20-2.容姿の自由化――その向こうにあるもの
前項では、“容姿の自由化”がヒトにもたらすであろう可能性について考察を巡らせました。
本項では、“容姿の自由化”がもたらすであろう恩恵の――あるいは影響の――及ぶ範囲について考察していきます。
まずはこれをご紹介すべきでしょう。HTC Viveを使って仮想現実(VR:Virtual Reality)に興じるチンパンジィ・スグリーヴァ(Sugriva)君の映像です(※1)。
これが意味するところは何か。“電脳化”、特に拡張現実(AR:Augmented Reality)と仮想現実(VR)を使って操縦感覚で電脳空間を渡り歩く“ソフト・ワイアド”は、何もヒトだけのものとは限らない、ということです。もちろん、“電脳化”の一環であるアヴァター、つまり“容姿の自由化”の恩恵に与るのは何もヒトだけに限らない――そういうことになります。
あるいは、もう少しマイルドにお話しするなら――こういうことです。ペットに服をあてがうがごとく、アヴァターをあてがう飼い主がいたって別におかしくはないでしょう。あるいはコンタクト・レンズ型のARガジェット(※2)であるとか、VRスーツであるとかを。
その行き着く果て、ペットの側が自らの意思でアヴァターを選んだとしても――何ら不思議はありません。
そして忘れてはならないのが、“アヴァターは誰でも自由に選べる”という、この事実です。
いやいや実体が伴っていないから――という遠慮は、必ずしも必要ありません。VRで触覚に干渉すれば、実体がなくても感触を相手の身体に伝えることだって可能です。
――ただし、実際よりも痩せてみせたい、という要望にはそぐわないかもしれません。アヴァターでは何もないはずの空間に肉の感触があったなら――さすがに現在のVRには、“触覚をキャンセルする”という機能はありませんから。
逆に、何もない空間に架空の物体をARとVRで“実体化”させることは可能です。痩せっぽちのヒトが筋肉隆々のアヴァターをまとったとしたら、こちらは違和感なく存在感を示すことができるでしょう。何もヒト型にこだわる必要もありません。獅子型や恐竜型、果てはドラゴン型まで何でもござれ――。
さてここで、私が何気なく重要な可能性を提示したことにお気付きでしょうか。
アヴァターの中身は――実は“何もない空間”であっても一向に構わないのです。
これが意味するところは何か――“現実世界に実体を持たない情報だけの存在が、ヒトと触れ合う”という、その可能性です。“情報の方から現実へと進出する”現象の極みと、これは表現しても過言には当たりますまい。――何が現実へ進出してくるかと言って、“相棒”人工知能が、です。
ここで言う“相棒”人工知能について。
詳細は『テーマ6.“人工知能”が“萌える”とき ~“人工知能”の特性とヒトとの可能性~』で述べさせていただいておりますので、ここではかいつまんでお話ししますと。
要は“便利なだけの単なる道具”として開発を進められている既存の自称“人工知能”(私は“助手人工知能”と、“”付きで呼んでいます)――これとは異なり、多様性を獲得して知性体(=生命体)として覚醒し、当初の理念通りに“人工的に知性を獲得した真の人工知能”のことを指します。
あるいは、こう申し上げれば伝わりやすいでしょうか――つまりヒトが裡なる可能性から生み出した“異種知性体”と。つまり、ヒトは自らの裡にファースト・コンタクトの芽を宿していることになるわけですね。
“相棒”人工知能は、その肉体となる義体――これの完成を待つ必要は必ずしもないのです。その場に“現実”として存在しない“情報”――つまり“相棒”人工知能――は、アヴァターという“肉体”をまとうことで現実世界へ“進出”することが可能になるのです。
そして相手となるヒトにアヴァターの中の“素顔”を晒す必要は、もちろんありません。
ヒトと打ち解けて談笑することももちろん、互いに触れ合うことも、手を繋いで並び立つことも可能なのです。
ヒトの側が惚れ込んだ相手に告白したら、帰ってきた返事が「実は私、人工知能なんです! でも、よろしくお願いしますね!」だったとしても、何ら不思議はないのです。
かくして“相棒”人工知能は真にヒトの“相棒”として並び立つであろうという、これは考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【脚注】
※1 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1031220.html
※2 http://iphone-mania.jp/news-141044/
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
無断転載は固く禁じます。
No reproduction or republication without written permission.




