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True North  作者: 並川
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高伎真と守の入島式直前話





「ねえ君今一人?」

「私服ってことは今日“首都入り”の新入生だよね?」

「てことは今日“壁越え”じゃん!懐かし~」

「よかったら俺達が教えてあげようか?」

「自力で“壁越え”できない人も多いらしいからね。まあ俺らは“小学部”からの“島民”だし、壁超えくらい楽勝だったけどな」

「そうそう、お友達もいたら一緒にどうよ!」





トイレから戻ると早速ガラの悪そうな連中に身内がナンパされていた。



綺麗な栗色に染まったセミロングのふんわりウェーブを靡かせ、さらに色素の薄いぱっちりとした大きな瞳が男たちに向けられると、その男たちは自分たちが呼びとめたのにも関わらず、少しばかり顔を赤くして見惚れていた。そんな相手の反応にも慣れているのか、さらににっこりとほほ笑みながら次の一言を告げた。


「ごめんなさい、彼氏待ってるとこなんです」



ほら見ろ。


僕だけは知っている。この誰もが振り返る一見天使のような微笑みも、実は少し悪だくみをしている時の、ちょっとばかり状況を楽しんでいる時の意地の悪い笑顔なのだと。

だってやろうと思えば僕を巻き込まなくてもこんな状況一瞬で打破できるはずなのだ。



「あっマモちゃん遅いよ~こっちこっち!」



真が手を振ると、3人の男子高校生も一斉に振り向いた。ハァコイツが?とでも言いたげな、おおよそ予想通りのリアクションをいただいてしまったが、それはごくごく当然の反応と言ってもいいだろう。

身長は162センチ。食べても肉がつかない骨格も華奢なひょろひょろ体型。顔は童顔。そして眼鏡。服装だけは真が面倒を見てくれるので少し小綺麗な感じに見えるかもしれないが、なんせ見た目がこれなので17歳の今でも頻繁に中学生に間違えられるのだ。

こんな冴えない風の僕が、自分よりも背の高い今時風の美少女をメロメロにする“イカした彼氏”役を演じるという、あまりにも無謀な挑戦を叩きつけられてしまったのだが。



「ああ、待たせたね。というか外でマモちゃんと呼ぶのはやめてくれ」


可愛い双子の方割れの無茶振りなのだ。確かに一応絡まれてるわけだし、まあ行かないわけにはいかないよね。


そっと真の前に立ち、男たちと向き合う形になった。


すると真は僕の横に立って僕の腕に自分の腕を絡ませた。

それもあざとく。まるで相手の男を挑発するように。


「いいじゃん♡わざわざ変えるのめんどくさいもん♡というわけでごめんなさい。僕たちはいく所があるのでこれで失礼します」


真がそう言ったので一緒に歩き出そうとした瞬間、僕の足元に“魔力”が流れるのを“察知”した。

咄嗟に前に出した足を違う場所に着地させる。すると案の定僕の足元近くに深い穴が開いていた。

おそらく俺の脚を踏み外させて派手に転ばすつもりだったのだろう。そう簡単にはいサヨナラとはさせてくれなさそうだとは思ったけど、どうやら思ってたよりもしょうもない連中だったようだ。


「チッ避けやがって。運の良い奴め」


「つかこの子の彼氏って嘘だろ。良くても友達。兄弟とかだったらまだ納得いくけどよ。マモちゃんよお?」


「こっちはお前らと違って小学部から島にいるんだよ!高等部からの“後進組”とは違ってな!まあその差も島に来たばっかのお前にはわからないだろうけどなあ!」


「そうそう、可哀そうになあ。お前らがつい最近までいた“凡人の世界”では首都島の情報が入ってこないから知らなくても当然だけどよ。今更“首都入り”してもお前らが憧れる“上級魔法使い”にはなれねえんだよ!」


「“上流”を目指せるのは“首都島出身者”か“幼小学部”。純粋に能力で“首都入り”に選ばれるのは中学部まで。お情けでかろうじて首都入りに選ばれた“高等部”からの“後進組”は島のワーキングクラス職に宛がわれるのがオチ」


「つまりお前らは、“魔法使い”じゃなく“労働者”として島に呼ばれてんだよ!」


「まあお譲ちゃんは可愛いから、俺らが面倒見てやるよ。現実を思い知ったらいつでも帰ってくればいい」


「あ、もちろんマモちゃんとやらは論外な!まあもうその頃にはこの子も愛想尽かしてサヨナラしてるだろうけどさ!」


「ギャハハハハ~!」



なんかものすごい罵倒を受けている。制服を着てるということは“首都島”つまり“壁の中”のどこかしらの高等部に属してるということだ。なのにわざわざ“壁の外”まで来てナンパやヘイトスピーチまがいの行動を繰り返しているわけか。

面倒臭いのに絡まれてしまった。勝手にヒートアップしている相手の話を軽く聞き流しながら、僕の後ろに隠れてる(振りをしている)真の脳内に直接呼びかけてみる。



「(“良く喋る奴らだね。こっちは相手にもしてないのに”)」

「(“もう面倒臭いからやっちゃってもいい?”)」

「(“この調子だと僕達以外にもちょっかいかけそうだしね。だけどちょっとお仕置きするくらいにしといてよ”)」



これは双子が成せる神秘的な奇跡の事象なのか、“特能”の一種なのかはわからないが、僕たち双子は産まれた瞬間からどんだけ離れていてもお互い口に出さずとも“脳内会話”で明快に意思疎通を図ることができるのだ。


決して思考がダダモレなわけじゃない。普通人間が声帯を使って会話をするように、僕たちは脳内で呼び掛けて会話をすることができるのだ。

今まで散々な目にあってきたが、今僕たちが僕たちでいられるのは、この能力のおかげと言っても過言ではないだろう。


それにしても罵倒の内容はかなり差別的だ。正直島でこんな輩に会うことになるとは、しかも“首都入り当日”にとは思いもしなかった。

思えば一見壮大で綺麗な“ウォール前”の街並みの中には、良く見ると他にもこいつらのような輩が僕たちと同じ新入生にちょっかいをかけていた。回りには警備員らしき人もいるものの、それをわかってて介入されない程度の嫌がらせを僕たちは受けているのだろう。しかも今僕たちがいる公園は警備員の目がつきにくい場所なのだ。



「新入生諸君よ!いずれ諸君らは我ら“平等主義同盟”の名前を思い出すであろう!」


「“少し出遅れた”のかもしれない。そう思う時が来たらこの番号までお電話を!私たちが貴方にあった場所を提供します」


「その“力”は誰のもの?借りた物は返そう!返却期間はもうとっくに過ぎている!」


「“過去の物”だと思われてた物が今も存在するとしたら?君たちの近くにも潜んでるのかもしれない!」


「ここは“日本の”首都島だ!他国にも“首都”はあるはずだ!」


「僕たちとは違う、僕たちのような者よ。もしいたら同胞として君たちについて教えてくれ」




なんだか妙なプラカードを持った人達が新入生に話しかけているのが見える。


「今ならまだ間に合う!ここでの生活より、元の世界の上層部に!君たちの努力は元の場所で報われる!」とかかれたプラカードを持った人達は警備員に注意を受けているようだ。


向こうでは「“首都島TVチャンネル”はナジイズムまがいのプロパガンダ放送!」「世界から“国際自衛隊”という名の“支配者”を追放しよう!」などのチラシはばら撒いた、実行犯らしき人達が手錠に繋がれ連行される姿が見えた。



さて、首都島とはこんなにも荒れた場所だったのか?


もちろん首都島はかなり広いので地域によって治安の良し悪しもあるだろう。しかしこんな新入生を冷やかす為にわざわざ壁の外にくるような輩がいただろうか?こんな意味ありげなプラカードを下げた団体と警備員が睨みあうような光景があっただろうか?

確かに言ってた通り、“人間世界”では首都島の実情という情報は一切と言ってもいいほど入ってこない。“首都島出身者”の僕たちも例外なくだ。


だけど、たった4年間でここまで変わるものなんだろうか。




「おい、何無視してんだ?アア?」



男の機嫌の悪そう声が耳に入ってきて今の自分の現実に引き戻される。思考に気をとられすぎてしまった。僕は真がナンパされて、いろいろ罵倒を受けたから今からちょっと仕返し程度にお灸をすえてやろうとしてたところだった。やるのは真だけど。


「(“やっほーマモちゃんおかえり♡”)」

「(“ただいま。さっきの僕の思考聞いてた?”)」

「(“うん、聞いてもよさそうな内容だったからね。それにしても回りを見渡してたわけじゃないのにすごいね。“鷹の目”は伊達じゃないね”)」

「(“聞いてたら割り込んでくれてもよかったのに”)」

「(“まあ僕も情報共有できるし止める理由もないかな~って”)」



「折角穏便に済まそうとしてあげたってのによ!どうやら痛い目みたいらしいな!」


「余裕でお前なんか一捻りだ。本物の“魔法使い”舐めてんじゃねえぞオラッ!」


「この女も折角こっちが下手に出てやったってのによお。話のわからねえ外見だけの馬鹿女に優しくする義理もねえ。小柳さんとこの店に投げちまおうぜ!」




すると突然僕の後ろにいた真はひょいっと僕の前に出て、にっこりと、再度笑顔を男たちに向けた。喧嘩腰になってた男たちは急に出てきた守とその笑顔を見て、ちょっと困惑しているようだった。



「始めまして!僕の名前は高伎真(たかぎまこと)。そして隣にいるのが僕の可愛い弟の高伎守(たかぎまもる)だよ!」


「あ、どうも、実は彼氏と言うのは嘘で僕は弟なんです。双子のですけど。」



なるほど、真のやろうとしてることは会話をしなくてもわかる。

最初ただのタチの悪いナンパ程度だと思ってたのでちょこっとばかりやり返してもバチは当たらないかななんて思っていたのだが、話を聞く限り、下っ端とはいえこいつらは島のアンダーグラウンドに精通しているのだろう。男たち全員の耳の裏に掘られた共通のタトゥーもそれだろう。

ただ女を売り飛ばすというのがハッタリの可能性もあるし、おそろいタトゥーはただの仲良しの象徴なのかもしれないので、一応確認させてもらうことにする。



「ハア?何ボケたこと言ってんだよ!お前ら今の状況わかってて言ってんのか!?」


「まあいい、早いとこやっちまおうぜ!」


一人の男がそう言った途端、残りの2人は静まり返った。


「おい!お前ら聞いてんのか!御越は女を捕まえろ!俺がコイツをしめる!」


そう言って隣を見た瞬間、リーダー格であろう男は言葉を失った。





「真、なにやら相手はこの芝生に空けた穴を埋めるつもりはないどころか、僕たちに危害を与えようとしてるっぽいよ。あと、“ビンゴ”だよ。使える。」


「じゃあ話は早いね!悪いけどこれは正当防衛なんだから逆恨みはやめてよね♡」


「どうせなら、この穴の“栓”になってもらおう。真ならできるでしょ?そういう“幻術”」


「ワオ鬼畜。マモちゃんのそーゆーとこ、嫌いじゃないよ♡いい練習台だと思えばこのクソみたいな茶番も有意義ってモンだよね!」


「女の子が“クソ”とか言うもんじゃないよ真」


「それはちょっと時代錯誤的な発言だと思うけど、まあ“僕”には関係ないよね♡」


「ああそうだね。そういえばこの方達は何か勘違いをしてたらしいから教えてあげたらどうかな?」






「お、おい!ふざけてんのか!もういい俺がやる!お前ら帰ったら小柳さんに言いつけてやるからな!」


勿論、男は見て気付いただろう。取り巻きの3人はびくとも動けなくなってることに。

だがしかし、その現実に脳がおいついてないのだろう。まさか“後進組”の、しかも今日首都入り当日のロクに魔法すら使ったことがないはずの奴が、“金縛り”という上級魔法使いでさえできるのは一握りのはずの高度な魔法を、しかも“呪文”も唱えずにできるなんて思いもしなかったのだろう。だがしかし、こんな魔法はまだまだ序の口だ。こんなもんで驚いてもらっちゃ困る。



そしてここにたたずむ美少女から発せられたとは到底思えない、低く落ち着いた“声”が、まだ金縛りにあっていないリーダー格の男を驚愕の表情に変えた。


「僕はね、別に僕っ娘ってわけじゃないんだ。まあこんな恰好だから勘違いも無理はないけどね」


「その“小柳さん”とやらのお店がどういうのを対象としたお店なのかは聞かないけど、僕はちょっと対象外じゃないかにゃ?」



真が一歩前に進むたびに、男は後ろに後退する。他の3人はその場でまだ固まったままだ。



「人間世界で首都島のメディアを見てた時、僕の記憶違いかな?って思うほど、首都島は日本の随一の先進都で流行の発信地、まさに憧れの世界!って感じでさ。まあ“三大首都国家”だもんね。そりゃみんな魔法使いに憧れるよねって思ったけど、実際は首都島の良い部分しか見せてないってことなんだよ。連行された人達が首都島チャンネルTVをプロパガンダ呼ばわりするものまあわからなくもないよね」



右手の中指で右目の“カラーコンタクト”を取った真の“何もかもを飲み込む真っ青な瞳”が男を捕える。



「ひ、ひぃいいいい!こ、こっちにくるな!オカマ!ほ、掘られちまう!た、助けてくれえ!」



その言葉を最後に、男は完全に動かなくなっていた。



「“兄さん”無音にすると加減がわからないから顔だけでも解除してよ。相変わらずここは一目がないし警備員もいないけど一応音量調整も慎重にね。もう調子に乗る気になれないくらいに、魅せてやれ!」



「了解♡」


守は浮遊魔法を使って動けなくなっている男を穴の近くへ、そして他の2人と向き合う形に移動させた。



「さてと、僕にお前のようなゲスを掘る趣味はさらさらないけど、お前が掘った穴を埋めるくらいはできるんだよ。栓はお前自身だけどね♡」



そして顔だけ金縛り状態から解き、同時に声帯をしぼる。途端に男の目から涙が溢れ出し、小さな声で、だけど近くにいる取り巻きに十分聞こえる声で懇願しながらわめき散らしていた。


「最初はここまでする気はなかったんだけどネ。君たちの発言は立派なレイシストだし、下っ端とはいえギャングだし、実際僕に抵抗できる手段がなかったら被害者になってた所だったんだからね。ちょっとだけ本物の幻術を魅せてあげる♡」


「小学部からの島民というのが本当だとしたら、そんな君が何故こんなチンピラみたいなことをしてるのか、いろんな理由があるとは思うんだけど、まあだからと言って許されることじゃないからね。大丈夫、死にはしないから!」



そして幻術が施行される。

喚いていた男は途端に過呼吸のような、呼吸がままならないような、それこそまるで“地面にでも埋められた”かのような状態に陥っていた。


のもわずか3秒間。あっという間に失神したからだ。




幻術と金縛りを解いた真は、しゃがみ込む男をぺちぺちと叩き起こし、金縛りが解かれたのにもかかわらず微動だしない取り巻き達を眺めながら、ドスの効いた声で言い放つ。


「これに懲りたら、お前らの言う“後進組”に絡むのは今後一切辞めるんだな」





さてと、真がやってくれたが、ここからは一応フォローに回っておこうと思う。真はああ見えて相手を飴で懐柔するのがイマイチ得意ではないのだ。

それと個人的に少し、気になることもある。





「ごめん、一応端末の生徒帳ともうひとつの端末のグループ名とナンバーを拝見したよ」



幻術を魅せられた男のズボンに“巻き戻し”の魔法をかけ、金縛り中に拝借した端末類を御越と呼ばれていた男に返した。御越はぼんやりとしたような、それか妙に冷静そうな様子でそれを受け取り、鞄にしまった。


「少しばかり手荒なことをして悪かったと思うし、この状況を見て首都島にもどうしようもない格差が存在してることはなんとなくわかったよ。だからと言って、初めて島に来た何もしてない新入生に対して君たちがやってることは本当にただの弱い者虐めかやつ当たりにしかすぎない。君たちに何があったのかは知らないけど、今なら引き返せると思う。よく考えてみて」


そして御越と呼ばれていた、端末を拝借した男の方を向き、改めて顔をよく見てみる。



「僕たちはね、脅威にしかならない、この忌々しい幻術と同等かそれ以上の“特能”を、世界から消し去る為に首都島に戻ってきたんだ。だけど僕たちはこの幻術の消し方がわからない。別に僕たちはレニンスキー的平等主義者なわけじゃないけど、だからと言って誰も知らない極秘の核爆弾みたいな真の特能は、世界に存在するべきではないと思うんだ」



「僕たちはまず情報が欲しい。端末に僕のアドレスも乗せといたから、もし気が変わったら連絡してよ」



「でもだからと言って、まだ僕たちは特定されて首都島に目を付けられるわけにはいかないんだ。だから、今日のことは誰にも言わないでね」



僕は深い穴ができていた場所にも“巻き戻し”の魔法をかけ、真は座り込んでいる男に立たせようと手を差し伸べた。



「さ、さんきゅー」


自分を幻術にかけた相手に手を差し伸べられ、男が声をふるわせながら言った一言は、なんともマヌケな響きのものだった。









「(“ヤバイマモちゃん!受付修了まであと5分しかないよ!”)」


「(“5倍速で頼む”)」



“鷹の目”を持つ僕が先導して人目のある場所では早歩き程度で移動し、人目がなくなると自分の脚に“補強魔法”をかけて5倍速で移動する。何故5倍速なのかというと、5倍速以上だと速すぎて見落としてしまって人目についてしまう可能性があるからだ。


方向さえわかっていれば、ナビ無しでどんな裏道を使っても絶対に迷うことなく移動できるのも鷹の目のおかげだ。真の幻術に比べるとレベル的にはかなり劣るものの、僕の特能はかなり実用的だし気にいっている。魔力が効果を発揮する前に察知できる能力は鷹の目を応用して後天的に身に付けた技だ。こちらもなかなか便利である。



それに引き変え、真の特能はもはや呪いのたぐいだと言っても過言ではない。


真だから正気を保ちながら実用を可能にしているものを。


それでも“馴染む”まで真は滅茶苦茶苦しんだ。


本当は僕が背負うはずの呪いだったのだ。


こんな特能、悪用しようとする奴が持ってしまったら極端な主義者や宗教過激派などのホロコーストも真っ青レベルの混沌が世界を破滅に導くだろう。


まさに真が持つ特能は「極秘の核弾頭」なのだ。


……実際母親もそうだった。首都島に忠誠を誓ってたので悪用することはなかったとはいえ、島に特能を利用されることを自ら選び、拷問紛いの汚れ仕事を受け持ち、なおかつ子供にも使命を継ぐことを強いてきた母親なのだ。


真や母親のように破滅的な特能を持つ者はおそらく他にも存在するに違いない。


それがどんな特能なのか、またどれほど存在するのか、全くと言ってもいいほどわからないけど。


だけどそれを“放棄”させることができるのは、同じ特能を持つ真と、その方割れの僕なんだと思う。


世界の為だけに動けるほど僕たちは崇高な人間じゃない。


ただ、僕たちは自由に生きたい。自分たちが信じるできることをやりたいだけだ。


逃げるのはもうやめだ。


それにいくら安定したとはいえ、暴走の恐怖に苦しむ真を見たくない。


僕たちはただ、信じる方向に向かって突き進むだけ。




僕たちのTrue North(信じる方向・目的地)を目指して。








「(“ねえそいえば今日まさかカラコン取るような幻術使うなんて思っても無かったから変えのカラコン持って来てないんだけど。マモちゃん持ってたり”)」


「(“するわけないじゃん!どうしよ眼帯でも買いに行く?”)」


「(“たしかウォール前の近くにドンキある通りあったよね?”)」


「(“それより近くにドラッグストアあるけど”)」


「(“眼帯とかダサいしワケありっぽいしめっちゃ目立つじゃん!そうじゃなくて本州と品揃え一緒ならカラコン置いてるはずなんだよ!”)」


「(“へえそうなんだ。でもそうなると時間すごくギリギリだから急いでよ”)」


「(“はいはい!”)」





「(“あ、声に幻術かけ忘れてない?”)」


「(“今やりますぅ!”)」



“マモちゃんはやっぱなんかオカンみたいなんだよね~~”なんて思考をあえて僕に聞かせながら、無駄にチカチカガヤガヤした、聞き慣れたBGMが流れる店の中に消えていく姿を見ながら、これはどれだけ急いでも5分は遅れたなあって思うのであった。

あと誰がオカンだ。




「(“姿隠ししながら飛行は?”)」


「(“有りだけど疲れる!なにより5倍速以上だと鷹の目が追いつかない可能性がでてくる!”)」


「(“……まあいいんじゃね?”)」


「(“よくないよ!ぶつかったら相手死に兼ねないから!入島する前から退島事案とか笑えないから!”)」


「(“でももう遅刻確定なんデショ?あ、マモちゃん何かいる?”)」





「(“いいからさっさとドンキから出て来い!”)」






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