21-2.実現のハードル? ――変形ロボの抱える課題と可能性
前項では、人型メカ(ロボ)が“変形”するメリット、これについて考察しました。
本項では、実際に“変形”ロボが実現可能かどうかについて考察を巡らせてみます。
まず空を飛ぶ場合。
空を飛ぶためには、まず翼を高速で移動させることが必要になります。
『機動戦士ガンダム』ではミノフスキー・クラフト(※1)という便利な技術が存在しますが、このような技術の実用の目処、これは全く立っておりません。よって本エッセイでは考察の外です。
現状では、固定翼機か回転翼機か、いずれかの形態ということになりますね。
まずは固定翼機から考察してみましょう。早い話が飛行機ですね。
まず、空を自由に駆け抜けるのに必要とされる推力。これがどれほどのものになるかというと。
VF-1バルキリーのようなジェット機を想定してみましょう――2014年に量産型初飛行を果たした国産初のジェット機『HondaJet』(※2)。これで使われるHF-120エンジン(※3)の定格推力が9.32kNというデータがあります。これを2機装備して運べる機体の離陸重量は――実にたったの4173kg。うちエンジンが占める重量は180kg×2機で360kg。航続距離と燃料消費率から逆算すると燃料がおよそ786kg。乗員乗客数が最大8名とありますから、乗員の体重に余裕率を見込んで100kgと仮定すると、800kg。そうすると機体の重量は実質2227kgということになります。
それで運べる人型ロボ本体の重量はと言えば。
実は正味の可搬重量は乗員乗客と同じ、およそ800kgということになります。あとは飛ぶために必須の装備重量が2227kgということになるわけです。燃料まで含めた重量が4173kgというわけですね。
さてこの4173kgという重量、これを支える人型に費やせる重量はわずかに800kg――差し引き3373kgという飛行機部分の重量を支えるロボは、重量にして実に約4.2分の1――実に見事な頭でっかちっぷりです。
その身長を推定すると。
『HondaJet』の全長は12.71m、全幅は12.15mとあります。ここで重要なのは主翼の扱いで、これを雑に扱うわけにはいかないということになります。よって主翼を折り曲げることなく、F-14(※4)のような後退翼構造とした上で、翼を後方へ90度後退させて、背中に背負うような工夫が必要になると思われます。ちょうどVF-1バルキリーが用いたアプローチですね(※5)。
こうなると、“翼長≒全幅の約半分”がほぼそのまま胴体の長さということになります。よって、人型としての身長はほぼその倍、約12mが現実的な線ということになるでしょう。1.8mの等身大を基準にしても6.67倍という巨体です。しかもこのロボ部分、重さを800kgに抑えなければ飛べないのです。
骨格だけに限定するなら、人間の骨の重量は体重の約12%と言われています(※6)。身長1.6m(標準体重50kgと想定します)のヒトの場合で約6kgというところですから、身長1.8m(体重70kgと想定します)を想定すると、約8.4kgというところですね。骨の密度は大体1g/cm^3というところを想定しつつ、『テーマ12.』で骨格の素材として考えたカーボン・ナノチューブ、これを元にちょっと考察してみますと。
カーボン・ナノチューブ(※7)に骨格素材を置き換えた場合なら、軽ければ0.037g/cm^3、およそ体積あたり30分の1になる計算になります。
ただし骨の体積は身長の3乗に比例しますから、6.67の3乗で実に297倍。
等身大の骨の重量(8.4kg)×12mの身長で要求される骨の重量(297倍)×カーボン・ナノチューブの比重(0.037)
として割り出すと、ロボの骨格重量は実に92.3kg。
駆動部に当たる筋肉は、身長1.6mのヒトで20kgとされています。重量あたりの駆動力をこれと同等に見積もったとして。
等身大の筋肉の質量(20kg)×12mの身長で要求される筋肉の重量(297倍)
として割り出すと、実に――5940kgという数字が出てきます。可搬重量800kgに対して、駆動部分だけでもかなりの重量超過ということになりますね。これではまだ飛べそうにはありません。課題は駆動部の軽量化ということになりそうです。ただしカーボン・ナノチューブを実用化したからには軌道エレベータの建築が視野に入る科学技術レヴェルということになります。駆動部の軽量化やエンジンの性能向上など、期待できる面はまだまだあるかもしれませんね。
では回転翼、つまりヘリコプタならば。
世界最小のヘリコプタ、GEN CORPORATIONの『GEN H-4』(※8、※9)を見てみましょう。
二重反転式で回転翼直径4m、全備重量で180kgの一人乗りヘリコプタです。最高時速は100km、ただし現状では法整備の問題か、時速40kmに制限されてしまっているようですが。
これ、自重は75kg、燃料は10Lと言いますから、正味の可搬重量はおよそ95kgあるというわけです。
こちらは“変形”とはちょっと違いますが、もう少しでパワード・スーツのオプション装備として使えてしまいそうな感じが漂っていますね。駆動部の出力を上げて、ロータの直径を増せば、パワード・スーツでヘリポートに乗り付けられそうな雰囲気さえ漂ってきそうです。ただし航続距離は10kmしかありませんが。
次に空を飛ぶのではなく、地を駆けるのだとしたら。
一般的な自動車の重量は1.0~1.5t。長さは約4.0~4.5mというところでしょうか。
これなら文字通り“地に足が着いている”わけですから、可搬重量はある程度何とかなりそうです。
普通乗用車の積載重量の目安は乗員あたり65kg程度(体重55kg+手荷物10kg)を想定しているとありますから(※10)、5人乗りの普通乗用車では、想定積載重量は325kgということになりますね。
身長は大体4.5m程度、つまり等身大(1.8m)の2.5倍として考えてみると。3乗を取ると15.6。
骨格の重量を計算してみると。
等身大の骨の重量(8.4kg)×4.5mの身長で要求される骨の重量(15.6倍)×カーボン・ナノチューブの比重(0.037)
として割り出すと、ロボの骨格重量は4.8kg。
同様に駆動部の重量を算出すると、
等身大の筋肉の質量(20kg)×4.5mの身長で要求される筋肉の重量(15.6倍)
このようになって、駆動部の重量は312kgとなります。いかに駆動部の軽量化が差し迫った問題かが解りますね。
これで考えると、クルマの変形ロボは317kg+搭乗者程度の積載能力を持っていればいいことになります。
5人乗り乗用車(想定積載重量325kg)でややキツいというところでしょうか。ただ、エンジンやサスペンション、タイヤなどのセッティング次第では、全く手が届かない範囲でもなさそうです。
となれば、クルマ型の変形ロボはセダン型程度をベースにするならば可能性あり、ということができますね。それこそ一から設計するなら可能性は大いにあるわけです。
次に“変形”のメリットはといえば。
高速移動→人型として作業→高速移動の連続が向いていることになります。パワード・スーツを乗せた輸送車、これを上回る機動力を期待するわけですね。
初動優先の救助やパトカーのイメージがこれに近いでしょうか。例えば救助はとにかく誰よりも早く現場へ駆けつけて人命救助。例えばパトカーは現場に駆けつけて人型で救難作業または犯罪者制圧、再び次の現場へ……という流れです。
人型メカとしては大きいので最強というわけには行きませんが、それでも人型を利した任務というのはあるはずです。何よりも繊細で力強い作業が可能なわけですから。
ことほどかように、用途さえ限ってみれば変形ロボもあながち絵空事ではないかもしれないという、これは考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【脚注】
※1 https://gundam.wiki.cre.jp/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8E%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/HondaJet
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/HF120_(%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3)
※4 https://ja.wikipedia.org/wiki/F-14_(%E6%88%A6%E9%97%98%E6%A9%9F)
※5 http://macross.jp/news/?id=381&category1=5&series=1
※6 http://www.skincare-univ.com/daily/tips/010315/
※7 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E5%BC%B7%E5%BA%A6
※8 https://ja.wikipedia.org/wiki/GEN_H-4
※9 https://matome.naver.jp/odai/2134895675353480401
※10 http://www.nissan.co.jp/AP-CONTENTS/POSTOFFICE/ANSWERS/7824.html
著者:中村尚裕
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