37-1.物流って実はすごいこと?
今や物流は、かつてないほど文明に進化・浸透しています。
他ならぬネット通販を支えているこの物流事業ですが。
これの進化が世界を塗り替える可能性を秘めているとしたら、果たしてあなたは信じますか?
物流と世界の明日はどっちだ!?
生活にもはや欠かすことのできなくなったネット通販で、影の主役とも言われている物流事業。
人材が足りないとか、果てはドローンで宅配しようとか、様々な話題が行き交っているこの分野。実は世界のあり方を裏で支える最前線と言っても、決して過言ではないでしょう。
今回は物流の革新を通して世界の未来を探る思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
現在、物流と言えば読んで字のごとくモノの流れをいかにして効率化するか――その勝負という顔を持っておりますが。
さてこの物流、激変する可能性がすぐそこまで迫っていると言ったら、果たして信じていただけるでしょうか。
まず物流の重要性について。
宛先に手紙や荷物が届く郵便(宅配)制度、これは今や空気のごとく当たり前の存在と思われておりますが。
この制度の大前提となるのは、“宛先となる住所が確定すること”。これは安定した統治下で、土地とその住人の管理が成されないことには成し得ない大事業です。
『ポストマン』(デイヴィッド・ブリン先生、※1)では、郵便制度は中央政府――つまり安定した治安の存在――の象徴として描かれています。中央政府が崩壊した作品世界において、郵便制度は混沌の底における一縷の希望にすらなり得るわけですね。
見方を変えれば。郵便制度を始めとする物流とは、安定した中央政府の存在下で初めて実現する、非常に高度な文明活動と見ることもできるわけです。
日本において現行の郵便制度(※2)が確立されたのは1871年。明治政府が樹立されてからのことですね。
それ以前にも飛脚事業などは存在しましたが、単一の事業で全国をくまなくカヴァーするには及んでいません。それだけ全国規模の郵便事業は近代的な制度と見ることもできます。
さて現状。
通販全盛のこの時代。運輸会社が悲鳴を上げるほどに通信販売、より具体的に言えばネット通販が定着しまくっています。
ロング・テイル現象(Long Tail、ロングテール、※3)――広く全国から発注を集めたならば、どれほどニッチな需要であれ採算の取れる事業へ化けるというこの現象。例えば“大人が実際に着られる鎧兜”(※4)という商品、ネット通販では常に受注が絶えないという現象が起きています。ネット通販以前では実現しなかった商売ですね。
20世紀のSFでは“注文した品物がエア・チューブで玄関まで運ばれてくる”という未来絵図が語られておりましたが。それがすでに現実のものと化しているわけです。
それどころか、どんなにニッチな需要であろうとも応えてくれる生産者が続々と現れるというこの状況。「あったらいいな」が続々と実現する世界に、現代の私たちは生きているのです。
これを支えているのが通販システム。ネットを介した広い宣伝・受注システム、ロング・テイル現象をも実現するこの市場一方の翼とするならば。もう一方の翼は間違いなく物流システムです。全国をくまなく、それどころかうまくすると全世界くまなく網羅する物流網は、ネット市場にとってもはや欠かせない存在となっています。
郵便局によって小包郵便の取り扱いが開始されたのは1892年。
他にも日本国有鉄道(現JR)が最寄り駅まで荷物を運ぶサーヴィス“チッキ”(※5)を提供しておりましたが。これは発送人、受取人とも、最寄り駅まで荷物を届ける、あるいは受け取りに行く手間がありました。
この時点で小包郵便は届け先の玄関までは届けてくれるものの、発送するには郵便局の窓口まで赴く必要がありました。
この事業を民間で初めて成し遂げたのみならず、数々の革命的進歩をもたらしたのが、言わずと知れたヤマト運輸(現ヤマトホールディングス)(※6)。『クロネコヤマトの宅急便』でお馴染みですね。これで実現されたのが“玄関から玄関まで荷物を届ける”宅急便(登録商標)事業。もう皆様お馴染みどころか、生活にはなくてはならないほどに定着したサーヴィスですね。
ところが、この物流サーヴィスに置いて行かれている業態もまた存在します。
服や靴といった一品物のオーダ・メイドのサーヴィスですね。
こういった商品では、個々の店で顧客の体格や足型を採寸し、型紙や型を起こしてそれぞれの店で保管しています。
何が不便かと言って、まずその店でなければ作れないこと。逆に言えば、住所から足の届く範囲で、作れる店の種類と腕前が決まってしまいます。
いやいやオーダ・メイドなんだし仕方ないじゃん――そうあきらめてはいませんか?
例えば3Dスキャナで足型を取るオーダ・メイド・シューズ専門店『キビラ』(※7)に、その可能性の片鱗を窺うことが可能です。
足型を取るのは一台あたりクルマ一台分相当という価格の医療用3Dスキャナ。『キビラ』では、これに合わせて形の近い型を選ぶセミ・オーダ手法を取っていますが。
可能性を秘めているポイントは、“3Dスキャナによる採寸”、これでしょう。
これのどこに可能性が秘められているかというと。
それにつきましては、次項で考察を巡らせるとしましょう。
【脚注】
※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%B3_(%E5%B0%8F%E8%AA%AC)
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%B5%E4%BE%BF
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%AB
※4 http://item.rakuten.co.jp/f462152-satsumasendai/78139/
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AD
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B9
※7 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20140922/1060406/
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
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