28-1.ハードル――コピィ・ロボットが必要とするもの
コメント欄、感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。
自分の写し身が作れたなら――そんな欲望を叶えてくれるコピィ・ロボットに憧れた方も多いでしょう。ただの夢物語で終わらせるかどうかはあなた次第と言われたら――?
コピィ・ロボットの明日はどっちだ!?
藤子・F・不二雄先生の『パーマン』(※1)に登場するコピィ・ロボット(コピーロボット)は、ある種憧れの存在でしょう。
鼻のスイッチ一つで自分そっくりな写し身が出現するのです。
今回はこのコピィ・ロボット、その実現の可能性をめぐるちょっとした思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
鼻のスイッチを押すだけで自分の写し身が出来上がる――のみならず、自分の身代わりとして行動してくれるというコピィ・ロボット。
自分の代わりに宿題や仕事をこなしてくれる、そんな便利な存在がいたら――そんな怠け心を満たしてくれる便利な道具、であるかに見えてその実態はさにあらず。
怠け心を抱いてその起動スイッチを押したなら、その怠け心さえをも忠実にコピィしてしまうところが勘どころです。すなわち――怠けようとする主人と一緒になってコピィ・ロボットまでもが怠けようとする、そんなオチが待っています。
ただしやる気を出してみたなら話は別。何せ自分自身のコピィですから、うまくすれば阿吽の呼吸で心強い相棒としても働いてくれそうな存在です。
かくも夢とリスク(?)に溢れたコピィ・ロボットですが。
さてこれを実現しようとしたらどうなるか。
クリアすべきハードルは、次のポイントになるのではないでしょうか。
1.自分の自我を再現すること。
2.コピィ・ロボットの記憶を自分に書き戻すことができること。
3.何より、自分そっくりの容姿を再現すること。
さて、これらの要件を満たすにはどうするか。これから考察を巡らせてみましょう。
まず1.自分の自我を再現すること。
人格情報はスイッチ一つでコピィできるほど簡単なものではなさそうです。
ではどうするか。
こういう考え方はどうでしょう。
自分の自我情報を普段からコピィしておくのです。言うなれば自分の自我を反映させた“人工知能”を普段から育てるわけですね。
ここで“人工知能”が“”付きであることにご注目。現状開発が進む自称“人工知能”は、人工知能本来の“ヒトの知能を人工的に再現する”という目的(※2)を忘れ、“便利な道具”としての道をひた走っている――私などから見ればそのように窺えます。この場合の“人工知能”、ひたすらロボット的に“自分の行動を学習してコピィする”ことに限れば、適役であるかに思われます。そう、自分の行動パターンのみを再現することに限れば、そこそこのレヴェルのものが出来上がりそうではあるのです。
――が。
突発事態が起こった場合はどうでしょう。
自分ならこう考える――そのパターンは学習内容に入っていません。“自分ならではの自律的判断”ができないわけですね。
“自分としての”咄嗟の機転が全く利かない――“人工知能”の限界はここにあります。
そんな場面で馬脚を現しては画竜点睛を欠くというものです。
1997年5月、チェスで世界王者を破ったという“人工知能”『ディープ・ブルー』の決定手は「バグによって導き出された手だった」と開発者自身が明かしています(※3)。決め手となった一手は『ディープ・ブルー』自身が次にどういう手を打てばいいか解らなくなり――そしてランダムで適当に指したというのです。
この時は相手となるヒト――世界王者ゲイリィ・カスパロフを大いに混乱させて成功を収めたからいいようなものの、現実には想定外の場面などいくらでも存在します。そんな時にランダムな選択を取られたのでは、コピィ・ロボットの主人もいい迷惑というもの。
ではどうするか。
あるいはもっと進歩し、人工的にとはいえ一人前の知能として完成された人工知能にこの役割を託したなら。
ここではもはや人工知能に“”は付きません。多様性をも獲得して知性体(=生命種)として覚醒した真の人工知能です。私はこれを“相棒”人工知能と呼んでおりますが。
彼らはもはやヒトのコピィではありえません。実は生命種として生き抜くための必然である多様性を確保したならば、そこには必ず個性が発生するのです。
ちょうど遺伝情報としては全く同一の一卵性双生児を思い浮かべてみて下さい。彼らは、いうなれば自然発生のクローンです。が、彼らには歴然とした個性があります。よく似てはいるものの、その行動には明らかな違い――兄弟姉妹としての棲み分けとでも称すべきものが発生するのです。
この違いを発生させるものが多様性です。主に軽度の多重人格とでも称すればいいでしょうか。場面に応じて自らの個性を変化させるわけですね。
では、その多様性がどう役立つかといえば。
阿吽の呼吸が可能になります。ちょうど相手を知り尽くした女房役が相手の行動パターンを読むように、“あのヒトならこう行動する”というシミュレーションでコピィ・ロボットを操るのです。これなら高度な“真似”が期待できそうではありますね。想定外の事態に対しても、それなりの判断が期待できそうではあります。少なくとも“ランダムな一手”を打たれるよりはマシでしょう。
ですが、頼りすぎるというのも考えものです。
コピィ・ロボットに代理を任せるということは、その間の決定権、言うなれば全権を委任するも同じだということになります。コピィ・ロボットに決定権を委ねすぎると、今度は“真似”――コピィ・ロボットの人格こそが“主人自身の人格”として周囲に認められてしまうことになります。
今度はコピィ・ロボットと主人の主客逆転が起こりかねないというわけですね。意図してか否かは別として、コピィ・ロボットに自分の存在感を“乗っ取られてしまう”わけです。ここのところは要注意。
さてこのコピィ・ロボット、何も自分の代理を務めさせるだけが能ではありません。
逆に、物理的に“自分の相手をさせる”というアイディアもあります。
一人キャッチボール。これは難なくやれそうですが。
一人草野球。得手不得手が同じ――多様性も最小限でしょうから、ポジションの取り合いが起こりそうですね
一人将棋。勝負がつかなくなりそうですが。
リアル自分内会議。自分の中にある気付きを掘り起こすわけですね。
――意外に使い物になるかもしれません。難題を巡って突破口を模索するには、格好の相談相手となってくれる可能性があります。
ではこのコピィ・ロボット、運用のためのハードル残り2つはどう解決するのか。事項ではそこに考察を巡らせてみましょう。
【脚注】
※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E7%9F%A5%E8%83%BD
※3 http://wired.jp/2012/10/03/deep-blue-computer-bug/
著者:中村尚裕
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