7-2.巨大ロボ――その威力と代償
ではまず操作方法。遠隔操縦か直接操縦か。
遠隔操縦の場合、無線通信ですと操縦系統を乗っ取り合う電子戦を想定する必要が出てきます。電波操縦である『鉄人28号』を巡る命題ですね。割り込みを防ぐにはレーザ通信を導入する必要が出てきそうです。
ところが。例えばレーザ通信なら煙幕一発張られたらそれまでです。無線通信にしたって、いくら暗号を強化しようが、操縦者の居場所が探知されたら真っ先にそこを攻撃されて終わりです。現在研究の進んでいる量子暗号にしたところで、操縦士とメカの間で送受信は必ず必要になります。量子テレポーテーションでさえ、鍵となる情報は通常通信で送らなければなりません。
なのでここでは、直接操縦側は初手で煙幕と電磁波妨害を張り、逃げ回って時間を稼ぎつつ、敵の操縦者を探すことになります。そして遠隔操作側は、操縦しようとすればするほど己の位置を喧伝してしまうというジレンマが。
有線操縦に至っては何をか言わんや。丸見えの操縦者を叩かれて終わりです。
何にせよ、操縦情報のジャミングの可能性が否定できない以上、ここは攻防一体の直接操縦に分があるわけです。
さてここで、直接操縦ならではの限界が浮上してきます。
運動能力――これが人体(特に中枢神経系)の限界に縛られる、という宿命ですね。主として脳の血流がGで阻害されるという現象に、直接操縦メカは悩まされることになります。
では限界はどの程度か。
戦闘機の操縦士では9Gの荷重に10秒、耐Gスーツ相当の装備をもってしても+2G耐えるのがいいところとされているようです。(※1)
つまりは11G、これが実用上の落とし所でしょう。
と、操縦方法が決まったところで、大きさを利した威力、これに考察を巡らせてみることとしましょう。
では威力に関する考察。
動き(関節の角速度)が同等であれば――という前提で考えますと。図体が巨大になれば、手足の(または剣の)末端速度はそれに比例して上がります。また、手足の質量はさらに上がります。単純計算で行くならば、質量は体積に比例して大きくなります。体積というと、身長の3乗に比例して増えるわけですね(実際はここまで単純には行きませんが)。つまり、威力そのものは速度と質量に比例するわけですから、相乗効果で身長の4乗に比例して大きくなるわけです。
一見、大きければ大きいほど有利なように見えますね。
ただし、もちろんいいことばかりとは限りません。利点があればもちろん欠点もまたあるわけです。
まず、威力が上がるということは、それだけのエネルギィを供給しなければならない――そういう意味でもあります。つまり、威力に見合った動力源が必要になるということです。
運動エネルギィは速度の2乗と、質量に比例して大きくなります。つまるところ、大きくなったらなっただけ、身長比の5乗というとてつもない出力を叩き出す動力源が必要になるというわけです。これで得られる威力はせいぜい身長の4乗にしか比例しません。大きくなればなるほど出力効率が落ちていくことになります――しかも劇的に。逆に、小さければ小さいほど出力効率を追求することが可能になりますね。
となれば、“より小さい”メカの方が効率で勝ることになります。とは言え、大型メカでは核融合炉のような動力源に物を言わせるような力押しも不可能ではありません。関節の駆動力は超伝導アクチュエータといったところでしょうか。これにしたって、大きさは身長比の5乗に比例します。関節が劇的に肥大化するわけですね。とすると、大型化にも限度というものがありそうです。
要は会心の一撃を当てられるかどうか――勝負はそこにかかってきます。
次は強度に関する考察です。
どんなに強大な力を絞り出そうとも、そのエネルギィを体現できなければ意味はありません。自壊するようでは勝負にならないのです。
実は、人型メカに求められる強度――これは非常に過酷なことになります。つまり命中時に与える衝撃、その反動をこらえなければならないわけですね。
では、人型はどれだけ持ちこたえることができるのか。
材料の座屈に対する強さ(座屈荷重)は、実のところ長さの2乗に反比例します。(※2)
骨に相当する部分の断面積は長さの2乗に比例するわけですから、ここだけ考えればまだこらえられそうな気もしますが。
それは断面積当たりで同じ威力に耐えられるということにしかなりません。つまり圧縮骨折を免れた、それだけのことにすぎないのです。
身長比の4乗という威力は、実は一撃当たり身長比の2乗分という強烈なダメージを骨格に残して行くのです――横方向に。つまり剪断骨折する(つまりポッキリ逝く)わけですね。(※2)
さらに問題は骨部分だけでなく、関節部により効いてきます。可動部分が先に逝くわけですね。仮に関節を一般的な可動軸として捉えると、折損に対する強度は身長に反比例します。これが身長の4乗に比例する破壊力の反動を受け止めるとなると、ダメージは身長比の実に5乗。もはやボロボロ。一撃で人型が瓦解しかねない勢いです。
つまり人型メカの大型化は、“一撃の威力は大きいが、ダメージはそれより遥かに大きい”ということになります。
「いやいや末端速度は出るんだから、それほど機敏に(関節の角速度を上げて)動かなくていいのでは!?」とお思いの向きもあるでしょう。ですが、それは鍛えに鍛えた操縦者の前では通用しません。人型として“緩慢な動作”は、研ぎ澄まされた感覚を前にしては“見切って終わりの動作”に――つまり当たらない攻撃に――過ぎないのです。
格闘技の達人は二手も三手も先を読み合って動きます。ここで思う存分の速度をもって動けないとなれば、すぐに動作を見切られます。当てる前によけられて終わるのです。
さて動作の俊敏さが俎上に上ってきたところで、避け得ない話がここに一つ。次項では、それについて考察を巡らせてみましょう。
【脚注】
※1 http://www.masdf.com/crm/g.shtml
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%A7%E5%B1%88
著者:中村尚裕
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