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【SFエッセイ】連載版 完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~科学とヒトの可能性~  作者: 中村尚裕
テーマ33.宇宙へ飛び出せ! ~地球から身軽に飛び立つ可能性~
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33-2.重さのない燃料!? ――もっと身軽に宇宙旅行!

 前項では、“宇宙へ行く”ために必要なことについて考察しました。

 本項では、【SFエッセイ】的にもっと身軽に宇宙へ行く方法、これについて考察を巡らせます。


 まず前項でお話ししたのは、“宇宙へ行く”ためにはひたすら対地速度を稼がなければならないことと、その加速のために“とてつもなく重い燃料をわざわざ運んでいる”という現状です。


 ここで、発想を転換してみましょう。

 ――動力源と燃料がもっと軽かったら?

 実のところ、現状の宇宙ロケットが絞り出す推力のほとんど、9割以上は燃料そのものを運ぶために使われていると言っても過言ではありません。これは前項で申し上げた宇宙ロケットの内訳、これを見れば明らかですね。

 見方を変えれば――燃料さえ軽ければ、いっそ重さを気にしなくて済むなら、宇宙ロケットの規模は現状比で最小1割弱にまで縮小することが可能になるのです。

 ちょっと待った――そうおっしゃる向きもあるでしょう。重さのない燃料なんてどこにあるの? と。

 実は身近なところにそれは存在しています。質量を持たず、様々な方法で供給し得るエネルギィ――、


 それは電力です。


 電力で空が飛べるの? とお疑いの向きには。

 ドローンという具体形を頭に浮かべていただければ解りやすいかと。要は電動ヘリコプタですね。

 ちょっと待った、それじゃ空気がないと飛べないよ――そういうご指摘もあるでしょう。


 確かに宇宙空間へ到達する過程、大気圏外で推力を得るには空気に頼らない推進方法が必要です。

 では送電線とレールを宇宙から吊り下げたら? ――ちょっと例えが乱暴ですが、この思想は大真面目に研究されています。いわゆる軌道エレヴェータ(※1)ですね。

 重心が静止衛星軌道上に位置するように、宇宙からケーブルを吊り下げる――軌道エレヴェータの思想を一言で言い表すなら、こういうことになります。実際にはケーブルは相当な質量に及びますから、静止衛星軌道のさらに上空へ錘となる人工衛星を配置することになります。

 静止衛星軌道上に位置する重心には、質量が集中している方が都合がいいはずなので、ここに宇宙港を設けるというのは悪い考えではないはずです――これは拙作『その絶望に引き鉄を ~クリスタルの鍵とケルベロス~』でご提示させていただいたアイディアですが。


 ちょっと待った――そうおっしゃる向きがあるのは否定しません。それじゃロケットよりも大規模になっちゃうよ、と。

 よって、軌道エレヴェータは最終到達形ということになります。実現できれば果てしなく気軽に宇宙へ行ける手段となりますが、問題はそれまでの過渡期でしょう。

 それまで身軽に宇宙へ行く方法はないの? ――かと言えば。

 実は次善の手があります。化学反応ロケットより遥かに身軽な方法が。


 これにも動力源として電力を使います。ただし電力だけでは何もない空間に推進力を生じさせることはできません。よってここは電力を用いた反動推進を利用しましょう。

 まず反動推進の定石――推進剤を膨張させて噴出すること、これによる反動で推進することを考えます。

 液体が気化した場合、水の場合でも体積比で約1700倍に膨張するというデータがあります(※2)。電力で液体の推進剤を加熱、気化させればまずこれだけの推進力を得ることが可能になるわけです。

 が、ここではもっと欲を出してみましょう。推進剤にもっとエネルギィを加えてプラズマ化させるのです(※3)。

 プラズマは空中で原子がイオン化した状態です。炎もプラズマの一種ですから、これでまず化学反応(燃焼)ロケットに匹敵する推力が得られることになります。


 ただし、ここでは終わりません。


 プラズマ――つまり電離したイオンは、粒子加速器(※4)で加速することが可能になります。つまり原子をより高速で打ち出すことにより、より大きな反動を得られるという理屈ですね。


 この原理、どこかで聞いたことがありませんか?


 そう、荷電粒子砲(※5)――要するにビーム砲です。

 荷電粒子砲とは、(プラズマに限りませんが)電位を帯びた原子を加速して撃ち出す装置です。それをここでは反動推進機として使おうというのです。加速の程度は電力次第。つまり乱暴を承知で言ってみるなら、大電力をさえ投じれば、それに見合った推力を得られることになります。

 荷電粒子砲を推進機に使おうというこのアイディア、なにも今に始まったことではありません。VASIMR(VAriable Specific Impulse Magneto-plasma Rocket、比推力可変型プラズマ推進機)(※6)というアイディアで立派に研究が推進中です。


 もっと解りやすい例を出すなら――宇宙探査機『はやぶさ』(※7)に搭載されたイオン・エンジン(※8)はどうでしょう。これだけでも化学ロケット・エンジンの10倍以上の効率をものにしています。逆を言えば――極論ではありますが――推進剤の質量が従来の化学燃料比でおよそ10分の1で済んでしまうのです。

 今のところ“空気に触れると、せっかくプラズマ化した推進剤が冷却されて元の原子に戻ってしまう”という弱点を持っていますが、空気が電離する1000℃以上にエンジン内部を保てば、その心配も杞憂に終わります。


 ちょっと待った――そういう向きもあるでしょう。そんな大電力って、どうやって供給するつもり? と。

 ご安心下さい。何も発電所を背負って飛べとは申しません。

 その代わり、発電所の電力を丸ごとに近いほど供給してもらいましょう。


 まさか有線とかいうんじゃなかろうね? ――いえいえとんでもありません。

 レーザ送電(※9、※10)という手段があります。受電側ここではロケットの受光部を狙って大出力レーザを撃ち込むわけですね。

 具体的な数字としては、日本で研究されている100万KW(1GW)級の送電システム研究が挙げられます。この100万KW級という数字、これは商用原子力発電所1基にも相当する電力ですから、実質は青天井と言っても過言ではありません。


 ちょっと待った――まだ突っ込みたい向きはあるでしょう。高速移動するロケットにどうやって送電レーザを送るつもりだ? と。


 ご存じの方も多いでしょう。『宇宙戦艦ヤマト』には反射衛星砲(※11)という概念が登場します。

 要は地上から撃ち出したビーム(ここでは送電レーザ)の進路を、何基もの中継衛星でねじ曲げてやればいいのです。何も字面そのまま反射する必要はありません。送電レーザを受光することで一旦発電し、その電力で再度ロケット(または次の中継衛星)へ向けて送電レーザを撃ち出せば済む話です。


 かくして電力で推進剤をプラズマ化するのみならず、荷電粒子砲の原理でプラズマを再加速することにより、より身軽かつ高効率な宇宙ロケットで宇宙へ飛び立つことができるという、これは考証なのです。


 さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。


【脚注】

※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8C%E9%81%93%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF

※2 http://www.neko01.com/sikaku/kikenbutu/index.php?%E6%B0%B4%E8%92%B8%E6%B0%97%E3%81%AE%E4%BD%93%E7%A9%8D

※3 http://home.hiroshima-u.ac.jp/fges/theme/namba.html

※4 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E9%80%9F%E5%99%A8

※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%B7%E9%9B%BB%E7%B2%92%E5%AD%90%E7%A0%B2

※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E6%8E%A8%E5%8A%9B%E5%8F%AF%E5%A4%89%E5%9E%8B%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%BA%E3%83%9E%E6%8E%A8%E9%80%B2%E6%A9%9F

※7 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%82%84%E3%81%B6%E3%81%95_(%E6%8E%A2%E6%9F%BB%E6%A9%9F)

※8 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3

※9 http://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/ssps-lssps.html

※10 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E5%AE%99%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%85%89%E7%99%BA%E9%9B%BB

※11 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E5%B0%84%E8%A1%9B%E6%98%9F%E7%A0%B2





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/

無断転載は固く禁じます。

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