えなくて構わないのはありがたい。

「もっと前出るで!」

「加西ちゃん!雑魚は任せる!」

「はいよっ!」

『用務員』の面々が対応に当たるのは現在私達が対峙している歩兵部隊だ。

「大嶋くん!XXXの進出援護を!」

「了解!!MGに顔上げさせるな!」

大嶋くん達の火力支援の元、XXXが敵機関銃陣地を破壊する。

予期していなかった訳ではないだろうが、まさか私達の様な一般人がこんなデタラメ怪獣大戦争に介入してくるとは思っていなかったのだろう。

襲撃を受けた敵歩兵の顔に驚愕の色が浮かぶ。

数の上ではほぼ互角、機構在籍時の部隊の格としてはほぼ同格だったとはいえ、多岐にわたる任務をこなす『秘書科』とほぼ戦闘一辺倒の『百鬼夜行』を基幹とする『用務員』であれば加西調査員達に分があるのは自明の理だし、そもそも今回は奇襲のアドバンテージは此方にある。

「は……?」

「余所見はしちゃダメですよ?」

四宮元理事キチガイの気が逸れた一瞬の隙をついて静代さんがその体を拘束する。

「ほい、お疲れ様」

「ほんとですよ、なんかどっと疲れました」

この一連の戦いに私が同行したのは別に指揮官としての義務感等という立派なものではない。

「な……離せ!醜き怨霊!私に酷いことをするつもりだろう!薄い本みたいに!」

「薄い本……?」

「あー……静代さんは知らなくて大丈夫なやつだよ」

「さて、手早く済ませちゃおうか……■■■■、■■■」

神出鬼没、それ故に各国で多大な被害をもたらしてきたこの男だが、身動きが取れない状態ではどうなるものか?

私が柄にもなく銃火に身を晒したのはこのためだ。

『みしゃくじ様』を用いての身柄の拘束、手錠を掛けるよりかは幾分ましな方法だろう。

「■■■■■、■■■ー」

「あああああああああぁぁぁぁっ!ああああああああああああぁぁぁああぁっ!」

「へ……?」

体に力が入らない。見てみると逆袈裟に切られている。

「博士!」

咄嗟に静代さんが力を使って断面を合わせてくれた。

「あ……ありがとう……」

非常に助かる。再生を待つよりこのままくっついてくれる方が治りも早い。

「さっきの悲鳴……」

「0027-イ……いえ、恐らく宮守花子さんのものです」

静代さんが見据える方を見れば、なるほど御当人がいらっしゃった。

その手には銅像の腕が握られている。

「嘘でしょ?神格相手だよ……?」

「螯ケ繧呈爾縺励※窶ヲ窶ヲ遘√?窶ヲ窶ヲ遘√?窶ヲ窶ヲ縺?k縺輔>?√≧繧九&縺?シ√b縺??ェ縺医″繧後↑縺??ヲ窶ヲ縺ッ繧?¥窶ヲ窶ヲ遘√′縺セ縺溽ァ√§繧?↑縺上↑繧句燕縺ォ窶ヲ窶ヲ」

「ーっ!……分かりました」

「分かったの?!」

完全にバグっているようにしか……いや、テレパスか……

悲痛な面持ちの静代さんが0027-イ……いや、宮守花子にその掌を向ける。

「気を抜いたな!怨霊!」

「え……?」

「は……?」

左手に比礼を、右手に小刀を持った四宮元理事キチガイが静代さんに斬りかかる。

完全に不意を打たれた。

静代さんの両目から真っ赤な血が飛び散る。

「ーっ……!」

「静代さん!くそっ!」

四宮元理事キチガイに向けて連発で射撃を浴びせる……が、当たるはずもないか……

庇うように静代さんの前に立ち塞がる。

「千人塚博士!残念だがお茶の時間が迫っているのでね!今日は失礼させてもらうとしよう!続きはまたの機会に!」

きさらぎ駅近傍領域に現れた四宮元理事キチガイが言う。その肩には0027-イの姿……

追撃をするべきだろうか?いや、現状の戦力ではとてもじゃないが敵のホームに踏み込める余裕はない。

「もう二度と出てくるな!お茶で噎せて死ねっ!」

きさらぎ駅近傍領域もろとも四宮元理事キチガイが消えた事を確認して静代さんに駆け寄る。

「静代さん!大丈夫?」

「あはは……またこれのお陰で助かっちゃいました」

「ああ『足玉』……」

他にもまだ聞きたいことはあるが、取り敢えず今は無事を確認できたのでよしとしよう。先に対処しなければならない事が幾つも残っている。

「失礼、いくつかお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

まずは0027-トだ。がっさんの勢いに引っ張られて共同戦線じみたものを構築するに至ったものの、その行動は余りにも不明瞭に過ぎる。

「……」

「また黙りですか……」

「いやいや、銅像が喋るわけ無いじゃない……全く、比売はファンシーだなぁ……そんなところも魅力的だけどね!子供つくろ?」

「……どこから湧いて出たんですか?みく……少彦名命……」

「比売のピンチかもしれないとつばくらめに乗って飛んできたんだよ!」

「へえ……親指姫みたいですね」

「褒めてるのかな?」

「さぁ?というか現場に出てきていいんですか?」

「今日はそっちの立場での仕事じゃ無いからへーきだよ!」

三國理事こと少彦名命……自由奔放過ぎやしないだろうか?いくら高位の神格の一柱とはいえ、こんなちっこいのが現場に出てきて神退かむさる様な事があれば『機構』の要人が死ぬという以上に大問題だ。

下手をすればこの国の神格性事案との関係が大きく拗れてしまう可能性すらあるのだ。

「それで……何しに来たんです?」

「彼を迎えに来たんだ!」

「彼……?」

少彦名命が指差したのは0027-ト

「本当ならもっと早く神上がる予定だったんだけど、どうしてもどこにいるのか分からなくってね」

なるほど、そういうことか……

菅原道真公にしろ徳川家康公にしろより後世の軍神にしろ、見立ての神格の法則と信仰によって神格を得た人間というのは意外なほどに多い。

二宮金次郎の信仰が当人の死後時を経てから最盛を迎えた以上、この世に残っていた神格の卵が信仰のイコンとなっていた銅像を依り代としていたとしても何ら不思議ではない。

「ふうん……なるほどね……うん、大丈夫!この少彦名、国造の神の名に懸けて引き継ぐよ!」

銅像となにやら話し込んでいる様だが、何を話しているのかはさっぱりだ。

「あれ……?一寸法師さん?」

「ん……ああ、静代さん!久しぶりだね!」

「お久し振りです!こんなところで……何を?」

静代さんと少彦名の会話を聞きながら、0027-ト……いや、二宮尊徳を見る。

神格であれ私達にとっては『事案』であることに違いはない。

それでも思い返してみれば神格の持つ現実性+不平衡エネルギーが介在していたとしか思えないような出来事は多数発生していた。

それも私達に手を貸すかのような形で……だ。

正確な行動については後々三國理事麾下の研究所が明らかにしてくれるだろうが、彼が私達を助けてくれたのは明らかだろう。

「ありがとう……お陰で私の大切な子達が命を拾えました」

失ってしまった命は確かにあるが、それでも彼の助けによってうちの子達の大部分は生き残る事ができた。

それは私にとっては何よりも得難い神の恵みだから……


「はい、お疲れ様でした」

「……何をそんなにホクホク顔してんのさ」

「いやいや、そんなことはありませんよ?」

周囲の空気感から0027全体の無力化が成功したのだろうというのはなんとなく察してはいるが、諏訪先生のこの表情は機構の宿敵との戦いに終止符が打たれたことを喜んでいるという類いのものでは無いだろう。

「なんか成果あったの?」

「いやぁ、やはりわかってしまいますか?」

「そんなに締まりのないにやけ面目の前にぶら下げられちゃ嫌でもね」

『アゴ』を辛くも撃退した私達だったが、その直後もたらされた報はとんでもないものだった。

『アゴ』と推定される武装勢力によって国内の主要研究所及び管理収容施設が襲撃された。

要するに四宮元理事キチガイがここに来たのは単なる陽動……ZA案件である0027の対処に戦力が集中している隙を突いて手薄になった各地の研究所に対する武力攻撃を敢行したという事だろう。

幸い専従の戦闘部隊が駐留する三大特定管理研究所や管理収容施設は大した被害を出すことはなかったものの、専従の戦闘部隊を持たない中核研究所や専門研究所はかなりの被害を被ることになった。

特に中部研究所と関西研究所、九州第二研究所の被害は甚大なものであり、中部研究所に至ってはつい先程陸上自衛隊によって制圧されるまで戦闘が続いていたほどだ。

各研究所とも自爆用核弾頭の起爆にこそ至らなかったものの、喪失した『事案』の数も喪った研究者の数も、どちらも見過ごせるレベルではない。

確かに『宿敵』と呼ぶべき0027には勝利した。

しかし0027最大の脅威である0027-イを奪取され、加えてこの被害を被ったのでは一方の勝利を手放しで喜ぶわけにも行くまい。

と、思うのは私だけなのだろうか?

ちょっとした発見に目を輝かせる諏訪先生をみているとそんな気がしてくる。

「そんで、どんな成果があったの?」

「博士が0027-ハに吸収されていくのをモニターしていたのですが、いやぁ、これはすごいです!一度全てを現実性平衡のエネルギーに変換して純度を高めた後に現実性-不平衡のベクトルを付与して増幅することで出力を格段に増加させているんです!ああ、早くこの技術をチャッピーに実装したい!」

ここまで喜んでいただけるなら0027-ハの餌になった甲斐もあるのだろうか?

いや、そうでもないな……

そもそも私が0027-ハの餌になったのは完全な予定外の出来事だ。

事前に準備していた0027-ハの餌にするべき『事案』は非現実性の増殖作用を有するものだったが、残念なことに0027領域に存在する-不平衡のエネルギーと干渉を起こして不活性化……となると代用品に私の名前が挙がるのは無理からぬ事だ。

「まぁ……そうだね、うん!」

負けた部分は負けだが、それで勝ちが失われた訳じゃない。

今は無邪気に喜ぼう!折角の勝利を!!



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