弟よ
10年の時が経ち、我が国シェリエ国は亡国と化した。
王都は崩れ、建て直すこともままならぬなか敵国が雪崩れ込み、崩れていった。
国民は地下の避難所へ逃げ込み、被害は抑えられたそうだ。貯蓄していた食材や避難所から繋がっていた平地や森で何とか生きてきた。
他の領も同じように隠れすんでいるらしい。
同盟国に少しずつ亡命させてもらう形で国民を移動させようとしたが大半は国の建て直しに協力しますとこの土地を離れようとはしなかった。
王族としては、そこまで国を愛してくれて嬉しい限りだ。
だが心残りは、弟のマルクスのことだ。
あの燃え盛る城の中、廊下には倒れ伏した侍女や騎士だったものたち、その中で血を浴び、主犯のリュクスに連れていかれたあの子のこと。助けようとした騎士はリュクスによって容赦なく切りつけられていった。幼い、齢6才の彼からしたら、自分に襲ってきたように見えただろう。俺も助けようと動いたが、マルクスは俺の言葉に耳を貸さなかったのだ。何を吹き込まれたかなど、考えずともわかるが。
妹のマリーは既に保護したが、リュクスにつれていかれてしまったマルクスは行方不明。
「兄様、マルクスは生きているでしょうか」
「生きているだろうな。彼奴、リュクスはマルクスに俺を殺させようと仕向けているはずだから」
マリーは悲しそうに目を伏せた。
「兄様は、どうなさいますの?マルクスを」
殺すの?と聞きたいけれど、聞きたくないと言った風に外へ顔を向けた。
そんなマリーに気にせずぐしゃぐしゃと頭を撫でた。
「なっ、髪がくずれますわっ」
「ははっ、気にしなくて良い、俺はマルクスを殺したい訳じゃない。マルクスも大事な家族だ。戦うことはあっても俺は彼奴を殺すために剣を向ける気はないよ」
俺が殺す相手はリュクス、彼奴は我が命と刺し違えても始末しなければ。
マリーは髪を手櫛で整えてから真剣な顔で
「兄様も、死んではいけません。私はもう、あのときのような思いをするのは御免です。」
ぷうっと頬を膨らませた。俺は笑って頬っぺたを潰した。
「頑張ってみるよ。あと、明日絶対外に出るなよ?」
「なぜです?今星がこんなにきれいなんですよ?明日は晴れなのではないですか?」
「天気の問題じゃないんだよ。約束できるのならプレゼントあげるよ」
「??よくわかりませんが、外に出ません!約束しますわ」
首をかしげていたが、プレゼント欲しさか素直に頷いた。
「うん、良い子。はい、母上の首飾りだよ。自分の降りかかる呪いを察知して無効化してくれるんだ。なるべく肌身離さず着けるんだよ、母上が守ってくださるから」
それは一つ緑色の魔石と縁に紅石が施されたシンプルなものだった。それを受け取り、嬉しそうにしているマリーを横目にポケットに入っていた便箋をくしゃっと握りしめた。