26-1.家電の“ロボット化”“スマート化”は本物か?
感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。
家事を代行してくれる、あるいはそれまで不可能だったことを身近に可能にしてくれる家庭電化製品――略称“家電”。その家電のロボット化という夢を提唱されたのは手塚治虫先生辺りでしょうか。それが昨今、にわかに現実味を帯びて市場を賑わして来ています。
ただ、それは“本物”なのか? ロボット化する家電の明日はどっちだ!?
家電(正確には“家庭電化製品”ですね)の“ロボット化、スマート化が進んでいる”ことになっています。
実はこの“ロボット”という単語、厳密な定義は存在しないそうですが、“人に代わって作業(労働)をするために作られた存在”というのが最大公約数的な認識として間違ってはいないものと思われます(※1)。
『ロボット(Robot)』の名付け親はカレル・チャペック氏(※2)、最初に登場したのは戯曲『R.U.R.(ロッサム万能ロボット商会)』(1920年)と言われています。ここで彼が引いた語源はチェコ語で『強制労働』を表す『robota』であるとのこと。これを考えると、“ロボット=人に代わって作業(労働)をするために作られた存在”という考えはあながち的を外していないことになりますね。
さてこのロボット家電。
先駆けはもちろん、iRobotのロボット掃除機『Roomba』(※3)であることに異論を挟む余地はないでしょう。
“床(の塵、埃)を勝手に掃除してくれる”というコンセプトです。まさに“掃除ロボット”ですね。
以降、これに続けとばかりに様々な自称“ロボット家電”“スマート家電”が登場しますが。
例えば近々では。
シャープのオーブン・レンジ『ヘルシオ』であるとか、防犯カメラ『Netatomo Presence』であるとか、ファミリーイナダのマッサージチェア『ルピナス』であるとかに“人工知能”が組み込まれて大々的に売り出されています(※4)。
――が。
意外にこれという逸物がありません。
どうも搭載機能を爆発的に増やして、それをヒトではなく“人工知能”に制御させることにして、ヒトの側は目的や望む結果だけを入力する――そんな考え方になっているようなのですね。
何かが違っていると思うのです。
搭載機能がどうとか、“埋められる堀から埋めていく”感じではないはずなのです。要るか要らないかわからないような機能は、故障のリスクを増やすだけに過ぎません。
ではそもそもロボット化の意義とは何か、これに考えを巡らせてみると。
“ヒトに代わって何かをやってくれること”でこそあれ、いたずらに機能を増やしてヒトの頭と手を煩わせることではないはずなのです。
あるいはヒトにできない、あるいは容易に真似できない何かをやってみせてくれるか。
その点、黎明期の洗濯機は画期的だったと言えましょう。冷蔵庫もまた然り。TVもやはり同様です。つまり“ヒトの代わりに何かをやってのける”家電を称して『三種の神器』とはうまく喩えたものです(※5)。
1950年台にもてはやされた家電版『三種の神器』とは、あるいは洗濯・脱水という重労働からヒトを解放し、あるいはモノを常温から遠ざける――しかも冷やすという容易ならざる方向への変化を家庭へ持ち込み、あるいは遠方の映像を捉えて映し出すという、いずれもそれまでの常識を覆す便利さをもたらしたものです。
近くの例では、食器洗浄機とデジタル・カメラ、そしてカメラ付き携帯電話(後にスマートフォンとして花開く可能性)をして『小泉純一郎版三種の神器』というのがありますね。これらも新たなニーズを切り拓いたという意味で、その名に相応しい製品群と捉えることができましょう。
では“ロボット家電”の名に相応しい姿とは何か。次項ではこれについて考察を巡らせてみましょう。
【脚注】
※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%83%E3%83%88
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%9A%E3%83%83%E3%82%AF
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%83%90_(%E6%8E%83%E9%99%A4%E6%A9%9F)
※4 https://nikkan-spa.jp/1261074
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%A8%AE%E3%81%AE%E7%A5%9E%E5%99%A8_(%E9%9B%BB%E5%8C%96%E8%A3%BD%E5%93%81)
著者:中村尚裕
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