24-2.才能の発掘と英才教育
前項では、英才教育を広く施す意義について考えてみました。
本項では、その方法について考察を巡らせます。
日本の公的教育費はOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development、経済協力開発機構)(※1)加盟国で最低水準(※2)という不名誉な現実があります。国家主導の“電脳化”、これの推進はあまり期待できそうにはありません
――が。英才教育が国主体でないと浸透しないような事業かと言えば、その思い込みにだって疑問ではあるのです。
例えば高等教育(高校、大学、あるいは一級の塾講師の抗議)。これは現在のネット環境においてさえ、動画で受けることが可能です(※3)。
質疑応答はメールやメッセージでも可能です。これがネットの生配信であれば、リアルタイムでの質疑応答だって可能になります。
教育は、いずれ学校の専売特許ではなくなるでしょう。インターネット環境さえ充実させれば、教育の水準だって一気に引き上げることが可能になるのです。もはやヒトの側がその可能性に気付くか否か、問題はそこでしかありません。
確かに基礎教育は必要です。そもそも文字が読めなければネットに溢れる情報も無用の長物に成り下がります。
また社会性を育成するという意味でも、集団生活たる学校の立ち位置は無視できません。
が、そこに馴染めないからといって才能をスポイルする必要もまた、ないのです。
かのトーマス・エジソンは、学校では“劣等生”だった――というのは有名なエピソードです。逆に、“劣等生”の中にこそ天才が隠れている可能性――これだって誰も否定できないわけです。
よく考えてみるに、ヒトの才能というものは実に多岐にわたります。これを“国語・算数・理科・社会・英語”たった5つのパラメータで計ろうというのがそもそも間違っているのです。よって――才能の発掘と育成という意味において――ここに現在の日本の学校教育は大きな問題を抱えていることになります。
ならば。
情操教育の段階、すなわち幼いころからAR・VRを始めとした“電脳化”教育環境に慣らしてしまえばどうでしょう。天才のような、集団にスポイルされてしまいがちな才能は、特に。
つまり既存の学校に頼らない教育インフラを構築してしまえば、才能を発掘し得る機会は確実に増えるのです。
実際に体験しなければ解らないこと、これがあるのは間違いありません。ですが、座学やAR・VRでかなりの部分が補えるのもまた確か。ここに高度なAR・VRを投入すれば、“体験学習”というもののかなりの部分が補えることになります。
“ソフト・ワイアド”の“電脳化”世界においては、基礎教育ですら遠隔地で行うことも不可能ではありません。
これが意味するところは何か。
才能は地域――果ては国に頼らずとも発掘し得るということです。
「いやいやARやVR自体が金持ちの道楽だし」という突っ込みは、もはやいつまでも通用するものでもないでしょう。
例えばVR機器一つとっても。
1989年の『EyePhone』は9400ドル(つまり100万円超え)の初期投資を要するシステムでした。
2017年初現在の、例えば『PlayStation 4』と『PlayStation VR』の組み合わせは、合計で約10万円未満の初期投資でVR体験が可能です。
ハイエンドを追求しないのなら『Google CardBoard』(※4)という選択肢もあります。これに至ってはお手持ちのスマートフォンに加えることボール紙(!)で実現可能というお手軽さ。
VR導入のハードルはものすごい勢いで下がっているのです。“電脳化”世界のハードルもまた然り。万人が“ソフト・ワイアド”で“電脳化”する世界、その到来は決して遠い未来のことではないのです。
いやいや俺の才能ニッチだし――そういうことであきらめる必要もありません。
ロング・テイル(Long Tail、ロングテール)(※5)という現象があります。もともとはネット通信販売の用語ですが、要約すればこういうことです――ネットで広く繋がれば、いかにニッチでも需要と供給は繋がる。
ここで“需要”を“才能”に、“供給”を“英才教育”に置き換えたとしたなら、どんな景色が見えてくるでしょう?
――どんな才能も分野の壁を超えて育成することができるのです。
すでに芽吹いている“電脳化”、しかも誰もが等しくスタート・ラインに立てる“ソフト・ワイアド”の果て、ヒトは己の才能を開花させることが可能になるのです。
そうやって発掘された才能は、国の――ひいては世界の頭脳レヴェルを引き上げることになるであろうという、これは考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【脚注】
※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8D%94%E5%8A%9B%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%A9%9F%E6%A7%8B
※2 https://matome.naver.jp/odai/2148022212397049601
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E5%A4%A7%E5%AD%A6
※4 https://ja.wikipedia.org/wiki/Google_Cardboard
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%AB
著者:中村尚裕
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