再会
瓦礫にまみれた場所に立つ。
そこはかつて謁見の間だった場所。そして両親が朽ちた場所。
土は茶でなく黒っぽく、まるであの悲劇を忘れるな、とでも言うかのようだ。
空はまるでこの出会いを歓迎しないかのように暗く、今にも空から大粒の涙が落ちてきそうだ。
ガサッ
後ろの方から足音がなる。
「やっと、見つけた。」
昔から、比べ低くなったその声は、確かに弟の物だ。
振り返ると、そこには面影を残し、成長した弟の姿があった。
「なんで、なんであんたは、兄上は!!あんなことを起こしたんだ!!」
起こしたのは、リュクスだよ。そう言えたならどんなに楽か。
「なんとかいえよ!!」
きっと声は届かない。なら彼が、目を覚ます時までは、態度で示さなければ。きっといま伝えても嘘だ!と言われるか、例え信じたとしてもリュクスが何らかの手をうち、マルクスに被害がいかぬように。
「なんだ、帰ってきたのか、マルクス。」
なんでもないように装う、するとマルクスは激昂した。
「帰ってきたのか!?お前がこの国をぐちゃぐちゃにしたから、俺はここからでなければならなくなった!国も、国民も、城も、貴族も!!すべてなくなり人も沢山死んだ!なにもかもお前の責任だ!!お前がことを起こしたから!」
「愚かだな、なにも学ばせてもらえなかったようだ。」
怒り、憎しみを俺に向け、周りがなにもみえてない。その行為は愚か以外なんと言い表せるのだろうか。
「好き勝手言いやがって!!10年前の悔恨、ここで晴らさせてもらう!!」
腰に差してあった剣を抜く。それは脇腹に向けて素早く振りかざされようとしていたが。
「遅い」
ガキンッと音がし、ザクリと地面に剣が刺さる音がする。
軸はぶれている、力は弱い、剣筋もまだまだで、少し力を入れた俺の一太刀で呆気なくマルクスが持っていた剣は弾けとんだ。
「あ、あっ」
呆然と手のひらを見つめる。その首筋に己の刀を突きつける。
「いつまで呆然としている。俺が本気で殺そうとしたならば既にお前は生きてはいまい。そんな覚悟で俺に剣を向けたのか」
呆れを含む言い方だったが、仕方ないだろう。戦場では気を抜けば殺される。剣が手元になければなんとしてでも敵との距離をとるために動かなければ剣の餌食になるのは目に見えている。
砂でも、上着でもなんでも使うのが戦いだ。死なぬことが一番の誉れだ。
ため息をつき、剣をしまう。
「あの愚か者の得意技は教えてもらわなかったようだな。奴は使えるものはなんでも使う卑怯で狡猾なやつだ。似なくてよかった反面、ここまで思考力が落ちたのは残念だ。」
マルクスは下を向き唇を噛み締める。
「己を知れ。弱さも強さも。そしては回りをよくみて自分で判断できる力をつけ、血に恥じぬ生き方をしろ。すべてはそれからだ。弱く愚かで哀しき弟よ」
マルクスは座り込む。ポツリ、ポツリと雨がとうとう降ってきた。
そして俺は誰もいないはずの一角を見つめる。
「どうせそこでみているのだろう、出てこい。愚か者のリュクスめ」
冷たく、鋭い殺気を向ける。すると空間が歪み、紅い髪を後ろで一纏めにした糸目の男が現れた。
「愚か者とはずいぶんな言い方ですね、殿下。御久しゅうございます」
悠々とお辞儀をして、胡散臭い笑顔を向けてくる。
「ふん、弟がずいぶんと世話になったらしいな。下らぬ悪巧みは順調か」
「ふふ、悪巧みとは酷いですね。えぇ、順調ですよ。何せまだまだ序盤でございますからね。さて、そろそろ御暇しましょうかね、あなたの弟をつれて」
「させると思うか?」
マルクスに近寄ろうとしたところの間にはいる。その後ろから取り囲むように騎士たちが現れる。すべては計画通り。このあと奴はどう動くか。
「テレポート」
パキン
リュクスが声を出すと後ろで硝子のようなものが割れる音がした後眩しい光、白い光が放たれた。
光が止めばリュクスの傍にマルクスの姿があった。
「...魔石か。」
「左様で。こんなこともあろうかと持たせておきましたので」
奴は相変わらずの声で、笑顔のまま答える。
「お前の、お前のせいで!!アイツが死んだんだ!お前が殺した!あんなに、なかがよかったのに」
表情と声に触発されたのか、後ろの騎士の一人が声を荒げた。
「おや?貴方はヨンスさんじゃないですか、殿下の元にいたんですね」
なんでない顔をして平然と答える姿に仲間の騎士たちも動揺を隠せないようだ。平然とみているのは俺とベル、バルト位だ。
ヨンスとリュクスともう一人の騎士は同期で仲も良く、仕事終わりに飲みに出掛けたりしたこともあったらしい。だがあの事件で目の前でもう一人の騎士、たしか名前はシリュだったか、そいつをヨンスの目の前で刺し殺し笑いながら他の人々を襲い、父上たちがいた場所へ進んだらしい。
「てめぇ、よくもシリュを!!」
「ヨンス!落ち着け、いま部隊の配列を崩せばやつの思う壺だろう。怒りはよくわかるが今はぶつけるときではない。」
とバルトが声をかければすみません、と正気に戻ったように静かになる。しかし殺気はそのままだったが。
「ほぅ、さすがは殿下ですね。部下の躾が行き届いている。まぁ、面白くない結果でしたがここで引き下がるとしましょう。殿下、時があまりたたぬうちに会いましょう。もうショーはすぐそこまで来ているんですから」
「思い通りにはさせぬ。だがそのときにはそこの愚弟も返してもらおう」
俺の言葉に奴はフフフッと笑みを浮かべる。しかしその笑みは狂気に染まっている。
「テレポート」
そして俺らの視界から二人は消えた。