27-1.現状のVRが持つもの、そして“人工現実”
コメント欄、感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。
VR(Virtual Reality)によく当てられる“仮想現実”という訳。実のところこれは的を射た表現とは言いかねるようで、実際の意味合いとしては“人工現実”と称する方がニュアンスは近いようです。では、より現実に近い“人工現実”の再現方法を模索するに、思い浮かびますのは“現状で足りていないものを補う”という方法論。さて“人工現実”VRの明日はどっちだ!?
五感を挙げろと問われたら、さてあなたは何と答えますか?
まず視覚――真っ先に思い浮かぶのはまずこれでしょう。
次に聴覚。
触覚も重要ですね。
それから味覚。
最後に――意外に思い出してもらえないことが多いでしょうが――嗅覚。
VR(Virtual Reality、仮想現実)を考える時に、これら五感を刺激する意義は決して軽くありません。
日本語でこそ『Virtual』に“仮想の”という訳をつけることが多いものの、『Virtual Reality』の意味はむしろ“人工現実”の方がニュアンスとしては近いようです。つまりVRとは、“現実感(五感)を人工的に再現すること”という意味合いがむしろ強いわけです。
今回はこの“人工現実としてのVR”、この実現に思いを馳せる思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
さて、この“人工現実”という見方でVR技術に目を向けてみると。
現在のところ重んじられているのは主に視覚、次いで聴覚といったところでしょうか。
視覚に関しては、現在最も力が注がれている方面と言っても過言ではないでしょう。アラウンド・ヴューしかり、立体視しかり、という具合ですね。
現在VRというとRICOH『THETA』(※1)を始めとしたアラウンド・ヴューが主流ですが。これは全周を撮影できる代わりに、“VRの中で移動できない”という欠点があります。
これを高度に発展させると豊田スタジアムの『360°ヴュー』のようなものが出来上がります。2000枚以上の2D画像を集めて“中へ没入して・動き回れる仮想空間”を合成するわけですね(※2、※3)。
それから忘れてはならないのはVR HMD(Head Mount Display、ヘッド・マウント・ディスプレイ)。対応ソフトで360°立体視ができるガジェットとして各種製品が話題に上っていますね。しかもコンテンツによっては(主にゲームでは)中で動き回れるという利点が付いてきます。
ただし欠点としては、一人称視点のゲームが主だけに演出効果が限られているというところがありますね。
この演出効果に関しては、現在意欲的に模索する向きも出てきています。当【SFエッセイ】では『テーマ10.“電脳化”時代のエンタテインメント ~VRとARに見る娯楽の可能性~』で触れましたが、“VR実写映画”という切り口のアプローチを取っている団体も存在します(※4)。この方面はまだまだ発展の余地がありそうですね。
ことほどかように熱くなっている視覚VRですが。
何もVRは視覚だけのものではありません。五感の他の感覚だって、無視していていいわけではないのです。
聴覚VRは、実は深い歴史を持っている――と私は思っております。
聴覚のVRと言えば、何が思い浮かぶかと言ってサラウンド技術。あれは聴覚版VRだと言ってもまず過言ではないでしょう。何せ前後左右から音が飛んで来るのです。最近は上からだって音が降ってきます。これをVRと呼ばずして何と呼べばよいのやら。
その代表格が『DOLBY』ブランド(※5)。この名前やロゴを見聞きしたことのない方がもはや珍しいであろうほどに、『DOLBY』の音響技術は深く根付いています。
要は、限られた数のスピーカで全方向からの音を再現しようというのが『DOLBY』が追求するサラウンド技術――と私は勝手に認識しておりますが。
もともとはカセット・テープ全盛の時代にノイズ低減技術を開発・提供していたDOLBY研究所ですが。後に映像、特に映画のアナログ音声でサラウンド効果を記録する技術を開発します。『ドルビーステレオ』はセンタ・左・右・リアという4ch分の音声を、2chしかないフィルムの音声記録領域(サウンドトラック(※6))へ記録する技術でした。
それが真に花開いたのはデジタル・レコーディングの時代に入ってからではないでしょうか。『ドルビーデジタル』はリアルにサラウンド配置したスピーカ(主に5.1ch。0.1chとは、重低音専用のサブウーファが全音域をサポートしていないことから、このカウントとなるそうです)を使用し、これを駆使して全周からの音を再現するという技術です。家庭用でもDVDに採用され、ホーム・シアタでサラウンドを楽しまれた方も多いようですね。この技術、うまく使えば“スピーカのないところからも音が聞こえる”体験が可能です。まさしく“全周囲から音が聞こえてくる”サラウンド・サウンドというわけですね。
彼らの持つ技術のうち、VRにおそらく最も馴染み深いであろうのが『ドルビーヘッドホン』。2chステレオ再生のヘッドフォンで5.1chサラウンドを体験させてくれる技術ですが、音の『頭内定位』(※7)――つまり音源が頭の中心にあるかのような感覚――これを回避してくれるところが優れものです。実際は頭の中で声が聞こえたら“アブナイヒト”認定ですから、VRで『頭内定位』を回避できるのはなかなか馬鹿にできない利点です。
力技としてはこんな解決法もあるにはあります。サラウンド・ヘッドフォン(※8)――ヘッドフォン内部に本当に10基のドライヴァ(スピーカ)を搭載しているというものです。ですがこれはまさに力技。自ずと限界というものがありますね。
さて視覚と聴覚の上でははこのようにして“人工現実”たるVRを実現できそうではありますが。
では、残りの三感覚はどのようにして再現するのか――そこは次項で考察を巡らせましょう。
【脚注】
※1 http://munesada.com/2015/09/08/blog-6081
※2 http://www.moguravr.com/toyota-stg-vr/
※3 http://www.toyota-stadium.co.jp/view/index.htm
※4 http://www.moguravr.com/noma-vr/
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%9C%E3%83%A9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF
※7 https://monostudio.jp/1452
※8 http://www.4gamer.net/games/023/G002318/20130726110/
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
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