12-2.巨大ロボット――実現し得るその姿
前項では巨大ロボットの大前提から導き出される操縦方法、それから強度の面で立ちふさがる壁について考察を展開しました。
本項では素材強度から、実現可能となる巨大ロボット――その大きさを、その姿を考察していきます。
ではまず、基準となるヒトの骨――これの強度はどれほどか。
実は、なかなか適切な数字が見付かりません。
骨の中でも硬い皮質骨の強度――代表として引っ張り強度――は88.9~113.8MPa(Pa=N/m^2)とするデータがあります(※1)。
骨は全てが硬い皮質骨でできているわけではありません。よって、ここでは大体の中間値、100MPaと捉えてみましょう。
次に素材の強度を比較してみます(※2)。注目するのは引っ張り強度です。
さてこれで行くと、手堅く実現できそうな骨格材料のうちで最も強いのはコロッサル・カーボン・チューブということになりそうですね(※3)。
ここではコロッサル・カーボン・チューブの引っ張り強度は6900MPa、ヒトの骨のおよそ69倍ということになります。
69の3乗根を求めると実に4.10。ヒトの身長を約1.8mとして計算すると、実現しうるロボットの身長はその4.10倍、約7.4mということになります。
もうちょっと欲張って、現状の技術ではまだ不安定なカーボン・ナノチューブまで手を伸ばすとなれば。
この段階まで行くと軌道エレヴェータの実現も視野に入る科学技術レヴェルということになります。つまり宇宙への進出がより身近になった未来というイメージですね。
そのカーボン・ナノチューブ、引っ張り強度は実に62000MPa(※4)。
人の骨の実に620倍ということになります。620の3乗根は8.53ですから、この場合に実現しうるロボットに身長は15.4mというところ。
ここでもまだモビルスーツ・ガンダムの身長18mまでには2割ほど及ばないことになりますね。
近いところを探すと、永野護先生の『ファイブスター物語』、ここに登場するモーターヘッド(あるいはゴティックメード)の平均的な身長が約15mということですから、この辺りが実用的な落としどころかと思われます(※5)。
なお、モーターヘッド(あるいはゴティックメード)に直接搭乗して操縦をこなせるのは、強大なGに耐え得る能力を持った騎士だけである――という設定もまた、ここへくると説得力を帯びてきますね(※6)。この時、騎士の脳を含む中枢神経系にかかる加速度は等身大(14.0G)の8.53倍ですから、実に最大119.4Gにも及ぶことになります。まさに驚異的な耐性ということができましょう。
さて骨格素材はカーボン・ナノチューブ、これで行くとして。
このカーボン・ナノチューブは空気中で750℃、真空中では実に2300℃程度の耐熱性があるとされます(※7)。
空気中で耐熱性がてきめんに落ちるのは酸素と化合してしまうから――要するに燃えてしまうわけです。
この空気中で750℃という耐熱性、どれほど頼りになるかというと。
――タバコの火(850℃)を押し付けただけでダメになってしまいます(※8)。
ちょっと実用性にはまだ欠ける感が否めませんね。
そこで必要になるであろうのが断熱材。NASAがスペース・シャトル・オービタの保護に使った断熱材『LI-900』はどうでしょう(※9、※10)。
質量99.0%はシリカガラス繊維(石英ガラス繊維)、それでいながら体積の94%は空気が占めるというこの素材。耐熱タイルとして大気圏突入時の大気摩擦で生じるプラズマ(1204℃)からスペース・シャトル・オービタ本体(主にアルミニウム、耐熱性約200℃)を保護し切った実績のある材料です。これなら耐熱材としてカーボン・ナノ・チューブの骨格を保護するのにうってつけでしょう。
ここでミソなのは中に大量に含まれた空気。熱伝導率はダントツに低い0.0241(単位はW/(m・K))です(※11)。
熱伝導率が低い羊毛と比べてもなお断熱性は倍以上、そのくせ耐熱性は1204℃以上というシリカガラス繊維で構成されていますから、限界近くまで加熱されても変形はほぼゼロを誇ります。
ただしこの『LI-900』、弱点はその脆さにあります。何せ体積の94%が空気である上に、残りの部分もガラス繊維――文字通りのガラス細工なのです。その強度の頼りないことといったら、創造するだにたやすいものがあります。
なので実際には、この上へさらに保護材料、つまり装甲を装備することになるでしょう。『LI-900』はあくまで耐熱素材という位置づけです。
構造材に当たる部分はこれでいいとして、しかし肝心の関節部分は文字通りガラス細工の耐熱タイルで覆うわけにも行きません。
ここは耐熱材としてセラミック・ファイバ、特にアルミナ繊維で編んだ“耐熱布”で覆うという手が有効かもしれません(※12)。
実現している製品では『イソウール1500エースペーパー』辺りはどうでしょう(※13)。
熱伝導率は1000℃下でも0.24といいますから、これは常温下での木材並み(0.25)の断熱性を誇ります(※11)。
これで最高使用温度は実に1600℃ですから、一時的にとはいえ耐熱温度はカーボン・ナノチューブ単体と比べて850℃上昇することになります。
以上、【SFエッセイ】的に考察した巨大ロボットの実像をまとめると、このようになります。
・身長15.4m程度。
・骨格素材はカーボン・ナノチューブ製。ただし断熱材として構造材部分を『LI-900』のような耐熱タイルで、関節部分を“耐熱布”(セラミック・ファイバ製)で覆う。さらにその上から保護材を装備することが望ましい。
・操縦は遠隔操作で行う。よって、戦闘を目的とはしない(競技用・作業用を想定する)。
・操縦者は“ソフト・ワイアド”で“電脳化”し、人工知能の補佐のもとに仮想レヴァーや仮想スイッチを駆使する。
巨大ロボット実現のイメージとして近いのは『ファイブスター物語』のモーターヘッド(またはゴティックメード、身長約15m)、さらにその巨体に直接乗り込むとなれば、騎士にも相当する能力を要求されるという、これは考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【脚注】
※1 http://repo.lib.nitech.ac.jp/bitstream/123456789/428/1/ot0151.pdf
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E5%BC%B7%E5%BA%A6
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%96
※4 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%8E%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%96
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%98%E3%83%83%E3%83%89_(%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E7%89%A9%E8%AA%9E)
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A8%8E%E5%A3%AB_(%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E7%89%A9%E8%AA%9E)#.E3.83.95.E3.82.A1.E3.83.86.E3.82.A3.E3.83.9E.E3.81.A8.E9.A8.8E.E5.A3.AB
※7 http://www.marubeni-sys.com/cnt/cnt/feature.html
※8 http://katakago.sakura.ne.jp/chem/fire/ondo2.html
※9 http://www.gizmodo.jp/2013/06/1204_nasa.html
※10 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%88%E3%83%AB#.E8.80.90.E7.86.B1.E3.82.BF.E3.82.A4.E3.83.AB
※11 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%B1%E4%BC%9D%E5%B0%8E%E7%8E%87
※12 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%90%E3%83%BC
※13 http://www.isolite.co.jp/info/ceramicfiber/seihin2-11/index.html
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
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