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【SFエッセイ】連載版 完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~科学とヒトの可能性~  作者: 中村尚裕
テーマ11.今日まとうのはどのアヴァター? ~“電脳化”がもたらす容姿の可能性~
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11-2.容姿――“電脳化”世界に呑み込まれる価値

 さて、前項では“電脳化”した世界で身にまとうアヴァターの自由度、これについて述べました。


 実はここにあるものは――化粧や服装といったファッションの存在意義、これを根底から覆す威力を持った可能性です。


 ちょっと考えてみて下さい。その日の気分で、どんな美男美女にもなれるのです。選べるのは何も顔だけに限った話じゃありません。体型だって筋肉質からスリム体型、肉感型まで何でもござれ。触感だって変えられます――相手のVRデヴァイスへ情報を送ればいいのです。

 もはや軍手のようなVRグローヴ(※1)でさえなく、腕に巻くだけで指の動きを検知する上に、擬似触覚までも与えてくれるデヴァイスが存在します。触感型ゲーム・コントローラ『UnlimitedHand』(※2)、発売は2016年10月といいますから目前です。

 今日の気分は、例えば引き締まった東洋人の筋肉質スタイル――という具合に、好きに選べる時代がやってくるのです。


 ここへ至り、“肉体美”に対する価値観は引っくり返ります。


 まず実体よりもアヴァターのセンスが問われる世の中がやってくるでしょう。

 「顔なんて二の次。アヴァターのデザインが良くなくちゃ」なんて普通に言われる時代が来るのです。例えばブランド・デザインのアヴァターが売れるようになるでしょう。あるいは自分の腕前でいかに個性的なアヴァターを作るか、そこに価値観を見出すヒト達が現れたっておかしくありません。

 しかも気分次第で取っ替え引っ替えできて当たり前――そんな時代がやって来るのです。


 もちろんコスプレなんて日常風景にありふれます。魔法少女よろしく「変身!」なんてこともお手の物。

 アヴァター選びは何もヒト型にこだわる必要さえありません。ロボット型から動物型、果ては恐竜型まで何でもござれ。


 では、引っくり返った“肉体美”の価値観はどこへ行くのか――。


 容姿が自由に変えられる段に及び、今度はヒト選びの価値観に占める容姿の地位は徐々に低下していくものと、私は踏んでおります。


 例えば、容姿に対するコンプレックスがほぼ解消されるでしょう。「あの顔ないわ~」という科白で引きこもる理由がなくなるのです。

 「(話術を含めた)テクが一番よ」という価値観もあるでしょう。

 「意気投合できる相手が一番!」という向きも大いにありそうです。

 逆に、“すっぴん美人”至上主義が出て来る可能性だってあり得ます。「ガチ現実しか興味ねーわ!」という価値観だって、もちろんアリです。ただし、その割合は現在より遥かに低くなるでしょう。


 要は、ヒトの表向きより内面――本質が今より遥かに重要視される社会がやってくるのです。例えば“見た目しか能のない女たらしや男たらし”が引きこもる場合だってあり得るのです――実際には、女たらしや男たらしは異性を惹き付ける要素を他にも多分に持っている場合が多いでしょうから、そう単純にはいかないでしょうが。


 ……というところで話が終わるかというと、さにあらず。


 ことは、恐らくそこに留まりません。

 アヴァターを自由にまとうヒトは、例えば性別すら超える可能性をはらんでいるのです。

 バイ・セクシュアルのヒトが中性的なアヴァターをまとったら? 性同一性障害を持つヒトが思うままのアヴァターをまとったら?

 LGBT(Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender:性的マイノリティ)に対する障壁は、恐らく今より遥かに低くなります。それどころかジェンダ(Gender、社会的性)を使い分けるヒトが現れたっておかしくありません。


 さらには。

 “電脳化”世界で認識できない“透明人間”が現れてもおかしくありません。もちろん、あらゆるカメラを同時にハッキングするわけですから、技術的ハードルは相当に高いでしょうが、全くの不可能というわけでもないのです。何せIoT(Internet of Things:モノのインターネット化)の進む先、あらゆる監視デヴァイスがネットに繋がるでしょうから。――ならば、監視対象の側からもネットを通じて干渉できるのが道理というもの。


 これらの話を突き詰めると、個人を特定するものが“顔”でなくなる可能性をさえはらんでいます。

 “顔”のアヴァター化を法規制する? ――それにしたって、法の埒外アンダーグラウンドで進化するハッキング技術がアヴァターの顔を書き換える、その可能性を阻むことはできないでしょう。

 個人を認識する手段としての“顔”は、いずれ間違いなく主役の座から転がり落ちます。

 ではどうやって“個人”を認識するか? 指紋? 掌紋? 静脈紋? いずれにせよ接触してみるまで、眼の前の人物が誰かなんて判らなくなるわけです。


 “電脳化”で外見を自由化できる――この一点だけ考えても、間違いなく既存の価値観は崩壊するのです。


 例えば。

 意気投合したと思ったら実は不倶戴天の異教徒だった――大いにあり得ます。宗教的対立が崩壊するかもしれません。

 アヴァターのセンスが共鳴すると思ったら、実は異人種・異民族だった――ありふれた光景になるでしょう。人種差別や民族主義が置いてきぼりを食う日がやって来たとして、一向におかしくはありません。

 実は言葉の障壁が高くて――とお嘆きのあなた。2016年現在でさえ、こんな同時通訳ソフトが実用化されています。“電脳化”の進んだ未来において、もはや言語の違いは単なる個性の一部に過ぎなくなるかもしれません(※3)。


 “電脳化”の進む先――アヴァターによる容姿の自由化は、ヒト同士――正確にはその内面同士――の相互理解をむしろ深めるであろうという、これは考証なのです。


 さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。


【脚注】

※1 http://www.moguravr.com/glove-one/

※2 http://www.4gamer.net/games/999/G999902/20161003030/

※3 http://app-liv.jp/education/reference/0560/





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/

無断転載は固く禁じます。

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