焚火のそばで
「なあ」
「ん?」
パチンっと火の粉が爆ぜる。
「お前、俺達の両親のこと、覚えてるんだよな」
「まあな」
「なぁ、どんな人だった?」
「どんなって言われてもなぁ・・・俺達を育ててくれたのは乳母だったからあまり印象には残ってないんだよな」
「覚えてねぇんじゃねぇか」
「顔とか声は思い出せるんだけどな。それ以外は特にないな」
「そっか・・・」
チリチリと火が燃える音だけが響く。
「クラム様ってさ、父さんに似てるか?」
「クラム?見た目はどうだろうな。父上も大きい人だったと思うけど、細かったな。クラムはかなりがっちりしてるから」
「クラム様って反則だよな。魔術は一流、この前手合わせさせてもらったけど体術もスゲェし、懐も大きい。何でも出来るしさ。なんか――――お父さんみたいな」
「ああ~それは分かる。みんなの父親って感じがするよな」
「だろ?俺、どうしたらもっとクラム様の役に立てるかな」
「とりあえずはこの仕事をこなすことがクラムの役に立つってことだろ?俺らで全部片付けばクラムはもっと時間を取れるんだから」
「そりゃそうか」
パキンッと爆ぜた枝が崩れ、一瞬明るく二人の顔を照らし出す。
「なぁ、お前クラムのことが好きなのか?」
「好きだよ」
「はっきり言うんだな」
「そりゃ俺のすべてだから」
まっすぐ焚き火を見つめながらつぶやくソウガ。
「すべて・・・か・・・・」
空を見上げてつぶやいたクウガ。
「お前が強い理由が分かったよ」
「ん?」
「お前って真っ直ぐなんだよな。何に対しても。だから強いんだ」
「真っ直ぐってのは違うな。必死だっただけだ」
ソウガは焚き火に枝を放り込みながら
「その時を生き延びるために男に身体を売ったし盗みもした。男も女も、もう数え切れないくらいの奴らに抱かれたよ。剣闘士になってもただひたすら生き延びるためだけに相手を殺し続けて―――でもクラム様はそれでも良いんだって」
「そっか・・・」
「正しいとは言わないがそれしか選べなかったんだからお前は何も悪くないって言ってくれたんだ。俺はずっとクラム様の傍に居たいし必要とされたい。それだけなんだ」
火を見つめるソウガの表情は柔らかい。
「なあ、俺を恨んでるか?」
クウガの言葉にソウガは笑う。
「試合の件ならお前をボコボコにしたので痛みわけだろ?」
「そうじゃなくて・・・お前を一人にしちまったし・・・」
「お前もガキだったろ。お互いどうにも出来なかったんだからそんなことで恨むかよ」
ソウガはクウガの肩を叩く。
「そんなこと気にしてたのかよ。クラム様が神経の細いところがあるっつってたがホントだな」
「クラムの奴・・・」
「あんま細かいこと気にしてっと禿げるってクラム様が言ってたぞ。兄貴のその面で禿げたら勿体ねぇよなってクラム様と話してたんだ」
「お前・・・今兄貴って・・・」
「ん?兄貴は兄貴だろ。なんかおかしなこと言ったか?」
きょとんとした表情を浮かべるソウガに嬉しさを隠せないクウガ。
「なんか知らんが俺は先に寝るぞ。危ない獣は居ないとクラム様が言ってたが火は絶やすなよ」
横になったソウガはすぐに寝息を立て始める。
「兄貴、か」
空を見上げるクウガの目から一筋の涙が頬を伝う。
満天の星から降り注ぐ薄明かりの中、揺れる赤の光が二人を映し出していた。