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開かずの教室調査計画 3

東京都足立区舎人 西新井工業高等学校

「ほい、そんじゃあ始めようか!」

「……もう少し自分を大事にしようって思わないんですか?」

がっさんが呆れたように聞いてくる。

「今更じゃないですか?博士ですし」

藤森ちゃんが私に各種センサーを取り付けながらそれに返した。

「なんか冷たくない?あとなんで現場にいるのかな?」

「ギリギリ後方支援の範疇です」

「もう一回言っとくけど、デスクワークであって後方支援じゃないからね?」

どうせ大嶋君の入れ知恵だろう。なにしろこのようなやり取りには覚えがある。

さておき、まずは目の前の事態に集中するとしよう。

0027-ホの有する強力かつ高致死性の精神汚染への対応だ。

例によって私の身体的特徴を利用する事にしたが、これは賭けだ。

そもそも0027-ホによる致死性精神汚染影響が有害情報兵器、俗に言う致死性ミームの様なものなのか、それとも精神汚染の延長による致死なのかが判然としない以上私の身体的特徴がどの程度通用するかもまた未知数だ。

仮に有害情報兵器と同様の作用機序によって齎される致死であればよし、そうで無ければZAコード案件の事案と真っ向から精神力で殴り合う事になる。

そうなれば、まず私に勝ち目は無いと見ていいだろう。良くて精神崩壊、最悪不老不死の廃人だ。

それでも、何も分からない状態で総力戦に移るよりは大分ましだろう。少なくとも今回で0027-ホの持つ力がどちらなのかは分かるのだ。

それに仮に私の心が壊れたとしても、恐らく三百年もあれば回復するだろう。それは過去の経験からも明らかになっている。

「mk.9……どれだけ持ってくれるでしょうか?」

「それを試すっていう面でも良い機会だね」

対精神汚染、対有害情報兵器の防衛機構を有するmk.9パワードスーツだが、完全な影響の遮断は難しいだろう。

だが、私専用の塗装を施した皆の憧れ『専用機』だ。花道を行く衣装としては申し分ない。

「よっし、それじゃあ行ってくるね!」


「よーし、皆準備はええな?」

校庭の隅、偽装OP車両を用いた指揮所の中から『用務員』の指揮官加西咲希調査員は指揮下部隊に呼び掛ける。

各所の部隊の準備は万端、あとは動きを待つだけである。

千人塚博士の実験に付帯して予期される0027各構成要素の活性化に対する対応と足止めが彼らに託された任務である。

「まったく……こんなめちゃくちゃな作戦甲信研にいた頃以来やわ」

「……?『百鬼夜行』よりはましなんじゃないんですか?」

不思議そうに返した大島調査員に彼女は首を横に振る。

彼等千人塚研究室XXXパワードスーツ部隊は戦術予備隊として現状は後方に拘置されている。

「博士が特定調査員みたいな事するなんて千人塚博士以外やらんわ」

「ああ……そういう事ですか」

大嶋調査員達一般の調査員が身に纏うモスグリーンの作業服とは異なり、彼女は深いネイビーブルーの作業服を着用している。これは彼女が機構の特殊部隊に所属している事を示している。

機構本部特別所掌調査10課、通称『百鬼夜行』は十河理事直轄の特殊部隊である。

各執行部理事の私兵的側面の強い秘書科に対して、特殊部隊は各理事の所掌分野に対する純粋な武力集団であり、特に『百鬼夜行』は十河理事の所掌である特定管理事案に対する調査及び戦闘を担うという特性から特に攻撃的かつ統制の取れた戦闘のエキスパート達であるとされている。

危険な『事案』それこそZAコード案件にも対応する彼女らではあるが、現場ではそれぞれの研究室の指揮下に入ることが主だ。

どれ程の武力を蓄えたとしても相手は『事案』である。

対応方法は千差万別であり、それを見極めるのが研究員達の職務である以上それは当然の事だろう。

そうやって多くの研究室を見てきた彼女であっても、千人塚博士のとる手法は特異に感じる。というよりは千人塚博士自体が特異なのだが…

『もしもーし、それじゃあ実験はじめるよー!』

気の抜けた様な声が無線機から流れる。

「ほいほいっ、気張りや!」

緊張感の欠片も無い二人のやりとりはしかし、機構の意地とプライドを掛けた戦いの始まりを告げる狼煙であった。

「よっしゃ!状況開始!!」

全部隊に高らかに告げる加西調査員

0027の中枢を暴き機構との長い因縁を断ち切るための戦いの火蓋が今、切って落とされた。


遣り口がえげつない割に、妙に行儀が良い…0027-ホの影響下に侵入した私はそんな感想を抱いた。

致死性有害情報と精神汚染の二段構えはずるいと思う反面、対知的生命体に特化した防衛機構として設計されている感は否めない。

なんでもありの『事案』であるにもかかわらず、その方向性が秩序だっているのが非常に不気味である。

『博士、センサーがエネルギーの過干渉で機能してません!』

がっさんの声が響く。

通信は有線を用いているお陰で確保されているようだが、残念な事に数値は取れていないようだ。

現状を伝えたい気持ちは山々だがこちらも余裕が無い。

心臓や脳が止まった先から動き出し、また止まるを繰り返している上に膨大な量のネガティブな情報が脳に無理矢理流し込まれている。

実験の続行を通信の呼び出し音を短く2回送信する事で伝える。

たった十三段だが、生身では二段目に上がる事すら叶わなかっただろうが、mk.9はシーケンシャルで歩行を行う機能が搭載されている。

わたしの状態がどうであれ、放っておけば踏破自体はしてくれるはずだ。

そう…ただ階段を登り切るだけであれば有線式のロボットでも使えば簡単に出来る。

問題はその先…何が起こるのかは判然としないが、その先に鬼門がある。

こんな事を余裕綽々といった体で言ってはいるが、実際のところ非常に調子が宜しくないのも事実だ。

ここまで五段の階段を登ったが、既に死亡相当のダメージは三桁を超えている。

数値化こそ計器が機能していない現状では出来ないものの、mk.9のセンサーはずっとけたたましく危険を告げているし、私自身実験中止の合図を送るのを辛うじて耐えている様な状況だ。

静代さんのアポートによる緊急離脱が可能という状況は私の心に甘えを生んでしまいそうになるが、どうにかぎりぎり精神力とmk.9の防衛機構によって踏みとどまっている。

身体機能に関しては一切成長が出来ない私だが、精神面では成長できているのだろう。年の功が唯一の取り柄だ。

ならば全力でそれを活かしていこうではないか!


奇妙な話だ。

加西咲希主務調査員は指揮所で各隊の戦況報告を聞きながらそう思った。

過去特定調査員を0027-ホに送り込んだ時には各構成要素の活性化はかなり激しかったのだが、今回に関しては比較的穏やかな上昇に留まっている。

パワードスーツを着用することによる遮蔽効果が故か、それとも何か別の要因が介在しているのか…

吸音材で完全にパッキングされている0027-へ『幽霊ピアノ』は問題にならないにしても、他の構成要素からの攻撃はかなり散発的なものであり、今までのように統一された指揮系統、もしくは意識のようなものは感じ取れない。

遅滞戦闘をもって対応する調査員の部隊は全作戦正面において優勢…

(せやけど…逆にそれが不気味やな…)

杞憂であればよし、だがこれが0027が未知のステップへ至る兆候でないと言い切ることも出来ないのも事実だ。

胸騒ぎとは裏腹に作戦が順調に推移していく最中、彼女の懐の携帯が震える。

「誰や……このクソ忙しいときに」

画面を見ると一文字『I』とだけ表示されていたー


ー立て

いやだ……

ー立て

いやだ!

ー立て

いやだ!!

誰かは知らないが、私の頭の中に喧しく響く声

もう……嫌なんだ。全てどうだっていい。

放っておいてくれ!

ー立て

だから嫌だってば!一体誰なんだ!

なんの権利があってそんな事を言うんだ!

私の苦しみも知らない癖に!

どれだけ反発したところで、頭の中の声が止むことは無い。

何故私の終わりを許さないのか?何故蹲っている事を許してはくれないのか?

目を閉じて心を閉じて己の内に閉じ籠もる事のなんと心地の良いことか……

はじめからこういう道を選んでいればよかったのだ。

苦しい道を自ら選んできた人生だったが、今からだって変えていける。

訪れるのか分からない本当の終わりの日までこうして過ごすことが……きっと一番正しい道なんだ。

本当にそうか?

頭に響いたのは誰かでは無く自分の声

聞き慣れたはずの声は何故か遠い記憶の欠片を思い起こすように、自分のものとは思えないほどに力強い声音で問いかける。

私は……でももう動くことすら……

ー立て

立て

私の声と誰かの声が重なる。

ここまでずっとずっと頑張ってきたのに、沢山の辛い思いをしてきたというのに……一つの労りすら無く、まだ私に立てと命じてくる二つの声

もういいよ……よく頑張ったね……

私の望む言葉はそこには無い。

もし立ち上がったらどうなるというのだろう?

きっとどうにもならない……私に出来る事などたかが知れている。

試しに目を開ける。

真っ暗な部屋、錆びた金属片、冷たいコンクリートの床……

ほら、やっぱり無残な状況じゃないか……私が0027について解き明かせたとして何が起きるというのか……

いや……待て……0027……

「そうだ!0027!!」

勢いよく身体を起こした私は周囲を見渡す。

同時に頭の中に立ち籠めていた霧が晴れるように、思考がクリアになった。

0027-ホの精神汚染……どうにか耐えきることが出来たということだろう。

頭の中に響いた声は私の精神が崩壊を避けるために齎した幻聴の類だったのだろうか?

それにしても、いい方に実験が推移したものである。

精神汚染影響は懸念していたよりもずっと小さく、こうして再び立ち上がることが出来たのだから……

それにしてもまともな意識を保てなかったのが悔やまれるところだ。

まるで数千年風雪に晒されたかの様に腐食し、もはや錆びの塊になって崩壊してしまったかのようなmk.9に一体何が起きたのかは推測するより他ないが、恐らくは0027-ハの内部に何らかの事案的特性が存在してこの結果を齎したのだろう。

0027-ホで知的生命体の侵入を防ぎ、0027-ハ内部には機械を破壊しうる機能が存在している。

やはり行儀が良すぎる。

自然発生した『事案』がここまで機能的防衛を行うものだろうか?

どの様な形であれヒト若しくはそれに準ずる何者かの存在が0027の発生に関与しているのはまず間違いは無いだろう。

部屋の中には無数の人骨と錆の塊がそこら中に転がっている。

貴重品を置いてきたのは正解だった。強い耐腐食性を持つ機構自慢の作業服まで朽ち果ててしまっているくらいなのだ。

ここにある人骨が形を保っているのはこの腐食作用が生物由来のモノに作用しないからなのか、それとも0027の発生に関わった者達の物だからかはこの部屋に入るときには意識が保てていなかったせいでよく分からない。生きたまま腐っていく感覚を味わうことが無かったのは幸いではあるが……

床に落ちている橈骨を拾い上げて眺めてみる。

確かに古いことは古いのだろうが、どの程度昔のモノなのかは私には判別できない。諏訪先生がいれば見極めてくれただろうが、現状に於いては単なる無いものねだりだ。

ふと部屋の端に落ちているものに目がいった。

重ねられた紙の束……手にとってみると古びた書類のようだが……

長い時間の中で大分劣化してしまってはいるものの、判読できる部分は多少残っているようだ。

「擲三二六六号計画……」

どう考えても学校由来では無いだろう書類だが……

初めて聞く『擲三二六六号計画』という名前の計画、それがいったい何なのか……私は書類を読み進めた。

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