17-1.『ジェミノイド』――ヒトの存在感が距離を渡る時
感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。
“電脳化”で義体を遠隔操縦できる、その可能性をかつて述べさせていただきましたが。その逆を考えた時に拓ける可能性とは? 遠隔操縦義体の明日はどっちだ!?
『テーマ14.義体を操れ! ~“電脳化”が世界を揺るがす可能性~』で提案した“義体の遠隔操縦”ですが、何も働くばかりが可能性の全てとは限りません。今回は“義体の遠隔操縦”が秘めた、そのポテンシャルに思いを馳せる思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
石黒浩・大阪大学教授が進めている研究アプローチに『ジェミノイド』(※1)というものがあります。
ヒトに酷似したアンドロイドを開発するとともに、“ヒトの存在感とは一体何であるのか”“ヒトの存在感を遠隔地へ伝達することができるか”を研究するテーマです。
“ヒトの存在感を遠隔地へ伝える”と言えば。
“電脳化”、特に拡張現実(AR:Augmented Reality)と仮想現実(VR:Virtual Reality)を駆使して“操縦感覚で”電脳空間を渡り歩く“ソフト・ワイアド”、これで“義体を操縦感覚で操る”ことの何が利点かと言って、“生身のままという手軽さで遠隔地の義体を“操縦する”ことができる”という点を挙げることができます。この辺の詳細は『テーマ14.』で述べさせていただきましたが。
ここで取り上げた“義体の遠隔操縦”、これがさらなる可能性を秘めているとしたら。
例えばこんな実用例が。最初から最後まで様々なロボットが応対してくれる『変なホテル』(※2)。義体どころかロボットでこのレヴェルの接客ができるのです。これがヒトの操る義体であればどれほどの潜在能力を秘めているか、想像するだに胸が熱くなりますね。
ただし、中途半端に人間臭いとかえって嫌われる傾向があるようで。
ロボット工学の森政弘・東京工業大学名誉教授が提唱した『不気味の谷現象』(※3)。“生半可にヒトに近いが、ヒトに似せ切れていないロボット”にヒトが深い嫌悪を抱くというこの現象。
これを乗り越えるものとして私が考えるアプローチは2つ。
1つは、ヒトが“ソフト・ワイアド”で操ってしまう――要は“ヒトが中に入ってしまう”というもの。「中身がヒトなら納得」というやり方ですね。
1つは、多様性まで獲得した“相棒”人工知能に操らせるというもの。つまり「こいつは生きている!」と周りに思ってもらうことですね。
「その前に、義体の出来を上げることが先決だろ!」と突っ込まれる向きもあるでしょうが。実は作り続ける、研究し続けることこそが第一で、結果は後からついてくるものと言っても過言ではないようです。
と申しますのも、私は『不気味の谷』を乗り越えたと言っても過言ではない実例を目にしたことがあるからです。
それは何か――3DCGアニメーションです。
黎明期はその物珍しさからもてはやされたものの、やがて「CG臭い」「ポリゴン臭い」と揶揄されて敬遠され――それでも諦めなかった開発陣が到達したのが、アニメーションとの融合を見事に果たしたその姿。
その歴史を体現するのが『マクロスシリーズ』(※4)ではないでしょうか。
1994年、CG本格導入当初の『MACROSS PLUS』(※5)ではCGらしさを前面に押し出して最先端感を醸していたこのシリーズですが。
2002年の『マクロス ゼロ』(※6)では中途半端な出来で違和感を出しまくります(制作陣は全力であったでしょうが)。この辺が『不気味の谷』に相当する段階ではないかと、私は解釈しております。
しかし諦めずに3DCGアニメの質を追求した制作陣は、2008年の『マクロスF』(※7)で一つの到達点を見ることになります。
この時点で『有限会社オレンジ』(※8)として独立していた3DCGアニメ開発陣は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 破』では遂にヱヴァンゲリヲン本体をも3DCGで動かすことに成功します――しかも全面的に。私はパンフレットで初めて気付いたのですが、あそこで描かれているヱヴァと使徒は残らず3DCGだということです。これこそ『不気味の谷』を突破した好例と言えましょう。
なお、興行的に惨敗したフル3DCG映画『ファイナルファンタジー』(※9)は2001年の作品といいますから、ちょうど3DCG技術が『不気味の谷』の只中にあった、その時に制作されたことになりますね。つまり“早すぎた”試みだったというわけです。
ことほどかように、技術を磨き続けることは重要なのです。――さすればその果てに、『不気味の谷』を乗り越えることは叶うでしょう。
さて、『ジェミノイド』の追求する“遠隔地へヒトの存在感を伝える”研究、これを応用するならば。逆に遠隔地の感覚を“操縦者”へと伝えることもさして難しいことではないでしょう――ARとVRを駆使している“ソフト・ワイアド”ならば。
では、その可能性はいかほどのものか――次項ではそこに考察を巡らせてみましょう。
【脚注】
※1 http://www.geminoid.jp/ja/robots.html
※2 http://www.digimonostation.jp/0000077679/
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E6%B0%97%E5%91%B3%E3%81%AE%E8%B0%B7%E7%8F%BE%E8%B1%A1
※4 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B9_%E3%82%BC%E3%83%AD#3DCG
※7 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B9F
※8 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8_(%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%E5%88%B6%E4%BD%9C%E4%BC%9A%E7%A4%BE)
※9 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%83%BC_(%E6%98%A0%E7%94%BB)
著者:中村尚裕
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