TS幼女はダンジョンデートする
“TS幼女は~”シリーズのおまけです。
相変わらずのふたり、今回はねだられておでかけする回です。
※実質ダンジョン攻略なので、マイルドですがゴアい表現が存在します。苦手な方はご注意を。
はいよ~。みんな覚えてるかな~?
アホ毛付きポニテピンク髪クリクリパッチリ青目で、最低身長かつおっ○いスライダー最大でクリエイトしたゲームキャラへ、訳有ってTS転生させられて、更に見習いダンジョン神と言う立場まで押し付けられた幼女だぞ~。…………ケッ。
今回はタイトル通り、同居してる元同級生でジト目ちょい長身女子の茂木と、俺以外踏破者が居ない超級ダンジョンへ来てる。
あー……来たって言っても、前回踏破したのとは違うダンジョンね。同じところだと面白くないし。
そこへの移動は一瞬。見習いダンジョン神の力で権限を持っている国内ダンジョン全て、転移可能になった。
余談だが、現在のダンジョンは5段階で難易度が分類されてるぞ。
低級>中級>上級>超級>神級
低級なら上級じゃなくて高級、または上級だから下級だろ? ってのはナシな。
音の響きとか、ゲーム的分類とか、下級高級と言う言葉への微妙な感情とか。 呼称を決めた連中も色々あるんだよ、多分。
近年、地球の神がゲーム風ステータスやらダンジョンやらの概念を取り入れた。
ただし職業項目は無い。お陰でステータス補正も無いけど、取得可能スキルに制限も無い。
存在するあまねく地球人類からかけ離れて、特別製の体を持つ俺だけは桁が違うステータスなんかも手にしているから、超級を踏破できた訳だ。
だがまあ例外として、茂木も偶然俺に近いステータスを得てしまう機会があって、それからはどうにも体をもて余しちまうんだとよ。
それでやって来たのが超級ダンジョン。
神級は日本に無いから、実質この国最高難易度。
ここへ挑戦してまともに戦えそうな連中は、様々なプラス要素含めたステータスの数値で通常人類が至れる最高数値、4桁到達がやっと。
だが俺達は最低でもオール項目5桁越え。
俺は称号補正やスキル補正、フルバフ込みになると6桁軽く越える。
茂木は6桁目前位までだな。
しかもスキル各種やダンジョン神のチカラで、とっくに全階層丸裸。マップの見落としがなければ危険は全然ない。
それでも、茂木の安全を考えてだな。
「なによコレ!? なんでこんな露出が多いのよ!? っつーか胸元が開き過ぎで、わたしが着るってなると悲しくなってくるんですけど!!」
……以前俺が使ったガチ装備。それを貸したらこうなった。
俺の装備は装備と言えない。だって他所行きの普段着だから。茂木セレクトのおでかけお嬢様セットとか説明されたが、そこにネコミミカチューシャが足された意味は分からない。
ネコミミで目に見える効果を挙げるなら、茂木が興奮して少しおかしくなる。以上。
武器はハンドバッグ。ゲーム由来ネタ武器の一種で、確率スタンが付与された初心者武器以下の攻撃力武器だ。
「仕方ないだろ。俺が持ってる最強の装備はゲームデータから抜き出したソレだからな」
「わたしだってコレが出てくるゲームは知ってる! でもソレを自分で着るなんて考えてもいなかったわよ! もっとおとなしい装備はないの!?」
顔を真っ赤にして、胸以外の開いている部分を腕でブンブンスカスカ振りながら叫ぶ茂木。
…………胸元を茂木は隠さないのかって?
隠す必要がそもそも無いよ。だってふくらんでないから。
「おいアホ毛。 今絶壁とかなんとか、余計な考えをしてなかったか?」
底冷えのする、とても恐ろしい声が耳に届き、俺は全力で首を横運動させた。
一緒にアホ毛もプルプル振られ、その勇姿はとても頼もしかった。
~~~
結局おとなしい装備へと変えた茂木。
おとなしい外見した装備品の能力を例えるなら、ラスボス撃破後の裏ダンジョン入ってすぐ手に入る装備位。
即死と状態異常の対策さえ取れれば、俺達と敵の戦力比較で言えば十分なんだが、念には念を入れて茂木の安全とか確保したかった。
俺と同居する前までは、そこそこの頻度で低級ダンジョンに潜っていたそうだが、実戦は久しぶりと言われたからな。
それから最大限に気を配りながらダンジョンアタックしてみたのだが……。
「ステータスの暴力は、やはり恐ろしい」
敵は上半身裸の馬や牛合計5頭。搦め手とか使ってこない単純なヤツを相手に、倒してみせろと送り出してみたのだ。
「なんだお前ら! その胸囲でヒトを見下してんのかオラァっ!!」
重さもあまりないからと、ゲーム由来武器のビーム○ーベルを渡してみたらコレだ。
ただ振り回しているだけで、敵の腕や武器が簡単に消し飛ぶ。
ダンジョンはドロップ式で、どんな倒しかたでもドロップ品に影響しない。それを幸いにして、よくもまあ暴れる暴れる。
「ねえ。 超級とか言われてる癖に、魔物が弱すぎるんだけど!」
「ステータスに差が有りすぎるんだから、しゃーないだろ」
俺達のステータス数値は既にエンドコンテンツすら終わって、チートコードでステータスやレベルキャップを外して、自己満足でどこまで鍛えるかに突入しているからな。
「ぶーぶー!」
さっさと薙ぎ倒し、ドロップを回収して戻ってきた返り血塗れの茂木からブーイングされたが、そんなモンだから諦めてほしい。
なんか見た目が怖いから、生活魔法でキレイにしてあげる。
「……苦戦とかして「俺の女に何してくれてるんだー」とか、ピンチで助けてくれる系の嬉しいイベントが起こるって期待してたのに」
………………ここじゃ無理だ、諦めてほしい!
小さく呟かれた事は聴こえなかったフリをして流し、攻略の続きへとりかかった。
~~~
んで超級を攻略するまでに半日。
感覚はもはや強くてニューゲーム3周目以降。 1週目で苦労した敵を、楽に倒せる様になって驚いたりむなしさを感じたりする2週目ではない。
ただただ敵を蹂躙する、無双感覚で楽しむ別ゲー感。
面倒な攻撃への対策さえ済めば敵無しで、途中に出てきたアンデッド種最強モブなんて遊園地のお化け屋敷扱い。
「きゃ~!(わざとらしい悲鳴)」
抱きっ!
「って、抱き上げたわたしの方がポヨンポヨン返されて、男役やってる気分! 接待にすらならない、ちくせう!!」
ひとり芝居された時は、どうしてやれば良かったのか。
あー、うん。 アンデッドはちゃんと倒しておいたよ?
俺達の本拠地、ダンマスルーム。
帰りついてお互い部屋着に戻った。
ふたりしてペンギン着ぐるみパジャマ。しかもいつものごとく、俺は茂木の膝上強制着席。
超級ダンジョンのドロップは、近所の冒険者ギルドへ買取り資金が用意され次第売却となった。
そうそう、俺が重点的に管理してる拠点兼低級ダンジョンだが、以前より更に機能を追加。
今まではイベント期間に入ったらダンジョンもイベント仕様に変更されていた。
しかしこれからは平時ダンジョンとイベント仕様ダンジョン、アタック時に選択できる形となった。
冒険者からの意見で、平時の低級ダンジョンじゃないと得られないドロップが欲しい時にイベント仕様となる、なんて嘆きをぶつけられたのが大きい。
それだから、イベントダンジョンの方は季節に合わせた変化を基本として、バレンタイン期間ならバレンタインイベントって感じに逐次変化するよう設定した。
神から『どこまで至れり尽くせり、居心地の良いダンジョンを作ろうとするの、優しすぎるよママー』なんて気持ち悪いメッセージカードも届いたりした。
……もちろんそんなカードなんざグリグリ踏みにじって、捨ててやったよ。
「超級は盛り上がれる場所が少なく、デートにすらなりませんでした」
茂木の仕切りで、話しが進む。
「次は神級へ行きたい」
「お、おう」
直感系スキルを信じるなら、恐らくピンチからのヒロイン夢想を、捨てられないのだろう。強くなりすぎて、それこそ夢のまた夢だってのに。
ちなみに神級は超級ダンジョンボスより強い連中が出てくる、ボスラッシュダンジョンである。
と言っても、この国に神級が無いし無理だ。
それをどう言って納得させられるか、頭を捻っていたら地球の主神からのメッセージカードがヒラヒラと。
『神級ダンジョンの管理権限を、ママへ渡せば良いだけだよ?』
……まあ、それはそうなんだが。
「見習いである俺の権限は国内だろ? 他国のダンジョンを盗ったらダメだろ」
この神とした決まり事だ、破るなんて出来ない。かなり強いペナルティもあるし。
と言うか、神は相変わらず俺をママと呼びやがる。
背筋に悪寒が走り、アホ毛がつられて稲妻マークになった。
ヒラヒラン。
『ダンマスとしての約束では、他国のダンジョンコアを乗っ取っちゃダメだってだけ。そもそもとして、神級ダンジョンは普通のダンマスが攻略できる難易度ではないからね。乗っ取られた確認さえ出来ないよ』
「そりゃそうだ」
納得している茂木。
余計なことかもしれないが、茂木は神と直接交信するスキルを持っていて、メッセージカードは要らない。現にカードを読まずにやり取りを理解している。
ひいらり。
『どんな理由だろうと、約束をしっかり守ってくれるママ大しゅき!』
「気持ち悪いっ!」
べちぃん! と、勢いよくカードを床へ叩きつけて消滅させる。
ヒーラヒラヒラ。
『分かりやすく言っちゃうとね、神の管理権限は土地所有権を兼ねたマスターキー。普通のダンマスが持ってる権限は管理代行権で、本当に大切な鍵を取り除いた鍵束』
「……ぶっちゃけやがった」
ダンジョンの神になってからダンジョン設定項目が増えた気がしていたが、アレは気のせいじゃなかった様だ。
〈ヘタレが、根本をいじる勇気が無くて、見ないフリをしていたんじゃないですか?〉
心を読んだのか小声で漏れていたのを聞いたのか、黙っていたタマちゃんが割り込んできて、強烈な毒舌を吐いてきた。……少し泣きそう。
「違う! 増えている確信や実感が無かっただけ!」
〈どうだか?〉
「タマちゃんの言葉がなんかキツすぎるんですが!?」
本当に泣きそう。助けを求めてか、アホ毛が茂木の腕へ巻き付く。
それは良いのだが、茂木のリアクションは俺を抱えている力が少し強くなって、ついでに呼吸が荒くなった程度。 だめだ! こいつに頼れない!
ヒラーラヒ。
『どうする? 神級の管理権限が欲しい?』
なんと助け船をだしたのが神だなんて!?
とても納得できないが、心の中で感謝はしておく。
「もらう! それで神級ダンジョンへ飛べるならもらう!」
〈逃げましたね?〉
逃げたんじゃないやい! ずれた話題を本題に戻しただけだい! おいアホ毛、お前も抗議に参加しろ!
~~~
別の日。時間を作って今度は神級ダンジョン。
ダンジョンの内装は現代で、いかにも研究所ですよ~って主張している。
茂木は今までのファンタジー感全開から、急に現代的な雰囲気へ変わっている事に戸惑っていたが、目の前にある大きな扉を見たら急に落ち着いた。
「ここが神級なの? いきなりボス扉が目の前にあるけど」
「それが仕様だ。ゴールまで同じだぞ」
「へ~」
茂木の装備は超級アタック時と変わらず。
俺の装備はスパイアクション物で見るラバースーツ風ピッチリスーツ。それと打刀。
入手タイミングで言うと自前の移動手段を手に入れて、今まで行けなかった所へ行けるようになったとか、そんな辺りで装備してる位の。
転移前にこの姿で「胸を強調しやがって、イヤミか貴様!」なんて茂木から絡まれたが、動きやすさの一点で選んだだけ。
それでアタック開始だ、と早速ボス1体目に挑戦してみた。
敵は毛無しTーREXみたいな姿の上位地竜。
かなり巨大だが、コレくらいでビビる俺じゃない。
「うわ、おっきい……これに勝てるの?」
…………茂木はビビってる様にも見えるが、目を見るととてもギラギラしている。
心根が透けて見えそうだ。
「大丈夫だ、問題無い」
「それ言っちゃいけないヤツ!」
失敗フラグを建てたように見えるだろうが、正直ただのおふざけである。
なにせこう無造作に駆け寄って、
「グヴアアアアッ!!」
地竜が前足の爪でひっかく動きを見せたから、振り下ろされる前にさっと通りすぎ、
「【一閃】!」
基本となる刀術スキルを使って、後ろ足片方を付け根から切り飛ばして、
「グギャアアアアアアッ!!」
「もう一発【一閃】!」
痛みで悲鳴をあげている隙に回り込んで反対側も切り飛ばし、
「ギェエエエエエエッ!!」
ずずんっ!
後ろ足が無くなってうつぶせに沈んだコイツの脳天を、
「基本スキル【峰打ち】!」
ひっぱたいて気絶させれば、無力な物体の完成。
「【鑑定】で見た敵体力は残り30%程度、トドメは任せた!」
最後の美味しいところは茂木へ。と思ったのだが、動かずにいてなにやら様子がおかしい。
「…………神級でも、わたしの野望は成就できないの?」
聞こえてしまった呟き。
これに反応した直感系スキルが、今からこのセリフを言えと強く主張するから、従ってみた。
「一緒に戦う、共闘と言う行為も楽しそうだと思わないか?」
…………ふむ。
護られる乙女な野望を否定しないが、それと同じくらいの夢だと思われる困難にふたりで立ち向かうと言うやつだな。
スキルに従って出たセリフだが、茂木の反応は劇的だった。
「共闘……きょうとう…………どう……共同……作業………………っ!? イイね!!」
……彼女の頭の中が、本気で透けて見える。
コレ絶対、ケーキ入刀とかその辺まで思考が飛んだな。
神級攻略後、本拠地ダンマスルームにて。
「俺達には神級すら楽勝でした」
〈ステータスの暴力で、短時間討伐でしたからね。 神級は普通ならMMORPGの超高難度レイド戦と同じ位、覚悟と用意をしてようやく1勝出来るかどうかなのに〉
「基本攻撃スキルでアレだけダメージを出せれば、そりゃあな」
「…………で?」
「で? ってなんだよ」
「本当の共同作業を、いつやるの?」
「今でs……はないな。そもそもとして、戸籍が女同士だから入籍は不可能だし」
〈今ならパートナーシップ制度がありますよ〉
「アレは事実婚の証明書みたいなもんだ。正式な婚姻届じゃない」
「……え?」
「え? って、今度はなんだよ」
「わたし達の結婚について、調べてくれてたって事?」
「ニュース流し見で得られる程度の知識です」
「……チッ」
「勝手に勘違いしてそれか…………っと、そうだ。ずっと気になってたけど、最近のドッペルゲンガー達はなんで姿を微妙に変えてるんだ? 前はまんま俺だったはずなんだが」
〈おふたりの子供が出来たら、どんな見た目になるか予想しあっているそうですよ〉
「余計なことを」
「なに言ってんの! 周りのみんながわたし達を祝福してくれてる証拠でしょ!」
「あいつらはその話題で遊んでいるだけだぞ。 楽しいの大好きだからな」
「受け止める側の問題!」
〈言い訳ばかりのヘタレ〉
「タマちゃんが辛辣過ぎる!」
~~~
幼女の実家。
妹「晴夏さん情報~」
父「どうした?」
妹「お姉ちゃんが、晴夏(茂木の名前)さんに共同作業がどうとか、入籍がどうとか。チラチラほのめかしているそうです」
母「あらあら、あの唐変木がついに色気付いたのかしら?」
父「あの唐変木が意識して言うわけ無いだろうよ」
妹「うん。 あの唐変木にプロポーズなんて甲斐性は無いと思う」
母「と言うことは、晴夏ちゃんから外堀埋めの手伝いを頼まれたって理解すれば良いのかしら?」
父「だろうな。 でも同居をはじめてから1年も経ってないし、早い気もするが」
妹「いやいや。 死に別れする学生時代までと、それに加えて顔合わせまでの4年間。 ずっと一途にあの唐変木を好きでいるって凄くない?」
母「その気持ちは、いい加減に報われてもいいと思うわよ?」
妹「恥ずかしい報告までしてくれてるし、ヤる事ヤってるみたいだから時間の問題でしょ」
母「あの馬鹿娘からは絶対に手を出してこないとか、下の名前で呼んでくれないとかって、愚痴がよく来てるわよ?」
父「……そこまで行ってたのか」
妹「そうそう。っつーかアレだけ自活能力……女子力に通じるスキルを満載しといて、乙女心を理解できないヘタレなのが痛い」
母「だからこっちから助けてあげましょうね。 それでまずはご近所ネットワークに、この話題を流しましょうか」
父「オレは職場で、上の娘が結婚するかもーって自慢してみるか」
妹「友達へ喋れば勝手に広まるから、ちょっとやってみようかな?」