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【SFエッセイ】連載版 完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~科学とヒトの可能性~  作者: 中村尚裕
テーマ2.“ニュータイプ”か!? ――いえ、ただの凡人です。 ~拡張現実にみるヒトの可能性~
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2-1.“ニュータイプ”の現実化

 示唆に富むヒントを下さった鴉野 兄貴様へ、感謝を込めて。


 いずれヒトは凡人まで残らず“ニュータイプ”に!? 可能性の地平を超えた明日はどっちだ!? ネットと電脳化、拡張現実(AR)の可能性を考え合わせてのちょっとした思考実験。よろしくお付き合いのほどを。

 『機動戦士ガンダム』において“ニュータイプ”という概念が世に送り出されたのは1979年。厳密な定義はありませんが、下記に挙げるくらいの特徴は広く通用する共通認識として考えても差し障りないかと思われます。


 ・戦争せずとも解り合える

 ・遠く離れていてもコミュニケーションが取れる

 ・優れた空間認識能力を持つ

 ・ある程度の予知能力を持つ


 単に『世代が進めば“ニュータイプ”化するヒトが増えるであろう』とも作中では言われていましたが。

 さて、進歩する機械の力を借りてとは言え、実は人類はこの“ニュータイプ”という存在に近付いている、と言ったら一笑に付されるでしょうか。しかも特別な才能を持った人物が、ではなくただの凡人が、です。


 今回はそんな仮定を検証しつつ未来に思いを馳せる思考実験です。よろしくお付き合いのほどを。


 まずは現状認識から。


 “i-mode”という発明により、インターネット接続環境が持ち歩けるようになったのは1999年。以来手を変え品を変え、現在では主としてスマートフォンという形で、インターネット接続環境は私達一般人のポケットに収まっています。

 Facebookが産声を上げたのは2004年、Twitterがサーヴィスを開始したのは2006年。SNS(Social Networking Service)の快進撃はここから始まったといっても過言ではないでしょう。

 そしてこれらSNSを起爆剤として、2010年から2012年にかけて巻き起こった現象があります。

 “アラブの春”――SNSで繋がり合った民衆が、抗議デモを通じて時の独裁政府を次々と転覆させた、あの現象です。反政府戦争(内戦)でもなく、クーデターですらなく、“情報を共有した民衆が”“情報の力で”独裁政府を覆したのです。現状は楽観できるものではないものの、少なくともその手法は革命的ですらありました。

 ここに一つ、“戦争せずとも解り合える”、この可能性を見出したのは果たして私だけでしょうか。


 “遠く離れていてもコミュニケーションが取れる”、「携帯電話やメールを使えば当たり前じゃん」などと一笑に付せる進歩ではありません。携帯電話やメールだけでなく、SNSを始めとしたインターネットを通じて不特定多数(顔も知らない人々と!)コミュニケーションが取れる時代が到来したのです――とはもはや当たり前の指摘。私が指摘したいのは、“共感さえ呼べば、全世界へ意思を拡散させることすら可能になった”ということです。WikiLeaksやAnonymasの活動を覚えておいでの方も多いでしょう。彼らの業績ではありませんが、最近では“パナマ文書”の暴露が話題になりましたね。租税回避地で税金逃れをしていた個人や企業の具体名を赤裸々に暴き出してその信用を地に叩き落とした、あの事件です。日本でこそそんなに騒がれていませんが、世界レヴェルまで視点を広げてみると、いかに大事件かがよく解ります。

 こんな情報拡散、20世紀の東西冷戦時代には考えもつかない現象です。秘密という秘密は“軍事機密”という名の闇のヴェールに深く覆われ、覗き見ることなど考えもつかなかったあの時代には。


 ここまでが2016年8月現在の状況です。1979年当時には考えも及ばなかったほど、人類は“ニュータイプ”に近付いているのがお解りでしょうか。機械の力を借りて、ではありますが、当時は機械がこれほど手放せない存在になるとも思われていなかったのです。もはや情報端末とネットは“ヒトの一部”と化し始めています。その点、“ヒトは“ニュータイプ”に近付いている”と語ってもあながち的外れではないでしょう。


 さてここからが本題。現在と未来の話です。


 拡張現実(AR:Augmented Reality)の定着がもはや確定事項であるのは、2016年7月にリリースされた超有名ARゲームで実証されましたね。そして“電脳化とともに機械はより身近になってヒトの一部と化し、そして拡張現実の進出とともにヒトは意識を拡張するであろう”というのが私の考察です。“優れた空間認識”と“ある程度の予知能力”の獲得ですね。


 電脳化――と聞いて警戒された方もいらっしゃるでしょうが。私の提示する電脳化のイメージは世間のそれ(脳を改造するハード・ワイアド、Hard Wired:ハードワイヤード)とは異なり、“肉体改造を伴わないでネットにより深く結びつくもの(ソフト・ワイアド、Soft Wired:ソフトワイヤード)”です。

 この辺、『テーマ1.完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~電脳化と拡張現実の可能性~』というタイトルで述べさせていただいたので詳細は割愛しますが、“情報はコンタクト・レンズ型網膜投影機などを使って五感にオーヴァレイ表示、操作は脳波センサやジェスチュア入力などで行い、“操縦感覚で”ネットを渡り歩く”というイメージを浮かべていただけるとご理解いただけるかと。拙作『電脳猟兵×クリスタルの鍵』の世界観もこのソフト・ワイアド電脳化の流れを汲んだ未来世界が舞台です。

 ここでの肝は、ネットを渡り歩く“操縦感覚”というところなのですが、それについてはまた後ほど。


 さてその拡張現実、どんなものになるかといえば。


 まずイメージしやすいところから。例えばそこにあるのが何物なのか、その気になれば付随情報だって操作一つで呼び出せます。下手すると向こうからアピールしてきます。“ネットでググる”操作や、ネット広告の発展形ですね。


 では次。遮蔽物の裏側が、いながらにして覗けるようになります。自分がどこにいて、どんな姿勢で、どこに行けば何が見られるか、何が聞こえるか、いながらにして判るようになります。


 これの種明かしは3Dマッピング。Googleマップのストリート・ヴュー、あれの高度な発展版です。「そんなん簡単にできるわけないじゃん」とお思いのあなた、実用化は案外遠くないかもしれません。カメラやマイク、そしてそれらを結ぶネットワークの進歩・普及、これががあまりにも爆発的なもので。


 まず私が(20年ほど前に)想定した進歩は“半立体画像”というものでした。言うなれば“写真のように視点を固定してさえいれば立体的に映る画像”、というものですが、これならホログラムまでとは行かずとも、3台のカメラを束ねれば容易に撮影可能です。少なくとも表面の凹凸はこれで写し取ることが可能です。それを写真の進化形と捉えてきました。

 ところが現実はそんな生易しいものじゃありません。カメラの小型化(WEBカメラの台頭)と監視カメラの普及(に対する社会的容認)が爆発的に進むに及び、事情が変わってきています。多方向からの撮影画像とそれを合成する技術、これらが劇的進化を“すでに遂げている”からです。これをもってすれば3D(立体視)イメージの構築などもはや造作もありません。

 まず“多視点からの、位置や角度の情報を伴った画像”、これは爆発的に普及した(普及してしまった)監視カメラや、今後普及していくであろうスマート・グラスのような“個人持ちセンサ”からの情報に、IoT(Internet of Things:モノのインターネット化)が組み合わさると、いきなり収集することが可能になります。

 そして“画像を合成して360度視界を得る合成技術”。実は身近なところにクルマの“パノラミックビュー”や“シースルービュー”とかの技術があります。(※1)

 高度なところになると、豊田スタジアムとかで行われている360度ヴューのようなものが出来上がります。(※2)

 もはやあとは実際に画像を組み合わせるだけ、という状況が目と鼻の先にまで迫っているという次第。


 音声情報に至っては何をか言わんや。皆様お持ちのスマートフォン、これのマイクを使えば音響情報はいやってほど集まります。そしてIoT(スマートフォンなんてIoTの最先端ですしね)が進むに及び、プライヴァシィ情報(“持ち主”の会話とか)のフィルタリングくらいを施しただけの音響情報がネットに溢れ返ることとなるでしょう。

 あとは合成しさえすれば3D音響マッピングが出来上がるという。これで“優れた空間把握能力”はものになるのです。


 そして“ある程度の未来予知能力”、これは“現在進行形”のデータを広く収集し分析を加えることで実現は可能です。

 例えば道路交通(主に渋滞や所要時間予測)情報。パイオニアが“スマート・ループ”“プローブ情報システム”という概念をすでに打ち出しています。メーカ単体でやろうとしたので普及しなかっただけで、可能性は無限大。(※3)


 かくして、“ニュータイプ”が持つ能力、これが“凡人でも”“肉体改造なしに”得られる日はそう遠くないのです。


 で、話はここで収まりません。拡張現実が普及し“ニュータイプ”が世に溢れた世界では、“拡張現実という情報の方から現実世界へと進出してくる”という現象が起こるでしょう。次はそのお話を。


【脚注】

※1 http://toyota.jp/information/campaign/anzen_anshin/gijyutu/01/

※2 http://www.toyota-stadium.co.jp/view/index.html

※3 http://pioneer.jp/carrozzeria/carnavi/smartloop/system/01.php





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/

無断転載は固く禁じます。

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