表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひまわり畑に  作者: 山々
11/29

娘の髪を切る

 翌朝。私は仕事に出かけていった。夏菜は家で一人でお留守番だった。

 夏菜は幽霊だ。だから、誰にも目視できない。つまりは、外に遊びに行くことも、数少ない友達と遊ぶこともできないのだ。

 私は、夏菜が一人で寂しくないか、少し心配だった。


  「ただいま」

 夜。私は仕事からお家に帰ってきた。

 夏菜のいる居間へ向かう。

「ただいま、夏菜」

「あ、お母さん、おかえり……」

 夏菜は居間の畳の上にぐったりと横になっていた。私が帰ってきたのに気付くと、少し体を持ち上げてそう言った。いかにも暇を持て余していた風だった。

「ちゃんとお留守番できたの、夏菜」

「う、うん」

 夏菜はきちんと起き上がって畳の上に座り直し、そしてなんだかもの欲しそうな顔を私に向ける。

「?」

 夏菜が何を欲しているというんだ。何か買ってほしいものでもあるのか?

 私はかばんを居間に放り出して、台所に向かった。そして夕食を作る準備をする。台所から居間の様子を見ることができるので、夏菜とお話することもできる。

 夏菜は早くもテーブルにつき晩ごはんを待っている。

 私はそんな夏菜を見ていて、気付いたことがあった。

「……あなた、髪の毛伸びすぎじゃない?」

 私は夕食を作る準備をしながら、気付いたことを口にする。

「……え……? 別に、そんな伸びてないと思うけど」

 夏菜は少しめんどくさそうに言う。

「伸びてるわ」

 夏菜の怠惰を一蹴するように私は言う。夏菜の容姿を改めてよく見ると、前髪が目を隠しそうなほど伸びているし、横髪は耳を見えなくしていた。

「えー……」

 夏菜は、心底めんどくさそうに口をとがらせた。

「……仕方ないわね。わたしが切ってあげるわ。そうすればめんどくさくないでしょ?」

 私はまな板で野菜を切りながら、呆れ気味に言う。

「うーん……まあ、そうだけど」

 夏菜は髪の毛を乱暴に撫でつけながら言う。

「じゃあ、あとで切るからね」

「はーい……」

 夏菜はめんどうそうに言う。

「どんな髪型がいいの、夏菜?」

「んー何でもー」

「何でもってことないでしょ? あなた仮にも女の子なのよ?」

「じゃ、ちょっと短めで」

「短め? 結構切るの?」

「いっぱい切って」

「……テキトーに言ってないでしょうね……」

「まじめに考えてるよ」

「ならいいけど……」

 少し不安になるやりとりを経て、如月の髪を切ることが決まった。

 そうこうしているうちに、夕飯ができる。

「いい匂いー」

 夏菜が呟いた。

 夕飯を食卓に並べ、準備は完了。

「いただきます」

「いただきまーす」

 言うや否や、夏菜はご飯に飛びつく。お皿はあっという間に空になる。

「ごちそうさま」

「お粗末さまでした」

 夏菜は夕食を食べ終えるとすぐ横になった。

「ふう……」

「こら。食べてすぐに寝ると牛になるのよ」

「別にいいよ」

「よくないでしょ」

 畳の上に心地よさそうに寝っ転がる夏菜。私がいくら注意したところで聞き入れないだろう。

「はあ」

 呆れをこめたため息を一つつき、私は食器の片付けに取り掛かった。


「いすに座って」

 私は夏菜に呼びかける。

「はーい」

 夏菜は素直に応じいすに着席した。

 ここは私たちの寝室。夏菜は、私がいつも使っている鏡台の前に着席している。鏡には神妙な顔をした夏菜が映る。鏡台の上は、いくつもの化粧品やらが乗っていた。

 寝室の窓からは夕日が差して、部屋の中を柿色に染める。

 そして、いすの下には、新聞紙を敷いておく。

 私はハサミと櫛を持って、大人しくいすに座っている夏菜の背後に立つ。

「じゃあ、切りましょうか」

「うん」

 夏菜の頭がうなずいた。そうして、私のカットが始まった。

 まずは、三つ編みのハーフアップを解く。夏菜の髪を結んでいたヘアゴムを外すと、夏菜の髪が解き放たれる。美しい、黒色の髪が広がっていく。夏菜の肩にゆっくり着地しながら、その髪は夕日を反射して輝きを放つ。

 フワフワと現実離れしたその美しい髪は、いつまでも触れていたいというほどに魅力的だった。私は、優しく優しく、そっと触れていく。夏菜は自分の髪を私に委ねるみたいにして、軽く目を閉じてたたずんでいた。

 私の髪も、夏菜と同じような深い黒色だった。私は、こんなところにも親子の血のつながりがあるんだな、と何気なく感じた。そして、私たちは親子なのだと、今更のように実感する。

 夏菜の髪を櫛で丁寧に梳いていく。夏菜の髪の指通りが良くなっていった。

 ついで、私は満を持して、ハサミをその手にした。ようやく夏菜の髪を切る準備ができたというわけだ。今から本格的なカットに入ることになる。

「結局、どれくらい切るの?」

 ハサミを手にしたタイミングで、確認も意味も込めて、先ほどの質問をもう一度訊ねる。

「うーん……じゃ、とりあえず、長すぎず、短すぎず、みたいな感じで」

 夏菜は言った。

「……難しいわね……それ」

「よろしく」

 私は文句を言いながらも、髪を切り始めることにした。

 とりあえず、横髪から適当に切ってみる。

 少しずつ、慎重に切る。黒い髪の毛の塊が新聞紙に落とされていく。切りすぎないように注意しながらハサミを動かす。

「……ちゃんと切れてる?」

 夏菜が訊く。

「ええ。もちろん」

 それに対し、私は当たり前のように答える。

「そー」

 夏菜はそうとだけ応えて、あとは黙ってしまった。

「…………」

 そうして、しばらく沈黙が続く。その間、私は黙々と夏菜の髪を切り続けている。床には次々と夏菜の髪が積もっていく。夏菜の髪も、だんだん短くなってきていた。鏡の中の髪が短くなった夏菜は、こころなしかいつもより明るく快活な風に見えた。

 その時、また不意に夏菜が口を開く。

「……あのさ、思い切って、結構短めにしたり、してみよっかな?」

「短め? まあ、似合うかもしれないわね」

 私は素直にそう思った。鏡の中の夏菜の髪がもっと短くなるのを想像して。

「まあ、失敗してもまた伸ばせばいいんだしね」

 私はあっけらかんと言い切った。幽霊だけど、伸びるのだ。

「うん。そーだよ」

 夏菜も寛大な態度で言う。

「じゃあ、短くしてみましょうか」

 私はそう言った。

「……あー、やっぱダメ!」

 夏菜は手を振って言った。

「何で。いいじゃない、ショート」

「い、いや、やっぱ私にはロングの方が合ってる」

 夏菜は自分の髪を撫でつけながらそう言った。直前になって怖くなったのだろうか。

「ショートも似合うと思うけどな」

「う、うーん」

 私がそう言うと、夏菜は鏡と自分の髪の毛を見比べて少し首を傾げる。

「ま、好きな方を選んだらいいのよ」

「……じゃ、おまかせで」

「……それは困るんだけど……」

「自分じゃ決められないの」

「……はあ」

 少し納得いかないが、私は夏菜のカットを再開する。あくまで控えめに切り続けていく。

 髪が伸び過ぎる前の、元々の夏菜の長さを目指すことにした。

 鏡の中の夏菜は、だんだんと元の夏菜に近づいてくる。

この小説は元々なろう用に書いたものではありません。なのでエピソードごとの長さもまちまちで、なろうで投稿する時にはやむを得ずエピソードの中途で区切って投稿することがあります。変な区切れになってることもあると思いますがご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ