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記憶  作者: d28_novel
1/1

私小説

「私、花火を見たことがないの。」

夏休みに入る数日前、そんなLINEが来た。


今から話すことは嘘でも偽りでもでもない。けれど、それは僕の受け止め方であり、美化されすぎた記憶であるかもしれないし。アッチはどう思っているかはわからない。今となっては確かめようもない。そんな話。


当時、僕は中学生。集団に馴染めず、さらにはいじめられていた。不思議と、学校に行きたくないとは微塵も思わなかった。通っていた学校は地域ではそこそこ有名な進学校で、けれどそれは建前で、よくある自称進学校、常識外れのボンボンや親の七光りで生きてきた奴等の掃き溜めのような場所だった。


人をけなすのはやめよう。

これは僕の語りだ。


学年が上がると毎年クラス替えがあった。

2年に上がった時、初日に絶望した。目の前の席のやつは、イケイケグループのトップ。絵に描いたようなイジメの主犯格だった。また長い一年だな。そう思いながら静かに座っていた。無理だった。奴は後ろを振り向き、でっかい声で言った。

「お前、変な奴なんだよな⁈ 俺知ってるー!!!」

あ、終わった。そう確信した。確信せざるおえなかった。

分かる人には分かるだろう、その直後の僕の心境と周りからの突き刺さるような視線と、全てに嘲笑われているかのような独特の雰囲気が。あの、苦手な授業で指されて答えられない時のあのとてつもなく長く感じる沈黙のようなアレだ。

顔面は汗が油吹き出し。小さな声で言った。

「よく知ってんな。…お前食っちまうぞ。」

周りが静かになった。いや聞こえなくなったというべきか。自分でもびっくりした。何言ってんだ僕!オイ!!!オイオイ!やめろ!落ち着け!!なんだ?お?イキリトか?厨二病になったか?別に右手はうずいてないぞ⁈

自問自答の0.数秒の後、思わぬ言葉が飛んできた。


「お前、最高だわwww 気に入った。」

その一言の直後、教室が爆笑の嵐で包まれた。この会話のどこに面白いところがあったか今でも理解できない。けれど、その嵐には、普段感じていたアレが微塵もなかった。

そして、その日から僕の生活は一変した。


いじめとは不思議なもんで、たぶん受け取り方の問題なのだと思った。少なくともお俺はそうだった。


数秒でスクールカーストの最下層から最上層の仲間入りを果たした。そこからはトントン拍子だった。友達が増え、成績も伸び、部活もレギュラー入りを果たし、クラスの中心的な立場になった。さらには文化祭の委員長まで任せてもらえるほどに。アニメの主人公かと思った。


彼女とはこの時出会う。それもまた不思議な出会いだった。

文化祭は6月にある。

文化祭委員会は30人くらいで構成されている。まあ、中学の文化祭なんて親しかこないし、出店を出すわけでもない。よくある体育館に集まるヤツだ。


大体の仕事はテキトーにやっておけば終わる。大変なのは委員長と放送部門、記録部門だった。俺は、全ての人の仕事の進捗状況を把握して指示を出すために各部門を回っていた。彼女は記録部門にいた。初めてあった時、業務連絡のみだった。特に感情はなく普通に。きっと向こうもそうだったろう。


祭が始まった。午前の部が終わり概ね予定通りで、俺がフォローしないといけない場面もなかった。


午後が始まろうとした時、インカムに飛んできた一言に本部を飛び出した。

「助けて…」

放送部門の彼女からだった。何事かと思った。…何事もなかった。聞いて驚け。この子、コテコテの機械音痴だったんだ。呆れた。よくもまあ記録部門についたなと。記録部門の主な仕事は、その字のごとく会の流れをビデオに記録することだ。つまり9割の機械操作と1割のセンスがあれば大丈夫。そんなのわかりきった事実なのに。この女ッ…!


本部に連絡し、自分が対応することになった。まあ、本部にいても暇だし、半日も同じ奴等とだべって話題も尽きかけていたし。ちょうど良かった。さっさと設定をおわらせて記録開始のボタンを押した。そうなるともう暇だ。後は機械に異常がないか見ている他何もない。


が。ここで不思議な思った。なんでこの子1人なんだ?シフト的には、4人だったはず…。聞いた。

「他の奴等は?」

「トイレに…」

「連れションに30分もかかるか?」

そこでインカムに手をかけた。本部に連絡をするために。

「やめて…!私が許したの…だから。」

久しぶりの感覚だった。過去の自分を見ているようだった。そう。彼女はいじめられていた。


蒸し暑い記録室の中。お互い汗をかきながら。うちわでやり過ごしながら。たくさん話をした。楽しかった。身の上話から交友関係から。イジメの原因は、どうまスクールカースト上位の男と付き合って別れたのがことの発端だった。まあ、中学生で色々お盛んな時期だ。その辺も含めてだろう。俺は全てを聞いて受け止めようと努めた。同時にこの子を救い出したいと思った。かつて自分を救ってくれたアイツのように。特別な感情はなかった。ただ救いたい。それだけだった。文化祭は無事に終わった。

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