scene2
転校してから数日、私は普通に帰ろうとしていた。周りの皆は、部活などがあるようだが私は入るつもりはなく、いつも通り帰ろうと廊下を歩いていた。
「…おや、美しいお嬢さんだね」
目の前にいきなり人が立ち、そんなことを言う。……いや、誰?驚いて顔をあげると、そこには高い鼻、上品な目元、シルバーに輝く髪には紫のメッシュが入っており、白学ランを着ている。そんなイケメンがいた。(因みにうちの学園の制服はブレザーだ)
「こんな美しい人を私が知らないなんて、私もまだまだだね」
その人は大仰に立ち振る舞いながら言う。え、美しい人って…私のこと?
「あの…どなたですか?」
「おっと失礼。私の名前は空峰こまり。三年生さ。君の名前を聞いてもいいかい?」
「……綾崎リアラ、です」
「美しい名前だね‼︎ねぇ、君。私とともに宝塚部に入らないかい?」
「…え?なんですって?」
「だから、私と宝塚部に入ろう‼︎」
あ、やばい人かもしれない。
「すみません‼︎私用事あるんで失礼しまーす‼︎‼︎」
私はそう言ってその場を去った。
次の日の放課後、私はアンズ君と紅葉君と喋っていた。
「——ということが昨日あったんだけど、宝塚部って本当にあるの?」
「あるよ」
アンズ君が答える。え、あるんだ。
「空峰先輩に会ったんだ〜」
紅葉君が言う。
「知ってるの?」
「知らない人はいないよ〜‼︎男装イケメン、って学園中で有名なんだ」
「男装…やっぱり女の人、なんだよね?」
「あぁ、そうらしい」
…男装してるなんて、変わった人。ていうかそれを許してる学園もすごいと思うけどね。
「んで、宝塚部入るのか?」
アンズ君が私に尋ねる。
「え?いや、そんなつもりはないけど…」
「綾崎‼︎今から先生と職員室行くぞ〜」
いきなり先生に呼ばれる。え?…怖い。私は、何かやらかしたかなとこの数日間の記憶を巡らせた。すると
「あ、立華と神城もおいでおいで〜」
「失礼します…」
「失礼します」
「失礼します」
私たちは職員室に入る。
先生はこの前いたところと同じ机に座った。この前より少し散らかっている。先生のすぐそばまで行くと、先生が口を開いた。
「綾崎、学校生活にはもう慣れた?」
「あ…はい。昔の知り合いとかもいて、なんとか……」
私はアンズ君を見上げながらいう。
「それは良かったね〜」
なんか…漂うおじいちゃん感。縁側でお茶でも飲んでそうだなこの人。
「で、綾崎はどっか部活入ろうとか考えてる?」
「え、いや特に考えてませんけど…」
「そっか‼︎」
先生は咳払いをし、改めて言った。
「さて…。三人とも、映画研究部に入らないか?」
「え…」
私が驚いていると、隣でため息が聞こえる。
「先生〜それ何回目?オレ入らないって言ったじゃないすか。映画あんま興味ないし」
「ボクも」
アンズ君と神城君が即座に断る。…そんな何回も誘われてるんだ?
「う…。そこをなんとか……」
「な…なんで映画研究部なんですか?」
私がついつい尋ねる。どっかの部活に絶対入らないといけないとかあるのかな…?
「実は先生もここの生徒だったんだが、その時に所属していた映研が遂に潰れそうでねぇ…。僕のクラスで部活に入ってないのはお前らだけなんだよ〜」
「で、オレらは前からずっと勧誘され続けてるってわけ」
あ、そういことか。私は少し考えて言った。
「……私入ってもいいですよ」
「「え」」
先生とアンズ君の声がかぶる。込められている感情はかなり違うみたいだが。
「映画はそこそこ好きですし、部活も楽しそうだと思いまして」
「おぉぉ‼︎ありがとう‼︎ありがとう‼︎」
先生が奇妙な動きをしている。おじいちゃんぽさに宇宙人らしさがプラスされる。なんだこの人…。
「オ…オレも入る」
アンズ君が呟いた。先生がキョトンとしている。
「え?興味なかったんじゃないの?」
「興味…出ました」
そっぽ向いてるアンズ君の顔はよく見えない。でも私の顔は輝いていることだろう。知り合いが入ってくれるのは素直に嬉しい。
「そうか‼︎そうか‼︎よし、神城も入ろう」
「いやその流れ意味わかんないですよ」
神城君が即座に返す。
「映研に入るともれなくお菓子が付いてくるぞ」
「…」
「美味しいぞ〜?お前お菓子好きだろ〜?」
「……じゃぁお試しで数ヶ月だけ」
「おぉ‼︎おおぉぉ‼︎」
先生の顔がキラキラ輝く。神城君はお菓子が好きなんだ。クールなイメージが少し変わった。彼は私の思ってるような人ではないのかもしれない。
「これで部ができる‼︎三人とも本当にありがとう‼︎場所はここね、活動日は自由だよ‼︎先生が鍵持ってるから、取りに来て‼︎…まぁあまり活動することもないと思うけどね。あっはっは。お喋りでも楽しんで‼︎先生も遊びに行くから‼︎‼︎」
…先生のテンションが高すぎてついていけない。まぁ要はお喋りすればいいということか。アンズ君と神城君、この二人とのこれからの部活。一体どうなることやら。
こちらはpixivで連載していたものです。
転校したての学校、職員室に呼び出されたリアラたちは…?