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終編。本気を知った否オタの少女は、オタクの彼女と契約(ゆうじょう)を結ぶ。

 次の日。えみリッチと顔を合わせるのが怖かったから、あたしは学校を休んだ。理由を熱が出たから、ってして。仮病なんて使ったの、何年振りかな?

 

 友達の女子たちから心配メッセが来てたから、なんとか大丈夫と返事を返しておいた。でも、その心配メッセの中にえみリッチのメールはなかった……。

 

「どうしたらいいの? えみリッチを取り返すにはどうしたら……」

 關係を修復するには。あたしがどうすればいいのか。

 

 昨日の、別れ際の言葉を思い返してみる。なにか、ヒントはないだろうか?

「半端に踏み込んで来るな。偽物から本物になったって信じた。どうしても結論は、そこか」

 ふっと一つ、息を吐いた。

 

 

 やっぱり。あたしがオタクになるしか、えみリッチを取り戻す手がない。オタクの世界に目を向けないと、えみリッチは、きっと。振り返ってはくれない。

 

 一昨日に距離を感じて。昨日えみリッチから、明確に距離を離された。あたしから……距離を縮めなきゃ、この距離はきっと。埋まらない。

 

 

「いいわよ、相手になってやろうじゃない。えみリッチの『本物』に。なってやろうじゃないっ」

 

 

 あたしの中で。なにかが外れた。そんな気がした。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「ふぅ」

 気が付いたら、もう夜だ。目を何度もパチパチやったら、乾いた瞳に水分が戻ってきた。

 あたしはどうやら一日中、Fighteについて調べてたらしい。ゴッサーのプレイと並行して。

 

 

 まずえみリッチがくれてたFighteに関してのメールをしっかりと読み直した。

 軽く世界観と設定について触れられてた、そこにFighteにeがくっついてる理由も書かれてて。

 

 昨日の自分をおもいっきりはたいてやりたくなった。

 

 そこから始まったFighte調べ。今終えて一つ 大きな成果があった。

 

 

 二次元って言う奴が オタク趣味……サブカルチャーって言う物が、さまざまな「本気」によって作られてることを知ったんだ。

 なんの知識もない 本気を出せないあたしが、たった一人で勝てるわけがなかったんだ。

 

 一瞬たりともシーンが浮かばないのも当然だった。「ありえないこと」に対する情報がまったくなかったんだから。

 あまりに実力が違いすぎて、逆にスッキリした。こんなこと、あるんだ。

 

 あたしにとって「本気」は無駄な事だった。そんなことしても、あたしはその他から出られない。だから、本気でなにかをやったって、疲れるだけだもん。そう思ってた。

 

 

「ほんとにあたし。自分のことしか考えてなかったんだな。そりゃ、なにやっててもつまんなかったはずだ」

 理解して、納得して。苦笑していた。

 

 でもきっと。今は本気だ。本気でサブカルチャーを知ろうとしてる。きっと本気って、こういうことなんだろうと思う。

 

「えみリッチ。許してくれるかな?」

 怖いけど、えみリッチにメールしよう。直接顔を合わせるよりは、気兼ねなく話ができる。

 

 メールの内容は謝罪と報告と疑問。二次元をバカにしてたこと、えみリッチを裏切り続けてたことへの謝罪と、本気が出せたこと。

 それと、どうしてあたしなんかと友達でいてくれてるのか。

 

 

 少しして返事が返って来た。やっぱりそれなりの長文が。

 ひどいことし続けてたあたし相手でも、あのものすごい速度でメールを打ってたんだと思うと。それだけで、涙が溢れそうになる。

 

 

『Subject:そっかそっか』

『本文:よかったよ、少しは二次元のことわかろうとしてくれて。それだけでもわたし、嬉しい(涙)』

 文字ばっかりのえみリッチの飾り気のないメールに、こうやって装飾が入ると それだけでえみリッチが気持ちをこめてるんだなって言うのがわかって、自然と表情が緩んじゃった。

 

 人よすぎだよ、えみリッチ……。

 

『ノリきゃんがわたしをオタクだって知ってて捨てない理由は今初めて知った。もしかして、ユリの気あったりするのかな? なんちゃってw』

 

「……ユリって、なに?」

 えみリッチ。普段通りに戻ってるみたい。それだけでも安心する。

 

「……余計なことまで書いてたんだ、あたし。いったいなに書いちゃったんだろ?」

 なに言われるか怖くて、ドキドキしながらメール打ってて内容がおぼろげなんだよね。しかも勢いで送っちゃったから中身確認してないし。

 

 ……なんか、ものすっごい恥ずかしいこと書いてそう。でも、読み返したくない。確認したくない。恥ずかしい気がするから。

 

 ……なんだか、ラブレター書いた時みたいだな、この感じ。って、ないない ないってば。

 

 

『本気? 本気ってなんだろ? ひょっとして……ひょっとするのかな? だったらいいな(遠い目)』

 えみリッチって、察する能力すごい高い気がするな。今更思ったけど。

 

『どうして、か。そうだなぁ。友達でいてくれてるから、かな?』

 どういうこと?

 

『否オタ女子の人、わたしがオタクってわかったとたんににがーい顔して遠ざかって行ったから。たとえ嘘友達でもくっついてくれてて嬉しかったの』

 だから。だからオタク話をあたしから遠ざけてたんだ。お互いのいい距離を保とうとして、自分だけが傷付いてたんだ。

 

 あたし、えみリッチの中身のこと、ぜんぜんわかろうとしてなかった。あたしのことばっかりで。えみリッチの気持ち、目にも入れてなかった。

 ーーほんと。最低だ。

 

『わたしの方こそごめんね。ゴッサーやってるのわかってテンション振り切れちゃって。まさか、あそこまでけなされるとは思わなかったよ……』

 けなしたつもりはまったくなかった。ただ感想を言っただけだった。一般人のあたしからすれば、なにが面白いのかまったく理解できなかったから。

 

『それで、今まで我慢してたのが爆発しちゃったんだ。スッキリはできたけど、ノリきゃんと顔合わせるの、怖かったんだよね』

 えみリッチも。あたしといっしょだったんだ。

 

『だから実は、休んでくれてほっとしてたり。なんてね☆』

 苦笑してしまった。

 

『あのね。本気のことをけなされるって、つらいんだよ。痛いんだよ。いやなんだよ』

 本気になれて、その感覚よくわかる。これだけのことやって、それを知らないジャンルだからってだけでボコボコにされるの、すごいきついしむかつくと思う。

 

『覚えておいてノリきゃん。わたしたちオタクにとって、二次元はね。野球少年における野球でありサッカー少年におけるサッカーなの。

他のみんなとなにもかわらない、夢中になれて本気になれる物なんだよ。野球部の人相手に野球を馬鹿にしたら、野球部の人 怒ると思うんだ。それといっしょなんだよ』

 

 メール相手に何度も頷く。人に見られたくないな、今のあたし。

 

『ねえ、ノリきゃん。本気って、いいものでしょ?』

 また、あたしはメールに頷いた。

 

 

「よかった。許してくれてた」

 安堵の深い息といっしょに、あたしはそう呟いていた。

 

「えみリッチ。かっこいいよ」

 自然と笑みを、あたしは浮かべていた。ずっと全力で二次元と付き合ってる。そんなえみリッチが、たまらなくかっこよくて 素敵だって、本気を知ったあたしはそう思えた。

 

 

「あれ、まだなんかあるの?」

 メールがスクロールマークを出してる、なんにも書いてないのに。

『いや~! やっぱ文字って、推敲できるから落ち着けていいよね~♪』

 って下の方に書かれてて、あたしはクスっと吹き出してしまった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「おはよう。大丈夫? まだ大変じゃない?」

「ほんとになんとかなったんだね、よかった」

 

 女子たちから、安心したような挨拶をされて、

「おはよう。心配ありがとう」

 頷いて挨拶を返しながら席に着く。ちょっと、悪いなとは思ったけどね。

 

「あの。おはよう、ノリきゃん」

 後ろから猫耳少女に、小さな声を賭けられた。文字ではぶっちゃけられたけど、こうして顔を合わせるのは正直、あたしも勇気がいった。

 でも。あたしは決めたんだ。

 

 体を後ろに向けて一つ頷く。

 ーーそして。

 

使い魔ヘルパーフェンサー。召喚に従い、見参した」

 全てをなげうって。小声でFighteの象徴の台詞を恥を忍んで答えにした。

 

 そしたら。おどおどしてたえみリッチの顔が。信じられないぐらいパァっと明るくなって。

 

「確認させてもらおう。あなたがわたしの……」

 

 最後の一説を言い終える前に、

「友達だっ!」

 えみリッチが。これまであたしに一回も見せたことのなかった、最高の笑顔でそう 両手をガッチリ握って来ながら答えた。

 

 

「フフフ。駄目じゃないえみリッチ、台詞途中なのに」

「だって、だってっ。だってぇっ」

 笑顔のまま涙を浮かべるオタクの少女に笑顔を返して。

 

 

「これから、よろしくおねがいします。先生」

 

 

「うんっ。ファッションオタクじゃ終わらせないからねっ、覚悟してよノリきゃんっ!」

 言ってる意味はわからなかった。でも。えみリッチのキラキラな笑顔が、あたしが理由で見られるなら。

 

 

 

 ーーオタク語の意味なんて、どうでもいいわよね。

 

 

 

 

 

                     Fin

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