30-3.“人工知能”達――拡張されるヒトの可能性
前項では、インターフェイスの可能性として“人工知能”が浮かび上がってくるところまでを考察しました。
本項では、インターフェイスの一翼を担う“人工知能”達の姿とその役割について考察を巡らせます。
“人工知能”は会話しかできないの? 家電を制御するのが関の山? ――いえいえ、そんなことはありません。
まずは感覚。主であるあなたと同じような視覚、聴覚を得ることができます。それどころかあなたを中心とした360°の視界を得ることだって夢物語ではありません。背後や頭上を見張ってもらえるわけですね。
じゃ、“人工知能”はどうやって360°の視界を確保するの? ――そんな疑問もごもっとも。
例えば『RICOH THETA』(※1)という製品があります。そのコンパクトさ(44×130×22.9mm)もさることながら、ここで注目すべきは180°カメラを“2つ組み合わせて”全天周をカヴァーするというその思想。ここで2つの画像を組み合わせるのに内部処理が必要になりますが、ここで重要なのは以下の2点でしょう。
1.必ずしも1つのカメラで全天周をカヴァーする必要はないこと。
2.カメラは全くの同一地点に存在していなくても良いこと(RICOH THETAはボディの厚み分だけカメラが離れている)。
つまり、例えばジャケットの胸元に前方用、背中に後方用のカメラを据えてしまえば。――いや、EMDを装着したなら、それだけで前方の視界は確保できることになりますね。
多少の補正は必要になるでしょうが――裏を返せば、“補正さえ施せば、全天周の視界を得ることは可能”ということになります。
マシン・パワーでそこは補えば済むことです。これで全天周視界の出来上がり。
いやいやハイ・スペックなマシンを背負って歩くなんてとんでもない――そう思いの方がいらっしゃるかもしれませんが。
計算処理は外部へ委託することが可能です。詳細は『テーマ23.もっと手軽にVRとAR! ~VRとARの普及を加速する可能性~』で触れましたので、ここでは要約だけに留めるとして。
具体的には『GeForce NOW』(※2)というサーヴィスが存在します。マシン・パワーをネット(クラウド)越しにリースする――ここではその要約こそが相応しいでしょう。なにも重量級のハイ・スペック・マシンを持ち歩く必要は必ずしもないのです――ネット回線さえ高速なら。もちろん持ち歩く携帯端末それ自体で処理がこなせるなら、それに越したことはありません。ただ少なくとも、そこまで待つ必要がないことも確かなのです。
という流れの先を見据えると、“便利な道具”に過ぎない“人工知能”を超えた“相棒”人工知能という存在が視野に入ってきます。
“”付きの“人工知能”と“相棒”人工知能の違いについて、詳細は『テーマ6.“人工知能”が“萌える”とき ~“人工知能”の特性とヒトとの可能性~』をご覧いただくとして。要は道具を通り越して真に知性と多様性を獲得し、知性体(=生命種)として覚醒した存在を私は“相棒”人工知能と呼んでおります。翻って現状、“便利な道具”としての機能を追求した存在は“助手人工知能”とでも呼ぶべき存在ですね。要は道具と主の関係ではなく、ヒトと対等な“相棒”としての存在が“相棒”人工知能と認識していただければよろしいでしょう。
さてこの“相棒”人工知能。実はヒトの可能性を大幅に拡げてくれる可能性を秘めています。
例えば機械の制御――それこそ家電の制御から飛行機の操縦に至るまで――を補佐・簡略化してくれるでしょう。その威力は近年のFPS(First Person Shooter、一人称視点シューティング・ゲーム)に見られるがごとく、ちょっとしたジョイパッドや果てはマウスとキィボードの組み合わせで戦車や戦闘機までも操ってしまうことが可能になるのです。しかもその操作機器はVRでヴァーチャルに再現可能というお手軽さ。
ちょうど映画『マトリックス』(※3)では、操縦技能をインストール(もはや“催眠教育”というよりこの言葉の方が相応しいでしょう)してトリニティがヘリコプタを操ってしまう描写がありましたが。あれの代わりに“相棒”人工知能が操作を補佐・簡略化してくれるというイメージを持っていただけると近いかと。
その威力を疑っておいでの方には。
ラジコン・ヘリコプタの歴史を振り返ってみれば一目瞭然。
20世紀は6チャンネルのコントローラを手に完全手動で操っていたもので、1機を空中に静止させるだけで一苦労していたものですが。
21世紀の今やドローンの時代です。姿勢制御はほぼ完全に自動化され、操縦ははスマートフォンでさえ可能になるという始末。
それがどれほどの威力を見せてくれるかと言えば。
その威力を顕著に示すのが2017年2月に開かれたスーパーボウル、そのハーフ・タイム・ショウ(※4)でありましょう。レディ・ガガの背景、星のごとく上空に浮かぶ輝点は全てドローンです。これが空中に光の星条旗を描き出すという離れ業を見せてくれます。20世紀にはとても考えられなかった技術的飛躍を、自動制御による補佐・簡略化は可能にしてくれるのです。
自動制御をものにするだけでこの威力です。“相棒”人工知能を味方につけたなら、ヒトとはまさに二人三脚。それぞれ得意な分野を受け持ち、電脳空間を自在に渡り歩くことが出来るようになるでしょう。
かくしてヒトは“相棒”と共に飛躍的な進歩を遂げ、より高度な存在へシフトすることができるであろうという、これは考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
※1 https://theta360.com/ja/
※2 http://www.gizmodo.jp/2017/01/geforce-now-for-mac-and-pc.html
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9_(%E6%98%A0%E7%94%BB)
※4 http://rocketnews24.com/2017/02/06/858496/
著者:中村尚裕
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