2-2.情報が現実へと進出する
まず、ちょっと寄り道を。ですが大事なお話です。
eスポーツと呼ばれる世界が存在します。
日本でこそ出遅れた感が強いものの(ユーザが付いて行けなかっただけ?)、欧米や台湾に中国、それに韓国あたりでは登場するなり爆発的普及を遂げ、プロまで生み出しているジャンルです(事実)。ネット対戦ゲーム(主にPC向けタイトル)の腕前を競う競技で、主としてリアルタイム性の強いタイトルが“競技場”として設定されます。
例えば“Star Craft”シリーズ(RTS:Real Time Strategy)やら“Battle Field”(FPS:First Person Shooting)シリーズやら、“ストリートファイター”シリーズ(格闘ゲーム)に“Need For Speed”(レーシング・ゲーム)シリーズまで多種多様。
これらの“競技場”で、数多の選手達が賞金を懸けて腕を競い合うのです。世界大会まで存在します。そのトップを走る選手の腕前たるやもはや神がかってさえいて、遂には有名選手の名を冠したブランド(主にPCパーツ、もちろんハイエンド機種)までもが、しかも有名メーカをバックにつけて定着するに至っています。
さて本題。ここで先ほど触れました電脳化の肝“ネットを渡り歩く“操縦感覚””という要素が絡んできます。
私が着目するのは、彼らeスポーツのトップを走る人達が持つ、いわば“電脳操縦技術”です。彼らは総じて“ネットに対する“操縦感覚””、ひいては“操縦技術”に長けています。
“ニュータイプ”的能力の獲得が機械とネットを経由してのものである以上、その能力のほどは“電脳操縦技術”に左右されます。つまり““電脳操縦技術”に長けた者が現実世界で優位に立つ”という、つまりは“電脳世界での強者≒現実世界での強者”となる状況が目と鼻の先に転がっているのです。
ここで私が先ほど提示した“肉体改造を伴わない電脳化”が話に絡んできます。
これが意味するところは何か。“誰でも等しく電脳化の恩恵に与れる”ということに他なりません。“電脳操縦技術”の差こそあれ、“肉体的改造を経ずして”“誰だって等しく”電脳世界、ひいては“ニュータイプ”的能力の出発点に立てるのです。肉体的・精神的ハンディキャップによって埋もれていた才能さえ、一気に花開く可能性をはらんでいます。
一例を挙げるなら、“盲目の天才ゲーム・プレイヤ”ともいうべき人物が実在します。優れた“電脳操縦技術”を持つ彼が“ニュータイプ”化した暁には果たして何が起こるやら、可能性のほどはもはや計り知れません。(※1)
ことここに至り、舞台がもはやゲームだけに留まるはずなどありません。ゲームの題材となる現場(スポーツや戦場)、ひいてはあらゆる現実に立つ、あまねくヒト達も例外ではないのです。
現実の勝敗(成功・失敗)の行方を左右する要素として“電脳操縦技術”が加わるのは、もはや時間の問題でしかありません。
スポーツなら、例えばレギュレーションで一時的に何とかなるかも知れません。ですが例えば戦場のような現実となるとルール無用の待ったなし、生き残ってナンボの何でもありです。“ニュータイプ”化とそれに伴う“電脳操作技術”の鍛錬、これらが必須になるのは当然の流れと言えるでしょう。
そうすると、スポーツでも何でも時を経ずして“電脳化あり”のレギュレーションが幅を利かせることとなります。これは間違いありません。
そしてこの電脳化(特にソフト・ワイアド)のもたらすものこそが、先述した“拡張現実という情報の方から現実へと進出する”という状況なのです。
拡張現実によって、人が得られる情報は質・量ともに一変します。
例えば数多ある監視カメラとリンクすれば、物陰に隠れているものがことごとく視えるようになります。例えばIoTを利用すれば、競り合うクルマの運動ヴェクトルや、ひいてはエンジンの調子までもが肌で感じられるようにもなります。あるいは自分を撃とうとする敵兵士の挙動を見抜くことすら不可能ではありません――そう、まるで“ニュータイプ”のごとく。
――“電脳操縦技術”の技量によっては、という但し書きがつきますが。
何せ情報の読み合いが勝負の土俵に上がりますから、“電脳操縦技術”の巧拙が勝負を分けること、疑うべくもありません。
さて、ここでeスポーツの話が再び浮上します。“電脳操縦技術”に長けたトップ選手達が現実の競技、あるいは戦場に参戦したら?
笑って済ませられるのも今のうち。例えばモータ・スポーツなんかが解りやすいと思いますが。
遠隔操作のマシンが次々と記録を更新する可能性は大いにあります。あるいは、ドライヴァ自身が運転技術と“電脳操縦技術”、双方に長けていれば鬼に金棒の組み合わせとなるでしょう。“電脳操縦技術”如何でトップ選手の顔ぶれが一変することだってあり得ます。誰もがeスポーツの“電脳操縦技術”を“たかがゲームだから”と笑えなくなる日が、実はすぐそこまで迫っているのです。
現に軍事では、遠隔操作の偵察機や攻撃機が最前線で活躍しています。これの操縦も“電脳操縦技術”の一環といえましょう。この“電脳操縦技術”の巧拙が遠隔操作兵器どころか一般兵士の生死、ひいては一般市民の日常生活にまで迫ってくるのです。“電脳操縦技術”に優れた者が幅を利かせる世の中は、いずれ避けて通れないものとなるでしょう。
そして、こんな技術もあります。“情報を元に現実の方を動かしてしまう技術”、つまりは“魔法”の誕生ですね。(※2)
この場合、呪文は“インターネット・アドレスと起動コード、そしてパスワード”ということになりますか。意外と笑って済ませられる代物ではないのかもしれませんよ?
ことほどかように、情報はもはや現実の従属物ではありません。ヒトの現実(“ニュータイプ”化という進化)が情報をもはや不可欠のものとしている以上、“情報の方から現実へと進出してくる”という事実も、もはや想像の範囲に留まるものではない――そういう考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【脚注】
※1 http://x51.org/x/05/07/2925.php
※2 http://getnews.jp/archives/1501175
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
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