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対花子さん緊急初動封じ込め作戦 3

「田島一等!!」

0027-イに肉薄した田島調査員の左腕が吹き飛ぶ。

XXXの強固な装甲も幾重にも張り巡らされた防衛用の各種フォースフィールドも、そのすべてを引き裂いた0027-イの一撃

体勢のぐらついた田島調査員の事をいたぶるかのように、0027-イは彼の両足を切断した。

「貴様ぁっ!」

「待て、藤森!!」

仲間からの制止も聞かず、藤森調査員は射撃位置から0027-イの方へ飛び込んでいく。

田島調査員に注意が向いていたからか、それともそもそも彼ら一人一人など意にも介していないからなのかは分からないが、とにかく彼女は座標固定杭の射程にまで肉薄する事に成功した。

装弾数は一発、だが格闘の感覚で使用できる武装である。外す等あり得ない。

予備動作は極限まで小さく、最短距離を最高速で突き出される日本拳法の突き、そのインパクトの瞬間に座標固定杭は射出される。

はずだった。

「え…?」

本来であれば0027-イに真っ直ぐ向かっている筈の彼女の腕はそこに無かった。

届かなかった…無駄だった…

彼女の胸に去来したのは己への失望…

「班長…ごめんなさい…」

頬を伝う涙の感触を感じた彼女は静かにその目を閉じた。

「いや!お前はよくやった!」

野太い声が彼女の耳に届き同時にガス圧と装薬によって杭が射出される音が大きく響いた。

「田島…一等…」

0027-イの足元で、唯一残った右腕を0027-イへと指向する田島調査員

たった一本の腕で這い寄り、たった一本の腕で決定打を打ち込んだのだ。

「て…退を…」

田島調査員の体を引き摺って撤退しようとした彼女は、しかし力尽きてその場に倒れた。

薄れ行く意識の中で、彼女は確かな勝利への手応えに一人、満足そうに笑っていた。


こちらに姿を見せた0027-イの姿を見れば、田島くん達が頑張ってくれたのは一目で分かる。

腹部に突き刺さった多元座標固定杭は未だ機能を維持しているようだ。

よっし、今夜は私の奢りで祝勝会だ。

手元の平衡計はマイナスではあるものの、それでも本来の数値よりかなり小さい値だ。

「遊ぼう…遊ぼうよ…」

底冷えするような残虐性を表出させるような瞳とは対照的に、見た目も声音もまるで普通の少女だ。

それでも、その正体は分かっている。

そして何をすべきかも…

「■■■■■■、■■■■■■■■■、■■ー」

体が壁に叩きつけられる。

いや、違うな…私の下半身が見えるから多分上半身だけが切り離されてしまった様だ。

こちらの意図を察したのか…?いやそういう感じでは無いか

「■■■、■■■■…っ…■■■…■■」

遅れてきた痛みに耐えて祝詞を続ける。

さあ、一旦さよならだ。

「■■■■■■■!!」

『みしゃぐじ様』が起動を始める。

結界の効果範囲はこの女子トイレだ。

「静代さん!大嶋君!」

即座に反応した静代さんが結界が展開される前に私をトイレから引きずり出し、同時に大嶋君が真田博士の傑作多元座標固定弾を撃ち込んでいく。

『みしゃぐじ様』効果領域は内部の変化量を一定以下に留める閉じた系を作り出す。

それはまず出入りしようとする意思を失わしめ、同時に内部の変化阻害は損傷の修復すら抑制する。

強力な事案である0027-イを永続的に閉じ込めることは叶わないまでも、暫くはこの場から動くことは出来ないだろう。

勝った…緒戦とはいえ、私達は0027-イに勝ったのだ。

今回の殊勲は田島くん達調査員部隊の皆だ。

ふふふ、次のボーナス期待しているがいい!


東京都足立区舎人 仮設研究所

「博士…コーヒーどうぞ」

「ありがとう」

「その…大丈夫ですか?」

静代さんがそんなことを聞いてきたのは対花子さん緊急初動封じ込め作戦が成功裏に終わった翌日の事だった。

「大丈夫だよ?元気元気!」

何しろ作戦は成功…いや、数字的に見れば大成功と言っても過言ではない。

特定調査員の消費は二人に抑え、XXXも全損1、半壊4だけだし、人員も軽傷2名重症が2名そして…死者が1名…

対峙していた相手を思えばこれだけの被害で済んだのは奇跡だ。

本来なら誘引任務を行った全員を失ったとしても不思議では無かった。

重傷の二人、藤森ちゃんと川島くんも命には別状がないし、川島くんに関しては数ヵ月で現場復帰も可能だろう。

右腕を失った藤森ちゃんは退役ということになるかもしれないが、機構には調査員以外の業務もある。彼女が望むのなら残って働くことも出来るだろう。

殉職した田島くんは…最期まで、任務を遂行してくれた。

「ごめん…やっぱりだいじょばないかも…」

「そうでしょうね」

「田島くん、うちの調査員の中では二番目に古株なんだよ?」

「はい」

「奥さんも機構の人でね、長野支部で働いているの…子供も二人いてね、田島くんより奥さん似の美人さんとイケメンなんだ」

「はい、由紀ちゃんと潤くんですよね」

「そっか、静代さんも会ったことあるもんね」

「去年の夏のバーベキュー大会で」

「楽しかったね…」

「はい…」

部下を喪ったのは初めてじゃない。

それこそ幕府にいたときから一緒に働いてきた多くの人々の死を目にして来た。

そう、例え奪われなくても、人はいつかは死ぬ。

当たり前の事だ。

それでも悔やまずにはいられない。

何か出来ることがあったのではないか?

彼らの身を守ることが出来たのではないかと…

頭の中ではどうにかして彼の死を無かったことには出来ないものかと、許されない考えがぐるぐると廻っている。

仮にこの場に『十種神宝とくさのかんたから』があれば、私は今までの信条を捨ててすぐに使ったことだろう。

黄泉へと下り、連れ帰る事が出来るのであればすぐにでも島根に向かっただろう。

『イワナガヒメ計画』に目処が立っていたのならば、五木理事に頭を下げて私の身体を検体としてすぐにでも差し出しただろう。

しかし、それらの可能性は全てが単なる夢想だ。

律令以前に散逸した『十種神宝』などもはや伝説上の代物だし、黄泉比良坂は人の身で通過できるような代物ではない。『イワナガヒメ計画』なんて民間企業に先を越される程度の知見しか得られていない。

取り返しのつかない喪失は、そのまま私の心にぽっかりと大きな穴を残している。

「ごめん…ごめん…田島くん…」

私の体が極端に恒常性を維持する特性を有していなければ、慣れることもできたのだろうか?

涙も、枯れてくれたのだろうか…


東京都立川市 環境科学研究機構 中央医療センター

「あ、博士…」

「いいよ、そのままで」

手術を終えた藤森ちゃんの意識が戻ったというので、私は現場を他の博士達に預けて立川の中央医療センターにお見舞いに来ていた。

「調子は…良さそうだね?」

「はい、お陰さまで!いつでも現場に戻れますよ!」

「あはは、無理しないでいいって、たまにはゆっくりゴロゴロ過ごしなよ?戻ってくるのは入院に飽きてからで大丈夫だからさ」

「…そう、ですよね」

二人揃って空元気だ。

それは多分お互いに分かっている。

「その…田島一等の事…聞きました」

「うん…」

「そのお陰で作戦が成功したって言うのも」

「うん…二人が0027-イに固定弾を撃ち込んでくれたから、ちゃんと封じ込められた。本当にありがとうね?」

「いえ…それに、もう私が現場に戻れないって事も…」

藤森ちゃんが先の無くなった右肩をぎゅっとつかむ。

四肢の欠損は調査員としては致命的だ。内規に照らしても現場復帰は出来ないことになっている。

「…うん…ごめん…」

「博士が謝ることじゃ無いですよ…」

「でも…」

「まあでも、機構の事だからこれで退役してもしっかり面倒見てくれそうですしね…まあのんびりスローライフでもしますよ」

「…うん」

「海の見えるところに住んで…あっ犬とか飼うのもいいですね!」

「藤森ちゃん…」

「久々にピアノ…はちょっと無理そうですけど、なんかよさそうな趣味を見つけて…バーベキュー…とか…」

「…」

「家庭、菜園とか…やって…おしゃれな…カフェ、に…行ったり…」

命を拾えた。それだけでも幸運ではあるんだろう。

それでもまだ20代の女の子だ。いくらそこらの兵士など及びもつかないほど心身ともに鍛え上げられているとはいっても、その目的を失った上に右腕を失うというのは幾らなんでもきついだろう。

「藤森ちゃん…」

「博士…私…辞めたくない…」

田島くんは私にはもうどうすることも出来ない。それでも、藤森ちゃんはまだ生きている。それならば、私に出来ることはまだ何かあるはずだ。

声を殺して泣く藤森ちゃんを抱き締めながら、私はひとつの決意を固めた。

「藤森ちゃん!やっぱ退役は無しで!」

「え…?」

「暫くは医者の言う通りにリハビリしてて!またすぐに来るから!」

「は…はぁ…え?もう帰るんですか?!」

「うん、ごめん!じゃあ急ぐから!またね!」

沈んでいた空気からの私の態度の急変に藤森ちゃんは目を白黒させているが、今はそれどころではない。

善は急げ、超特急だ!


足立区舎人 環境科学研究機構仮設研究所

「博士お帰りなさい、他の博士達から報告書が届いてますよ」

「ただいまがっさん、デスクに置いといて!それと残業できる?諏訪先生も」

「はい、構いませんよ?」

「私もです!…でも珍しいですね」

「ちょっと急ぎで進めたい研究があるから」

勿論私生活を削っての残業なんてくそ喰らえだと言う考えは私の中で変わらない。

それでもどうしてもこの二人の力が必要なのだ。

「藤森のところで何かありましたか?あ、飲みます?」

「ありがとう、いただくね」

筋トレをしていたのか首にタオルをかけた大嶋君が缶のポカリをくれた。

「うん、なんだろう…私達の原点を見たってとこかな?」

「…?よくわからないですけど、私たちも手伝いますよ?」

静代さんと大嶋君…だけではなく研究室の皆が手伝ってくれる。ありがたいが…

「わりとえぐいスケジュールになるけど平気?」

毎日0027の調査を終えてからの研究開発だ。残業はつくようにするからお金は出るとはいえ、普通に過労死ラインは越えそうである。

「まあ、大丈夫でしょう。皆さんの健康状態は私がしっかりと診ておきますから」

「それに私達がやらなかったら一人で無理して進めるじゃないですか」

「あー…博士ならやりかねませんね」

「まあ、任せてください」

皆の言葉に目頭が熱くなる。おまけに鼻がつーんとしてきた。

ヤバイな、放っておくと泣くな、これは…

「よしっ、じゃあ進めようか!皆宜しく!」

本当にいい子達だ。

皆の思いを背負ってのプロジェクト…これは絶対に成功させなくては!


東京都立西新井工業高等学校

「それでそんなに眠そうなんですか?」

鞠地博士と共に深夜の西新井工業高校内を調査していたらそんなことを聞かれた。顔に出ていたか…

「まあ、そうですね…」

「無理はしないでくださいよ?倒れたりしたら…いや、その心配はありませんでしたね」

「あはは…」

私達が今調べているのは0027全体の中枢だ。

各構成要素がただ一緒に行動しているだけの事案にしてはあまりにもそれぞれの繋がりが深いがために、何かしらの形で全てがリンクしているものだと言うのが0027への私達の認識である。

構成要素の一つが中枢になっているのか、それとも何かしらのエネルギーかなにかで繋がっているのかは分からないが、それぞれの繋がりを断つ事ができれば損傷の回復を阻害できるのではないかと言うのが、現状の私達の予想である。

それが当たっていれば、構成要素の各個撃破によって0027の総戦力を削る事が出来るだろう。

それに中枢が存在するのであれば、事はもっと単純だ。

中枢を破壊してしまえば0027全体の構成要素を孤立化させることが出来るだろう。そうなれば、これまた各個撃破していくだけだ。

この方針の下調査をはじめてから今日で一週間である。

「0027-イが中枢でなかったのはありがたかったですね」

「ううむ…複雑ですがね…あわよくば他の構成要素の活性化の進行が止まってやくれないかと期待していましたので」

「そう上手くはいかないでしょう」

鞠地博士の言う通り、0027-イを封じ込めて以降他の構成要素の活性化の進行速度が微かに上がった。

恐らく0027-イに降り向けられていた分のエネルギーが他の構成要素に向かったと言うことだろう。

何しろ『みしゃぐじ様』は内外からの出入りを阻害する。それは超常のエネルギーであっても例外ではない。

「鞠地博士!これを…」

計測機器を注視していた鞠地博士の部下がディスプレイを示す

「…なるほど、間違いなさそうですね、千人塚博士…」

「ええ…」

強力とは言えないが、一定方向から一定量の現実性不平衡を伴うエネルギーの流れ…中枢、ようやく発見できた様だ…


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― 新着の感想 ―
[良い点] 科学の力と超常の遺物、人類が使える全てのリソースを武器として怪異の存在とバトルを繰り広げられるのは、この作品の世界観があってこその見せ場だと思います。 『みしゃぐじ様』とかゾクゾクしますね…
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