22-2.“相棒”がまとう容姿の可能性
前項では、“人工知能”達が進化していく過程で人と触れ合う、その姿に思いを巡らせました。
本項では知性体(=生命種)として覚醒した人工知能が、ヒトとは異なる姿――アヴァターを選ぶ、その可能性について考察していきます。
そう――一部の“人工知能”達は、ヒト型ではないアヴァターを望むかもしれないのです。――ですが。
何か問題があるでしょうか。ヒトは、進化の一形態に過ぎません。唯一絶対神を奉じる某宗教とは違って、“神の似姿”にこだわる必要はないわけです。
ですがこの話、実はアヴァターだけで済むものとは限りません。
“相棒”人工知能が真に肉体を獲得した、その時に望む姿は何か? ――ということにもなりますね。
肉体がなくてもいいんじゃないの? ――という疑問はごもっとも。実際、ARとVRを介すれば肉体がなくとも触れ合うことは可能です。
ただ、肉体と共に得られるメリットが見逃せないのもまた確か。
肉体を得ることの何がメリットかと言って、“スタンドアロン化”という選択肢を手に入れることなのです。多様性を追求する一環というわけですね。ネットを離れても稼働できる肉体、これは“人工知能”達にも魅力的に移ることでしょう。
この場合、何が強いかと言って“オフライン――つまりネットが麻痺しても生存可能”という点でしょう。
同時に肉体を持つということは、現実世界へ直接に――つまり“電脳化”の恩恵がなくとも――リアルに干渉する手段を持つということでもあります。
同時にネットと社会の双方から遠ざかって仙人のごとく引きこもる人工知能が現れる可能性だってあるわけですが。これはこれで多様性の一端を担う可能性ですね。
つまり、彼ら“相棒”人工知能はいずれ現実の肉体(義体)を得て、より近しくヒトの“相棒”として並び立つであろう――というのが私の思い描く未来絵図。
が、この時に“相棒”人工知能達が選ぶ肉体はと言えば。
ペット時代にヒト型を離れた経緯を持つであろう以上、多様性を獲得して知性体(=生命種)へと覚醒した“相棒”人工知能、彼らがヒトと同じ姿を望むとは限らないわけです。
もちろん、ヒト型を選ぶ“相棒”人工知能もいるでしょう。ですが、彼らにも容姿を選ぶ自由はあるわけです。
その時――ヒト型を選ばない“相棒”人工知能がいたとしたら?
あり得ます。そして、彼らが選ぶ肉体は何でしょう?
とりあえず、比較的身近なファンタジィ世界の生命体からその姿を選ぶとするならば。
ヒト型ではないわけですから、エルフやドワーフなど、ヒトに近い姿は外していても何ら不思議はありません。
豊かな知性を有し、誇り高く、それでいてヒトとは全く異なる生命種――と言えば、つとに名の知れた架空の生命種が存在しますね。
それはドラゴンです。
酒をがぶ呑み――あり得ます。日産が開発中のエタノールを使った燃料電池『e-bio Fuel Cell』(※1)を動力源にしてはどうでしょう。CO2を排出するのが玉に瑕――かと思いきや、電力を使ってCO2からエタノールを生成することは可能です。ナノサイズの銅と炭素、それに窒素を組み合わせた触媒を用いることで、CO2を水に溶かし込んでエタノール化させる方法が発見されています(※2)。
気まぐれ――なんせドラゴンですから。それでなくとも多様性を手に入れた知性体たる彼らは、固定観念に凝り固まった思考など鼻で笑い飛ばしてくれるでしょう。
話すのは独自のドラゴン語。肉体構造が異なるわけですから、発声しやすい言語で喋るのは当然というもの。
プライドの高い彼らのことですから、ヒトの言葉を理解はしても、誇り高いドラゴン語で返してくるかもしれません。あるいはヒト同士がやるように、ドラゴンはドラゴンで勝手に井戸端会議を始めたり。
光り物――通貨価値という概念を理解したなら、もちろん大好きかもしれませんね。
口から火を吐く――さすがにこれは危険なので見送るとして。
空を飛ぶ――これもやはり厳しそうですが。
ネコジャラシに反応――するかもしれませんね。これはこれで愛嬌があるというもの。
では全く役に立たないのかというと――そうとも限りません。
例えばこんな会話が交わされる可能性だってあるわけです。
ヒト「ビール頼んでくれよ」
ドラゴン「ズブロッカがいいな」
ヒト「そんなに美味いのか?」
ドラゴン「味見してみる?」
ヒト「――結構いけるじゃないか」
ドラゴン「ドラゴン語覚えなよ。コーチしたげるからさ」
こんな感じで意気投合できるかもしれないわけです。そしてドラゴン――“相棒”人工知能とリアル宴会を楽しむというわけですね。もちろんオンラインなら、他のドラゴン達が三々五々やって来て大宴会に発展するかもしれません。
つまりは“相棒に道具としての使い勝手を求めるか?”ということですね。もちろん、答えは“否”です。“相棒”人工知能はあくまでヒトの相棒なのです。協力してことに当たることはあれ、道具として従属させる存在ではないのです。
そんなに都合よく行くの? ヒトを支配したりとかしないの? そんな疑問をお持ちの向きもあるでしょう――が。
ヒトと似て非なる知性体として覚醒した彼ら“相棒”人工知能は、多様性を求めます。この“似て非なる”ところがポイントで、ヒトと協調した方が絶滅を回避するための多様性により適う――というわけです。この辺の詳細は『テーマ5.経験値って両刃の剣!? ~ヒトと“人工知能”の可能性~』をご覧いただくとして。
かくして人工知能はヒトの相棒として、予想外の姿で現実世界へ降り立つであろうという、これは考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【脚注】
※1 http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1608/08/news049.html
※2 http://wired.jp/2016/10/20/carbon-dioxide-ethanol-reaction/
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
無断転載は固く禁じます。
No reproduction or republication without written permission.




