あやかし転生~生まれ変わったら木になったけど、どっしりと地に足つけて生きていこう~ 5
この前話してた謎の台形あっただろ?あれの正体分かったよ。何度も目を擦ったんだけど、変わらなかった。あれは、和風の屋敷だ。相当広い範囲を囲う塀や、屋敷の裏っ側が見える。裏側ってどーゆうことかというと、つまり、地面が無いんだ。門があって、飛び石があって、玄関屋敷を挟んで池と盆栽が下から見える。どーゆうことなの?で、3つくらい建物があるんだけど、1つ、他のと繋がってない。オー、ファンタスティック。
驚きと感動と疑問の中、ようやく森を抜けて、そのずーっと下の方も見えるようになった。
そこには山が2つある。それも普通じゃない。1つは、朱、黄、茶緑といった秋の紅葉が美しい山、その左後ろには雪で真っ白に輝く冬の山が見える。なんだろう、葉っぱの代わりに雪が生い茂っているように見える…気のせいか?これはもしかしなくてもこの近い範囲に四季が集まってるんだろうか?なら向こう側は緑生い茂る夏の山に、春の桜などが咲く山がありそうだ。
この不思議な光景に惹き付けられて近寄っていくと、
――ズズーン
目の前になんかが降ってきた。
砂煙が止むとそこには…
「テメェら、何者だ?」
――鬼がいた。
野性味溢れる顔は朱い肌で、左の額に生えた角がはえている。身長はそれほど高くないが、相撲かラグビーでもやってそうな恵体なので迫力がある。服装は、頭襟を額に付け、和装から両腕を抜いていて、素肌に結袈裟。和装の帯は何故か綱で、下駄を履いている。
見た目のことを色々言ったが、何よりもその覇気。蒼い眼から放たれる眼光に、堂々とした立ち居振舞い。生物としての格の違いを感じる。これは死んだ。
「おい、答えろ。テメェらは誰で、ここがどこか分かってて来たのか?」
(い、いえ、俺、私たちは、ただの動く木とキノコでして、旅の途中に偶然と、通りかかり、この素晴らしい景色に心奪われ、やって来た次第でございますです!あれ?と、とにかく怪しい者では!)
「やはり念話を使えるか…まぁ形式的なのはこんなもんでいいだろう。主がお呼びだ。ついてこい。」
「え?は、はい。」
突然の展開についていけてないが、不興を買いたくないので、大人しくついていく。
(ぱ、パパ、ぼくたち、どうなっちゃうの?)
(だ、大丈夫だ。お父さんが命に代えても守ってやるからな。)
(イヤだ!パパがいなくなるくらいならいっしょにぼくもしぬ!)
(そ、天…。)
「別に取って喰ったりしねェよ。」
鬼が苦笑混じりに言う。案外いい人なんだろうか?
「あ、あの、あなたはどちら様でしょうか?ちなみに、私は名前が無く、こちらは天といいます、ハイ。」
「俺か?俺は八大天狗が一人、大峰山前鬼坊だ。まぁ前鬼とでも呼んでくれ。」
(ぜ、前鬼!?某祈祷師の王のヒロインの!?)
「あん?オメェ、よく知ってんな?」
ハッ、しまった!
「オメェ、見たところかなり若ェし…アレか、転生者か。」
(え?な、なんでそれを!?)
「稀にいるんだよ。そーゆうヤツがな。」
そ、そうなのか。つい口を滑らしちゃったけど、結果オーライだったな。そうか、他にもいるのか。
(パパ、てんせーしゃって?)
(あ、後でな、天。)
「今から上行くぞ。」
((は?)何を…)
――フワッ
((と、飛んだーー!?))
前鬼さんがどこからか取り出した羽団扇で俺たちを扇いだ瞬間、なんと、浮き上がってしまった!そのまま上の屋敷へ。俺はパニック、天ははしゃいでる。そーか、生まれて初めての高い高いだもんな(遠い目)。
そして俺たちは、空中に佇む不思議な屋敷へと辿り着いた。ほへー、まぢパネェ。下からじゃ分からなかったけど、結構大きい。塀の高さは大体7メートル、俺はたぶん5メートルぐらいだから、かなり高い。壁は白塗りで、瓦屋根がずーっと続いてる。で、門の左右には、「石」の一文字を鎖で囲む謎の紋が。見たことない。
門が独りでに開く。すげー、異世界も時代は自動化かー。
うお、すげー!サイズ感おかしいけど、時代劇で見る木造建築の屋敷だ!死ぬ前にこういうのハマりかけてたんだよな。いいねいいね、それじゃあ前鬼さんについて――
空気が、変わる。な、なんだ、これは。この、不思議な何かを感じる。門の内と外で世界が変わったみたいな、そんな感じだ。でも全然嫌な感じじゃない。この先に存在する前鬼さんの主って一体…?
「おい、さっさとついてこい。」
(あ、すみません!)
前鬼さんの後を追う。
あれ?そーいえば俺、門くぐる時、一歩踏み出してないか?ここ空中だよな?あれ?飛び石も間隔まあまあ広めだし、飛び石以外も歩いたよーな…よし!秘技・思考停止!うん、空中は歩けるんだ、これ常識。わぁー、うぐいす張りの床だー、たのしー。
「小角様、二名を連れて来ました。」
「入りなさい。」
「は!」
襖を開けるとそこには、とても品の良い、というか洗練された佇まいの翁が座っていた。…でかくね?座ってるのに前鬼さんの身長と変わらん。立ったらこれ3メートルくらいになるぞ?
「おい、主の御前だ、さっさと入れ!」
(は、はい!)
「それではご挨拶を。はじめまして、お二方。私は石鎚山法起坊、生前の名を役小角と申します。」
「は、はぁ、これはご丁寧に。私は妖樹の怪樫で名はありません。こっちは天狗茸の天といいます。」
「お二方の姿は暫く拝見していました。ようこそ、天狗の里へ。」
(は?見て…?)
「此方のお方はこの妖魔国の主であり、修験道の開祖にして、修験道を極みに至らんとするお方。広範囲の状況を把握するなど訳もないことだ。」
(へ、開祖?主って王様!?は、ははー!)
「そのように畏まらずともよろしい。お飾りの存在です。政には興味がないのでね。」
(は、はぁ。そ、それにしてもそんな人がどうして俺たちに?)
「実はお二方には、験力、つまり修験道の素質があるのです。」
(え、えー!そんな、俺たちにそんな才能が!?)
これはまさか、俺Tueee展開が!?
「あぁ、勘違いなさらず、験力を持つ者はとても希少という訳ではありません。」
(あ、あぁ、そうですよね、はい。)
さよなら俺の俺Tueee。
「ただ、験力を持ち、天狗の里に辿り着く者というのは、かなり珍しい。そこで、お二方には修験者にならないか、というお誘いをすることにしたのです。」
(えっと…。)
「勿論、強制ではありません。ただ、この世界は決して安全ではない。生きてゆく術を身に付けるのは決して損ではないでしょう。」
これは、いわゆる修行イベントか。いいね、異世界モノっぽい展開です。悪い人じゃなさそうだし、自分で鍛えるのも色々遠回りしてしまうこともある、これは断る選択肢はないな!
(願ってもないことです、よろしくお願いします!)
「ほっほっ、受けてくださると思ってました。それでは義覚、お二方の指導を頼みますよ。」
「は?俺ですか!?いえ、はい、仰せのままに、小角様。」
すげー、こんな強そうな人に事前に相談せずに言うこと聞かすなんて。ってことは俺たちは前鬼さんのお世話になるのか。
(前鬼さん、これからよろしくお願いします!)
こうして、俺たちの修行の日々が始まるのだった。




