18-1.現状――“自動運転”へ至る流れ
感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。
『ナイトライダー』で提示された“自ら思考するクルマ”というヴィジョンには、大いに夢をかき立てられるものがあります。そこへ昨今にわかに熱を帯びて語られ始めた“自動運転”というキィワード――さて『ナイトライダー』は実現するのか? “自動運転”の明日はどっちだ!?
このところ世を騒がせているキィワードの一つに“自動運転”というものがあります。
“究極の交通事故防止”であるとか関係者の語る夢は大きいのですが。抱えたその課題を無視してただ楽観、というのも面白くありません。
今回はこの“自動運転”、【SFエッセイ】的な実現へと思いを巡らせる思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
“自動運転”のムーヴメントに火を付けたのは、恐らくこれではないでしょうか――スバル(発表当時は富士重工業)の“ぶつからないクルマ? EyeSight(Ver.2)”(※1)。ぶつかる前にクルマが勝手に停まる、そのヴィジョンにインパクトを受けた方も多いものと思います。“(自動)衝突回避”というこの概念は瞬く間に拡がり、一躍“EyeSight”を時の話題へと押し上げました。
“ぶつかる前に停まれるんなら、ついでに……”というわけでもないでしょうが、EyeSightには次から次へと新たな機能が実装されていきます。
クルーズ・コントロール――つまり前車に一定距離を置いて付いていく自動アクセル制御であったり、AT誤発進制御――つまりアクセルとブレーキの踏み間違い対策であったり……etc.etc.
これ、センサとして用いているのはステレオ・カメラ――早い話が両眼です。レーダを使うわけでもなく、視覚だけで路上のヒトすら見分けて“衝突回避”しようとするわけです。将来的にはレーダも搭載するという噂もあるようですが(※2)、それにしたって視覚だけで相当なレヴェルまで漕ぎ着けたものです。もはや人型メカとかの視覚へ応用することを考えたくなりますね。
これがどのくらい普及しているかと言って、販売台数で言えば実に30万台。しかし何より雄弁にその普及率を物語るのはその値段ではないでしょうか――税別でわずか10万円。実はコッツン事故一発で吹っ飛ぶ金額です。わずかそれだけの金額で重大事故をも回避し得る可能性が買えるとなれば、保険として考えると充分に安いコストと言えませんか?
この「ぶつからない?」プリ・クラッシュ技術、現在では車両メーカ各社がこぞって導入していることからも人気のほどは明らかです。トヨタの『Toyota Safety Sense』(※3)、日産の『プロパイロット』(※4)、本田技研の『Honda SENSING』(※5)、マツダの『i-ACTIVESENSE』(※6)などなど。
これに対する要求がどんどんエスカレートして、“車線中央をキープする”機能であったり、“渋滞時にハンド・ブレーキを自動でかけたり外したりする”機能であったりを実装していくようになるわけです。
その先、“事故を起こさない究極の方策”として謳われ出したのが“自動運転車”(※7)。
その中でぶっちぎりのトップを走っているのは、まず間違いなくGoogleでしょう。『Google セルフ・ドライヴィング・カー』(※8)。
ではすぐにも“自動運転”の時代がやってくるかというと。
恐らく、ことはそう簡単に運びはしないでしょう。乗り越えるべき課題がまだ山積しているからです。
少なくとも、私が認識しているだけでも大きな課題が2つあります。
・道路状況のリアルタイム現状把握。
・不慮の事態に対する対処。
まず道路状況のリアルタイム現状把握。
道路状況を確認するという意味で大きな前進であったのが“カー・ナヴィゲーション・システム”(※9)であるという、この一点においてまず議論の余地はないでしょう。特にGPSを搭載し、“地図上での現在位置を把握する”機能は革命的であったとさえ言えます。
ただ現在あるカー・ナヴィゲーション・システムの何が弱点かと言って、“地図情報が陳腐化していく”ということです。
道路状況は刻々と変化し続けます。
VICS(Vehicle Infomation and Communication System:道路交通情報通信システム)(※10)とかDSRC(Dedicated Short Range Communications:専用狭域通信)(※11)とかで道路状況(特に渋滞情報)をリアルタイムに近い形で補おうとしたのは着眼点として優れていましたが、いかんせん道路の拡充や目印となる建造物の入れ替わりに対応するには、スタンドアロンでは限界があります。
では地図をリアルタイムで更新したら? ――この思想で優れた切り口を示したのが、“スマートフォンを使ったナヴィゲーション”という概念ですね(※12)。要はスマートフォンで普及したモバイル通信回線を使って、周辺地域の地図だけをリアルタイムで供給するわけです。
とはいうものの。
現状の地図で表示できる情報で全てが解決するかというと、さにあらず。
例えば路面の状況。天候に伴う変化(雨に濡れる、雪が積もる)であるとか、さらには路面の劣化であるとかは、意外に馬鹿になりません。
道路は意外に劣化するものです。これが都市高速道路のような主要有料道路ならともかく、ちょっとひなびたところの一般道では路面の道路標示(車線であるとか)がかすれているところなど珍しくもありません。
これは地図情報だけで走ることが未だ危険であること――その一点を示しています。要はカー・ナヴィゲーション・システムというものは、まだ“ヒトの判断を補助する道具”の域を出ていないわけですね。
では全国津々浦々のリアルタイム道路情報を一手に集めてドライヴァに供給したら? ――なるほど、そういう考えは一つの突破口たり得ます。
『ダイナミックマップ』というアイディアがあります(※13)。
要は情報を選り分け、鮮度を特に要求されるもの(クルマやヒトの位置)から簡単には変わらないもの(地図情報など)まで優先順位を割り振り、高い鮮度を求められる情報から積極的に書き換えていく、という思想です。
乱暴に要約するなら、“日本全国のリアルタイム3Dマップ化”ですね。
これだけ聞いていると膨大な労力をつぎ込まなければ実現はなし得ない、というように聞こえますが――実際、紹介させていただいた記事では“オールジャパンでなければなし得ない”とも言われていますし。
ですが、意外とそれほどハードルは高くないのかもしれません。
これについては、次項で考察を巡らせてみましょう。
【脚注】
※1 http://www.subaru.jp/eyesight/
※2 http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/747080.html
※3 http://toyota.jp/information/campaign/anzen_anshin/
※4 http://www2.nissan.co.jp/SERENA/point_propilot.html
※5 http://www.honda.co.jp/safety/technology/
※6 http://www.mazda.com/ja/innovation/technology/safety/
※7 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%8B%95%E9%81%8B%E8%BB%A2%E8%BB%8A
※8 https://ja.wikipedia.org/wiki/Google_%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%AB%E3%83%BC
※9 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%93%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
※10 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%93%E8%B7%AF%E4%BA%A4%E9%80%9A%E6%83%85%E5%A0%B1%E9%80%9A%E4%BF%A1%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0
※11 https://ja.wikipedia.org/wiki/DSRC
※12 http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1504/20/news005.html
※13 http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/keyword/15/050900002/062100011/
著者:中村尚裕
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