19-1.人型メカ部隊――データ・リンクの重要性
感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。
人型メカを運用するにあたって、単独判断だけで動くというのはまずあり得ません。同様に、単独運用というのもやはりまたないでしょう。それを考えた時、指揮は果たしてどのように執ることになるのか? 人型メカ部隊指揮の明日はどっちだ!?
人型メカは日本人のロマンです。『テーマ7.最強の人型メカを探れ! ~日本人のロマンとその可能性~』では最強の人型メカの姿を、『テーマ12.日本人は巨大ロボットの夢を見るか? ~日本人が求めるロマンの可能性~』では巨大ロボットに関する考察をそれぞれ巡らせましたが。
実際に(特に戦場で)人型メカを運用するには、多対多――つまり部隊同士を想定した戦術・戦略が必要になるはずです。今回は人型メカの部隊、これの指揮統率に関する思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
戦略と戦術の天才ナポレオン・ボナパルトの遺した格言には、こうあります――“1頭の羊に率いられた100頭の狼の群れは、1頭の狼に率いられた100頭の羊の群れに敗れる”(※1)。
より具体的な話になりますと、こんな話が。ランチェスターの法則(※2)、通信・連携を取らない場合と取り合った場合の効果の比較です。
味方同士で通信・連携を取らないと、戦力は兵力数の1乗に比例(第1法則)するだけですが。
通信・連携を取ると戦力はいきなり跳ね上がり、兵力数の2乗に比例することになります(第2法則)。
これを見るに、いかにして連携を取り合うか――つまりいかに指揮を執るかは、人型メカに限らず、部隊を運用する上で死活問題と言ってもいいでしょう。
具体的には。
戦術データ・リンク(TDIL:Tactical Digital Information Link)――複数の早期警戒管制機(AWACS:Airborne Waring And Control System)(※3)や偵察衛星、果ては軌道エレヴェータ(原理上、重心は静止衛星軌道上にあるため、静止衛星軌道上の監視衛星として機能し得ます)などを用いた監視網と、指揮統率による戦術効果――ランチェスターの第2法則を十全に活かすための方法として、これらの連携は必要不可欠となるはずです。
それどころか、軍事における革命(RMA:Revolution in Military Affairs)の筆頭、情報RMA(※4)という概念があります。例として早期警戒管制機やレーダ基地と連携した戦闘機を挙げましょう。この場合、何が有利かと言って、戦闘機は自らレーダ探知を行うことなく――つまり相手に探知される危険を冒すことなく、敵の位置を知って長射程のミサイルで攻撃を仕掛けることができるわけです。
こうなってくると、情報を駆使・解析して指揮統率に用いるC4I(Command Control Communication Conputer Intelligence)システム(※5)の重要性も真に迫ってくるというものです。
よって、部隊におけるデータ・リンクは、時を経るにつれその重要度を増しているわけです。観測(索敵)、指揮統率をともに行う最前線(戦争に限らず)では特に。
では、そのデータ・リンクには何を乗せるべきか。ざっと考えただけでも、こんな例が思い浮かびます。
1.敵の情報:これが最重要でしょう。敵の位置や移動に関する情報、可能なら装備であるとかの情報があるとなお吉です。何も判っていることだけに限らずとも、隠れていそうな場所を観測して、敵を発見するのは何をおいても最重要事項です。
2.味方の情報:次に重要なのはこれではないでしょうか――味方が今どこにいて何をしているか。これが判らなければ指揮の執りようがありません
3.指揮情報:要するに命令ですね。味方の情報とどちらが上かは悩みどころですが、リンクが分断された際の優先命令を予め与えてあれば、多少の融通は利くはずです。
さて、こういった概念の下では――兵力数、つまり頭数が非常に重要になります。
では、どれだけの頭数を揃えることが可能になるかといえば。
『テーマ7.』ではコストを弾き出せなかった巨大人型メカですが。『テーマ12.』での考察を踏まえるに、巨大人型メカにおいては骨格が非常に重要なコスト要因となること、これは確定事項です。つまり骨格のコストが人型メカのコストのうち大部分を占めるであろうこと、想像に難くありません。
ではこの骨格コスト、単純に体積に比例するものと仮定すれば、コストは少なくとも身長の3乗に比例して増大することになります――実際には大きく作ることはより高い難度を伴うため、大型になるにつれ3乗に比例どころかさらにかさむものと推察されますが。
つまり――どう少なく見積もっても、巨大人型メカは身長の3乗に比例した数の小型人型メカを相手に回すことになります。これら小型人型メカが連携を取ったなら――その時は兵力数の2乗に比例した戦力をもってせねば相手にならないことになります。
つまり身長の5乗に比例した戦力差が必要になるという道理ですね。これでは“可能な限り小型の人型メカが有利に立つ”という図式は揺らがないわけです。
ちょっと待った――というご指摘もあるでしょう。『テーマ7.』で述べた通り、まずジャミングを張るところから戦端は開かれるはずではなかったのか、と。
さてここで考えるべきは。
ジャミング下と隠密行動下、それぞれにおける運用でしょう。
何が違うかと言って、戦端がすでに開かれているか否かの違いです。
本来なら、戦うのは最上の策ではありません。理由は単純、互いに消耗しか招かないからです。
ですが相手が“対立”姿勢を取った果ての果て、アナトール・ラポポート考案するところの“しっぺ返し戦略”(※6)に従って滅びを回避するならば、戦わなければならない時があるのもまた確か。
しかしながら実のところ、戦闘の帰趨は戦端が開かれる前に決してしまっています。
“勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む”――孫子の兵法に謳われている言葉です(※7、※8)。要するに、“勝敗の趨勢は戦う前に決している”ということです。
そこで重要なのが“いざ戦うならば、戦う前に勝つ”という考え方。即ち、戦端が開かれる前に、戦力の配置を万端整えておくこと――これが重要になってくるわけです。
そしていざ戦端が開かれたなら、暴力的なジャミングの嵐の中でいかに勝利を勝ち取るか――ここに焦点が移ることとなるわけです。
なのでまずは戦端が開かれる前の隠密行動、次いで戦端が開かれた後のジャミング下の運用を考えることになります。
これらにつきましては、次項で考察を巡らせることとしましょう。
【脚注】
※1 http://www.a-inquiry.com/ijin/2376.html
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%81%E3%82%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A9%E6%9C%9F%E8%AD%A6%E6%88%92%E7%AE%A1%E5%88%B6%E6%A9%9F
※4 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8D%E4%BA%8B%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E9%9D%A9%E5%91%BD
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/C4I%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%97%E3%81%A3%E3%81%BA%E8%BF%94%E3%81%97%E6%88%A6%E7%95%A5
※7 http://tk2010.seesaa.net/article/149772925.html
※8 http://www.kazuhiro-nagao.com/suntzu/gunkei.html
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
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