34-1.動力源を探せ! ――最強人型メカとの相性を考える
コメント欄、感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。
人型メカは日本人のロマンです。
かつてその最強形態――“最強人型メカ”について考察を巡らせましたが。
では――ということで、こういう疑問も浮かんできます。その最強形態に搭載し、これを駆動する動力源として相応しいものは果たして何か?
内蔵動力源の明日はどっちだ!?
人型メカは日本人のロマンです。
そのヒト型メカの中でまず最強の形態はと言えば、当【SFエッセイ】では一つの解答に辿り着いておりますが。詳細についてはは『テーマ7.最強の人型メカを探れ! ~日本人のロマンとその可能性~』をご参照いただくとして。ここではネタバレしても面白くないので、“最強人型メカ”と表記させていただきます。あしからずご了承のほどを。
さて、この最強人型メカに相応しい動力源は果たして何か。今回はこれを巡る思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
さて一口に動力源と言いましても、世の中には様々な方式があります。
移動に特化したものから効率を追求したものまで、そのあり方は多種多様。
例えば反動推進機。文字通りの爆発――言葉を変えれば急激な化学反応を利用した推進機です。
例えばロケット推進。これが実現するのは衛星軌道に乗るための第一宇宙速度、秒速にして約7.9km。これを時速に直すと約28400kmにも及びます。
反動推進を用いて叩き出される到達速度は恐らく地上で最大級ではありましょうが、残念ながら人型メカを駆動するには向いているとは言いかねます。
要するに放出される力が一方向に限定されるからです。例えてみるならば、ロケット・パンチ一発だけが能という人型メカのようなものです。鉄砲玉さながら、行ったっきりで戻ってこないメカでは、ちょっと勝負にはなりませんね。
では内燃機関はどうでしょうか(※1)。
一口に内燃機関と言っても、間欠燃焼型のレシプロ・エンジン(主としてクルマに採用されているピストン・エンジン)やロータリィ・エンジンだけでなく、連続燃焼のガスタービン・エンジンやジェット・エンジンまでもが含まれます。
ターボファン・エンジンを搭載して地上最高速度を叩き出した四輪車スラストSSC(※2)の記録は、実に1227.985km/hといいます。音速(約1224km/h)を突破していますね。
まあターボファン・エンジンやジェット・エンジンはほぼロケット・エンジンのように直線運動が得意ですから、人型メカの動力源としての使い勝手は今一つ。
しかしながらガスタービン・エンジン(※3)はアメリカ軍の主力戦車M1エイブラムス(※4)にも使われるような大出力を叩き出します。
強みは大きさに比して大出力が得られること。M1エイブラムスに使われているハネウェルAGT1500(※5)の最大出力は実に1500馬力(最大トルク3754N・m)と言いますから、さすがは全長10m弱、60tにも及ぼうかという戦車を最大時速67km/hで駆動するだけのことはありますね。
弱みは燃費の悪さです。例えばM1エイブラムスの燃費は燃料1L当たりにして実にたったの425m。つまり巨大な燃料タンクを背負う宿命にあると言い換えることもできるわけです。
最強人型メカへ搭載するに当たっては、この弱みが足を引きそうではありますね。
では他の戦車で使われるようなディーゼル・エンジンなら? 10式戦車(※6)のV8ディーゼル・エンジンは1200馬力を叩き出します。ですが携行燃料は実に880Lにも及びます。これでは本末転倒というもの。最強人型メカへ搭載するには、頭でっかちが過ぎるきらいは否めません。
では――と考えた方も少なくないでしょう。果たして電力は?
発電機を背負って歩くとなると、さてどうでしょう。
例えばクルマ。エンジンを純粋な発電機として使い、駆動力はもっぱらモータでまかなう――そんな思想を実現したのはホンダの『アコード ハイブリッド(2代目CR型)』(※7)が最初と思われますが。このシステムで実現される最大トルクは315N・m、最高出力は158KW(215馬力)といいます。これがどの程度の力かと言って、3.0Lのガソリン・エンジンにも匹敵するといいます。それでいて発電用エンジン容量は2.0L・LFA型(※8)ということですから、効率は悪くなさそうですね。
クルマとしての航続距離は一回の給油で1400kmほどというデータがあります(※9)。
ただしこれを搭載する車体の重量は約1620kgといいますから、最強人型メカへ積み込むには痛し痒しというところでしょうか。
では燃料電池(Fuel Cell)となるとどうでしょう。
これも発電機の一種です。
燃料電池の実用例としてはトヨタが2014年12月に発売した『MIRAI』(※10)が印象的ですね。水素を燃料に使い、酸素との化学反応で発電するこのシステムが叩き出す最大トルクは335N・m、最大出力は113KW(154馬力)といいます(※11)。ただし車重は1850kgといいますから、図体なりと言えなくはありません。要するに効率よく、とはいかないわけですね。
クルマとしての航続距離は約650kmとあります。まだまだこれから、と言えなくはありません。
日産はエタノールを使った燃料電池を開発しようとしています(※12)。
クルマとしての航続距離は600km、ただし搭載するエタノールは30Lを想定しているとあります。エタノールの搭載容量を増やせば、航続距離はもっと伸びるということになりますね。
さてここで、こういう考えが浮かんでも来ます。
どこまでも行こうとするから大きく重くなるのではないか――そういう仮説ですね。
では、継続行動能力をそこそこと見積もるとどのようになるでしょうか。
次項では、そこに考察を巡らせてみましょう。
【脚注】
※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E7%87%83%E6%A9%9F%E9%96%A2
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88SSC
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3
※4 https://ja.wikipedia.org/wiki/M1%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%B9
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/M1%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%B9
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/10%E5%BC%8F%E6%88%A6%E8%BB%8A
※7 http://www.honda.co.jp/ACCORD/webcatalog/performance/driving/
※8 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BBL%E5%9E%8B%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3#LFA
※9 http://president.jp/articles/-/13424?page=2
※10 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%BF%E3%83%BBMIRAI
※11 http://toyota.jp/mirai/performance/
※12 http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1005250.html
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
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