28-2.克服――コピィ・ロボットの運用
前項では、コピィ・ロボットの制御について考察しました。
本校では、その運用について考察を巡らせます。
さて2.コピィ・ロボットの記憶を自分に書き戻すことができること。
基本的にコピィ・ロボットは自分の代理です。世間にバレないようにするには、コピィ・ロボットが経験した記憶の書き戻し――要は口裏合わせが欠かせません。
ですが真正面から考えて見るならば。
記憶の書き戻しとは、高度に制御された記憶の操作に他なりません。記憶を操作するとなると、自ずと実現のハードルは上がりそうではあります。
なので、ここでちょっと発想を転換してみましょう。
コピィ・ロボットの記憶を直接脳に書き戻すのではなく、“記憶を追体験する”という手法を考えてみるのです。
追体験ということであればVR(Virtual Reality、仮想現実)が使えます。コピィ・ロボットの記憶を文字通り五感を使って“体験”するわけですね。
ですがよく考えてみると。
そのまま考えれば、コピィ・ロボットの稼働した時間が、そのまま“追体験”に必要な時間となってしまいます。
コピィ・ロボットは経験した現象の何が重要で何が重要でないか、要は優先順位付けができないわけなのですね。そもそも体験に優先順位を付ける権利は主人の側にあるわけですから、ここはありのままを報告するしかないわけです。これでは1日が何時間あっても足りない、ということになりますね。
そこで活用できそうなのが睡眠時間。
睡眠は眠りの浅いノンレム睡眠と眠りの深いレム睡眠を90分ごとに繰り返すそうですが。うちノンレム睡眠では主に肉体を、レム睡眠では主に脳を休ませているのだとか。ではノンレム睡眠の間は脳は何をしているかというと――記憶の整理を行っているというのですね。
ここまで読んでピンときた方は多いと思いますが――要するに私が提案したいのは、睡眠学習(※1)という方法です。
スイスで行われた実験で、興味深い結果が得られています。全く使ったことがない言語(オランダ語)の単語を学ぶのに、起きた状態で記憶するのと、睡眠状態で聞かされるのとでは、記憶の定着率は睡眠状態の方が良かったというものです。
この睡眠学習、まだ諸説ふんぷんの状態ではありますが。
どうも脳が休んでいるノンレム睡眠の状態で聞いた内容が、比較的記憶に残りやすいようなのですね。直後のレム睡眠で整理される記憶に影響を及ぼしているのでしょうか。
ともあれ、ある程度の効果が見込める睡眠学習ですが。暗記にしか効果がないそうです。つまり思考は全く伴わないということになりますね。
よって、睡眠学習は記憶を書き込むするための手法という位置づけに留め、主人が起きてから記憶の優先順位を判断し、重要と思われる現象をVRで追体験――こういうやり方なら、“記憶の書き戻し”は現実的かつそれほど負担にならない形で実現できそうです。
そして3.何より、自分そっくりの容姿を再現すること。
リアルで主人の姿を忠実に再現すること、これは意外と現実的ではありません。
正面から考えてみれば、とんでもない高等技術の塊に見えます。主人の全身をスキャンし、主人の体型に合わせて表面を変形させるというのは、変形機構だけでロボットの体積、そのほとんどを占有してしまいかねません。
とりあえず“全身をスキャンして似姿を作り出す”ということに関しては、すでにある程度の目処がついているようです。
VRMMOものの原典の一つとも言える川原礫先生の『ソードアート・オンライン』(※2)、ここに登場するVRガジェット『ナーヴギア』の“実物”を目指してIBMが取り組んでいるプロジェクトがあります(※3)。
ここで興味深いのは、ユーザの体型を再現するためのスキャン方法。使用しているデヴァイスは市販品の『Kinect』(※4)5台といいます。つまり基礎技術としてはすでにかなりの水準まで到達していることになりますね。
問題はこうやって作り出した主人の似姿をコピィ・ロボット上に再現する、その方法です。
ここで、私が提案したいのはいずれ世界に普及するであろう“電脳化”――いうなれば感覚とネットの接続――の応用です。
ここで言う“電脳化”は、何も肉体を改造するような大仰なものではありません。AR(Augment Reality、拡張現実)とVR(Virtual Reality、仮想現実)を駆使して“操縦感覚”で電脳世界を渡り歩くという“ソフト・ワイアド(Soft Wired、ソフトワイヤード)”です。詳細は『テーマ3.“電脳化”、生身の私も始めたい! ~“その先”にある人工知能との可能性~』で述べさせておりますが。
例えば視覚ならコンタクト・レンズ型の網膜投影機で手軽にAR・VRを実現することが可能です。つまり手軽に“電脳化”が可能であること、これはあまねくヒトが等しく“電脳化”の出発点に立てることを意味します。――ならば普及は時間の問題、ここはこの“電脳化”を応用するわけです。
ヒトがあまねく“電脳化”を果たしたなら、今度は容姿を自由に変えることが可能になります。この辺の詳細は『テーマ11.今日まとうのはどのアヴァター? ~“電脳化”がもたらす容姿の可能性~』に譲るとして、要はこういうことです――“電脳化”した世界において、ヒトはARとVRの応用で他人の目に映る容姿を変えることができるのです。自分好みの姿を周囲の視覚へ送り出すというわけですね。果ては自由な姿――アヴァターをまとっても構わないということになります。
ここまで来てピンときた方も多いことでしょう。
コピィ・ロボットには主人そっくりのアヴァターをまとわせればいいのです。リアルのコピィ・ロボット本体はのっぺらぼうで構わないのです。ただ周囲の視覚へ主人の似姿を映し出せば、ことは済むのです。
かくしてコピィ・ロボットの実現はあながち夢物語ではないという。これは考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【脚注】
※1 http://kaiminmania.com/archives/155
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3
※3 http://d.hatena.ne.jp/shi3z/20160318/1458256143
※4 http://d.hatena.ne.jp/keyword/Kinect
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
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