第6話 母と軍曹と先生
法起坊様の屋敷、通称「空の御所」を退出した後、また前鬼さんに体を浮かせてもらい、ゆっくりと天狗の里へ降りていった。
おー!やっぱり四季を体現した4つの山があった。夏は青々と茂る森林の山。春は…思ってたのとは違うけど、すごい。頂上に大きな美しい桜の木があり、その周囲から麓までずーっと花が咲き誇っている。
天狗の里は四季の山に囲まれたところにあるようだ。隠れ里感があっていい!茅葺き屋根の家や木造、竪穴住居や藁で出来たテントっぽいのと、色々あるな。水田とか畑があるし、自給自足してそーだ。なんか下側が切られた横倒しのでっかい丸太があるが、あれ何?
よし、到着!
「うし、それじゃあ俺の家に行くぞ。」
((はい!))
どんなとこだろーか?楽しみだ。
里の風景をキョロキョロ眺める間もなく、立ち止まった。でっかい丸太の前で。ん?扉があるな。まさか、これか?
「ここが俺の家だ。」
(へー、珍しい形の家ですね。)
「あぁ、基本的にこの里の家は、住人が自分で造ったものばっかでな。それぞれの個性が出る。」
(え、それじゃあ俺たちの家も!?)
「心配すんな、いずれ造ることになるだろーが、暫くは俺ン家で暮らしてもらう。おーい、玄!」
ほ、良かったー。
「はーい、お帰りなさい。あら、この子は?」
おいおい、マジか!?すんごい美人がいる、2メートルくらいの。青い肌に右の額に角を生やし、とてもスタイルの良い体つきに、魅了されそうな朱の瞳。これが、前鬼さんの妻と言われる後鬼だと!?これぞまさに、美女と野――
「何か言ったか?」
(ひぃぃ、いえ、何も!)
「ならいい。これが俺の家内、後鬼、義玄だ。コイツらは新入りでな、俺が指導することになった。世話をかける。」
やっぱり奥さんなのかー。それに後鬼!?まじか~。
「あら、こっちにも可愛らしい子が。共生かしら、珍しい。分かりました。はじめまして、後鬼です。好きに呼んでちょうだい。あなたたちは?」
(は、はい!怪樫の妖樹で、名前はありません。こっちは息子の天狗茸の天といいます。よろしくお願いします!)
「あらそうなの?それじゃあ不便ねー。そうだ!せっかくうちで預かるのだし、名前を付けてあげましょうか?」
(え、いいんですか!?)
つまり、名付け親になってくれるってことか!こんな美人が母親かー、アリよりのアリとゆーか、アリアリのアリ。
「まぁ呼びにくいしな。頼むわ。」
「はいはい、何が良いかしら。うーんそうねぇ、割りと安直だけど、明石なんてどうかしら?」
(明石、うん、しっくりくる。ありがとうございます、お母さん!)
「ああ?お母さんだぁ?」
(名付け親なんで!)
「あらあら、良いわね、お母さん。これからよろしくね、明石とソラくん。」
(はい!よろしくお願いします!)
(よろしく、おばあちゃん!)
「はぁ、まぁいいか。飯にするぞ、上がれ。」
((はい!))
「今日は歓迎会ね!」
こうして俺に、この世界での母親と師匠、帰る家が出来た。
「なんつう食い方だよ、おい。」
(木なんで、根から栄養補給するしかないんですよ。この口は飾りみたいなもんです。美味しいです、お母さん!)
「良かったわ、フフフ。」
「はぁ、そうかい。」
とても楽しい歓迎会だった。誰かと食事ってのは良いもんだなー。今まで天は食事せずに共生の俺から栄養補給してたから、久しぶりだわ。
この日はぐっすり眠れた。
「おい起きろ!修行始めるぞ!」
(んー?おはようございまぁす、ふぁ。)
「さっさと外に出ろ。」
のそのそと外に出る。天はまだおねんねしてる。
「キリキリ動け!この独活が!」
(さ、サー、イエッサー!)
なんと、前鬼さんは軍曹だったか。これはまずいな。…はぁ、郷に入っては郷に従えって言うし、せっかく鍛えてくれるんだ、我慢だ我慢。
「先ずは午前中いっぱい、ご近所さんの手伝いだ!水汲みと畑仕事、掃除など、言われたことを全てこなせ!」
なんか思ってたんと違う!
「返事!」
(サー、イエッサー!)
近くの家を訪ね、挨拶をして、何か仕事をもらい、全力でこなす。
あーしんど。水汲みに薪割り、畑を耕し、朝風呂の湯沸かしなど、途中目覚めた天に応援してもらいながら、合計7軒のお宅を回り仕事をして、顔を覚えてもらった。中には、犬と遊ぶってのがあって、追いかけっこをしたんだが、全然追いつけんかった。伸縮使っても全く捕まえられんかったとか。この里での俺の立ち位置は畜生以下だって思い知らされたね、畜生!
「よく頑張った。これから暫く午前中はこれをこなすように。」
(さー、イエッサー!)
これから毎日かー…。
「では家に帰る。午後からは勉強だ。この世界のことをよく学べ。」
おお!やっと常識を知れるのか、ありがたい。知は力なりって誰かも言ってた。
一服(地に根を張り、栄養補給)して、家の中へ。
居間に着くとそこには、白く体の細長い狐?を首に巻き、烏の顔に人の体躯をした、俗に言う、烏天狗がいた。
(えー、どちら様でしょうか?)
「某は八大天狗が一人、飯綱使いの飯綱三郎と申す者。この度、明石殿、天殿の教育を担当することになり申した故、こちらに参った次第。」
(そうでしたか、これからよろしくお願いします、飯綱先生!)
(よろしくおねがいします、せんせい!)




