第2話 異世界コワイ
やぁみんな、久しぶり。みんな大好き権兵衛さんだ。ハハハ、別に好きじゃないってそんな分かりきった反応はよしてくれよ。ペラペラペラペーラ…。
…やっと落ち着いたわ。話が進まなくてごめんよ。ウザがらみだったわ。ちょっと命懸けた興奮と疲労で変になってるんだ。分かるかな、この感じ?深夜テンションみたいな。これもウザいか。さっさと何があったか説明するよ。それでは2年間のVTRを、3、2、1、キュー。
――スキル:伸縮 擬態 を獲得しました。
俺は、今世の家族との感動の別れを終えてから、いつも通り全身運動をしながら、森の出口を探して彷徨っていた。
少しずつ移動速度も速くなってきたおかげで、蛇行しながらでも1年かからず出口に辿り着くことが出来たんだ。
だけど、そこで気づいたんだ。俺って森から出ても良いのだろうか?と。例えば今いる場所が人族の領域だった場合、魔物とか珍獣と判断され、討伐または捕獲されるんじゃなかろうか?はいソコ遅いとか言わない!
そして、俺の旅は計画変更を余儀なくされた。だが、ここまで来て森の中に帰るのは、面倒とゆーか勿体ないとゆーか、そんな感じだったから、結果的に、昼は森の方を向いて訓練、夜に森の際をのそのそ移動する感じになった。
訓練内容は、目立たない様に地中の根を動かしたり、根や枝が伸びたりしないか色々試したり、という感じだ。ほら、よくあるだろ?植物型モンスターが蔓を鞭みたいに操って戦うシーン。あれが出来れば大分幅が広がると思うんだ。
そして夜の移動は出来るだけ慎重にした。大抵の生物は寝てるからって油断しない。出来るだけ顔の穴が見えない様に細めたりして普通の木っぽく振る舞った。(因みに俺の見た目は、樫の全身に、幹にジャックオーランタンの顔がある感じだ。愛嬌ある感じの。水たまりで確認した。)
そんな毎日を続けていたら、2ヶ月前に「伸縮」、1ヶ月前に「擬態」が手に入ったんだ。かなり長かったけど、よく頑張った、俺。
「擬態」を手に入れた俺は、徐々に日中の移動を始めていった。もちろん森に少し入ってからだよ。「擬態」の手応えはかなりのもので、これで安心して移動できる!と思った矢先のこと。
――ヤツが現れたんだ。
そいつの姿を端的に言うと、赤地に「金」の文字の書かれた前掛けをした1メートルもないサイズの子熊だった。
最初ヤツを見かけた時、俺は、
(おー、かわいい!金太郎モチーフのくまさんじゃん!名前なんて言うんだろ?「くま太郎」とか「熊田金時」とか?)
とか考えてはしゃいでた。
だがそれは間違いだった。
ヤツは俺を見るやいなや、自然な動きではっきよいし、のこって来た。
―――ッドスゥン!
(―――んゴハッ!?)
木だから痛覚はないけど、衝撃で意識が一瞬飛んだ。意識が戻るとまたはっきよい。
(嘘だろ!?「伸縮」!!)
衝撃に耐えるために根を伸ばし、しっかり根を張る。
ズンッ!
(グゥッ!)
これはヤバい。これで子熊なのか?重すぎだろ…。
幹が折れないか不安になった俺は、枝を伸ばして練習したはたきをお見舞いした。
子熊は枝を張り手で弾き返す。
俺は逆の枝を振る。
子熊は張る。
振る。張る。振る、張る、振る張るふるはるh……。
パシンパシン!パンパンパパパパp……。
相撲からボクシングに移行してどれだけ経っただろーか…。気づけば空は赤らみ、カラスが鳴く頃、終わりは突然訪れた。
―――ッバキィッ!!
枝が折れた。
双方の動きが止まる。
俺が呆然としていると、子熊は俺の方に近寄ってきて、楽しかったぜ、ありがとよ、って感じで俺の幹を肉球でポムポムして去って行った。
――スキル:鞭術 を獲得しました。
…死ぬかと思った。まだ3年しか生きてないのに。心底ほっとした。悔しさなんか微塵もない。だって明確な格上だよ?たった1戦でスキルゲットしたことから分かるだろうけど。いやー、この世界ナメてたわ。あんなんいんのね?ヤバいな、マジで。枝1本で済んだのは奇跡じゃね?
…以上、VTRでした。
死闘から生還した結論、もっとつよくならないといけないとおもいました、まる
いや、切実で急務よ、これ。あんなかわいい生物でこれだもん。ファンタジーの定番中の定番、ドラゴンさんなんかが出て来た時にゃあ奥さん、俺の身体なんか一息で燃えカスよ?(一息とブレスがかかってる、上手い!)
まぁやることは変わらないんだけどね?もっと真剣にやろうっていう心の持ち様とかそーゆうのよ。
あと死闘のおかげで、木の身体では疲れにくく、今まで疲れたーって思ってたのは人間の頃の錯覚だったってのが分かって良かったな。ありがとう、子熊さん。
まぁ肉体的に疲れないと言っても、流石に何時間も戦い続けたら心は疲れるからね。おやすみ。
おはようございます。最低の朝です。あんのクマ公、枝折りやがってぇ!また生えるのに何年かかると思っとんじゃワレ!やっぱ枝折られていい訳ないよね。昨日はなんかおかしかったわ。
メニューを増やしましょう、そうしましょう。今度は負けない様に、叩きのめせる様に。今までの訓練と、同時に操れる枝の数を増やすこと。それと同時進行で葉っぱも何とかできないか試すか。出来れば某ポッケの怪物みたいに葉っぱ飛ばしたいけど、すぐ生えるのか気になるからなぁ。葉っぱを硬くしてから殴ることで相手を削る、みたいなのを目指してみようかな。…なんかえぐいな。
まぁとりあえず、頑張るとしますか。
うーん、どうやら年輪のでき方は、外かららしいな。1年がかりで増えてくから気づかなかったな。
堅牢と柔軟も部位ごとに比率というか意識を変えないと駄目かな?幹はしっかり両方、枝と根は伸ばす中間のところは柔軟を強く、先っぽを堅く、って感じにしよう。
葉っぱにも堅牢を意識するのはムズいなぁ。そもそもこれらは幹とか本体向けのスキルなんだよな。まぁ頑張ってみよう。




