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【SFエッセイ】連載版 完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~科学とヒトの可能性~  作者: 中村尚裕
テーマ12.日本人は巨大ロボットの夢を見るか? ~日本人が求めるロマンの可能性~
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12-1.課題――巨大ロボットの抱えるリスク

 感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。


 『マジンガーZ』の登場以来、人型巨大ロボットは日本人のロマンを刺激してやみません。ですがその実現には数々の障壁が立ちはだかることもまた事実。果たして巨大ロボットに実現の可能性は残されているのか? 巨大ロボットの明日はどっちだ!?


 人型メカは日本人のロマンです。

 と同時に。

 巨大ロボットもまた日本人のロマンです。

 本【SFエッセイ】では『テーマ7.最強の人型メカを探れ! ~日本人のロマンとその可能性~』において、最強の人型メカについて考察しました。

 ――が。最強かどうかはともかくとして、巨大ロボットというものがどこまで追求可能であるのか――日本人のロマンを追求するに、この点を外すわけに行かないのもまた事実。

 そこで今回は巨大ロボットの可能性を模索する思考実験。よろしくお付き合いのほどを。


 『テーマ7.』では、人型メカがヒトと同じ動作(角速度)で動くなら――という前提で考察を巡らせました。

 やはり動かすからにはヒトと同様の動作を実現しないことには意味はありません。

 今回は最強を求めない代わり、ヒトと同等に動作できるロボットの大きさが果たしてどれほどのものになるのか、ここに考察の焦点を当てます。


 飛び道具はもちろん想定しません。『テーマ7.』でも述べましたが――大火力を求めるならば、巨大で高精度なレーザ砲でも宇宙空間に浮かべれば済む話だからです。人型にこだわる理由が全くなくなるからです。


 さて、“ヒトと同等”というからには、まず関節の動き(角速度)はヒトと同等、ここに手加減の余地はありません。鍛え抜いた格闘技の達人、この動きをそのまま再現できることを必須条件とします。

 鈍重な巨体には用がないのです。いくら拳や足先といった末端速度が速かろうが、それを繰り出す動作で見切られてしまっては意味がないからです。逆に――操縦者として想定する、心身を鍛え抜いた達人ならば、動作の二手も三手も先を読みます。動作が達人の感性に遅れを取るようなら、彼らに攻撃を当てることなどかなわないのです。


 さて、ここで頭においておくべき重要事項があります。

 世界トップ・クラスの格闘家が繰り出す拳の速度、これは“時速にして約40km程度”であるとされています(※1)。

 もちろん“体重の乗った、威力を込めたパンチ”です。小手調べのジャブとは違い、必殺の一撃です。

 詳細は『テーマ7.』で述べましたのでここでは割愛するとして。

 実はこの時、格闘家の脳を含めた中枢神経系が晒される加速度は実に14.0G、ただし0.08秒というごく短時間です。鍛え抜いたヒトが耐G装備を施してさえ10秒耐えるのがやっとという限界は11Gと言いますから(※2)、瞬間的とはいえ“ほぼ限界の加速度”に格闘家の中枢神経系は晒されていることになります。これ以上のGを受けると何が起こるかと言えば、脳や中枢神経の血が偏って正常に機能できなくなるのです。

 ――くれぐれも念を押しておきますが、これ、等身大での話です。


 この加速度、実は人型の身長に比例して増大するのです。

 これが意味するところは何か。

 早い話が、巨大ロボットで必殺のパンチを放ったなら、搭乗者――特にその中枢神経――は“限界を超えた加速度”に晒されるのです。良くて脳震盪、下手をすれば神経系に障害を残どころか、脳を崩壊させることにすらなりかねません。

 “ヒトと同等の動作”を必須条件とするなら、まずもって巨大ロボットの弱点は――搭乗者の中枢神経系そのものということになります。


 よって、ここに操縦方法は確定してしまいます。

 巨大ロボットを操る操縦方法は遠隔操縦、これをおいて他にありません。

 多少のかつ瞬間的なGならばダンパで吸収、という手がないでもありませんが、それにしたところで身長に比例して増大するGを吸収し切れるものではありません。また、慣性制御は原理を説明できないので【SFエッセイ】的には考察の外です。


 もちろん、遠隔操縦はジャミング一発で操縦不能に陥る上、下手をすれば操縦者はその位置を特定されて絶好の標的となります。よって最強――つまり本番の戦闘を目的とはしません。あくまで目的はロマン、あるいは競技としての追求とお考え下さい。


 さて、操縦方法が決まったところで。

 実際の操縦は“電脳化”を駆使して、“相棒”人工知能の補佐を受けつつ仮想レヴァーや仮想スイッチを取っ替え引っ替えして行うことになるでしょう。

 ここで言う“電脳化”とは、肉体を改造することなく、拡張現実と仮想現実を駆使して電脳空間にダイヴする“ソフト・ワイアド”を指します。詳しくは『テーマ9.人型メカを操れ! ~操縦のロマンと可能性~』で述べておりますので、そちらをご参照いただくとして。


 次は強度についての考察です。『テーマ7.』では最強の人型メカを巡る決め手の一つとなったポイントです。


 まず大前提のおさらいから。

 人型が動作するにあたって、操ることになる四肢の末端速度は、角速度を同等とするならば身長に比例することになります。

 また、その四肢の質量は身長の3乗に比例します。繰り出される動きが持つ威力は速度に質量をかけたものですから、合わせて身長の4乗に比例することになるわけです。


 が、可動軸を考えるに――身長の4乗に比例する破壊力の攻撃を繰り出す、その反動を受け止めるためには、可動軸が受ける負荷は実に身長の5乗に比例します。

 つまり、こういうことです。


 関節の受ける荷重(身長の5乗に比例)

 =質量(身長の3乗に比例)

 ×モーメント荷重(身長の1乗に比例)

 ×関節軸の長さ(身長の1乗に比例)


 つまり、巨大ロボットの骨格(特に関節)に要求される強度は、ヒトの関節(軟骨)と比べて身長比で実に5乗に比例する値ということになります。

 ここで考慮すべきは、関節の太さでしょう。巨大化すればするほど関節軸の断面積は稼げるわけですから、強度は稼げる道理です。

 断面積は身長比で2乗に比例しますから、この分だけは強度を稼げることになります。


 つまり、関節の素材が受け持つ荷重、これは身長比の3乗に比例することになります。


 関節に要求される強度(身長の3乗に比例)

 =荷重(身長比の5乗に比例)

 ÷関節軸の太さ(身長比の2乗に比例)


 これが意味するところは何か。

 巨大ロボットの骨格(特に関節)素材に要求される強度が、身長比の3乗に比例して増えていく、ということです。

 つまりヒトと同程度の強度の素材を使ったのでは、巨大ロボットは動くだけで瓦解することを意味します。身長比3乗に比例する強度を持つ素材でなければ、思うように動くことすらできないのです。

 では、強い素材さえ用いれば巨大ロボットは作り得るのか?

 答えはこうです――素材の強度による、と。理論上実現し得る強度を超えたなら、それ以上の巨体は木偶の坊と何ら変わりありません。

 逆に、手に入る素材の強度から、実現可能な巨大ロボットの大きさを逆算することは可能です。

 次項では、その逆算を試してみましょう――実現可能な巨大ロボット、その大きさはどれほどのものであるか。


【脚注】

※1 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1185958326

※2 http://www.masdf.com/crm/g.shtml





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/

無断転載は固く禁じます。

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