愛しき彼女に近づきたいーー百合恋愛短編集
私の名前は榊麗佳。高校二年生。現在十七歳。四人家族。髪はロングストレート。
そんな私が彼女と出会ったのは中学校の時。
その日私は体調を崩して、学校を休んだ。ベッドで横になっていると、トントンと部屋の扉がノックされ、母親から声をかけられた。
「麗佳、お友達が来てるけど、お部屋に入れても大丈夫?」
ベッドに横になりながら、驚いていた。だって私に学校の友達なんていないからだ。何故かいつも周りから避けられ、喋った子などほとんどいない。
それなのにお友達? 疑問に思いつつも、待たせるのは良くないと感じた私は部屋に入れてあげた。
「お、お邪魔します……」
可愛い子だった。一瞬で心を奪われた。身長は私より少し低めで、髪は肩にかかる位のミディアム。一目惚れってこんな感じなのかな。胸を押さえるが、一向に鳴り止まない鼓動。こんな感情、初めて……。
自分の鼓動を聴きながら無言で見つめていると、恥ずかしくなったのか彼女は顔を伏せてしまった。
そんな雰囲気が気まずくなり、彼女の方から挨拶してきた。
「こんにちは。……汐莉の名前は水瀬汐莉って言います。同じクラスだけど……汐莉の事わかる?」
「……ごめんなさい。私、クラスと人とはあまり話さないから……わからないの」
「そ、そうなんだ。……あのね! 先生から頼まれたプリント、届けに来たんだ。はい! これ」
彼女は持っていた鞄からプリントを取り出して、私に差し出す。別に持ってこなくてもいいのに……。手から受け取ったプリントを眺めていると。
「……それじゃ、汐莉。長く居ると、体調悪くしちゃうかもしれないから、行くね?」
彼女が後ろを向いてゆっくり歩き出す。『帰っちゃう』と思った刹那。彼女の手を掴んでいた。
「ま、待っ……て」
口から出た言葉は私ですら驚いた。彼女と一緒にいたい。そばで寄り添っていたい。手を繋ぎたい。
風邪のせいで顔も熱くなり、彼女の顔がまともに見れなくなったが、恥ずかしくても手は離したくなかった。
「……えっと……。何か、用なの? 榊さん」
彼女は私の手を振り払わず、こちらを向いた。
「あ……その……友達からいいので、仲良くしてくだひゃい!」
緊張してしまったせいか噛んでしまった。たが、彼女はそんなこと気にも止めず、優しく応えてくれた。
「……えっと、よく分からないけど、仲良くしたいのは汐莉も同じだから、汐莉からもお願いするね。汐莉と友達になってくれませんか? ーーレイちゃん」
私を『レイちゃん』と呼んだ彼女は微笑みながら私の手を握り返してくれた。そう、私に出来た初めての友達。たった一人の友達。
*****
それから数年が経って、今では一番の親友。高校も同じでクラスも離れたことがない。
今日は放課後に人気のクレープを食べに行くことになっている。いつものように教室で帰りの準備を整え、汐莉の方に近づく。
「汐莉っ! 準備はおっけ?」
後ろから抱き締めながら聞いてみる。すると、何だか身体が金縛りにあったみたいに硬直してしまっている。
昔よりは汐莉に対しての言葉遣いは軽くなったと思う。
それに最近は、このようにスキンシップをとると、汐莉は毎回恥ずかしそうにする。そんな姿が可愛くて、ついつい意地悪をしてしまう。
「汐莉、どうかした? 顔が真っ赤だよ? もしかして……熱でもあるの!? おでこ測らせて」
「い、いいよ! そんなに心配することないし……」
汐莉が手をパタパタさせて面白いから、無視して私の額と汐莉の額をピタッとくっつけて熱を測る。
「んー、熱はないかな? これならクレープ食べに行けそう♪」
顔を近づけているので汐莉の瞳がよく透き通っているのが見える。
「……プシュ~」
ついに汐莉の羞恥レベルが限界を超えたようだ。後ろに倒れそうになりそうだったので、倒れる前に背中を手で支える。
「大丈夫? 汐莉」
「う、うん……大丈夫」
「そっか、それなら早く行こう♪」
私は汐莉の手を繋ぎ、引いて歩く。何だかデートでもしている気分になってくる。そう思った私は足早に汐莉と教室を出る。
*****
クレープ屋に着くと、早速お目当てのイチゴのクレープを頼む。汐莉はバナナを頼んだみたいだ。
クレープ屋の近くのベンチに腰を下ろし、お互いクレープを食べ始める。
「んん~♪ すっごく美味しい~。汐莉のは?」
「うん。こっちも美味しいよ、甘さも丁度いいし」
「そっかそっか~」
私は汐莉のクレープを見つめる。確かにこれは美味しそうだ。見ているのが分かったのか、汐莉は私にクレープを差し出す。
「ひ、一口……一口だけなら味見してもいいよ」
「ほんと!? やったー♪ ありがと汐莉」
「はい」
汐莉はバナナクレープを私の口元まで持ってくるが、私はそれじゃ気に入らない。
汐莉は不思議そうに私を見る。
「あれ? どうしたの? レイちゃん?」
「……『あ~ん』って食べさせてほしいな」
「えっ!? ……『あーん』で?」
「うん♪ ダメ?」
私は子犬のような眼差しで汐莉を見る。すると、観念したかのようにもう一度クレープを『あーん』で食べさせる。
「レイちゃん、あーん……」
「あ~ん。モキュモキュ……こっちも美味しいね♪」
「よかった……」
「じゃあ、次はこっちね。はい、あ~ん」
「う、うん……。あ、あーん」
私のクレープを小さい口を大きく開いて、食べようとしている汐莉が可愛い。頬張る姿なんて、まるでハムスターのように愛らしい。
「……美味しい」
「よかった♪ ……ん?」
そこで私は目についた。汐莉の口元にクリームがついていることに……。
「……(口につけてる姿、子供っぽくて可愛いなー♪ クリーム舐めても怒らないかな? でも、口元だしなー)」
私は汐莉の口元についているクリームが気になり、食べるのに集中できなかった。
「……美味しかった、ご馳走さま。……あれ? どうしたの? レイちゃん?」
意を決して汐莉に顔を近づける。汐莉は顔を赤くして、身体をビクッとさせた。お互いの吐息が肌を撫で、私の心臓の音が高まる。
「……ちょっとだけ目を瞑ってて」
「……うん」
汐莉が目を瞑り、私は周りを確認する。周囲に人影なし。頭上、特に問題なし。クレープ屋、片付け中。これなら人目を気にすることはない。
私は決死の覚悟で汐莉の口元に自分の舌を近づける。汐莉の顔がだんだん近づいていく。クリームまで残り一センチ。
「……ペロッ」
「……んっ……」
彼女のクリームを舐めとる私。どんな美味しいクレープよりもこっちのクリームの方が甘くて美味しいと感じた。
「取れたよ、クリーム」
「えっ?」
「ほら、クレープの」
「……あ、あぁ。クリームね…………キスかと思った……」
「どうかした?」
「うんうん! 何でもない。……ありがと」
恥ずかしながら両手で顔を隠し、小さな声でお礼を言う。耳まで赤く染めちゃって、本当に可愛い。
「どういたしまして。……それじゃ汐莉、そろそろ帰ろうか」
「……うん」
すると、横から汐莉が手を伸ばしてきた。勿論その手を拒むことなんて私の選択肢には存在しない。
私達は来たときと同じように一緒に手を繋いでお互いの家に帰る。
*****
私と汐莉の家は遠ければ近いわけでもない。ちょうどいい距離だ。私はこの距離感が堪らなく好きだ。
近いとすぐにでも汐莉に逢いたくなってしまう。しょっちゅう逢いに行って汐莉にしつこい女だと思われたくないので、私としては都合のいい距離。
それに、多少の距離があった方が学校に行くとき、待ち合わせとかが出来て、デートっぽくなる。そんな雰囲気が私の心をくすぐる。
「……汐莉、遅いな~」
次の日の朝。学校に向かう道のいつもの場所で汐莉と待ち合わせをしていた。だが、今日に限っていつもの時刻に来ない。
携帯を取りだし、すぐに汐莉に電話を掛ける。何回かコールが鳴った後、電話は繋がった。
「もしもし? 汐莉、何かあったの?」
私は汐莉に問いかける。数秒ののち声は聴こえてきた。
「……ごめん、ケホッ! 今日、風邪引いちゃって。学校行けなさそう……」
確かに電話越しの汐莉の声は少し鼻声だった。
「分かった。先生には私から言っておくから、ゆっくり休んで」
「……ケホッ! ……ありがと、レイちゃん。……それじゃね」
電話を切って携帯をしまう。今日は汐莉、居ないのか。汐莉が居るからこそ毎日の学校が楽しみなのに。風邪なら仕方ない。
しかし、私は考えた。汐莉がそばにいるから楽しいし嬉しい。それに心地がいい。それならーー。考えるより行動しようと思った私は学校へ走って向かった。
*****
電話を切った後、汐莉はベッドの上で大人しく横になって寝ていた。だが、鼻が詰まって、上手く呼吸が出来ないせいで息苦しい。
両親は仕事の為、家に居ない。汐莉一人で何とかしなきゃいけない。
一応、近くにはゼリーやら飲み物が置いてあるが、そもそも身体が怠くて、手足に力が入らない。
「……はぁー……はぁー、ケホッ!」
咳が酷いこんな時でも汐莉は、レイちゃんの事を考えていた。実はまだ一言も伝えてないのだ『好きです』と。れいちゃんは日頃からスキンシップで『好き』というのを伝えているからいい。
だが、汐莉はどうだろう。レイちゃんの『好き』を貰っているはずなのに、逆に汐莉から『好き』というのを伝えていない。貰ってばっかで汐莉はレイちゃんに何も返せていない。
レイちゃんと中学の時に友達になり、あれから結構経つ。常に一緒で喧嘩なんて滅多に起こらない。それに離れることなんてなかった。毎日必ず逢っていたから、一日逢わないだけで胸が苦しくなる。
「……逢いたい、逢いたいよ……レイちゃん」
ーーガチャッ!ーー
汐莉の部屋の扉が開かれた。家には誰も居ないはずなのに。重い頭を横に向け、扉の方向を見る。
「……汐莉っ! はぁーはぁー、来ちゃった……」
息を切らしながら、目の前に立っているのはレイちゃんだった。
「……何で、ここに? 学校は?」
汐莉の見たところによると、服装は学校の制服ではなく、私服の姿となっていた。
「えーっと、その……休んじゃった……」
「……何で、ケホッ!ケホッ! そんな事したの? 汐莉に気を使わなくても……いいのに」
「だってさ、汐莉が居ないと学校がつまんないんだもん。それに汐莉も私が居ないと寂しいでしょ?」
顔をわざとらしく近づけるレイちゃん。走って来たのか、額には汗が滲んでいた。
「……ねぇ、汐莉」
「……何? レイちゃん」
頭が少しボーっとしているが、何とか眠らずにいられそう。汐莉はレイちゃんの言葉を待った。
「……風邪のうつし方って知ってる?」
風邪で体力が無くなったのか、意識が霞んできた。眠気を必死に堪える。折角、レイちゃんが汐莉の為に何かしてくれるのに。
汐莉は何をしてくれるのか頭の中で思考をめぐらせる。だが、結局分からないので教えてもらうことに。
「……知らない、どんなのか教えて……」
「教えてほしい?」
「……うん」
「……えっとね、準備するから目を瞑ってて」
大人しくレイちゃんの言う通りに目を瞑る。だが、汐莉の意識はそのまま暗闇の中に落ちていった。
*****
私は汐莉が目を閉じていることを確認すると、鞄からこんな時の為に買っておいたリップグロスを軽く塗る。
「よし! 準備完了」
私はベッドに擦り寄り、汐莉に聞く。
「汐莉、準備できたよー?」
返答がない。私は心配になり、もう一度声をかける。
「……汐莉?」
やはり返答はなかった。その代わりにスヤスヤと寝息が耳に入った。
「寝ちゃったか……。仕方ない、またの機会にしようかな」
汐莉の頭を軽く撫で、お粥を作りに部屋を出る。汐莉の家には何回もお邪魔したことがある。今日は兎にも角にも汐莉の看病をすることにした。
*****
汐莉は夢を見た。それは限りなく近い未來。うっすらとモヤがかかった感じではあったが、汐莉には理解することができた。それは自分の願望であることをーー。分かった瞬間、汐莉は夢から追い出された。
「…………」
ゆっくりと目を開ける。変わらない天井、変わらない部屋、しかし、いつもと違うことが一つ。ベッドの脇でレイちゃんが涎を垂らして寝ていること。
時刻は既に夕方、熱は完全に引き、身体の怠さもない。レイちゃんはこんな時間までそばに居てくれたかと思うと胸が熱くなる。
そこで考えた。汐莉は普段からレイちゃんの顔をよく見るが、寝ているレイちゃんを見るのは初めて。汐莉の看病で疲れさせてしまい申し訳ないと思い、頭を撫で、寝顔を見ながら起きるのを待った。
*****
何だか心地よい感覚が頭からしてくる。うっすらと目を開けてみると、汐莉が私の頭を優しく撫でてくれていた。いつもは私がしてあげてるのに、こういう場合に撫でるのは反則だと思う。
今の私は耳まで真っ赤にしていることだろう。だが、もう少しこのままでいたい、他に何かしてくれるかなとそわそわしていた為、多分顔が動いてしまったみたい。汐莉は急に撫でるのを止めてしまった。
「……レイちゃん、起きてるでしょ?」
「……」
私は気づいていないフリをした。汐莉の事だから、諦めてくれると予想して。だが、今回は私の予想と違うことが起こった。
「……頭撫でてあげないよ?」
今回は汐莉からスキンシップを望んできた。私はそれが嬉しくて、先程の『風邪のうつし方』を実行出来るんじゃないかと決め込み、言うことにした。
「…………ス」
「……えっ?」
「……キ……スがいい……」
初めて逢ってから、数年。今まで言えなかった自分の想いを言うことが出来た。
鼓動が速くなり、頭の中が真っ白になっている。何か言われても、すぐに反応できる自信がない。
「…………」
汐莉は私の発言からいつもより長く沈黙していた。私はその沈黙が怖かった。汐莉が私の事を気持ち悪いと思うかもしれない。
しかし、今伝えなきゃいけないと思った。例えそれが親友としての終わりを迎えようとしても……。
「……何で……キス、したいと思ったの?」
沈黙を破り、汐莉が言った。今日はほんとにどうしたのだろう。汐莉がグイグイ攻めてくるから、こっちが受けに回ってしまい、調子が狂う。
内心、平常を装い、汐莉の質問に答える。
「……し、汐莉の事が好き、だからだよ!」
「ーーッ!!」
さっきまでの攻めの勢いが衰え、汐莉は私から半歩、距離を取る。
やっぱり、駄目だったんだ。汐莉の反応からして、私の事が嫌いになったみたいだ。
汐莉が私の事を『嫌い』と分かって、今までの気持ちが涙となって溢れだした。
「……ごめん、グスンッ、気持ち悪いよね、嫌いになったよね。汐莉、こんな私でも親友で居てくれて。でも、明日からはもうーー」
「ーー違うっ!!!」
耳が痛くなるほど大きな声で汐莉は私の言葉を遮った。瞬間、驚きのあまり涙がピタリと止まった。そのまま汐莉は言葉を重ねた。
「嫌いになったわけじゃない! 気持ち悪いとも思ってない! 離れたのは……恥ずかしかったから、嬉しかったから!! 汐莉も同じ気持ち、レイちゃんの事が……好き、大好きなの!」
流石の私もこんなに大きな声で言われて、聞こえなかった何て事はない。私は意地悪しようと汐莉にもう一度聞く。
「汐莉、もう一回言って」
「……好き……」
「……もう一回」
「……好き……好き、汐莉、レイちゃんの事が大好き!」
私は気持ちを抑えられず、汐莉の唇を奪う。一瞬、汐莉の身体が震えたが、そのままキス受け入れた。
「…………んぅ、ん……んん……」
「……ん、んん……んぅ……」
私が唇を重ねると、汐莉も答えるように唇を押し付けてくる。数秒重ねて、お互いに唇を離す。
「……はぁー、汐莉。もう一回……」
「……うん」
今度はゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねる。
「……んん、んぅ、ちゅっ、……んぅ……んん……」
「……んぅ……ちゅっ、ん……んん……んぅ……んぱっ、はぁー」
さっきよりは長くキスが続いた。好きな人とのキスがこんなに気持ちがいいなんて知らなかった。私は汐莉に気になっていたことを聞く。
「……汐莉はキス、初めて?」
「……うん、レイちゃんとするのが、初めて」
「……嬉しいな、私も汐莉とするのが初めてだよ」
私は汐莉を抱き締め、耳元で囁いた。
「……汐莉、大好きだよ」
「……汐莉もレイちゃんの事が大好き」
その日はお互い離れたくなかったので、汐莉の家に泊めてもらうことにした。寝るときは勿論、一緒の布団で寄り添って寝た。
*****
汐莉との関係が少し変わって数ヶ月。私は学校で汐莉と昼食を食べていた。
「汐莉~♪ あ~ん♪」
「あーん……モグモグ……ゴクンッ……」
「美味しい? 私の手作りのお弁当」
「うん、美味しいよ。汐莉の好みの味付け」
私は汐莉に告白してから汐莉の為にお弁当を作るようになっていた。そして、汐莉もそうだった。学校に持っていくと、お互いのお弁当を食べさせあっていた。
端から見ると、完全にバカップルである。弁当の食べさせっこなんて普通の友達でもしないが、私達二人は違う。
「……じゃあ、今度は汐莉が食べさせてあげる……あーん」
「あ~ん、モグモグ……ゴクンッ……ん~♪ 凄く美味しい♪」
私は汐莉のお弁当を美味しく食べる。この時、ふと思い付いた。
「ねぇ汐莉」
「ん? どうしたの? レイちゃん?」
「私達、お互いの想いに気づいてから、結構日にち経つよね?」
「……うん。そうだね」
汐莉はのお弁当を食べながら答える。
「折角だから、休みの日、記念のデートしようよ!」
「いいね! ……それじゃ、いつにする?」
私と汐莉は休み時間の間に次の休日のデートプランについて計画した。
*****
次の休日。私達は朝早くから街に出かけた。勿論、待ち合わせはした。愛おしい人を待つことは全く苦にならない。むしろワクワクして、何時間でも待っていられる。
街に着くと、早速汐莉とデートプランについて話をした。
「……汐莉、デートプランは結局、『汐莉と二人で街を巡る』って事で大丈夫?」
「うん。レイちゃんと一緒に街を回るの楽しみにしてたんだ」
頬を赤くして答える汐莉。そんなもじもじした姿がとても愛らしい。
「……(汐莉って何でこんなに可愛いんだろう♪)」
「……レイちゃん、ボーっとしてないで早く行こうよ」
汐莉が手を引いて、街を歩く。私は汐莉と手を繋いでいることに緊張しすぎて、全く街を観れなかった。
*****
お昼過ぎになり、ご飯は何にするか汐莉に聞いた。
「汐莉。お昼何にする? 今日は私の奢りだから、何でも食べていいんだよ!」
私が汐莉に聞くと、唇に指を当てて、ボソッと言った。
「……それなら、キス……がいいな」
周囲には聴こえないが、私には聴こえた。確かに『キス』と……。
汐莉が我儘を言うのが嬉しく、ついつい、意地悪をしたくなった。
「……キスをせがむなんて、随分とキスが気持ちよかったのね……」
私が汐莉を苛めるように聞く。案の定、汐莉は顔を赤らめ、そっぽを向く。
「べ、別に気持ちよかったわけじゃ……」
「じゃあ、しないの? キス……」
「レイちゃんの……意地悪」
私の手を引いて、路地裏に入る汐莉。そのまま汐莉が私に抱きついてきた。
「……ここならいいでしょ?」
汐莉が私の顔を見上げる。お互いに向き合った形なので、息がかかるほど顔が近い。
「……そうだね。ここなら……んっ……」
私は汐莉にキスをした。汐莉も前よりは慣れているので、お互いのペースで唇を重ね合う。汐莉の吐息が肌を撫で回す。優しくしていた『キス』も途中から求め合うように貪る感じになっていた。
結局、時間を忘れて『キス』をしていた為、昼食は手軽なファーストフード店で済ませてしまった。
*****
記念デートを終え、無事に家に帰った私は、明日提出の学校の課題をやっていた。
「…………」
集中して早めに終わらせようと努力するが、今日のデートが頭の中で駆け巡り、その度に顔がニヤける。
唇を触り、私は思った。『キス』をした後だからか、どうも口元が寂しい。今すぐにでも……したい。けれど出来ないと分かってしまったら、無意識にため息が出た。
「……はぁー。汐莉、もう寝たかな?」
今の私は汐莉の事しか考えられない。汐莉の声が聴きたい。汐莉の温度を肌で感じたい。汐莉の柔らかい身体を抱き締めたい。頭の中は既に汐莉一色。せめて声だけでも聴こうと、携帯を取りだし、汐莉にかける。数回のコールもなく電話が繋がった。
「もしもし? 汐莉、もう寝るところだった? 迷惑じゃなきゃ、少し……話でもしない?」
『……うんうん、全然迷惑じゃないよ。汐莉もレイちゃんと話したかったから……嬉しい』
「そう? 私も汐莉の声が聴けて嬉しいよ」
『……っ!? ……も、もうレイちゃんの言葉……恥ずかしいよ』
「何で恥ずかしいの? 普通でしょ?」
『……格好いい台詞を……さらっと言うのが恥ずかしいの!』
「そんなに恥ずかしいかな? 私は汐莉に対して気持ちを隠すことなんてしたくないから、言いたいことはハッキリ言うことにしてるけど……」
『汐莉だって……好きって気持ち、隠したくないよ……。でも、恥ずかしいもんは恥ずかしいの!』
「そうなのかな?」
『そうなの! 汐莉、もう寝る!』
汐莉が電話を切りそうになったので、私は汐莉にお休みを言うことにした。
「汐莉、また明日ね……お休み」
優しく言うと、汐莉も優しい声音に戻って言った。
『……うん、レイちゃんもね』
電話を切って、時計を見る。日付が変わりそうだった。そこで私は思い出した。明日の課題がまだ途中だったことに……。
*****
学校が終わり、汐莉といつも通り帰っていると、珍しく汐莉から話題を出してきた。
「レイちゃん。今度さ……汐莉の家でお泊まり会しない?」
「お泊まり会?」
「……うん。レイちゃんが来てくれると嬉しいんだけど……駄目?」
「……くっ! そ、その言い方は反則だよ……。分かった、行く。汐莉の頼みは断らないから」
「ありがと! レイちゃん!」
その日は帰りながら、私達はお泊まり会の予定を決めながら下校した。
*****
お泊まり会当日。汐莉が何故今日、お泊まり会をしようと言い出したのかは分からない。だが、汐莉との時間を共有しながら過ごすお泊まりは個人的には物凄く好きだ。
特に汐莉の生活している部屋なんかは私も時々お邪魔するが、今でも緊張してしまう。やはり、好きな人の部屋なのだからだろう。
「……さてと、何か買っていこうかな?」
私は汐莉と食べるお菓子でも持っていこうと、家に行く前にコンビニに寄っていった。
*****
今日は汐莉にとって大切な日。何て言ったって、レイちゃんが家にお泊まりに来るからだ。普段しないような化粧も今日は特別だからいつもより気合いを入れて仕上げる。
レイちゃんが家に来るのは午前中。汐莉はその間に自らの部屋を綺麗にしておく。誰だって好きな人に自分の部屋が汚いのを見せたくはないからだ。
洗濯物を洗い、窓を拭き、部屋に掃除機をかける。朝早くから掃除したので、レイちゃんが来る時間より早く終わった。
汐莉は残りの時間でチーズケーキを作ることにした。何でチーズケーキにしたかと言うと、汐莉達、二人はチーズケーキが好きなのだ。それに何と言っても今日は『特別』だから……。
*****
お菓子等を買い、汐莉の家の前に着いた私はチャイムを押すかどうか迷っていた。
理由は簡単……来る時間が早かった。私は腕時計を付けていたので時間を確認すると、短い針が七を指していない。要するに七時前だ。これは一般常識的にあり得ない時間だ。私は結論として汐莉にメールすることにした。
「汐莉へ、早めに着いちゃったけど、もう少し遅く来た方がいいよね? ……っと、送信……」
ーーチャチャラチャーンーー
私がメールを送ると、携帯をしまう間もなく、返信が返ってきた。
『レイちゃんもう来てるの!? 少し待っててもらっていい?』
私は汐莉に言われた通りに家の前で待っていると、玄関が開いた。
「レイちゃん来るの早いね。汐莉、驚いちゃった」
中から現れたのは親ではなく、汐莉だった。
「ごめんね、午前中とか言っておいて、こんな朝早くに来るなんて……非常識だよね?」
「そんなことないよ、汐莉はレイちゃんが早く来てくれて嬉しいから。それに……今日、汐莉の家、実は誰もいないから気にしないで」
「誰もいない? 仕事とか?」
「そうじゃなくて……両親二人昨日から旅行なんだ」
「…………ふぁっ!?」
私は驚きのあまり変な声を出してしまった。
*****
朝御飯もまだだったので、汐莉と一緒に食べることに。
「……それにしても、汐莉。こんなに早く起きてたなんて驚いちゃったよ」
「……レイちゃんが来るから、掃除とかしとこうかなと思って……。起きたのが、夜明け前だった……」
夜明け前……私のこと好きすぎでしょ、汐莉。だけどそこがいい。もう少し言質を取りたくなったので質問する。
「それって……私のため?」
私が汐莉に言うと、耳を赤くして下を向いた。やっぱり汐莉の反応は可愛い。
「そ、そうだよ。……レイちゃんのためなんだから!」
「……(言質確保! 脳内保存確定な台詞をありがとうございます!)」
*****
食事を済ませ、食器を片付ける。私は汐莉にこれから何をするかを聞いた。すると、私が来る前からケーキを作っていたという。私は汐莉のケーキ作りを手伝うことにした。
私はあんまり料理は得意なほうではない為、汐莉に聞きながら、材料を混ぜていく。前もってオーブンを予熱したので、混ぜた材料を型に流し込んで焼き上げる。二、三十分経ち、上手く焼き上がったチーズケーキ。昼食前に食べるのは良くないので、おやつの時間辺りに食べることになった。
昼食までは汐莉の部屋でお喋りをした。最近の事から、昔の事など色々話をした。夢中になっていると、あっという間にお昼になっていた。
「あ、もうお昼なんだ。汐莉どうする?」
「そうだね……。レイちゃんは何か食べたいのはある?」
「汐莉の手料理がいいなー」
座っている汐莉を後ろから抱きしめる。汐莉の体温が私の身体を暖める。
「…………暖かい」
「……うん、そうだね。……レイちゃん、今日は何の日か覚えてる?」
汐莉が振り向き聞いてくる。私は汐莉の耳に小さい声で言った。
「私達が『初めて会った日』でしょ……」
「……っ!? レ、レイちゃん! 覚えてーー」
「そんなの覚えてるに決まってるでしょ? それに私がそんな大事な日を忘れるわけないよ。……もしかして汐莉、今日のお泊りはそのために……」
「そ、そうだよ。レイちゃん、忘れてるんじゃないかって思って……それで……」
汐莉は話しているうちにだんだんと涙目になっていく。私は汐莉の為に出来る事はないか考えた。
「汐莉……こっち向いて……」
「レイちゃん……んっ……」
「……んぅ、んちゅ、ちゅるぅっ、ちゅっ、ちゅうぅうぅ……んっ、んん、んはぁ、はぁー……これで心配いらない?」
私がしたのは汐莉に愛を伝えるのに最も適した行為……『キス』。だが、いつもより濃厚とした『キス』をした。
「……まだ足りない、よ……んっ……」
汐莉はそういうと私に『キス』をした。今度は唇だけのではなく、舌を入れた『キス』を。汐莉から私を求めてきてくれたので、私もそれに応える。
「……んっ、ちゅ、れるれろれろ……んちゅ、ちゅぅぅ……」
「ん、れるれろれろん……ちゅ、ちゅ、ちゅぅ……」
私は勢いに任せて汐莉をベッドに押し倒す。
「はぁー、はぁー、汐莉。今日はもうこのままで……」
「うん。いいよ、レイちゃん……」
お互いの熱を感じながら、ベッドの上で抱き合った。
*****
「……ねぇ、汐莉」
私は一緒に横になっている汐莉に声をかける。
「……何、レイちゃん……」
「私、汐莉と初めて会ってから、ここまで仲良くなれるなんて思わなくて……。本当に嬉しい」
「……汐莉もレイちゃんと好き同士で嬉しい……」
私は耳に囁くように汐莉に言う。
「これからもよろしくね、ずっと一緒にいようね。大好きだよ汐莉」
「……うん、レイちゃん。汐莉もレイちゃんの事大好き……」
二人は布団の中で一日中、寄り添いあった。
前から執筆していた百合ものを今回は投稿してみました。短編とのことですが、一万文字ほどありますので、案外長く楽しめます。読者様に喜んでもらえるように頑張って執筆しましたのでどうぞ読んでください。
更新中の作品「姉による」の方もどうぞよろしくお願いします。感想、評価、ブックマーク等よろしくです。