エタる
真っ暗な闇──
遠く遠くにかすかに見える
小さな一筋の光──
その光は次第に大きくなってゆく──
それはまるで生命のトンネルのように──
長い長い闇を抜けたそこは・・・
はっとした瞬間
雲の上の様な場所に浮かぶ白い半円形の物体
その上にボクは居た、そう、それはまるで・・・
「カリン塔」?
「──ふーん・・・」
「で──、何これ」
自分が座っていた物を見て思わず口に出た
雪記アイスクリームと書かれた背もたれの、古い水色のベンチ
昔のバス停にあるような奴
「しかも紫外線にヤられてこうなる」
左太ももを持ち上げると、粉だらけだった。
ため息を付きながら、両腕を背もたれ後ろに回し浅く腰掛け直す。
あたりを見回すと俺の座るベンチから2メートルほど横。
マルフk・・まあいいや、やっぱり広告の描かれた古い朱色のベンチ
そこに座る可憐なウサミミ少女
軽く握られた手を膝の上において、まっすぐ前を見据えていた。
「──ふーん・・・」
30分経過
「・・・・・」
1時間経過
(おっ!でっかい鼻くそ掘れた♡・・・)
3時間半経過
「飽きた」
何も変化がないので隣の○フクウサ少女をからかって遊ぶことにする。
僕はおもむろに立ち上がると、ゆっくりとした足取りで歩み寄り、少女の前に
立つ。少女はまるでボクが透けているかの様に、ボク越しの空虚な空間を
変わらず見つめる。
「・・・・・」
かがんでみた
少女の前にかがみ込むと丁度目が合った。
「なにか?」
少女は身動き一つせずそう言った。
てー待てー?日本語だ、コレ幸い。
言葉が通じるのは一歩前進だ。
高校の授業でウサミミ語なんて習ってないからな。
礼節を重んじる私はまず挨拶と出身を尋ねる。
「こんにちはお嬢さん、何処からきたの?」
そう言うとしばらくの沈黙の後。
少女は───
「地上界からに決まっています。」
抑揚のない喋り方でそう答えた。
この手のキャラならその後また沈黙が続くのが定説。
そしてオレちゃんのうっかりドッキリラッキースケベでパイタッチ
かーらーのー気になるアイツポジ獲得やったぜと
なるのだが、はなはだ遺憾ながらそうはならずに───
「そう仰るアナタは何処から来たのですか?」
速球でボール帰ってきた。
意外と社交的なのね・・・クソッ
ただ、少女にそう問われ、オレは若干の焦燥感を覚える。
なにせ、なんで此処に来たのか、どうやって来たのか
僕は全くわからないからだ。
記憶にある景色。見慣れたあの街・・・
「えーっと── 横浜?」
「それはわかります。」
あ分かっちゃうんだ・・・
「この世界はインターネット上にあるのです。」
「IPを調べれば大体の所在地ぐらいは解ります。」
あ、そういうメタいとこブッ混んで行く感じなのね、了解了解。
「そうではなく、アナタは何処から来たのですか?」
なーんか哲学的に成ってきたな・・・
「んーっと、すると・・・そうね、ち・・・地上界?」
俺がそう言うと、小さなため息をついて少女は消え入るような声で
「やはり・・・そうですか。」
あれ?なんか残念そうな感じ
「でー、お嬢さんはどのくらいここにいるの?」
先当たっての不安を解消する為にそう訪ねた
「そうですね、聞きたいのですか?」
うん、こっちの不安感を知ってか、そこは出し渋るんだね
だが───そういう駆け引きは悪くない。
むしろ暇つぶしにはもってこいだ。
「それではお話します、株式会社ヒナプロj──
「うん、まって」
「───なにか?」
「流石にそれは“コラッ!”されそうだからお手柔らかにネ」
「わかりました。それでは───」
「このなろう時空が生まれたのは今を遡る事──」
なんかスレっスレの所エグってくなこの娘
「 ──が、2004年頃ですから、それから数えると10年と───・・・」
あー・・・
「見るからに落ち込んでいますね。」
まぁ・・・ねぇ。
「それで?十数年間君はココで何してたの?」
ひょっとしたら労働や冒険といった暇つぶしになるような手段が何か──
「座っていました。」
「うん・・・ずっと?」
「座っていました。」
あー・・・なんでこんな事に
「なぜ十数年間ここに座っている事になったのか、訳を知りたいですか?」
おっとぉ!物語が動き出しそうなワード出たぞ―
「教えてくれるのかいお嬢さん?」
「残念ながら確たる原因はわかりません。」
んー・・・そう来るか―
ある意味、それも期待通りなんだけど
「ただ、長い間ここに居た結果、多分そうじゃないかと思うことはあります。」
「うん。じゃそれでいいや」
ウサミミパイセンのありがたいお言葉を頂こうじゃないか皆の衆!
「エタってしまったのだと思います。」
えーっと・・・なに?
「創造主が逃亡したのだと思われます。」
はい!いただきましたぁー
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