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【SFエッセイ】連載版 完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~科学とヒトの可能性~  作者: 中村尚裕
テーマ23.もっと手軽にVRとAR! ~VRとARの普及を加速する可能性~
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23-2.普及の加速――発想の転換

 前項では、2017年初時点でVRを取り巻く環境を振り返りました。

 本項では、ARとVRを思う存分楽しめるまでの道のりと、それを解決するやり方――これに考察を巡らせます。


 まず現状の姿として、VRの運用スタイルを頭に描いてみてください。

 ハイエンドのハードウェア(PCやゲーム機)を部屋に据え置き、そこからHMDやウェアラブル・デヴァイスへケーブル類を伸ばしてVR世界へダイヴ――という姿です。

 これの何が問題かと言って、軽く考えただけでも以下の点が挙げられます。


 1.ハードウェアとディスプレイを繋ぐケーブルで動きを制限される

 2.視界がほぼ正面に限られる(側頭方向――つまり横が見えない)

 3.ハードウェアの演算リソースが膨大に消費される(つまり高価)


 まず1.ハードウェアとディスプレイを繋ぐケーブルで動きを制限される――これについて。


 ここで、ちょっと考えてみましょう。

 そもそも“ハードウェア(PCやゲーム機)とディスプレイ(HMD)を有線で直結しなければならない”――とは誰も言っていないのです。


 無線接続のディスプレイという考え方で行けば、『Miracast』(※1)という規格がWi-Fi規格の一環としてすでに策定されています。要するに、無線LANを活用した無線ディスプレイ技術ですね。

 詰まるところ、ディスプレイをPCやゲーム機本体へ有線で直結しなければならない理由は、もはやどこにもないのです。


 よってまず問題点1.――これは大して難なくクリアできそうですね。


 さて次。2.視界がほぼ正面に限られる(側頭方向――つまり横が見られない)――これについて。


 HMDという思想はディスプレイ(Display)を“頭(Head)”に固定(Mount)するというものです。言葉を変えると、頭の中の一部分――眼球による視点移動、これはほとんど考慮されていないことになります。


 これを解決するには、ディスプレイの固定場所を変える必要が出てきます。つまり眼球に装着するわけですね。

 ここで嫌悪感を抱く向きもお有りでしょう――ですが。眼球に装着するガジェットそのものは、すでに広く普及しています。


 それはコンタクト・レンズです。


 コンタクト・レンズ型のガジェットなら、視覚にVR・AR映像を重ねることはもちろん、視点の動きを追うことも容易です。これはARガジェットとしてではありますが、こんなガジェットが実用化まで秒読み段階に入っています。“スマート・コンタクト・レンズ”(※2)。視野にCGを写し込むことも可能、しかも電力は瞬きによる発電でまかなうという優れものです。

 私の考えるディスプレイはこれを発展させたものとお考えください。詳細は『テーマ11.今日まとうのはどのアヴァター? ~“電脳化”がもたらす容姿の可能性~』をご覧いただくとして。

 要は、透明である必要はないのです。

 極薄のカメラを搭載し、外景を一旦撮影してからVR・AR処理を施し、網膜へ合成映像を投射すればいいのです。言うなればEMD(Eye Mount Display、アイ・マウント・ディスプレイ)とでも呼ぶべき考え方ですね。これなら普段はARモードで現実を拡張し、いざVRモードに入るとしたなら外界の景色を遮断すればいいわけです。

 VR・AR処理が膨大じゃないか――そういう疑問はごもっとも。ですが、そのために問題点1.の解決法があります。つまりハードウェア本体とディスプレイを切り離してしまうわけですね。


 かくして問題点2.――これもそう時を経ずして解決されるものと考えられます。


 そして3.ハードウェアの演算リソースが膨大に消費される(つまり高価)――これについて。


 リッチなコンテンツを求めた結果として、演算リソースが膨大に膨れ上がるのは当然の帰結です。

 高価だわ熱いわ重いわ、こんなものを据え置いて、動き回れるのがせいぜい自分の部屋止まり? ――そういうご不満もごもっとも。


 ですが、お気付きでしょうか――先の問題点1.を考察する過程において、実は重要なヒントが提示されていることに。

 ハードウェアはディスプレイから切り離すことに成功しましたね。

 ではその発展形として――ハードウェアをいっそ自分の部屋から切り離すとしたらどうでしょう?


 利用するのは既存のネット回線です。ハードウェアは専門業者のデータ・センタに預けておいて――いっそ月額制でリースするというのはどうでしょう?

 PaaS(Platform as a Service)という考え方があります(※3)。

 要は、ハードウェア(演算リソース)を自前で持たず、ただ入力データと結果だけをネット上に置いたハードウェアとやり取りするというものです。


 ネット回線が充分に太ければ、何もあり得ない話ではありません。そもそもインターネットの通信回線にしてからが、月間いくらのリース契約と考えることもできるわけです。

 あんな大規模な通信回線、自分で一から敷こうとしたら気の遠くなるようなコストと手間と専門知識が必要になります。一方、リースという形であれば、整備も改良も専門業者に丸投げで任せられます。専門知識も要りません。

 手元から送るデータも最小限、ほとんどはクラウドに預けておいて、リアルタイムで得られるデータだけ回線に乗せればいいわけです。肉体に直接関わる入出力、これ以外はほぼクラウド上で完結してしまうというスタイルです。

 そんな簡単に行くものなの? ――そうお思いのそこのあなた。4K動画を今にもリアルタイムでネット配信しようかという勢いのこの業界のことです。VR・AR処理した映像をリアルタイムでやり取りするまでに、そう時間がかかるとも思えません。


 かくして、問題点3.――これも解決は前倒しできそうな見通しは立ちます。


 では外部のハードウェア(演算リソース)が万能かというと。

 必ずしもそうとは限りません。


 例えば月額コスト。

 回線そのものは仕方ないとしても、どうしたって技術者の食い扶持、これの分だけコストは上乗せされます。それにハードウェア、これの性能向上に伴う更新費用だって上乗せされて当然です。

 よって自作PCのごとく、ハードウェアを自前で用意するヒトが出てきてもおかしくありません。確かに部品のコストはかかるけれど、専門知識も必要になるけれど、ハードウェアにかかる技術料だけは安く抑えることができるわけです。


 例えばネットから隔離された時――災害時などがこれに当たるでしょう。その時はオフラインでも稼働できる携帯端末が活躍するであろうこと、想像に難くありません。


 なので、行き着く先はオフラインでも稼働できる姿――VR・AR処理も余裕でこなせるレヴェルの携帯端末、これの誕生でしょう。


 ですがAR・VRを十全に楽しむためには、必ずしもそこまで待つ必要が有るわけではないという、これは考証なのです。


 さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。


【脚注】

※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/Miracast

※2 http://iphone-mania.jp/news-141044/

※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/Platform_as_a_Service





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/

無断転載は固く禁じます。

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