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開かずの教室調査計画 2

東京都足立区舎人 環境科学研究機構 仮設研究所

現実性はマイナス不平衡…かなりの非現実性だが、事案の規模を考えれば明らかに数値が小さい。

0027の本体が0027-ホだと仮定した場合、他の構成要素の役割はなんだろうか?

『事案』の存在に整合性を求めるなどと言うのは無意味な事であるとはいえ、何かそれぞれに意味があるような気がしてしまう。

「博士…これはどういう…」

「ふふふ、格好いいでしょ?」

藤森ちゃんの右腕を新しいものに換装した。私の自信作だ。

「…せめて物を持てるやつでおねがいします」

「えー…武器腕はロマンだよ?」

「はぁ…機能美の方のロマンでおねがいします」

まあ、彼女らの任務は単純な戦闘のみではない。汎用性のある腕の方がいいか…

「じゃあこっちは?」

「だいぶゴツいですけど…まあそっちの方が…」

拳に散弾射出装置、前腕にブレードを仕込んだがっさんの作品だ。うん、明らかに腕を上げている。

「それで…何か悩んでいるみたいでしたけど?」

「うーん…悩みって言うか0027について考えてた」

神経接続の微調整をしていると藤森ちゃんが聞いてきた。本当によく見ている子だ。

「博士も仕事の事考えるんですね」

「…失礼なこと言うね」

「あはは、冗談ですよ」

軽口を叩きあっていると、がっさんがやって来た。

書類に集中してなにやらぶつぶつ言っている。

「がっさんお帰り」

「え…あ、ただいまです」

驚いた様にキョロキョロしている。たぶん集中しすぎて帰ってきた事にも気がついていなかったのだろう。流石は二十代で主任研究員になった程の天才だ。

「あ!藤森さん私の子付けてるんですね!」

「え…あぁ…これ小笠原主任の…」

「後で『ギミック』の説明しますね!」

「ギミ…はぁ…お手柔らかに…」

「それはそうと博士」

自分の作品が日の目を見たことに目を輝かせていたがっさんが私の方に向き直る。

「0027-イの計測の事なんですけど…」

「計測…いや、難しいと思うよ?」

0027-イ『トイレの花子さん』は現在『みしゃぐじ様』の影響下に置いてほぼ完全に閉じた系の中に閉じ込められている。

「外部への干渉影響を測定したら内部の数値を逆算できませんか?」

「そうは言っても…今あの辺りは滞留したマイナス不平衡エネルギーが凄いから…いや、そうか…」

「はい、外部のエネルギーなら実測できるので」

「ということは計器の再設定がいるね…よし計器弄れる人達集めて!」

こうしちゃいられない!やることはたくさんだ!

「ちょ…博士!?腕!腕ぇっ!!」

「ごめん!続きは後で!」


東京都足立区 西新井工業高等学校

「なるほど…わかっちゃいたけど干渉が凄いね…」

翌日の深夜、感度を調整した計測機器を携えて私たちは0027-イが封じ込められている三階の女子トイレの前に集まっていた。

「データ…取れてるんでしょうか?」

がっさんが不安そうに言うが、実際のところは私にもよくわからない。

「そこは片切くんに任せよう」

現場で出ている数値のみを見て計測の正否を測れるほど、『みしゃぐじ様』内部から及ぼされる干渉影響は大きくない。

今回はあくまで取れるだけのデータを取って、後は片切くんの解析に任せることになる。

「うわぁ…御愁傷様です」

「い…いえ…久々、に…その…マシンに触れる…ので…」

「申し訳ないんだけどなる早でお願いね」

「は…はい」

解析に関してはこの場所ではどうしようもないので、片切くんは一先ず今夜のデータを持って甲信研に戻ってもらうことになる。

それに関しては一切心配していない。彼は優秀な情報管理員だ。

「…それはそうとなんで藤森ちゃんがここにいるの?」

彼女には内勤を命じてあるはずなのだが

「あ、博士!電源容量足りなくないですか?」

「…なし崩しとか通用しないからね?」

「くっ…」

とりあえず藤森ちゃん一人で帰らせるのは危険なので今日は仕方ないにしても、次からはしっかり見張っておかなくては…!


東京都足立区舎人 環境科学研究機構仮設研究所

「ふむ…精神エネルギー…」

「奇妙と言えば奇妙ですね」

「力に一貫性がありませんね…」

手の空いていた物部博士、茅野博士、伊達博士に片切くんから送られてきた解析結果を見せると、三人とも首をひねっていた。

0027全体に共通するエネルギーは現実性マイナス不平衡であるのに対して、0027-イは微量のマイナス不平衡と強力な精神エネルギーを有している。おまけに0027-ト『動く二宮金次郎』に至っては現実性プラス不平衡だ。

超常と一括りにされるが、この三つのエネルギーはそもそもの有り様がまったく違う。

その三つのエネルギーを同時に有しているという意味のわからない状態なのだから然もありなんというところである。

簡単に例えると送電線を電気、放射線、水が同時に流れているくらいの訳のわからなさだ。

「『事案』だからと言えばそれまでではありますが…なかなかに困った結果ですね」

私も一緒になって首を捻る。

「これが0027でなければ嬉しかったのですけど…」

「私としてはどんな事案でも嫌だよ、こんなの…」

流石に好奇心モンスターの茅野博士でも楽しみよりも困惑が勝っているようだ。

「…いや、でも…うーん…試せるなら…いや、でも今回は…」

「どうしたの?」

がっさんがさっきから何やらぶつぶつと言っている。

「その線で考えれば…でも何故…?」

うん、集中仕切ってしまっている。

「おーい、がっさーん?」

「え…?あれ?あ、博士」

「なんか考えがあるなら聞かせて?」

なにしろ今回私たちを悩ませるデータの収集方法を考案したのもがっさんだ。普段から優秀な子だが、集中しているときの彼女は中々にとんでもない。

「…その…0027-イって似てると思いませんか?」

「似てる?」

「はい…その…静代さんに」

「わ…私ですか?!」


現実性マイナス不平衡と精神エネルギーの同居

人類に対する強い攻撃性

人型の実体

正体不明の攻撃手段…

それらが、今の静代さんではなく『呪いのビデオ』と呼ばれていた頃の静代さんと共通している。

今では単に強力なPSI能力者というだけの静代さんだが、当時はそれだけでは説明の出来ないような事案的特性を発揮していた。


がっさんの推測は成る程利にかなっている様にも思われる。

「とはいってもあくまで推理でしかないですけど…」

がっさんはそういうものの、はっきりとはしないが何かしらの共通の物があるのは事実だろう。

「静代さん『呪いのビデオ』だった頃の記憶って無いんだよね?」

「はい…『さいこめとり』とかも試してみたんですけど…」

大正時代から私達に出会うまでの期間の記憶『呪いのビデオ』として世間を騒がせていた頃の記憶がすっぽりと抜け落ちている。

彼女がいつどうやって事案的特性を手にいれたのか…

どうして大正四年から昭和後期までの期間では『事案』として活性化することが無かったのか?

そして静代さんが生きていた時代には存在しなかったVHSビデオテープを中間宿主とする事案として活性化するに至ったのか…?

そこを加味して考えれば、もしかすると0027-イは…

「…これはどうにかして0027-ハの内部を調査しなちゃダメかもしれないね」


「…はい…はい…おねがいします。よろしく」

電話を切る。

これでこちらの方はまあ大丈夫だろう。

とはいえ無駄足になる可能性も大きいのも事実だが、得られる情報があるのならばそれがどんなに小さな情報でも欲しいというのが本音である。

「博士!私もいいこと考えました!」

電話を切った直後に静代さんが言ってくる。

うむ、元気があってよろしい!

「ほい、どったの?」

「『花子さん』って私とおなじなんですよね?博士が死なないってわかったら私みたいに仲間になるんじゃないでしょうか!」

「あー…だったら楽なんだけどねぇ…」

事案としての脅威度は双方強烈だが、静代さんは大分ちょろかった。0027-イもそうだったらこちらとしても気が楽なのだが…

「…失礼じゃありません?」

「いや、良い意味だよ?」

ただ、アプローチとしては悪くは無いだろう。

現在支部の面々と『用務員』の別働隊が過去のPSIに関するデータを洗い直して0027-イ実体の同定を図ってくれている。

これが当たってさえくれれば、後は静代さんを主力としたこちらの持てる最大の打撃力を投射しての無力化という最もシンプルな作戦を行うことが出来る。

何しろ0027-イの精神エネルギー自体は1500Tpi/㎡ととんでもない数値だと推測されるものの、静代さんから見れば圧倒的に格下だ。

しかし同時に仮に0027-イ実体が過去のPSIと同定されたとしても、シンプルな打撃力による無力化作戦に臨むのは時期尚早であるのでは無いかという疑念もある。

そもそも0027自体を0027-イの宿主たる事案だと静代さんの件に準えた考え方をしたとして、現在も他の構成要素が活性状態にある理由は何なのかという部分が不明瞭だし、何より0027-ハに何らかの中枢があるのは0027に対して行ってきた数々の実験に対する防衛反応からも明らかだ。

それ故にまずは0027-ハに対する調査が必要なのだが、それに関してもまったく芳しい結果は得られていないと来ている。

0027-ハの調査の為に今まで送り込んだ特定調査員は0027-ホを越えることすら出来ずに全滅している。

現実性マイナス不平衡エネルギーの源泉が0027-ハであるために正確なデータを得ることは出来なかったが、過去に0027と対峙したときよりも精神汚染影響が増しているのかも知れない。

「…博士、もし行き詰まったんなら私が『花子さん』と戦ってみますよ?」

私の脳内のダダ漏れ思考を読み取った静代さんが言う。

とりあえず一当てというのは戦闘に於いては常套手段だろうし、効果的だ。

しかし…

「いや、やめとこう。静代さんが負けるなんて思えないけど、向こうにどんな隠し球があるか分からない以上リスクを冒してまで試すようなことじゃ無いよ」

静代さんは死者であることははっきりとしているが、不死であるかどうかは…正確に表現するなら不滅であるかどうかははっきりとしていない。

田島くんの死で臆病になっているのかと問われれば、私にそれを否定する事は出来ないだろう。

ただそれは同時に『調査』である現状においてこちらの最高戦力である静代さんの損耗はなんとしてでも避けたいという合理的な判断の上にあるということも自信を持って断言できる。

なにしろ相手はZAコード案件、我々が管理収容状態に置くことを諦めた『事案』だ。

完全かつ不可逆的な無力化…それが私達唯一の勝利条件である以上、最終的に生起することが予測される総力戦に向けて隊力は温存しなければならない。

「…不透明だけど、試してみるしかないかなぁ…」

そのためには目減りのしない使い勝手の良いサンプルが必要だ。

そしてそれは常に私の手元に置いてあるのだから…


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