マイ、産まれる
第1話 マイ、産まれる
ここは、王都から東に大分離れた田舎の小国オルテーン。その小国の百姓の家に今新しい命が生まれようとしていた。
「アレサ!がんばれ!
アレサ!君はきれいだ!
アレサ!アレサ!アレサ~!!!」
「うっさい!!だまって!!!あっちいってて!!!」
リュークとアレサ夫婦のいつものやり取りではあったが、さすがに今日は旦那のほうが分が悪い。とぼとぼと部屋から退室し、その後にはアレサと助産師メリスが残った。
「リュークさん!お湯だけはちゃんと準備しといてよ!もうすぐ産まれるよっ!」
メリスから、リュークに指示が飛ぶ。
「わっ!!分かったった!!っつって~~!!」
ガランガランと大きなたらいを蹴った音が聞こえる。
「全く・・・。あの人ったら、どうしてあんななんだろうねぇ!!」
アレサは、呆れた顔でため息をついている。
「今は、痛くないのかい?陣痛感覚が少し伸びちまったね。旦那に意識がいきすぎだよ。いくら仲良しとはいえ、今は元気な赤ちゃんを産むことに集中しなっ!」
メリスが、アレサの大きくなったお腹をさすりながら赤ちゃんの位置を確認する。
「おや、もうこんなに降りてるじゃないのさ。あんた痛くないのかい・・・。痛いんじゃないかい!!!」
アレサの大分いきみ出した顔を見て、メリスが慌てて赤ちゃんの様子を見に足のほうに回る。
「おや、ほら、もうすこしだ!
アレサ!頑張りな!赤ちゃんも頑張ってるよ!」
・・・
・・・ふにっ
・・・おんぎゃ
・・・おんぎゃぁ!!!
「おやおや。これはまた美人な女の子だねぇ。
おめでとうアレサ。
ゆっくりおやすみ。」
赤ちゃんを産んだアレサは、そのまま息を引き取った。
アレサは、心の臓が悪く生きることも二十までだろう、ましてや赤ちゃんを産むなんて無理だと医師から言われていた。そのため、生まれてから激しい運動をしたこともなく家で本を読む程度であった。その本の中の英雄譚の中に出てきたのが今の旦那のリュークであった。
勇者と呼ばれたその男性に一目会って見たいと両親に無理を言って、幾度か手紙を出し、やがて文通となり、そしてリュークが家に来るようになり次第に両想いとなり結婚することになった。
こんなに体の弱い娘を、本になるほどの勇者さまが本当にもらってくれるのかと、両親は半信半疑であったが、それは杞憂に終わる。
勇者であることを鼻にかけることもなく、この辺境の小国の百姓の家で過ごし畑を耕しながら生活を続けていた。次第に、アレサも元気になっていき一緒に野菜をとるほどまでになっていた。
アレサが十八になった誕生日の祝いの席で、両親に天から授け物をもらったこと告げた。両親は、体のことも考え不安にはなったもののアレサの産みたいという意思を尊重した。
リュークも、アレサのほうが大事だと一時は赤ちゃんをあきらめるよう説得したが、私は長く生きられないがこれからは子供が私の代わりだと思って育ててほしいとの言葉でリュークは、産まれてくる子を大事に育てることを約束した。
その日は、私の誕生日であり、母の命日にもなった。
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誤字報告もどしどし(笑)
作者のやる気にもなります。